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Index　　内戦参加　　ノモンハン　　独軍侵入

内戦参加――赤すじズボンの指揮官

　ロシア皇帝（ツアー）政府の国を完全に荒廃させてしまった。
　それに加えて、外国干渉軍や白衛反革命の反乱部隊が国内の重要な経済地域を占領し、情勢は一層複雑になった。
　若いソビエト共和国は干渉者や白衛軍の銃火の包囲のなかで緊張した闘争を続けた。
　偉大な一○月革命（一九一七年）の理想のために武器を手にとって生活し、働き、戦ったすべての人たちはソビエト人民の生涯でいかに辛い時期であったかをよく記憶している。
　一九一八年の春、北部と極東に連合国軍が上陸した。五月には英仏同盟に奉仕するため立上がったチェコスロバキア軍団がウラルやシベリア、ボルガ沿岸でソビエト政権に敵対行動を展開した。
　ドイツ軍部隊はウクライナとバルト沿岸の重要な地域を占領した。
　ロシアに駐留した帝国主義者と白衛軍の兵力は、一九一八年下半期に、近代的兵器と訓練された兵士と将校合わせて約一〇〇万を数えた。
　レーニンは国にもたらされた情勢の重大な危険を人民に打明けて、国防力の強化のために党と全勤労者の努力を増大させるよう訴えた。
　一九一八年の秋、全ロシア中央執行委員会は共和国を単一の軍事陣営に変えさせる布告を発した。
　十一月にレーニンを議長とする労農防衛会議（ソビエト）が組織された。
　この防衛会議は軍事と防衛とに密接に関連をもつ他の官庁や赤軍補給特別委員会などを統合し、部隊編成やそれに伴う必需品の確保など、最も重晏な問題を決定した。
　特に旧ロシア軍の残した武器や軍需品を摘発、徴収し、工業を動員し、前線と後方とを結合させた。
　一九一九年の春、帝岡主義諸国はソビエト政権に対する連合征服を組織した。
　この頃、東部にはコルチャク軍がペルミ〜オルスク（訳注＝ウラル山脈の西側から同山脈の南端にわたる地域）を結ぶ前線にいた。
　またウラル白衛コサック軍がウラリスク（訳注＝カスピ海に注ぐウラル川の上流、カザフ共和国の北部、ロシア共和国との国境に近い都市）付近に展開し、グリエフ（訳注＝ウツル川河口都市）を占領していた。
　さらにデニキンの白衛軍は完全装備でテレク川（訳注＝カスピ海西岸に注ぐ）沿岸を基地とし、ノウォチェルカッスク、ロストフ・ナ・ドヌー（訳注＝ともにドン川下流地域の都市）、ユーゾフカ（訳注＝ウクライナ東部都市）、その他ドンバス（訳注＝ドネツ川流域炭田）地域の各地を占領していた。
　一方連合国軍およびウクライナ反革命軍部隊（ジレクトリアと呼ばれた）はウクライナを占領し、ヘルソン〜ニコラエフ（訳注＝それぞれドニエプル、ブグ両川が黒海に注ぐ河口都市）〜ジトミール〜コロステン（訳注＝いずれもウクライナ北西部都市）を結ぶ戦線を強化していた。
　ラトビア白衛軍はシャウリ〜ミタワの同地域境界線に、ユデニチ軍およびエストニア白衛軍はウォリマル〜ナルワの線に、いずれもペトログラードを目ざして展開していた。
　ロシアの北部ではフィンランド人白衛軍と干渉軍、白衛軍がいずれも同地域を占領して、ペトログラード、ウォログダ、コトラスの各市を攻撃するとのこと。
　さらに南部ではクラスノウォドスク、バツーミ、ノボロシースク、セバストポリ、オデッサの各都市を干渉軍が占領した。
　ソビエト政権の排除を目的とした帝国主義諸国政府は相互間で我々の国の分割を話合った。
　ウクライナ、ペロルシア（訳注＝通称白ロシア）、沿バルト三国、カフカーズ、北部地域、その他の重要地域の奪取をもくろんだのである。
　連合国はコルチャクを『最高支配者』として承認した。一九一九年春までに、彼の配下だけでも、富農、ザバイカルやシベリアの反革命コサック、あるいはオレンブルグ、ウラルの白衛コサックなどから組織され、よく武装した軍隊が三〇万人もあった。
　このほか、コルチャク軍部隊の背後には、アメリカ、フランス、イギリス、日本、イタリア、チェコスロバキア反乱軍その他の外国軍部隊一五万がひかえていた。
　西欧諸国政府は一方、デニキン軍をも援助した。彼自身は連合国により『副最高支配者』の地位を与えられた。
　これにより、デニキン軍の意義および彼の個人的役割もあらかじめ指定されていた。
　赤軍は一九一九年春までに著しく強力になっていた。
　兵力は一八〇万に達し、そのうち約四〇万はよく装備した部隊として直接前線にあった。
　これらの部隊は戦闘の試練と経験をすでにもっていたし、赤軍兵士はいかなる理想のために干渉者や白衛軍と戦うか、またその敵がどんな目的を追求しているかをよく理解し、知っていた。
　コルチャク、デニキン、その他白衛軍の兵士たちは赤軍兵士たちよりもちろん給与がよかった。
　彼らの被服、武装はよかったし、食糧貯蔵の豊富な後方をもち、あり余るほどの兵器、弾薬、軍需品その他の物資を連合国側から補給されていた。
　四年間の帝国主義戦争は工業の未発達なわが農業国を荒廃させてしまった。
　労働力と原料不足により、各種の工場はすでに帝政時代から閉鎖されていた。
　鉄鉱石、石炭、石油、綿などのほとんど、銑鉄、鋼鉄、砂糖の約四分の一、穀物の大部分――これらの物資は、あいにく干渉者や白衛兵たちに占領されている地域から産出されていた。
　だから党と人民の真に英雄的な努力でやっと赤軍への補給ができた。
　従っていつも乏しい物資と、技術装備を、そのときどき国の運命がかかるような場所へ差向けては作戦せざるを得なかった。
　しかも特に必要な金属、燃料、被服、食糧の不足が甚だしかった。
　わが国に対する連合国の最初の連合攻勢は一九一九年三月、東部戦線におけるコルチャク軍部隊の攻撃で始った。
　またコルチャクの西部軍の攻撃はシベリア軍の攻撃に続いて開始された。
　特に激戦が展開されたのは、わが東部戦線第五軍の第二六、七両歩兵師団が英雄的に戦っていたウフア（訳注＝ウラル西部、バシキール自治共和国の首都）方面であった。
　だが、三月一四日にウフアはコルチャク軍に占領されてしまった。
　同市近郊の戦闘では、第五軍は大損害を被り、戦死、負傷、行方不明は全軍の五〇パーセントに達した。
　当時第五軍の司令官はジェ・カ・ブリュムペルクで、同年四月上旬にはエム・エヌ・トゥハチェフスキーに交代した。
　東部戦線の情況は社会革命党によって企てられた富農たちの反乱によって著しく複雑化した。
　反乱が発生したのはサマーラ（訳注＝現在のクイブイシェフ市）、スイズラン、センギレイ、スタウロポリ、メレケッス（訳注＝以上いずれもボルガ中流の地方都市）などの各郡であった。
　四月中旬までに、白衛軍はカザンやサマーラから八五キロ、シムビルスクからは一〇〇キロの地点にきていた。
　わが赤衛軍がボルガ川以西へこれ以上撤退すれば、コルチャク、デニキンの両軍が合流できることになる。
　そうなれば、モスクワ攻撃のために全面的な戦線が形成されることになる。
　情況はこのときさらに複雑化して、白衛軍と干渉軍部隊が同時に他の全戦線にわたり、戦略的に積極行動に出た。　この恐ろしい時期に、レーニンを代表とするロシア共産党（ボリシェウィキー）中央委員会は党員とソビエト人民に対し、敵のうち、わけてもコルチャク軍を壊滅させるために全力をあげて戦うよう呼びかけた。
　党と労働階級、それからすべての先進的な人びとはこの呼びかけに振いたって呼応した。
　党中央委員会組織局は四月一一日、レーニンの起草した
　『東部戦線の情況に関するロシア共産党中央委員会のテーゼ』を可決し、一三日の同党中央委員会総会および二三日、二九日の政治局会議で東部戦線に対する援助を組織する問題を検討した。
　そこで、新しく党員を動員して、党内から最も勇敢で、不屈の労働者を前線に送る決議をした。
　五月一三日、防衛会議で弾薬の問題についてレーニンが演説した。
　それよりさき、彼の提案により重要軍事工場の八万一〇〇〇の労働者が赤軍の兵士としての給与をうけ、一方防衛産業工場の労働者は軍への召集を免除された。
　そこで大衆の空前の革命的高揚と党の組織活動により軍事生産は次第に順調になった。
　挙国一致の人力と資材の動員は東部戦線にいる消耗した軍隊を根本的に建てなおした。
　前線の軍隊へ共産党員だけでも一万五〇〇〇人以上が、それも主として現役兵士として参戦した。
　これが軍隊を団結させ、敵との闘争を呼びかける決定的な政治力となった。
　東部戦線の情況は、エム・ウェ・フルンゼがこの戦線の南部諸部隊の指揮をとることとなり、その任務についてから変ってきた。
　彼は困難な情況のなかで、できるだけ早く白衛軍の戦略的主導権を奪いとり、敵の精神状態をくじき、わが軍隊の白衛軍に対する必勝の信念を強めることが必要であるとの、正しい決定を下した。
　フルンゼはこと祖国の運命にかかわることとなれば、いかなる責任、困難をも恐れなかった。
　彼は短期間のうちに、彼の指揮に託された南部諸部隊の再編、補充と全面的な戦闘準備をなし遂げた。
　これは当時の全体的な荒廃と鉄道のほとんど完全麻瘧状態のもとでは容易なわざではなかった。
　東部戦線の反攻の成功とコルチャク軍部隊の退却という情況のなかで、ウラリスク市の近郊では白衛コサック軍が市を包囲し、わが南部部隊グループとの連絡を絶って、情況は困難になっていた。
　包囲された守備隊は強硬に抵抗し、敵にウラリスク市を渡さなかったが、守備隊の情況は不利になっていた。
　東部戦線の情況をくまなく注視していたレーニンは六月一六日に、フルンゼにあて電報を打った。
　「五〇日間にわたって包囲されたウラリスクを防衛する英雄のわが同志たちに、私の熱烈なあいさつを送り、気力を落さず、さらに数週間もちこたえるよう伝えていただきたい。ウラリスク防衛の英雄的事業は成功する」(1)

　兵士たちの士気、糧食、装備に関心をもち、郷里の肉親からどんな便りがあるか、兵士たちがどんな願望を抱いているかを質問した。
　フルンゼは特別なあたたか味と愛情をこめて、我々にレーニンのことを話し、ウラル州地域の戦況について彼が心配していることを語った。フルンゼはいった。
　「我々の仕事はうまく運んだ。
　ウラルの白衛コサック軍を壊滅させたし、残りの反革命軍も間もなく、きっとやっつけよう。
　コルチャク軍も同じだ。ウラル、シベリアその他の地域も干渉軍や白衛軍から解放できる。
　そうしたら、わが祖国は復興できる！」
　私たちはその後でもこのときの会見を折りにふれ思い出した……。
　私は当時、ロシア共産党へ入党しようとして、一九一九年三月まで同調者グループのなかに加わっていた。
　この頃はまだ、入党のための党員候補の制度はなかった。
　私は今日に至るまで、連隊内の党書記局書記トロフィーモフや党委員のウォルコフ（彼らの名前を残念ながら忘れた）のことを感謝しながら思い出す。
　彼らは私に党の規約や綱領を深く理解させ、ロシア共産党入党のため手引きとなってくれた。
　一九一九年三月一日、私はロシア共産党員に採用された。
　それからのことは、多くを忘れてしまったが、私が党員になった日のことは一生涯記憶に残っている。
　そのとき以来、私は自分のすべての思考、願望、行動を党員としての義務に従わせるよう努力した。
　そして、ことが祖国の敵との闘争ともなれば、私は共産党員として、自国人民に対する滅私的な献身の模範となるようとの、党の要求を銘記した。
　その後間もなく、わが師団の部隊はシーポウォ駅地区から、二コラエフスク市周辺の白衛軍を駆逐するため、移動させられた。
　そして一九一九年八月には我々の第四騎兵連隊はウラジミロフカ駅方面に移動した。
　このとき師団は直接の軍事行動には入らないで、戦闘訓練をしていた。
　ここで私は自分と同姓の師団党委員ジューコフ・ゲオルギー・ワシーリェピッチと相知った。
　これは次のような情況のもとでのできどとであった。
　ある日の早朝、私が馬場のかたわらを通ったとき、誰かが馬を「乗出している」のをみた。
　近寄ってみると師団の党委員ご本人だった。
　私は乗馬と調教のかけ声を知っているので、この党委員がどんな乗りかたをするか見たいと思った。
　私の方には注意もしないで、党委員は全身汗にまみれながら馬に左脚前駆歩の歩調をとらせようとしていた。
　ところが、彼がどんなに努力しても馬は歩調不同で応え、左脚のかわりにお決りのように右脚を出した。
　私は我慢ができなくなって叫んだ。
　「左の手綱を引緊めよ！」
　委員はなにもいわないで、馬を歩行にかえ、私のところに乗りよせて馬から下りていった。
　「さあ乗ってみよ」
　私はあぶみを合わせ、鞍にまたがるよりほかはなかった。
　馬を知るため、私は数回乗りまわし、馬を制して左脚前駆歩を試みた。
　周回――よし。反周回――よし。右脚前――同じくよし。左脚前――歩調不同なし。
　「馬は脚を緊めて御さなくては」と私は主張するかのように注意した。
　委員は笑っていった。「君は馬に何年間乗っているか？」
　「四年だ。それがどうしたんです？」
　「そうだ、いうことはない！　うまく乗るではないか」
　私たちは話合った。
　委員は私がどこで初めて勤務につき、どこで戦い、またいつ師団に入ったか、いつ入党したかなどをたずねた。
　一方自分のことについて彼はもう一〇年も騎兵隊に勤めていると語った。
　一九一七年以来党員となり、旧ロシア軍から赤軍に入るまで大部分を騎兵連隊で過ごした。
　彼は万事、どこをみても真の指揮官であった……。
　軍隊内の党委員の仕事比扇動や宣伝ばかりではない。
　まず第一に直接の戦闘で模範となり、行動と素行で手本とならねばならない。
　委員はすべての作戦指令を知り、命令の作成に参加し（作戦の問題に関する最終決定権は指揮官にあった）、軍務を誠実に研究する義務があった。
　普通の場合、委員は戦闘の前に政治部員と普通党員を招集し、彼らに指揮官に課せられた任務を説明し、自分では戦闘の最も危険で、しかも重要な部署へ進んで行った。
　内戦のさいの軍事委員の使命と風格は伝説的な栄光をもって、永く人々の心をとらえている。
　軍事委員のジューコフとは、私はその後幾たびか会った。
　私たちは戦線や国内の情勢を語りあった。
　あるとき彼は私に軍の政治活動の方へ勤務を変るよう奨めた。
　私は彼に感謝したが、しかし私は隊員の方により以上自分の気持が頷いているといった。
　そこで彼は私に赤軍の幹部養成課程に進むよう推薦してくれた。私は喜んでそれに従った。
　しかしこのことも実現をみなかった。
　我々と隣りあっているザプラウノエ村が、ボルガ川のどこか、チョールヌイ・ヤルとツァリツィン（訳注＝革命後スターリングラードとなり、さらに現在はボルゴグラードとなっている）の間を渡河した白衛軍に突然占領された。
　戦闘が始った。学習どころではなくなった。
　コルチャク軍の壊滅とその残存軍のシベリア方面への退却後、連合軍はなおもソビエト共和国との戦闘を断念しなかった。　いまや彼らのすべての期待はデニキン軍に寄せられた。
　西方から彼の部隊へ、武器や弾薬、糧食が不断の流れとなって供給された。
　フランス、イギリス両国政府は逃走した白衛軍将校やドイツの収容所にいたロシア軍捕虜をもって数個部隊を編成した。
　ドイツ軍当局はロシア軍勤務員の帰国にかんして、赤軍との戦闘のための義勇軍に加わることを不動の条件とした。
　しかしこんな目論見からはなんの実も結ばなかった。
　このような『義勇軍』の大多数は都合のよい機会をみつけ次第わが軍へ寝返った。
　我々と戦闘したのは、ソビエト政権を憎むか、ないしはそのことに密接な利害をもつ者だけであった。
　しかしそんな反ソビエト的悪人はわずかしかいなかった。
　一九一九年夏、デニキン軍は強力で、我々にとり危険な兵力となっていた。
　レーニンと党中央委員会およびソビエト政府は南部方面からもたらされた重大な危険にかんがみ、多くの重要決定を行なった。
　一九一九年七月三、四日に開かれたロシア共産党中央委員会総会で、ロシアの防衛の問題と南部戦線の情況が主な関心のまととなり、同戦線が決戦場と宣言された。
　全ロシア中央執行委員会と全ロシア労働組合中央評議会ならびにモスクワ市ソビエトとの合同会議で、レーニンが各戦線の情況およびデニキン軍の攻勢排除の課題について報告演説した。
　このとき、旧ロシア軍専門家の赤軍編入に関することや、彼らに対する配慮の問題などが再び議題となった。
　全ロシア中央執行委員会の記録のなかで次のように述べられている。
　「何百という旧軍人が我々を裏切り続けている。
　しかしわが国では長い間、組織的に何千、何万という職業軍人が働いており、彼らがいなかったら、無秩序なパルチザンの悲しい記憶のなかから赤軍を創建することはできなかったし、東部で輝かしい勝利をおさめることもできなかったであろう。
　わが赤軍の老練な代表的幹部たちは次のように正しく指摘している。
　旧軍人に対し、またパルチザン的無秩序の根絶に関して党の政策が最も厳格に行われ、かつ規律が最も正しく、部隊内部の政治活動と党委員の活動が極めて配慮深く行われたところでは、自分勝手なたくらみをするものに機会はなく、軍内部の動揺もなく、その隊列と士気は最上で、勝利の機会が多い」(2)
　旧軍の士官たちと一緒に勤めた記憶では、彼らの大多数が誠実で、良心的であり、祖国に忠実なわが人民の子たちであったといわねばならない。
　敵との戦闘にその生命を捧げねばならなくなったとき、彼らはおびえることなく、立派に、勇敢に死んで行った。
　彼らにひとつ足りなかったことは、兵士たちに対する分別ある態度が欠けていたことだ。
　彼らはどこか別人であり、赤軍の兵士大衆と共通の言葉というものがなかった。
　彼らのうち、指揮官、隊長となり、かつ兵士たちのよき古参の同志となり得たものはわずかに過ぎなかった。
　私たちは党組織のなかで、旧ロシア軍士官たちとの相互関係について一再ならず語りあい、またあらゆる方法で旧軍人への信頼感を示すことに努力した。
　もちろん、共産党員たちのなかにさえ、『外様軍人』は右翼だ、旧軍士官であること自体が白衛軍だ、彼らはソビエト機構になじむ能力はない、一方、彼らは厳重な規約的秩序や規律を農奴的秩序と同一視している、などといい張るような饒舌家がいた。
　しかし知られているとおり、この『外様軍人』という見方は、第八回党大会で圧倒的多数により否決された。
　第八回党大会の議事を注意深く見守っていた旧軍人たちは、党が彼らを信頼し、尊重し、配慮していることがわかった。
　彼らは目立って赤軍兵士大衆や党の各機関に親近になった。こうしたことが万事、彼らの全般の戦闘訓練やその能力に反映した。
　そして、旧軍士官たちへの信頼を傷つけようとする企みがあれば、党委員や党政治部員、さらには赤軍兵士たちによって、それが断固阻止された。
　ロシア共産党第八回大会（一九一九年三月）は全体として赤軍に多くの関心を払った。
　党の軍に関する政策の根本は、軍をできるだけ速やかに、義勇軍的かつ半パルチザン的軍隊から、鉄の軍紀によって結合し、単一の補充と組織、行政体系をもった正規軍へと、完全、徹底的に移行させることにあった。
　これらの根本的な見解はレーニンの報告や演説、また同大会で採択された党の新綱領やさらに軍事問題に関する決議のなかで述べられている。
　赤軍の隊列を強化するための、第八回党大会および党のその後の措置が正しかったことは現実が証明した。
　ソビエト国家を圧殺しようとして、敵はあらゆる努力を払ったから、それらの措置は極めて重要な意義をもったのである。
　デニキン軍がツァリーツィン、ボリソクレブスク、パラショフ、クラスノグラードその他重要地点を占領すると、連合軍はデニキン軍にモスクワ攻略を急がせはじめた。
　しかしデニキン軍は我々の反攻をくじくことはできなかった。
　九月にはツァリーツィン防衛の激戦が展開された。
　バフチヤロフカやザプラウノエ地区で敵のカフカーズ軍部隊と戦闘をしているあいだ、我々はカムイシン（訳注＝ツァリーツィンからボルガ川沿いに約二〇〇キロ上流の都市）の方向から絶え問ない砲声がはっきりと聞えてきた。
　ツァリーツィン防衛戦闘ではカフカーズ敵軍は手痛い損傷をうけたが、わが軍の部隊も多量の血を流した。
　九月の上半は激戦が続き、戦況は特に活発に動き、著しい変化をともなった。
　我々の第四騎兵連隊がいたツァリーツィン郊外では一〇月中に地域的な戦闘が行われ、我々はただ、概略的にモスクワ方面で重大な事態が切迫していることを知っていただけであった。
　ザプラウノエとアフトゥーバの中間で、カルムイスク白衛軍部隊と白兵戦の最中、私は手投げ弾で負傷した。
　弾丸の破片が私の左脚と横腹に深く刺さり、私は野戦病院に収容された。
　病院から私は非常に衰弱して退院し、健康回復のため一ヵ月の休暇を与えられた。
　私は郷里の両親のもとへ赴いた。村の人たちは非常な困窮状態におち入っていたが、へこたれはしなかった。
　農民のうちの貧農層は貧農委員会のなかに結合し、富農からの穀物徴発に積極的に参加した。
　そこで中農層は、戦線の状態が悪く困難だったにもかかわらず、ソビエト政権の側に次第に味方するようになり、そのうちわずかばかりの人たちが党と政府の措置を拒否する態度をとった。
　これらの人たちは主として、その財産状態が富農に近い人たちで、彼らに引っぱられていた。
　私の休暇は急ぎ足で過ぎた。私は軍の政治部委員会に、私を現地軍に派遣してくれるように願いでた。
　ところが私の身体はまだ衰弱しているというので、トウェーリの予備大隊に送られ、さらにその後赤軍の幹部候補課程に回されることになった。
　一九二〇年一月に、私が派遣された第一リャーザン騎兵学校はリャーゲン県スタロジーロウォの旧地主領地のなかにあった。
　ここの学生たちは主として実戦で優れた騎兵たちにより編成されていた。
　私は第一騎兵中隊曹長としての学生資格を与えられた。
　この勤務は私にとり、すでに旧軍時代に熟知していたことであった。
　ウェ・デ・フラムツェフ学生中隊長は、私に学生の刀剣術訓練（槍術、剣術）、銃剣術教育、教練、体操訓練などを委任した。
　フラムツェフ中隊長は、以前は旧軍の将校で、いつも緊張しており、学生たちの模範となっていた。
　部隊教練隊長のゲ・エス・デスニツキーもまた自分の職務に忠実であった。
　この隊の幹部たちは、旧軍の職業軍人、つまり将校たちから編成されていた。
　彼らの勤務ぶりは良心的ではあったが、ことごとに少し形式主義的であった。
　そして訓育的な仕事は党組織や学校内の党機関員がやり、一般教育訓練には軍事教育専門家があたった。
　政治や経済の教育は一夜づけの講師たちが担当した。
　彼らは、このような問題については、罪深い私たち学生と同じように途方にくれていた。
　聴講学生の大部分の人たちの一般教養は不十分であった。
　それは彼らが、革命前に未教育だった労働者や農民のなかから募集されたからである。
　しかし彼らに必要なことは教えねばならなかった。彼らは懸命に学んだ。
　教育期間は短いが、赤軍の立派な指揮官となるためには多くのことを習熟せねばならないことを自覚していたからである。
　七月中旬に聴講学生たちはあわただしく軍用列車に乗せられた。
　我々は誰も、どこへ連れて行かれるのかわがらなかった。
　モスクワの方面に向っているということだけわかつた。
　モスクワでは聴講学生たちがレフォルトウォの兵舎に集合させられ、トウェーリとモスクワからの学生たちがすでに宿営していた。
　私たちは学生たちが混成旅団に組入れられて、ウランゲリ戦線（訳注＝旧軍のウランゲリ将軍の率いる南部反革命軍）に送られるという説明をうけた。
　我々は必要なすべての戦闘装備、兵器を支結された。装備や騎兵装具は新調され、我々の外見は立派に見えた。
　モスクワには私の知己、友人が多かった。戦線に向うまえにこの人たちに会いたかった。
　特に若い心情を燃やした彼女のことを思ったが、私は残念にも、だれを訪ねることもできなかった。
　中隊長はいろいろな事情で不在になることがしばしばで、私を隊長代りの古参者として留守番をさせるのが常であった。
　従って知人には手紙ですますことを余儀なくされた。
　このためか、あるいは他の理由かわからないが、私とマジヤとの問は疎遠になった。
　その後間もなく、私は彼女が結婚したことを知った。それ以来私は彼女と絶えて会ったことはない。
　八月、我々の軍学生混成連隊はクラスノダールで集結した。そとからウラングリの部隊に対して反攻に出た。
　一九二〇年の夏になって、ブルジョア地主の支配するポーランドはその一時的な優勢にもかかわらずソビエト・ロシアとは戦争を続けることはできないことが明らかになった。
　このときまでに、赤軍の兵力は三〇〇万を優に上回る数となった。
　この故に連合軍の政府は、相互に語りあってもう一つの、第三の反ソ出征軍を組織することになり、プルジョア・ポーランドの兵力以外に、クリミアで組織されることとなったウランゲリ男爵の部隊をその基幹にすることとなった。
　ウランゲリに対しては無制限の援助が約束された。
　一方彼の方からは、連合軍の全軍費を支弁し、皇帝政府の負債をも完済する義務を公式に約束した。
　一九二〇年五月までにウラングリ軍の兵力は、歩兵一三万、騎兵四五〇〇となった。
　しかしこれだけでは、ソビエト国家に対し、新たに広範な反攻にでることは不可能であった。
　ウラングリはクリミア地域ではなんの補充もできなかったので、彼は北タウリアヘの侵入を決意した。
　しかしウランゲリはここでも失敗した。
　彼はドンバスにも、ドン川方面にも進出することはできなかった。
　ウラングリはクバン地方に白衛匪賊活動が拡大していることを見込んで、フォスチコフ将軍指揮下のいわゆる『ロシア復興軍』に期待を寄せた。
　だが、彼はこれらの勢力を明らかに過大評価していた。
　彼は現実を希望的に解釈し、クバンの富農運動はソビエト政権に反対する人民運動と見なすといった誤算をした。
　この時期までに、クバンのコサック階級は、その大部分が、連合国から援助をうけている白衛軍ないしその『最高政府』が彼らにどんな報酬を与えるか、すでに見抜いていた。
　わが軍の指揮官、政治部委員、そして赤軍兵士たちはクバンの人たちに、我々の闘争の真の目的と反ソ的匪賊を速やかに打倒してしまう必要を自覚させるために全力を注いだ。
　これと同時に、極貧のコサックたちや赤軍兵士の家族に対してはあらゆる面での援助が与えられた。
　住民に対するこのような活動は、赤軍部隊が到着する以前に、白衛軍が貧農を迫害し、彼らからしばしばパンの最後の一片までも略奪し、彼らにあらゆる愚弄のかぎりを尽していただけに大きな意義をもっていた。
　八月に私たち学生の混成連隊はまずウランゲリ軍のウフガイ将軍の上陸部隊に対抗して差向けられ、ついでフォスチコフとクルジャノフスキーの匪賊部隊に対して行動した。匪賊たちは間もなく壊滅した。
　彼らの残存部隊はメンシェウィキー派のグルジア政府の保護を求めて逃走した。
　私たちはクリミアでウランゲリ軍の最後の掃滅戦に加わる必要はなかった。
　というのは優秀な学生たちは、期限前に卒業ができ、ウランゲリ軍との戦闘で多くの指揮官要員を失った騎兵部隊の補充に繰入れられたからである。
　卒業式は当時第九軍の野戦本部が駐在していたアルマウィル市で行われた。
　混成連隊の編成のなかにいた残りの学生部隊は、カフカーズ山中に逃げ去った匪賊の追討をさせられた。
　しばらくたって我々は、わが学生連隊がどこかの山中で伏兵に出会い、大きな損害を被ったことを知った。
　多くの指揮官や戦闘員たちは匪賊たちから残虐行為をうけた。
　私たち全員があんなに敬愛していた政治部委員も戦死してしまった。
　卒業生の大部分は当時ノウォジェレノエフスカヤ・コサック村地区に駐屯していた第一四独立騎兵旅団に編入され、引続いてウラガイ軍や地方匪賊残存兵たちの掃滅作戦を行なった。
　私は第一騎兵連隊に編入された。
　隊長はアンドレーエフという古参のドン・コサックで、いわゆる恐れを知らぬ勇者であった。
　連隊本部に出頭し、証明書類を提出したうえで、我々は連隊の指揮官に任命された。
　我々の赤いすじの入ったズボンを見て、連隊長は不機嫌にいった。
　「私の兵士たちは赤すじズポンをはいた指揮官は好きではない」
　なんともすることはできなかった。我々のズボンはひとつしかなかった。
　学生には他のズボンを支給してくれなかった。
　彼はやはり、私たちになにか信頼がおけないで、さらに続けていった。
　「わが連隊の兵士たちは大部分のものがけんか早い。我々は銃弾の下をくぐらないものは好きじゃないのだ」
　率直にいえば、この気分を悪くするような言葉のあとで、彼は私たちに、氏名、出生地、所属党派、戦闘経験とその時と場所など、次々に質問した。
　我々のなかに、銃弾の下をくぐったばかりではなく、第一次世界大戦の出征兵までがいることを知って、彼は安心したようであった。
　次に、中隊に出頭して、我々はウィシニェフスキー中隊長に紹介された。初対面から彼は私たちには気にくわぬ人であった。
　ウィシニェフスキー中隊長は自分の部隊のことには関心が少ない人開という印象を与えた。
　彼はなにか気の進まない態度で命令した。
　「ジューコフ、君はアガポフのところへ行って第二小隊を引継ぎ給え。
　ウハチ・オゴロピッチ、君は第四小隊の指揮につきなさい」
　私は第二小隊を探して、臨時に小隊長の勤務についているアガポフのもとへ行った。
　彼はかなりの年輩で、過去には旧軍の騎兵兵士、第一次世界大戦の出征兵でもあった。
　私はもう知合いになった最初から、この素朴で好意的な人となりに好感をもった。
　アガポフはポケットのなかから小隊の三〇人の名簿をとり出していった。
　「小隊の隊員は三、四人を除いて、すべて旧軍の兵士たちです。
　兵士たちは全体として優れてはいるか、変り者もいます。彼らはうまく手なずける必要がある」
　彼はそこで、ひとりひとりについて詳しく語った。私は彼の話を非常に有難く思った。
　このあと私は兵士たちにお目見えするため騎馬隊形で集合を命じた。
　小隊員にあいさつしたあと、私はいった。
　「同志諸君、ご覧のとおりだ。私は諸君の指揮官に任命された。
　私が指揮官として良いか、悪いか。そして諸君が良いか、悪いか――このことはこれから先にわかる。
　ただいまは、諸君の騎馬と戦闘装備を検閲し、各人との面接をしたい」
　検閲の最中に、ある兵士たちは私の赤すじズボンにわざと目をやった。
　私はこれに気づいたので、いってやった。
　「私はすでに、アンドレーエフ連隊長から、諸君が赤すじズボンが嫌いだということを警告された。
　しかし私には他の替えズボンがないのだ。
　私はソビエト政権から給付された服を着用している。
　私は目下ソビエト政権下で職務についている。
　一般に、赤い色については、諸君知ってのとおり革命の色である。
　この色は勤労人民の、自由と独立のための闘争を象徴している。……」
　翌日、私は兵舎のなかで小隊を集めて、各兵士にその身上を語るよう求めた。
　話はなかなかはずまなかった。機関銃士のカシヤノフが口ばしを入れた。
　「一体、話すことがあるのですか？　小隊の名簿には、氏名、出身地、そして我々の身上など、すべての資料があるのではないですか」
　そこで私は兵士たちに、白衛ポーランド軍や北タウリアにおけるウランゲリ軍との戦闘で知ったことすべてを語った。
　兵士たちは注意深く聴いた。彼らは特に連合国がこれから軍隊を上陸させるかどうかに関心をもった。
　私は連合国の支配者は軍隊を上陸させたいだろうが、その人民と軍は我々と戦うことを欲していないと答えた。
　数日過ぎてから、プジモールスキー地区（訳注＝クリミア半島南岸）の残存匪賊掃滅作戦で、私は小隊長として戦闘に出ることになった。
　この戦闘はわが方の勝利に帰した。匪賊は掃滅され、一部は捕虜となった。
　だが、一番重要なことは、我々の小隊がこの戦闘で少しも損失を出さなかったことである。
　この戦いのあと、兵士のなかでだれ一人、私の赤すじズボンのことはもう口に出さなくなった。
　それから間もなく、私は騎兵第一連隊の第二中隊長に任命された。
　一九二〇年一二月下旬、我々の旅団は富農の蜂起とコレスニコフの匪賊討伐のためウォロネジ県へ移動させられた。
　ここの匪賊はほどなく壊滅した。その残存部隊はアントノフの富農・社会革命党派の匪賊に合流するためタンボフ県へ逃走した。
　アントノフ反革命匪賊集団は一九二〇年の末には『軍』にまで成長した。
　この『軍』の作戦総本部に旧社会革命党員のボグスラフスキー、グサロフ、トクマコフ、ミトロファノビッチなどが参加し、司令官にはトクマコフ、アントノフは参謀長となった。
　間もなく、第二『アントノフ軍』も編成された。軍の全権はアントノフの手中に集中された。
　各部隊は機関銃、小銃、連発拳銃、剣などで武装した。
　社会革命党と富農の蜂起にあたって、政治組織の最高指揮をとったのは、社会革命党中央委員会であった。

　一九二〇年一二月、ソビエト政府は反革命集団を討伐するためタンボフ県部隊本部を創設した。
　一九二一年三月一日までに、タンボフ軍司令部の兵力は歩兵三万二五〇〇、騎兵七九四八、機関銃四六三、砲六三門をもつに至った。
　この兵力は五月一日までに、さらに歩兵五〇〇〇、騎兵二〇〇〇だけ増強された。
　だが、タンボフ軍司令部はその未組織と不決断のためにアントノフ匪賊集団を討伐することができなかった。
　図に乗ったアントノフ自身は赤軍守備隊に攻撃をしかけた。
　一九二一年四月上旬、五〇〇〇のアントノフ軍部隊がラスカーゾウォを占領していた守備隊を壊滅させ、この戦闘でわが方の大隊全員が捕虜になった。

　実はこのとき、私にとりその後わずか数年を経て、国防人民委員部でソビエト軍隊の戦術の技術的基礎理論を討議したさい、再びトハチェフスキーと対面することになろうとは思いも及ばなかった！……
　トハチェフスキーとアントノフ・オフセエンコ　（訳註＝反革命指導者のアントノフとは別人）が任命されたことで、反革命匪賊団との闘争は綿密な計画のもとにうまく進んだ。
　トゥハチェフスキーの次席についたのは、イ・ぺ・ウポレビッチといい、同時に混成騎兵部隊の責任者となった。
　彼自身もアントノフ匪賊団との戦闘に参加し、個人的にも非常な勇敢ぶりを示した。
　一九二一年の夏のうちにウボレビッチ指揮下の部隊は地域住民の支持を得て、ノウォホペルスク（訳注＝タンボフ市の南方約二〇〇キロの地方都市）近郊でワシカ・カラシとボグスラフスキーの匪賊団を掃滅した。
　アントノフ匪賊団との戦闘には少ながらぬ困難をともなった。
　特に私の記憶に残るのは、一九二一年春の、ジェルジェフカ駅からほど近いウャゾワヤ・ポチタ村付近での戦闘であった。
　このときの迫兵戦で、一人の敵兵が短銃で私の乗馬を射殺した。
　馬は倒れるさい私にのしかかった。
　私はこのとき、軍政治部指導員のノチェフカ君が全く折りよく救出してくれなかったら、きっと斬り殺されるところだった。
　彼は匪賊を刀剣で激しく叩き切り、敵の乗馬の手綱をとって、私か乗るようにと助けてくれた。
　我々はまたすぐに、わが中隊を迂回して突進してくる敵の騎兵縦隊に気づいた。
　我々はこの敵に対して直ちにすべての火器を展開し、連隊長にこの情況を報告するため伝令を差向けた。
　二、三〇分後に、わが連隊は前方に移動して、発砲攻撃を仕かけた。
　わが中隊は機関銃と砲を使って、攻撃してくる敵の隊列に、ほとんど銃口を突きつけるようにして射ちまくった。
　私たちの戦場が敵の死体でおおわれているのをみた。
　敵は徐々に、一歩ずつ戦いながら後退した。
　私はその目前で、同志のウハチ・オゴロビッチ小隊長が重傷をうけて馬からくずれ落ちるのをまともに見た。
　彼は有能な指揮官であり、よき教養をもった人間であった。彼の父は旧ロシア軍の大佐であった。
　彼は当初からソビエト政権に組し、私たちが学んだリャザンの軍幹部学校でも指導的な講師の一人であった。
　意識を失う前に彼はつぶやいた。
　「母に手紙をやってくれ。私を敵の手に渡すな」
　我々は、敵が負傷者や戦死者に罵倒の辱しめを与えないようにするため、その全員を機関銃や砲の運搬車に乗せて一緒に連去った。
　連隊が予定した反攻はついに実現しなかった。
　我々が渡河しようとした川の氷がうす過ぎた。
　私たちはウャゾワヤ・ポチタまで後退を余儀なくされた。
　我々がすでに村の中に入ったときのことだ。
　私は取残された機関銃を救出しようとして、匪賊の一団に襲いかかった。
　この日銃撃によって、私の二度目の乗馬が殺された。
　私は短銃を手にして、私を生捕りしようとした敵から逃れねばならなかった。
　このときもまた政治部指導員のシノチェフカが兵士のブルイクシン、ゴルシコフ、コワレフの諸君と一緒にとびかかり、救出してくれた。
　この戦闘で、私の中隊は一〇人が戦死し、一五人が負傷した。
　そのうち、ウハチ・オゴロビッチを含む三人が翌日に死んだ。
　一九二一年の夏が終るころ、タンボフ地方を逃げ回っていた小匪賊団の最後の討伐が行われた。
　彼らの掃滅はできるだけ急速に終えねばならなかった。
　私の中隊は一五〇騎を数えるズウェレフの匪賊団を討伐せねばならなかった。
　一味はすぐに発見された。彼らの迫跡が始った。
　匪賊たちの兵力は少しずつ消耗して行った。
　ある森の近くで我々は敵を捕捉し、攻撃することができた。
　一時間の戦闘ですべては終ったが、ズウェレフを頭とする五人の匪賊は夕暮れを利用してなおも逃に、森の中にかくれた。だが、彼らはもはや万策尽きた。タンボフ地方のアントノフ反革命匪賊団の掃滅は完遂された。
　私はこの戦闘を想い起すさい、森のなかで起った一挿話を語らずにはいられない。
　我々が匪賊を追跡していたさい、突然隣りの部落から走り出てきた二台の装甲自動車に遭遇した。
　我々は敵が装甲車を持っていないことを知っていたので、彼らに向けて発砲はひかえた。
　ところが、その装甲車は地の利を占めると、わが方に機関銃口を向けた。
　なんということか？　伝令を送った。直ちに味方だとわかった。
　先頭車にはぺ・イ・ウボレビッチ自身が乗っていた。
　彼は匪賊たちが森の方に退却するのを知って、それを途中で捕捉しようとした。
　ことの次第は判明したから良かったものの、間違えはとんだ結果になるところだった。
　こうして私はウボレビッチと初面識になった。
　後日、一九三二年から三七年にかけ、我々はしばしば出会った。
　彼は当時白ロシア軍管区司令官で、私は同地で騎兵師団長になっていた。

　…………長い年月が過ぎた。
　ソビエト人民が克服せねばならなかった内戦の困難も忘れられている。
　しかし一〇月革命の日々、レーニンの党が高くかかげた理想の正しさに対する固い忠誠心が我々一人々々の記憶から消え去ることは決してないであろう。
　イギリスのノックス将軍は当時自国政府へ送った書簡で、ボリシェウィキーー〇〇万の軍隊を撃破することは可能である。
　しかし一億五〇〇〇万のロシア人たちが白衛軍を欲しないで、赤軍に期待をかけているとき、白衛軍を援助することは無意義であると書いた。
　第一次世界戦争を含む過去の戦争の経験を、赤軍は当時多くの理由からそのまま取入れることができなかった。
　若きソビエト国家の敵との闘争のためには、闘争の本質と方法に対する新たな史観をもって自らを武装したうえで、明確に階級的性格をもった軍組織を創設することが心要であった。
　「あらゆる革命は、それが自らを守ることができて初めて何らかの価値をもつ……」(3)とレーニンはいった。
　党も、その中央委員会も、またレーニン個人が祖国防衛の組織、戦線と後方の統合について、また内戦の期間中、労働者と赤軍兵士、農民大衆による外国干渉軍と反革命との闘争を盛上がらせるために重大な役割を果した。
　彼らは敵に対する勝利を保障する何百、何千の措置を実行した。
　歴史家が確認したところによると、一九一八年一二月一日から一九二〇年二月二七日までに、防衛会議は一〇一回開催された。
　この席上で、国の防衛組織、赤軍および海軍に対する軍事技術、軍備、装備、食糧の確保に関して二三〇〇の議題が審議され、すべての会議で、二回の例外を除き、レーニンが議長として司会した。
　内戦期間中の諸文書を研究すると、党中央委員会とその政治局の決定や指令は、赤軍総司令部と前線の革命軍事会議が軍事作戦の具体的計画を作成するための基礎となった。
　レーニン自身が軍総司令官や各前線、各軍と親しく連絡をとり、多くの軍指揮官や政治部員と親密に知合っていた。
　彼はこれらの人たちと大量の軍事に関する書簡を交換した。
　極めて不完全な資料によったものではあるが、内戦の諸年間に、ソビエト国家防衛の諸案件にかんして、レーニンの署名による手紙や電報が六〇〇通発信された。(4)
　同時に、レーニンと党中央委員会は方面軍と軍、部隊などの戦闘行動に関する作戦指導について、軍総司令官や革命軍事会議を更迭したことはなかった。
　軍総司令官カーメネフの作成したデニキン軍との戦闘計画の正しさについて、一部の軍人たちが疑問を表明した報告をレーニンが受けとったときのことである。
　レーニンは党中央委員会政治局を代表して、トロツキーに対し、次のような手紙を書いた。
　「政治局は軍総司令官の作戦上の権威を完全に承認する。これを軍のすべての責任者たちに適当に説明するよう貴下にお願いする」(5)と。
　このとき軍総司令官のカーメネフはレーニンに対し、作戦軍事問題に関するすべての政府指令草案は、事前に軍総司令官に内示するよう要求した。
　レーニンはそこで、政治局員全員にあてたカーメネフの上申書に「私の意見では彼の請願を受入れ、軍総司令官を直接召喚するか、または早急な結論をだすため、指令草案を彼のもとへ送るか決定すべきである」(6)と記入した。
　共和国革命軍事会議および各方面軍と各軍軍事会議はすべて、ロシア共産党中央委員会の決定を基礎として活動した。
　各軍司令官や政治部委員の要職への任命とか共和国の防衛力の強化については党中央委員会の指令によって行われた。
　レーニンの提案によって一九一八年末に採択された「軍事官庁の行政について」という決定のなかでは、軍事官庁の行政に対する責任はすべて党が負うこと、その党はまた影響力を用いて、ソビエト軍事力の建設および戦闘行動の全面にわたって掌握していることを強調した。
　共産党員は赤軍内部を結合させる力である。
　ロシア共産党中央委員会は党員によって各戦線のすべての重要地域を強化するため、幾たびか党を動員した。
　一九一八年一〇月に軍隊内の党員は三万五〇〇〇だったのが、一年後には約一二万を数えるほどになり、一九二〇年八月には三〇万、すなわち当時のロシア共産党全党員のほとんど半数となった。
　内戦で決定的役割を果した赤軍の精神的、政治的な優秀さはすべての人びとに認められている。
　これは軍内部の党員、政治部員、政治部、党細胞などの戦闘的、愛国的活動によってもたらされたものである。
　当時フルンゼは軍内の党・政治諸機関の役割を評価して次のように書いていた。
　「砲声のとどろきと呼応して創設されたわが若き赤軍の隊列に秩序と規律を導き入れたのは誰か？
　失敗と敗戦のさいに兵士の勇気と胆力を支え、その動揺する隊列のなかに新たな精気を注ぎこんだのは誰か？
　軍の後方を整備し、ソビエト政権を育成し、ソビエト的秩序をつくり、これによって敏速、上首尾にわが軍の前進を確保し得たのは誰か？　
　また、誰がそのたゆまない、不屈の努力によって敵の隊列を崩壊させ、その後方を混乱させ、それによって後日の成功を培ったか？

　内戦時代の大きな軍事的経験および理論的結論は、その後多年にわたるソビエトの軍事力を建設するための基礎となったが、私はそれらのなかから、若干述べておきたいと思う。
　第一は、軍と人民の団結について。
　内戦は戦線と後方の一体性と、単一の軍事的陣営と化した国の優越性をみごとに示した。
　この一体性は、客観的にはソビエト社会、および国家機構、労働階級と農民の同盟をその基礎としており、一方主観的には軍と人民の目的の共通ということがその基盤となっている。
　この結果として、兵器の能力の何層倍もの力が生れた。
　レーニンはこのような力は、世界で初めてなんのために戦うかを自覚する軍隊が創設されたこと、また世界で初めて、信じられないほどの困難に耐えぬいた労働者と農民が、ソビエト社会主義共和国と労働者、農民の権力を守ることを自覚していること、にその根源があることを認めた。
　第二は、特に軍事問題に関する党の指導的役割と、党・政治機関による軍への影響力について。
　共産党の指導的役割は軍事的に見て、他のなによりも、巨大な意義をもっている。
　なぜなら、党は、生産手段が社会的所有に属している国において支配政党となっているからである。
　この故に、最も重要な軍事目的のための、全国民経済の手段と力の、測り知れないほどの集中ということが保障されている。
　また巨大な物的、人的資源を動員し、単一の軍政を施行し、全国民と各人のための軍事問題に関する指令の義務を達成するための絶対的な可能性がつくられる。
　陸海軍内の党・政治活動についていうと、革命に対する自覚心と忠誠心の力は党活動のおかげで一つの目的に集中され、それが増大されて巨大な英雄心の源泉となっている。
　レーニンはこう述べている。
　「党が護術になり、党が厳重な規律をもっていたからこそ、また党の権威がすべての軍事官庁や機関を統一し、党中央委員会の発するスローガンに従って数十万または数百万の人間が一体となり行動し、未曽有の犠牲が払われた。
　ただこれだけの理由で、奇蹟というものが起り得たのである。またこの故にこそ、全世界の帝国主義者とその連合軍の二回、三回、四回にわたる攻撃にもかかわらず、我々は勝つことができた」(8)
　第三にもう一つ、我々の軍事力の建設上の原則、すなわち厳重な中央集権、単独責任制、鉄の規律について。
　反対者たちは一再ならず、いろいろな非難をこの原則に加えたが、私はここで一言しておきたい。
　レーニンは軍事において、単独責任制が欠けていると、
　「絶えず、それにともなって、不可避的に破滅と恐怖、多頭政治、ひいては敗北を招来する」(9)と述べた。
　党の大会や中央委員会で採択された多くの基礎的な文書やその実際活動のなかで、ボリシェウィキー党員たちは、正規軍を建設するための原則、すなわち軍の全組織にわたる単一の、中央集権的行政ないしは上官に対する厳重な服従や軍紀（この方法が必ず支配的とならねばならない）に代って無計画な、パルチザン的組織方法（この方法は当初にはつねにあり得る）によろうとする企図と絶えず闘争してきた。
　もちろん、単独責任制は、指揮系統要員の階級的構成や彼らの政治的自覚の程度、軍事的教養などを検討し、かつ兵士大衆のそれぞれの行政方法に対する順応性を考慮に入れたうえで、具体的歴史的条件に厳重に適合させ、導入しなければならない。
　このようなわけで、ソビエト政権の発足当初は、単独責任制を導入することは当然できなかった。
　しかし、単独責任制のレーニン的原則は、ソビエト軍指揮上の典型的、基本原則として、党機関や政治組織の役割が向上したことと有機的に結合し、支配的なものとなった。兵士たちによる祖国防衛義務の深い理解とその自覚的遂行を前提とした鉄の規律と並んで、指揮官の単独責任制は軍隊の意思と知識、その目的の明確性が結びつくために重要なかなめとなっている。
　わが国発展の各時代は、ソビエト軍の建設にとり、侵略から防衛のために強化し、訓練することにより新たな性格をもたらした。
　内戦の戦火のなかで、特に以上に述べたように、レーニンの直接参加のもとに鍛えあげられた軍事経験と諸原則は、その後一九三〇年、四〇年代にさらに発展し、ついに大祖国戦争においてファシズムを壊滅させたわが軍の力の重要な構成要素となった。

　　　〔注〕�@レーニン全巣、第五〇巻、三五一ページ。
　　　　　　�Aレーニン全集、第二九巻、四一三ページ
　　　　　　�Bレーニン全集、第三七巻、一二二ページ
　　　　　　�C「ソ連共産党とソ逓軍の建設」（一九六七年、軍事出版所発行）、四四、六九、九八各ページ参照。
　　　　　　�Dレーニン全集、第五一巻、二二ページ。
　　　　　　�E同右、六九。ページ。
　　　　　　�Fエム・ウェ・フルンゼ選集、第二巻（一九五七年、軍事出版所発行）、一二一ページ。
　　　　　　�Gレーニン全集、第四〇巻、二四〇。ページ。
　　　　　　�E同上、第三九巻、四六ページ。