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Index　一章　二章　三章　四章

一章　日本支配下の朝鮮

1　いまも二人の兄さんの夢を見る（李圭さん） 2　役人は､小作の土の中に隠した米までも（崔徳龍さん） 3　学校で朝鮮語をしゃべるのはダメたった（申栄晩さん） 4　賃金差別けひどかった（下條藤雄さん） 5　小さいころ、よく拷問をみた（金崎忠能さん） 6　歩いていると、いきなりトラックに（金達善さん） 7　私は朝鮮人を豊羽鉱山まで連行してきた（池中豊治さん） 8　豊羽鉱山で朝鮮人へのリンチをみた（町田康二さん） 9　〔隠されていた真実�T〕朝鮮に対する数々の暴虐 10　〔隠されていた真実�U〕「朝鮮は植民地ではなかった」にびっくり

1  いまも二人の兄さんの夢を見る　　李圭（イギュソン）さん top 　私は忠清南道禮山郡禮山面禮山里三七二番地で十一人兄弟の十番目、次女として生まれました。 　当時、女で学枚へ行く人は少なかったのですが、うちの父は「若い女の子でも学校へ入らないとだめだ」といって私を学校に入れました。 　「日本語を学んで、日本に負けないようにして、日本人を追い返さないとだめだ」と、反日感情の強い父はいつも言ってました。 　　日本人の先生が体罰で日本語を強制 　私は大田（テジョン）高等女学校を卒業してすぐ、教師が不足していたので国民学校（小学校）の先生になりました。 　一九三八年には学校で一切、朝鮮語を使わないようにと、朝鮮語禁止令が出ました。 　朝鮮の教科書も使わないようにし、国語（日本語）を常用しなさい、ということになりました。 　日本の警察官は、私たち朝鮮人教師が日本語を教えないでハングルを教えるのではないかと、つねに和服姿で監視していました。 　生徒が帰った後に、生徒のノートを調べたりもしました。　朝鮮人の生徒たちが日本語を使う際、舌が回らず、うまく日本語を使えないと、日本人の先生が 　「おい、ちょっと来い！　不逞鮮人野郎！　こんちくしょう。ゲンコツのおみやげだ！」といって頭を殴るのです。

李圭さん。一九二二年生れ。 一九九六年十一月二三日 札幌で「戦死した兄の遺骨を 探してください」と訴えた

　すると朝鮮人の子供たちは頭をおさえて私の所に来て
　「先生、先生、痛い、助けてください」と泣くのです。何の罪もない国民学校の十一〜十二歳くらいの子供たちを叩いて、私はもうみていられませんでした。
　子供たちの頭は富士山のようにコブだらけでした。
　それで私は、楢林（ならばやし）という日本人の体育専科の男の先生に言いました。
　「よしなさい。何で殴りますか。いくらでも日本語を教える時間はあるし、いくらでもこの子たちは学ぶことができるじゃないですか」と。
　「私たち朝鮮人は何でこんなに殴られるのですか。先生、先生！」といって私の胸に頭をつけて泣く子供たちをいまでも忘れられません。
　その子供たちの同窓会があると「あの時はひどかった」ということが話題になります。

　　警官の横暴

　日本の警察官は私の家（家族）まで始終監視するようになりました。
　警察官の話によれば、「お前たちは日本の着物を着ないで、白いチマ・チョゴリばかり着でいるからだ」と言うのです。
　それで今度は真っ黒く染めろ、と命令してくるのです。
　でも私たちは従いませんでした。
　朝鮮人が白い着物を着ても、黒い着物を着てもいいじゃないですか。
　いくら日本が強いからといって、着物まで自由に着させないなんてありますか。
　私はひどいことをされたことがあります。
　朝鮮の地図を刺繍していると、未完成の時に警察官に見つかって取上げられ、その場で壊されました。
　このように、日本人が朝鮮人にしたことはあまりにもひどいことでした。

　戦死した圭勳兄さんには、三人の子供がいました。
　その子供たちの元へ、一九四五年に簡単な戦死の通知がきました。
　それは戦死してから一年もたってからです。
　それをみて、子供たちは「お父さん、お父さん」と言って両手を伸ばし、地面を叩きながら泣きました。
　それをみた私は、胸が張り裂けそうなくらい痛かったです。
　その後、私の両親も病気で亡くなって、私はどれだけ苦労したかわかりません。
　もしいま、日本の軍人が横にいたら、刃物で切りつけてやりたい気持になります。
　「日本が韓国を開発してやった」などという人がいますが、「私たちは貧しいから植民地開発をしてくれ」とお願いしたことはないのです。
　私は時々こんな夢をみます。二人の行方不明の兄さんが、血だらけの顔で現れ、私を呼ぶのです。
　「私を探してくれ。探してくれ。そして私を祖国の土に埋めてくれ」
と泣き叫ぶのです。兄たちはどれほど死に方が悔しかったことか。
　私は悲しいというよりは、悔しくてなららないのです。
　私は、兄さんたちの遺骨を探してあげたい気持でいっぱいです。
　私は、遺族に対する日本国家の謝罪と補償を求める裁判を起こした原告の一人です。
　改めて日本政府に要求します。
　日本政府は裁判の結果を待つことなく、心から遺族に謝罪と補償を国家の責任できちんと果たしてほしいと思います。
　　　　　　　　　　　　（証言：一九九六年八月）

2  役人は、小作の土の中に隠した米までも　　崔徳龍（チェトクヨン）さん top

私はソウル南方の京畿道龍仁郡四面定水里で、小作農家の長男として生まれ、解放の日までその村にいました。 　日本名は鶴崎徳龍です。当時の家族は、祖父母、両親と兄弟三人の計七人でした。 　家では三〜四〇〇〇坪（一〜一・三ヘクタール）の水田を作っていました。地主は韓国人でした。 　私の友人はたくさん「徴用」で引っ張られていきました。 　行く先は北海道、九州、「南方」などで、今なお帰ってきていません。行方不明です。 　もし引っ張られていったのに逃げたら、その家の子供まで引っ張られたのです。 　ですから当時は徴用を逃れるために、親はまだ年頃でもない息子を早めに結婚させました。

ソウルで怒りをもって証言する 崔（チェ）さん。1927年生れ

　「どういう相手か、気持ちはどうか」などは後回しで、とにかく徴用が来る前にと急いだのです。
　息子を「かたわ」（身体の不自由なこと）の娘の婿にして戦後になって離婚した、というケースもありました。

　ですがらどこの小作も上手に隠すのです。瀬戸物に入れて土の中に隠したりしました。
　でも役人はすべてお見通しで、割当て供出量に達していない農家に、サーベルをさげた警官と一緒にやってくるのです。
　そしてそれらしきところを、持ってきた鉄の細い棒でつつくのです。
　さいわい私のところは見つかりませんでしたが、他の家では発見され、没収されました。
　その頃、村の人はよく駐在所に呼ばれていました。
　家で食べられるのは運よくみつからなかった隠し米だけで、すぐなくなります。
　わずかな麦も食べたあとは、配給（有料）に頼るしかありません。
　それは満州（中国東北部）からきた粟（あわ）や大豆粕（だいずかす）などです。
　とても足りませんから、それに草など入れ、うすいお粥にして食べました。
　水分でお腹は一時的に膨らみますが、すぐ空くのです。一日二食でしたが、それでもよい方でした。
　南京豆（ピーナツ）も売っていましたが、高くて手が出ず、一回しか食べたことがありません。
　カフスや炭俵も供出でした。
　一人あたり何枚と割当てられ、家族全員の数になるとかなりの枚数で、とくに冬は夜通しの作業になりました。
　これもただ働きの「夫役」（ふえき）でした。両親はただ黙々（もくもく）と働くだけでした。

　　小学校の「国語常用」と罰

　小学校は朝鮮人だけの普通学校に入りました。
　一クラス約六〇人、六年生まで計三六〇人くらいの児童数でした。
　学校に行けない子はたくさんいました。行けたのは八〇世帯の村で八人くらいでした。
　部会は六年制でしたが、田舎は四年制でした。
　教師は日本人が九人、朝鮮人が二人でしたが、終戦時にはみな日本人だったと思います。
　修身は校長先生が教えていました。
　教科書は日本語と朝鮮語の両方ありましたが、四年生から朝鮮語学習が禁止となって、すべて日本語になりました。
　「国語常用」というスローガンがあって、学校で朝鮮語を話すと点数が引かれ、罰として便所掃除などさせられました。
　小学四・五年生になると、日本がなんとなく悪いことをしていると思うようになりましたが、はっきりわかったのは二〇歳くらいになってからでした。
　思い返せば、昔のことには恨みが残っています。
　　　　　　　　　　　　（証言：一九九六年八月）

3  学校で朝鮮語をしゃべるのはダメだった　　申栄晩（シンヨンマン）さん top

　朝鮮語が全面禁止になると、今度は「皇国臣民（こうこくしんみん）の誓い（天皇に忠誠を誓う）」を言わされたり、毎朝、授業が始まる前に「宮城遙拝（ようはい）」をさせられました。
　それは、教室に掛けられている宮城の写真の前に立って最敬礼させられるのです。
　教科書はさくら、さくら（「サイタ　サイタサクラガ　サイタ」）から始まります。
　修身などで、毎日徹底的に皇国臣民精神（天皇に忠誠、日本の国への奉仕）をたたき込まれ、朝鮮人としての誇りや気持ちを跡形もなくす教育でした。
　たとえばです。
　「私たちは、日本の子供です。
　神様の御ちすぢ（血筋）をおうけになった天皇陛下をいただき、かぎりなくさかえゆく日本の国に生まれたのです。
　世界に国はたくさんありますが、私たちの生まれた日本のようにすぐれた国は、ほかにありません」
　これは、朝鮮人の子供たちが使用していた教科書「初等修身」（小学校三年生用）の一部分です。
　このように朝鮮人の子供たちから、「朝鮮の子供」としての自覚や祖国愛をうばい、その心の中に日本人としての自覚と忠誠を育てようとしました。
　そうした教育を皇民化教育とよんでいました。
　こうした教育は、中学校などでもすすめられました。
　私が小学校卒業後、大邸商業学校に入学できたことは幸運でした。
　大邸中学校の生徒は日本人の千だけでした。
　私が入学した大邸商業学校には、朝鮮人と日本人の子が半々ぐらいいました。
　在籍していた日本人の子は、中学校に行けず「無試験」でした。
　ですから、朝鮮人の子より体力的にも、学力的にも劣っている子が目につきました。

　　「祖国統一」に向けて

　最後にみなさんに考えてもらいたいことがあります。
　現在朝鮮半島は、北の朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）と南の大韓民国にわかれています。
　朝鮮の人たちは祖国統一を願っていまたが、日本の方々は、他人事のように思っているようです。
　しかし朝鮮が分断されたのは、日本が植民地にしたからです。
　本当は「祖国統一」に向け、日本の責任で解決すべきことです。
　しかしながら、日本は我々の祖国統一を妨げてきました。
　それは、「終戦」という言葉に象徴されているように、戦前の日本人の意識が亡霊のように生き続けているからではないでしょうか。
　　　　　　　　　（証言：一九九四年八月二九日）


4  賃金差別はひどかった　　下條藤雄さん top

　　なぜ韓国は日本になったか

　ここに私が小学校五年生の時に習った教科書があります。
　いまで言いますと歴史の教科書にあたる『国史』でした。
　そこには、どうして朝鮮は日本になったかということかでいねいに書いてあります。
　「……これは韓国が独立していくだけの実力がないため、とかく他国の圧迫をうけ、東洋の平和を破るおそれがあったからである。……
　何としても長い間つづいた弊害はなかなかたやすく取り去ることができず、人民はなお不安な生活を送っている有様であった。
　この故、その上、国利民福（こくりみんぷく）を進めようとするには、どうしても韓国を日本に併合せねばならぬことがしだいに明らかになり、韓国の中にもこれを望むものが少なくなかった。
　そこで韓国皇帝は統治の権を天皇にお譲り申し上げ帝国の新しい政治によって国民をますます幸福にさせたいとお望みになり……」
　日本が朝鮮を植民地化したのは、朝鮮人民にたいする「国利民福」のために、朝鮮の大多数の人民や韓国皇帝の要望によって実現されたと書かれています。

　　朝鮮の鉄道員

　一九三六（昭和十一）年私が一五歳（いまでいう中学三年生）の時、郷里の長野県伊那市から単身で朝鮮にわたり、大邸（テグ）駅で鉄道員として就職しました。
　三ヵ月後、ソウルの鉄道員の養成所に入り、朝鮮語も学びました。
　朝鮮語の先生は朝鮮人でした。
　授業中、日本人の生徒が当時流行していた
　「愛染かつら」を突然大きな声で歌いだしたのです。
　先生は、「朝鮮人は滅びる民族とみてバカにして……」と涙して怒りましたが、どうすることもできない状況でした。
　一年後、養成所を卒業し、羅南（らなん、朝鮮半島北東部）の駅に赴任しました。
　鉄道員は朝鮮人が多いが、賃金は差別されていました。
　日本人の方が七〇％も高く、朝鮮人の鉄道員は大きな不満を持っていました。
　また、朝鮮人に対して「創氏（そうし＝名字）改名をしろ」と、圧力をかけていました。
　「創氏改名したら、賃金は日本人と同じになるから」と。
　しかしながら、創氏改名をさせておきながら、給与台帳にはその名前を記入した上に（鮮）と書いてありました。
　日本名に変えでも差別は続けられていました。
　列車によって、機関車によって、使用される石炭の質も違うのです。
　ソウルから中国（北京、「満州」各市）に向かう特急列車には、火力のある良質の石炭が使われましたが、他の列車になると、石ころのような石炭が使われていました。
　こうした列車の機関士の多くは、朝鮮人でした。
　機関士になるには、日本人ですと二〜三年でしたが、朝鮮人は一〇年以上もかかっていました。
　ですから、腕は朝鮮人の機関士の方が上でした。

　　韓国併合の実態は

　それは、三六年間の幃国併合が朝鮮人民に対する「国利民福」のためではないことだけは、私の心に明確に刻まれる結果となったのです。
　日本人によって、多くの韓国・朝鮮の人々が、ある者は命を奪われ、ある者は虐げられ、ある者は強制連行され、ある者はいまでも行方知れずとなっています。
　戦後五六年間に、韓国、朝鮮はともに日本に対し、二度と同じ悲劇を繰返すことのないように努力はしても、「報復する」ことを考えたということは聞いたことはありません。
　これからは、相手を理解することです。それは、韓国・朝鮮の文化や歴史などすべてを理解することなのです。
　　　　　　　（証言：一九九六年十一月十一日）

5  小さいころ、よく拷問をみた　　金崎忠能さん top

　私は、朝鮮の慶尚北道の慶山（キョンサン）に生まれましたが、すぐに近くの孤山（コサン）に引っ越しました。
　一九四四年四月に大阪に行くまで、朝鮮に一三年間いました。

　　朝鮮における父の事業

　朝鮮での父の仕事は、四つありました。
　まず酒造経営です。酒工場の従業員も入れて四〇人ほどの社員がいました。
　日本人は五人くらいで、あとの大半は朝鮮人でした。
　リンゴ園の経営では、朝鮮人の男女を日雇いで使用していました。
　女性はチマチョゴリ、男性も朝鮮服でした。
　三つ目は、水田地主です。朝鮮人の小作を二〇軒以上使っていたと思います。
　四つ目は、千代田生命保険会社の代理店もしていました。
　家は大邸（テグ）の他に、本拠の孤山、慶山にもあり、日本人や朝鮮人の女中（お手伝いさん）をたくさん使っていました。
　ですから家は金持ちだったと思います。
　家は特権階級のような暮らしでした。
　孤山の家には、一五〜六人の女中がいました。
　半分は朝鮮人で、チマチョゴリを着ていました。一〇人ほどは住み込みでした。
　一人の子供に一人の女中をつけていました。
　女中の年齢は一五歳から四〇歳くらいで、平均は二〇歳ぐらいだったと思います。
　大正の初め頃に朝鮮にやってきた父方の祖父のことですが、朝鮮人を差別していました。
　ある日、私が祖父の家に行ったときのことです。
　使用人の朝鮮人に食べさせるご飯が私の家と違うのです。
　朝食は前日の夜に欸いたご飯を、昼食は朝に炊いたご飯を食べさせていました。
　祖父に聞くと、「雇い大には冷や飯を食わせないと、余計食べるから」と言うのです。
　当時の朝鮮人の食事は麦一○○％のご飯でしたから、冷や飯でも白米であっただけよかったかも知れませんが、差別にはかわりありませんでした。
　このような差別は、祖父や親戚の家で見聞きすることがありました。

韓国・独立記念館の展示。 拷問する日本憲兵（提供／重田敞弘）

　　警察で見聞きしたこと

　私が孤山にいた時、近所の日本人は、朝鮮人学校の校長先生と警官しかいませんでしたから、父は警官との付き合いがありました。
　警官はよく家に遊びにきていました。
　夜一〇時ぐらいまでお菓子を食べながらラジオを聞いたりしていました。
　私は小さいものですから、可愛がられました。
　私もよくその警官のいる孤山駐在所に遊びに行きました。
　そこは、家から三〇〇メートルほどのところです。
　遊びに行ったときに、よく拷問を見ました。
　警官が捕まえてきた身元不明の朝鮮人を取調室で拷問しているのです。
　反日・抗日のスパイ容疑だったと思います。
　慶尚北道は、とくに抵抗運動の盛んな所でしたから。
　小学生だった一九三九年頃のある日、警官が変装して家に来ました。
　これから反日の集会に行く、と言って出て行っだのを覚えています。孤山の山の中です。
　翌日、何人かを捕まえて来ました。拷問が始まりました。
　まず腕立て伏せをさせ、ちょっとでも腰が上がったり下がったりすると、細長く撓（しな）る牛の骨で叩くんです。

22-13
　机に座って指示し見聞しているのは、上役の日本人の警官です。
　手を下すのは朝鮮人の警官だったと記憶しています。
　腕立て伏せの後は、水責めです。
　バケツに水を汲んできてタオルを口につめ、鼻から水をいれて苦しめることもやっていました。
　白状したら留置場にいれて一件落着、後は送検（検察庁に込ること）となるわけですが、白状しなければ、つぎは宙づりでした。
　その時はもう鼻血を出しての半死半生状態だったと思います。
　この腕立て伏せ、水責め、宙づりの全コースで一時間以上はかかったと思います。
　私の見たのは全部男の人で、二〇代後半から三〇代の人が多かったように思います。
　この人たちは、朝鮮南部で密かに反日活動をしている活動家で、北の公然たる武装闘争の人たちとは少し違っていたと思います。
　スパイ容疑として捕まえて、取り調べをしていたと思います。
　これは私の五〜八歳頃のことで、何度もそういう場面を目にしました。
　小さいながら私は、その警官たらい義憤を感じながら見ていたことを覚えています。
　　　　　　　（証言：一九九六年六月二九日）


6  歩いていると、いきなりトラックに　　金達善（キムダルソン）さん top

　　元山から静狩へ

　その日のことは、はっきり覚えています。
　一九三九（昭和一四）年八月一五日の朝、家を出て農道を歩いていると、後ろから一台のトラックがやってきて私の前で止まりました。
　二人の男が降りてきて「どこへ行く？」と聞くので「親戚のところへ遊びに行く」と言うと、「じゃ、車に乗りなさい」と言われました。
　「いや、すぐそこだから、いい」と言ったのですが、しつこく、ついには抱えられてトラックに無理やり乗せられました。
　一六〜一七歳の子供も七人ほど乗っていたと思います。
　「どこへ行くの」と聞いても「知らない」と言うので、日本人に聞くと「行けばわかる」と言うだけでした。
　着いた場所には大勢の人がいて、その中に私の村から来た者が二〇人くらいました。
　ほとんどの人が無理やり連れてこられたと言っていました。
　旅館で一泊しましたが、監視がきびしく逃げるに逃げられませんでした。
　服は青く染めた南京袋のような粗末なもので、かゆくてたまりませんでした。
　午後三時半頃に、旅館を出て汽車で元山の港まで行くと、建物の中に三〇〇人ほどが各地から「募集」されて集結していました。
　次の日の夕方四時半頃貨物船に乗船し、五時半頃出港しました。
　一番下の船底に入れられ、窓もなく、外を見ることも禁止されました。
　涙が出て仕方がありませんでした。
　勝手に二年契約にされて、着いたのは函館でした。
　家族が知るのは、私の手紙で三ヵ月後のことでした。
　函館から汽車で長万部（おしゃまんべ）方面の静狩（しずかり）金山に向いました。
　車内では窓にカーテンをして外を見せませんでした。
　どこを走っているのか、全くわかりませんでした。
　後で調べてわかったのですが、静狩金山は昭和八年から一八年まで操業し、従業員は約二〇〇〇人、そのうち約半数が朝鮮人であった、と書いてありました。
　鉱山につくと、三戸続きの長屋の信用部屋（タコ部屋ではなく、いまと同じ飯場）に入りました。
　一戸に八人ずついたから、この時全部で一五〇人くらい入りました。
　私が着いたときは、先発隊がすでに同じくらい入っていました。
　その時、上の方と下の方の長屋で、合わせて朝鮮人は九〇〇人ほどいたと思います。

　　飯場の生活

　毎朝六時、弁当とカンテラをもって暗い坑内に入りました。
　服装は、連行されたままのものでした。体は水でびしょ濡れになりました。
　はじめは、坑内の線路づくりの仕事でした。
　私は日本語がわからず、言われるままにスパナとかいろいろなものを運びました。
　食事は大豆に南京米を混ぜた粗末なもので、どんぶり一杯でした。
　手づかみで食べ、水をかけ、浮いた大豆を投げると、残った米はおおさじ二杯ほどでした。
　おかずは大根、味噌汁の中は大根の葉っぱ。カフスに積んであった朝鮮米は、幹部が食べていました。
　腹がへってたまりませんでした。
　四ヵ月目のころ、いつもより少し早めにお鉢をもってご飯を取りに行くと、そこに幹部が食べる白米ご飯があったので、少し取ってお鉢に入れると見つかって怒られました。
　そこで、みんなで休んで食事のことでストライキを起こしました。
　また、魚をどこからか盜んで食べたこともありました。
　仕事中、休むものがいたら殴る蹴るのヤキ（リンチ、拷問）が入りました。
　そして、三角に割った薪の上に長時間座らされました。
　痛くて横にひっくりかえると、それでまた叩かれました。
　給料は日給月給制でした。来る前の契約は一日六円でしたが、ここへ来ると三円になっていました。
　しかし、さらにそれから布団代、食事代などが引かれて手取りは一ヵ月八円ほどでした。
　同胞が死亡しても、知らせるのは同室のものだけでした。
　遺体は本国に送還していなかったので、どこに行ったのか不明でした。
　大体の人は病気がちでした。
　一年後のある日、全員八雲（やくも）に集結した時のことです。
　列の中から「出て来い！」と言われたので出ると、警官に「カタワヤロウ！」と言われました。
　その時は意味がわかりませんでしたが、少し後で「日本人が朝鮮人を呼ぶときの呼称」とわかりました。
　そこで、ビラに「そういう言葉を使わないでください」と書いて貼ったら、言わなくなりました。
　私は、その頃やっと日本語を少し覚えました。
　鉱山を去るとき、同胞は来たときの半分になっていました。

　　タコ部屋潜入と引抜き

　一九四一（昭和一六）年頃、室蘭の地球岬の近くにある大林組の下請松村組梅田飯場（朝鮮人の信用部屋）に入りました。
　日鉄工場の建設工事や本輪西（もとわたし）港での石炭積みなどの仕事をした後、大林組から「室蘭本線工事のタコ部屋から人夫を引っ張って来い」と頼まれて、タコ部屋に潜入することになりました。
　そこは八〇〜九〇人のうち、朝鮮人がほとんどでした。
　体調が悪くても、現場まで連れて行かれ、ムシロの上に倒れないように工夫されて一日中置かれました。
　なかには、死にかけた人もいました。
　ある日の朝、幹部に「穴を掘って来い」と言われました。
　深さ四〜六尺（一尺は三〇センチメートル）、人一人入れるくらいの幅のものを掘って飯場に戻ると、これから生き埋めにされる死にかけていた五〇〜六〇歳の人に最後ということで白米を食べさせ、酒を飲ませていました。
　その後、幹部の命令を受けたタコ労働者がその死にかけている人をリヤカーに乗せて、私の掘った穴まで連れて行きました。
　私はついて行きませんでしたが、後から様子を聞きました。
　「穴の中から手をあげて“助けてくれ”と叫んでいたが、スコップで叩いて、すぐ土をかぶせた」と言います。
　私が後でその場に行って見ると、大きな石がその上にひとつ乗せてありました。
　その生き埋め場所は、室蘭本線の豊浦駅から函館よりの二つ目のトンネル近くに松の木があるのですが、そこから四〜五尺離れたあたりの所です。
　いまでも行けばわかると思います。その付近に他に二ヵ所生き埋めがある、と教えてもらいました。
　一〇日ぐらい後、集団脱走実行。人に追われましたが、一六人を大林組へ引き連れるのに成功しました。
　私の国籍は北朝鮮ですが、家族や親の墓は韓国です。
　一度はお墓参りに行きたいのですが、行くには国籍を変えるか、または行っても戻って来れないかもと言われています。
　行くに行けないのです。
　　　　　　　　（証言：一九八七年十一月八日）

7  私は朝鮮人を豊羽鉱山まで連行してきた　　田中豊治さん top

　その後、「道」が郡（県）・邑（町）・面（村）を指定します。
　警察官（日本人）の紹介で面をまわり健康診断が行われて人数が集められます。
　私たちは徴用された人が二〇〇人の目標になるまで約一ヵ月間旅館で待ちました。
　旅館では、毎日のように警察官、市町面長（村長）そういう人々を呼び、芸者をあげて接待をしました。
　集めるのは面長でした。朝鮮では長のつくものはみんな、日本人でした。
　いい建物や便利なところは全部日本人が占領していました。
　当時の朝鮮では日本の警察がすごい権限をもっていました。
　朝鮮人はちょっとしたことをしても警察官の判断で牢屋にぶち込まれたので、結局朝鮮人の方が謝ってきました。
　人数がそろうと通知があるので、行くと二〇〇人が駅などに集められていました。
　日本への連行中、列車の窓から逃げた者もいました。
　引率は特高（特別高等警察）二人と豊羽鉱山から三人（うち一人は朝鮮人で世話役兼情報提供者）で行いました。
　朝鮮の人にはどこの鉱山に行くという的確な指示はなかったようで、北海道の現場に来てから大変もめるわけです。
　「条件が違う」とか、「坑内に入るという条性はひとつも聞いていなかった」などと、朝鮮人がよく暴れました。
　来た時は二〇〇人いたのに、契約の二年がたって朝鮮へ帰る人は一〇〇人から一一〇人くらいになってしまいます。
　事故で匸くなったり、帰りの列車から逃げる者がいるからです。
　大阪駅などで何十人と逃げますが、そのまま放っておきました。
　特高も乗って下関まで行きますが、逃亡したことは一言も言いません。
　逃げたのは、帰っても徴用が待っていたからでしょう。
　なるべく二年の契約期間が過ぎても再雇用となるように、再雇用希望者のみ家族を呼ぶことができるようになっていました。
　私は朝鮮人に殺されそうになったことが一回ありました。
　釜山に上陸すると、朝鮮人の態度がガラッと変ったのです。
　日本人によって虐待された仕返しをしてやろうということでしょう。
　私は若くて下っ端だったので助かりましたが、責任者の中には実際にひどい目に会った人もいました。

　　豊羽鉱山守衛の仕事

　私は豊羽に着くと守衛の仕事（朝鮮人の指導・監督）をしました。
　守衛は手錠二〜三丁、警棒のような樫の棒二、三本を持ち、手に負えない者は山でヤキをいれます。
　裸にして水をかけながらやることもあり、ゴチャゴチャと音がするうち、半殺しになる者もいました。
　さぼったり仮病を使った時もがっぽりヤキをいれました。
　折繿（せっかん）で死ぬ者もいたのではないかと思います。
　手に負えないもめごとなどは特高に頼むことにしていました。
　ある時、「聞いている条件とちがう」ということで朝鮮人が一斉に下山したところ、特高が軍刀を持って二〇人ほど山を上がってくるのとかち合って戻されたことがありました。
　三月の堅雪（かたゆき）の時、朝鮮人が一晩に三〇人、四〇人と逃げることもありました。
　でも、余市や京極から電話がきます。山を越えてもたいがいはつかまったのです。
　それは、日本中で朝鮮人を監視する仕組がつくられていたことにもよります。
　日本政府は「協和会」という仕組みを全国につくりました。
　目的は「民族融和」・「内鮮（日本と朝鮮）一体」といっていましたが、協和会の仕事の中に「不良朝鮮人の送還」とあるように、実際は朝鮮人を監視して戦争に協力させるための組織で、会の主なメンバーは、役所・警察・特高・消防団であり、一番下の仕組みとして住民一〇〜二○世帯ごとに指導班がつくられていました。

8  豊羽鉱山で朝鮮人へのリンチをみた　　町田康二さん top

　一九四四（昭和一九）年の三月、一九歳の時に旧制中学を卒業し、豊羽鉱山の小学校、当時は元山国民学校といってましたが、五年生担任の代用教員として勤務することになりました。
　兵隊に行く翌年三月まで勤務しました。

　　朝鮮人飯場が各部落にあった

　赴任の時のことからお話しします。
　まず水松沢（おんこの沢）までは、豊平駅から定山渓鉄道で錦橋駅まで行き、そこから引込線の無蓋車（屋根のない）に乗換えて行きました。
　水松沢で高架索道（元山から鉱石を運搬するケーブル）に布団などを乗せ、身軽になりました。
　そこから出迎えの校長と一緒に残雪の道を歩いて、湯ノ沢の検問所（見張小屋）を通過し通洞（短いトンネル）まで行くと、ちょうど仕事から飯場（朝鮮人飯場。渡辺飯場）に戻る二、三〇人の朝鮮人労働者に出会いました。
　先頭の四人は二本の棒を担ぎ、その上に牛の頭がのっていました。
　牛肉を売る配給所でもらってきたものです。
　後日、私の学級だった飯場長の息子さんに「どうやって食べるのか」を聞きました。
　それは大きな鍋に入れ、水煮（多少の塩を入れ）してみんなでツツイで食べたということです。
　彼らはどれだけ食べ物に不目由していたことか、思い知らされました。
　飯場長だけは日本人で家族と暮らしていました。
　朝鮮人の飯場は分散して、ほぼ部落ごとにありました。
　左大江、備前（びぜん）、新借地（しんしゃくち）、胡桃（くるみ）、通洞などです。
　みな、強制的に連れて来られた人たちでした。
　胡桃の沢の周辺には火葬場と朝鮮人の慰安所がありました。
　労務の幹部たちの部屋は、本社のすぐ下の方にありました。
　そこはリンチ部屋でもあったと思われます。
　朝鮮人の逃亡がよくありました。豊羽よりさらに奥の山、京極や余市の方に逃げる者もいましたが、いま以上に熊が出るところです。
　逆に定山渓方面に行くと湯ノ沢にある見張小屋に出くわします。
　小屋からの連絡で捕まる者がいました。

この地図の左端の詳細図画右下
町田康二さん。 1926年生れ。札幌市在住

　　たまたまリンチを目撃

　ある日、学校も終った午後、宿舎（第二豊友舎）から出て、会社の前を通り坂を下りようとしたら、偶然下の労務の部屋の窓から朝鮮人がリンチされているのを目撃しました。
　ガラス窓で見えるのは見せしめの意味もあったのでしょうか。
　私は上から五分ほど見ていました。
　逃亡したか、見張小屋の通報（電話）で捕まったと後で聞きました。
　捕まって沈殿池の近く、白井川の際にある労務の部屋に連れて来られたのです。
　労務の人（戦後札幌市議会議員）が幅の広いペルトで上半身裸の朝鮮人の背中を何回も殴っていました。
　その頃、朝鮮人は「ハント（半島）」と言われていました。
　鉱夫や社員の宿舎（社宅）には、部落ごとに日本人の長屋と朝鮮人の長屋がありました。
　朝鮮人の子供たちも学校に通い、多いクラスでは、一クラス約四〇人のうち朝鮮人の子供が一割か二割いました。
　私は五年生の男子学級を受持ちましたが、まもなく高等科二年の担任にかわりました。
　敗戦直後、朝鮮人の怒りが爆発しました。
　リンチを加えた労務の人と巡査は、私の宿舎だった第二豊友舎の天井裏に隠れて難を逃れたと聞きました。
　　　　　　　　　　　（証言：二〇〇五年五月二九日）

9  〔隠されていた真実Ｉ〕朝鮮に対する数々の暴虐 top

　江戸時代の朝鮮通信使をめぐる日朝両国の友好関係を思うと、明治以降の日本政府の朝鮮に対する様々な敵対的行動は信しがたいほどです。
「植民地」体験の聞き書きと学習を契機に、それまで知ることの乏しかった朝鮮に対する日本の数々の蛮行というべきものに嘆息が出ました。
　まず明治期最初の江華島（こうかとう）事件です。
　外国の侵略を警戒して「鎖国」中だった朝鮮は、フランス、アメリカに続く日本の開国要求にも応じませんでした。
　そこで日本は武力で迫ることにし、日本軍艦は一八七五年朝鮮の領海を侵犯、ボートで江華島に接近しました。
　この挑発行為に対し、江華府の朝鮮軍は「攘夷政策」に基づき日本軍艦に発砲、戦闘になりました。
　しかし上陸した日本軍は城内の建物・民家を焼き払い、三五人を殺害、略奪品を軍艦に積み込みました。
　翌年、日本は江華府で「講和条約」と袮して日朝修好条規の締結を強要しました。
　それは朝鮮から関税自主権を奪い、治外法権を押しつける不平等条約でした。
　江戸末のペリー来航時と同じことを隣国に押しつけたわけです。
　こうした弱肉強食の高圧的態度が、その後の日本のアジア外交の基本となっていきます。
　同時に「日本は文明国、隣国は野蛮国・未開国」と決めつけ、徹底的に侮蔑します。
　福沢諭吉や新渡戸稲造はその線上にありました。
　次に第二次東学農民戦争（抗日戦争。第一次は封建政権打倒の農民革命）における朝鮮農民軍大虐殺です。
　朝鮮に侵略した日本軍は一八九四年に日清戦争を起こしましたが、一方で東学党の農民は日本軍の侵略に立上がり、日本軍の通信線を切断、守備隊を襲撃しました。
　日本軍とその配下の朝鮮政府軍は合わせて数千名、全捧凖を指導者とした抗日農民軍は百万、一対二〇〇の戦いでした。
　一八九四年一〇月、広島に置かれた大本営の参謀次長川上操六が「東学党はことごとく殺戮すべし」との皆殺し命令を下しました（「駐韓日本公使館記録」「仁川兵站前線部隊に軍需品を送る司令部の陣中日誌」）。
　討伐中心部隊だった後備歩兵第十九大隊（愛媛県など四国四県の混成部隊）は、農民軍をソウルから朝鮮半島の西南方に追い込み（北上してロシア軍と結びつくのを警戒して）、最後は珍島（チンド）や済州島（チェジュド）まで追撃し、虐殺しました。
　農民軍は「弓・槍、なぎなた、火縄銃　（村田銃、射程距離一〇〇メートル）」、日本軍は「イギリス製のスナイドル銃（ライフル銃。射程距離一八〇〇メートル）」と武器性能の差があまりにも大きく、一地域を除き全体として戦いになりませんでした。
　捕まえた無抵抗の農民を斬首のうえ晒（さら）した事例、村落を焼き払って「廃墟」にした事例、村落で農民軍ではない信徒を殺害した事例、「烏合（うごう）の土民（規律もなく集まった民衆）を打ち殺した事例など、蛮行の数々が「陣中日誌」や当時の四国各県の新聞などに見られます。
　日本は朝鮮に宣戦布告していないため、朝鮮人を殺害・処刑する正当性、合法性はありませんでした。
　北海道大学の井上勝生教授は「朝鮮民衆に対する不法なジェノサイド」「日本軍による最初の東アジア民衆虐殺」と指摘しています。
　犠牲計数については「農民軍の死者は五万人に迫り、負傷者は三、四〇万人」（趙景達氏）と推定されます。
　日本の蛮行は翌年の一八九五年一〇月にも起きました。
　駐朝公使三浦梧楼（陸軍中将）の計画の下で、皇帝高宗の妃である閔妃（みんぴ＝明成皇后）を宮中で惨殺した乙末事変です。
　実行班の日不兵・民間人らが王宮の景福宮（けいふくきゅう）に押し入って日本刀で斬殺、石油をかけて遺体を焼き払いました。
　しかし広高地裁の判決は三浦以下全員を証拠不十分で免訴としました。
　この時の日本の総理大臣は伊藤博文です。
　蛮行は尽きません。一九〇五年の第二次日韓協約や一九一〇年の韓国併合条約の締結前後に盛上がった義兵闘争、さらに一九年の全土に広がった三・一独立運動などに対する大虐殺もあまり知られていません。
　これらの蛮行の罪は問われることもなく、また多くの日本国民の記憶にないという点でまるで「完全犯罪」の如き状態です。
　だが、国際社会にはドイツも批准している「戦争犯罪に時効はない」条約ができていますから、世人の清算はこれからでも遅くはありません。

10  〔隠されていた真実�U］　「朝鮮は植民地ではなかった」にびっくり top

　古今東西、主権者の君主が他国に強要されて自己の地位をすすんで捨てた例は、あったでしょうか。
　そのように考えると、犬韓帝国を合法的に植民地にした条約と教えられてきた一九一〇年の「韓国併合条約」が成立したとはとても不思議です。
　戦後六〇年間ほとんどの日本国民は「条約は成立しているのか」という疑問をもつことがありませんでした。
　なぜでしょうか。それは真実が伝えられていなかったからです。
　戦後もっともよくなったといわれたＫ社の中学校歴史教科書（現在はもう使用されていない）をみますと、小見出しの「朝鮮の植民地化」と本文中の「ついに朝鮮を植民地とした」「このあと、日本は三六年にわたって、朝鮮を植民地として武力で支配し」とて明確に植民地と規定しています。
　そこには、第二次日韓協約（韓国の外交権などを奪った条約）や韓国併合条約の用語がありません。
　マスコミはどうでしょう。韓国併合条約の締結日の八月二二日、または公布日の二九日などに特集番組が組まれたことがあったでしょうか。
　戦後六〇年間、朝鮮が植民地であったことを疑う者はほとんどありませんでした。
　しかし私たちは二人の朝鮮人・韓国人に「条約は成立していない、植民地ではない」という主張を突きつけられたのです。
　いまは亡き朴慶植さんは一九九三年十一月二三日、札幌市民の前で語りました。

　「植民地支配を正しく認識するには、明治初期から考えなければなりません。
　台湾侵略後の江華島事件からです。続いて、朝鮮に勢力をのばそうとして侵略した日清戦争と日露戦争です。
　その二つの戦争に事実上勝利すると、日本は朝鮮征服の凖備にとりかかります。
　一九〇四（明治三七）年日露戦争中に結ばれた第一次日韓協約に続き、翌年十一月一七日に締結された第二次日韓協約は韓国併合条約締結にレールを敷く内容で、植民地化への決定的な役割を果たします。
　ですから、第二次日韓協約が成立していなければ、その後の韓国併合条約も法理論上成立しないことになります。
　（ただ「批准されなくても調印だけで成立していた条約もあり、第二次日韓協約は成立している」という研究者もいます。――掘る会）

　この第二次日韓協約の末尾をみてみますと、そこには韓国の主権者だった皇帝の署名と捺印がありません。
　反対していたからです。
　批准されていないわけですが、批准の前の締結（調印）文書には韓国外部大臣の朴斉純の署名と捺印があります。
　皇帝の高宗李熈が反対しているにもかかわらず、部下がなぜ署名したのでしょう。
　それは、武力で脅迫して強制されたからです。
　調印を仕切ったのは全権大使の伊藤博文です。
　彼は長谷川駐箚（駐屯）軍司令官と佐藤憲兵隊長をともなって日本軍が包囲している宮城の景福宮に参内しました。
　八人の大臣たちを不法に密室に押込み、『文昊句をいうならやっちまえ』（ある外交官の回想録）と恫喝した上で協約に「イエスかノーか」を一人ひとりに問うたのです。
　反対を表明したのは幃参政（総理）大臣と閔財務大臣でした（講演要旨）。
　けれども講演を聞いた頃の私たちは、朴慶植さんの「成立していない」という主張の重大さに十分気づいていませんでした。
　ところが、一九九六年韓国を訪問したときです。
　ソウルの喫茶店でいくつかのグループに別れて「植民地体験」を直接聞く段階になった時、記録用紙をみたハルモニの李圭￥さんはいきなり怒って用紙の「植民地」という用語を消して回ったのです。
　後日、彼女は言いました。
　「朝鮮は植民地ではなかったのです。条約は成立していないからです。軍事占領状態だったんですよ。
　高齢者はとくに“植民地”という用語を嫌います」と。
　私たちは彼女の強烈な抗議の行動で目覚め、朴慶植さんの主張の重要さに気づきました。
　「成立していない」となれば、三六年間の損害に対する賠償責務が日本に生じます（日本政府の見解「成立している」）。
　韓国と北朝鮮政府はともに戦後六〇年間、「併合条約は無効」と主張し続けてきました。
　日本政府との間で対立点となっているこの問題は、今なお東アジアの平和友好の未来指向にとって、重要なことになっています。

韓国独立運動の英雄、安重根(アンジュングン、1909年、満州ハルビン駅で伊藤博文を暗殺）とその書（提供／重田敞弘）