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�V　トマス・アルバ・エジソン（1947〜1931）――蓄音機・電灯・映画その他

　トマス・アルバ・エジソンは一八四七年二月十一日、オハイオ州ミランで生まれた。
　ミランは、エリー湖と、合衆国東部の諸都市を結ぶ運河に沿った村である。
　エジソンの青春時代のはじまりは、アメリカ南北戦争（一八六一〜六五）の勃発と一致していた。
　それは、奴隷を所有する南部の農園主と、北部の工業家や銀行家が、合衆国の支配権をめぐって争った大戦争だった。
　彼は最も感じやすい時期を、この歴史上きわめて大きくまた重要な戦争の間にすごし、戦争の結果生じた無秩序のただなかで――ただしそこには、未来のアメリカの進路がきまったことから、希望の光もほのみえていたが――成人した。

　1 反逆精神みなぎる先祖たち top

　エジソンの父方の先祖はオランダ人だった。
　代々ゾイデル海岸に住んで製粉業をいとなみ、一七三〇年にアメリカに移住した。
　アメリカ独立戦争では、家族は敵味方に分裂した。
　トマス・エジソンという男は、議会事務局の書記になり、合衆国の信用状にサインする権限をあたえられた。
　つまり彼は自国を代表して信用をあたえることができたのだが、議会の財政状態、か逼迫していたので、自身のサラリーはきちんきちんともらえなかった。
　彼は借金をせおいこんだ。
　反逆者ヘネディクト・アーノルド（一七四一〜一八〇一）は彼の窮状につけこみ、わいろをおくって反逆の仲間にひき入れようとした。
　トマス・エジソンはそれを議会に報告し、議会は彼の忠誠を称賛する決議をした。
　しかしそれでも彼のサラリーの支払いは確実にならなかった。
　やがて一債権者の告訴で投獄され、貧困のうちに死んだ。
　彼は百四歳という高齢まで生きた。
　トマス・エジソンが議会のために働いていたとき、親戚のジョン・エジソンはイギリス側に立って戦った。
　彼はエセックス郡に土地をもっていたが、議会を支持する人々に追われてニューヨークに逃げた。
　ホー卿の軍がワシントンを追ってジャージーを通過したとき彼は道案内を買って出た。
　後、アメリカ軍に捕えられ一年収獄されたあと、反逆罪で裁判にかけられた。
　彼は有罪とされ、死刑を宣告された。
　ジョン・エジソンの妻はトマス・エジソンに泣きついて、判決に口出ししてもらった。
　トマス・エジソンはあざやかに彼の弁護をし、そのためジョン・エジソンは議会に二度と敵対しないことを宣誓して釈放された。
　独立戦争が終わったとき、なお三万五千人がイギリスへの忠誠を守り、イギリス政府は彼らをノバ・スコシアヘはこんだ。
　ジョン・エジソンもその一人で、妻と七人の子供をつれて、この辺地に移り住んだ。
　彼は議会に屈服するよりは、原始林に立ち向かうほうを選んだのだった。
　ジョン・エジソンはノバ・スコシアに二十年ほどとどまった。
　彼の長男サミュエルに、一八〇四年息子が生まれ、サミュエル・ジュニアと名づけられた。
　一八一一年にエジソン一家は牛車にのってヒューロン湖のカナダ側の岸に移住し、ここにバージニアという村を建設した。
　一八一二年に合衆国とイギリスの間で戦争がおこると、サミュエル・エジソンはカナダ志願兵の一隊を組織し、アメリカの侵入に抵抗した。

　2 発明家の父母 top

　ジョン・エジソンは一八一四年に死んだ。彼は背の高い、屈強な男で、息子たちは彼に似ていた。
　息子のサミュエルが一家の長となり、その息子のサミュエル・ジュニアも同じように背の高い、強い、運動のうまい男に育った。
　サミュエル・ジュニアはビエナで宿屋をいとなみ、一八二八年にナンシー・エリオットと結婚した。
　ナンシーは牧師やクエーカーの一族に生まれた。彼女は近所の人たちよりもよい教育を受けており、一時村の小学校の校長をつとめた。
　結婚して十九年後に彼女はトマス・アルバ・エジソンを生んだ。
　しかし未来の発明家が生まれるずっと前に、サミュエル・ジュニアはエジソン家もちまえの非妥協的な態度を示した。
　祖父のジョン・エジソンは合衆国に反抗して戦ったが、サミュエル・ジュニアはこんどはカナダ政府にさからって武器をとったのだ。
　彼はＷ・Ｌ・マッケンジーが一八三七年におこした反乱に加わり、ビエナの自分の宿屋を陰謀の集会場に提供した。
　マッケンジーはトロントを奪取しようとし、サミュエルは彼を後援するため進軍した。
　しかし途中でマッケンジーが敗れたことをきいた。
　サミュエルは急ぎビエナヘ帰り、家族に別れを告げて、合衆国へ向かって逃亡した。
　カナダ軍とインディアンに追跡されながらも、一八〇マイルを徒歩で歩き通し、なんとかつかまらずに合衆国へ逃げこんだ。
　ビエナに残った老サミュエルが敵軍に嘘の情報をあたえたので、追跡隊はまんまとその手にのってしまったのだった。
　サミュエル・ジュニアはデトロイトにたどりつき、なおもカナダに対する何度かの出撃に参加した。
　そのあと彼は新しい家をこんどは合衆国内にさがした。
　彼はミランに居を定めたか、この町はオハイオ鉄道が建設されるまでは、運河を利用する穀物輸送の中心となっていた。
　ここで、屋根にふく木のこけら板をつくる事業をはじめた。
　家族をミランによびよせ、長もちするレンガ造りの家を建てた。
　こうして、すでに大家族になったあと、一八四七年に、トマス・アルバが生まれた。
　オハイオ鉄道が建設されると、ミランの穀物取引は衰微したので、サミュエルは一八五四年に家族ともどもポート・ヒューロンヘ移った。こんどは穀物と家畜飼料の取引をはじめた。ヒューロン湖の壮大な風景を見下ろせる場所に家を建て、高さ百フィートもある物見塔をつくった。
　見物人はやすい料金を払ってこの塔にのぼり、望遠鏡で全景を見わたすことができた。
　子供のころトマス・アルバはなんでも望遠鏡でながめるのがくせだった。
　南北戦争がはじまると、サミュエルはエジソン家の伝統に忠実に、大勢に反抗した。合衆国の北のはずれに住んでいたにもかかわらず、公然と南部を支持した。
　彼はエジソン家伝来の強い体力を受けついでいた。
　なにしろ六十歳というのに、ポート・ヒューロンからデトロイトまで、六十三マイルを楽に歩けだのだから。
　彼は九十歳まで生きたし、息子たち、つまりトマス・アルバの兄弟のなかには、九十歳以上生きたのが何人かいた。
　発明家は、代々並はずれた体力、忍耐力、パイオニア精神、粘り強さをそなえた一族の出だったのだ。

　3 自主独立の少年時代 top

　ミランでの子供時代、エジソンは運河や造船所のまわりで遊んだ。
　彼はひっきりなしに質問をあびせたが、それは頭の悪いしるしと考えられた。
　頭が並はずれて大きかったので、彼が愚鈍ら仕組みえるのは、脳の病気にかかったせいではないかと思われた。
　発達が遅れたのは、たぶん生まれつき耳か悪かったせいらしい。
　ただしエジソン自身は、少年時代におこった一事故のため耳が遠くなったのだといっている。
　学校では進歩がはかばかしくなく、そのため初期の教育は大部分母から受けた。
　九歳のとき、物理と化学のやさしい教科書を偶然みつけ、それが科学への興味をもえたたせた。
　彼は実験をはじめ、自宅の地下室にいくつかの装置を集めた。エジソンは物理学よりも化学のほうが性に合っている気がするといつも語っていた。
　彼は一般的な観念をひねくるよりもたくさん実験するほうを好んだ。
　彼はバカといわれたため、学校へ規則的にかよわなかった。
　それだけよけい、薬品や装置をいじくるための自由な時間をもてた。
　針金や、銅や亜鉛のくずを集めて、ボルタの電池を作った。
　父の商売は繁昌していたので、いろいろなものを買うポケットマネーはたっぷりあった。
　急激な建設の時代だったので、実験材料に使えるガラクタはどこにもたくさんころがっていた。
　エジソンは奇妙な仕事をしてポケットマネーをふやした。
　父の野菜園でとれた野菜を売り歩いた。
　次にはその地方の鉄道の列車内で新聞や菓子を売ることを思いついた。
　それは家計を助けるためやらされたのではない。自分からすすんでやったのだった。
　彼が新聞売りをはじめたのは一八五九年からだったが、それは南北戦争が勃発する直前だった。
　毎朝七時半の列車でポート・ヒューロンを立ってデトロイトへ行き、晩の九時半にポート・ヒューロンに帰りついた。
　そのあともポート・ヒューロンで夜中の十一時ごろまで新聞を売ってから帰宅した。
　数ヵ月のうちに彼はポート・ヒューロンに新聞と果物、野菜を売る屋台店を開き、他の少年たちを雇って店番をやらせた。
　そのとき彼は十二歳だった。
　ポート・ヒューロンからデトロイトまでの急行列車には、合衆国郵便車と喫煙車がついていたか、ほとんど使われなかった。喫煙車の窓はどうしても開かなかったので、乗客は息がつまるような気がして入らなかったのだ。
　エジソンはデトロイトの市場で野菜を買い、それを合衆国郵便車につみこんだ。
　それに対してだれも料金を払えとはいわなかった。
　一八五〇年から一八六〇年にかけて、合衆国の鉄道は七五〇〇マイルから三万マイルにのびた。
　この急激な成長の時代にあっては、当然だれもそんな細かいことに気を使わなかったのだ。
　南北戦争が拡大するにつれて、新聞販売が大きな利益をあげるようになったので、彼は野菜の販売をやめてじまった。
　一日に約八ドルから十ドルもの利益があがった。
　もうけの大部分は薬品を買うのにあてた。
　彼は使わない喫煙室の中に薬品を並べて小さなコレクションを作り、列車の進行中、新聞売りが終わると、そこにはいりこんで実験をたのしんだ。
　デトロイトでは昼間約九時間のひまがあった。ここで技術文献をさがしたり、グランド・トランク鉄道の工場で仕事を見学したりして時間をつぶした。
　彼はプルマン（一八三一〜一八九七、寝台車「プルマン・カー」の設計・製作者）と知合いになった。
　プルマンはそのころデトロイトで小さい小売店をいとなむかたわら、鉄道車両の実験をしていた。

  4 世界最初の車内新聞 top

　南北戦争で新聞が大変もうかるのを見で、エジソンは自分で新聞をつくることを思いたった。
　活字を買い、列車内で自分の新聞を組み、刷った。この新聞を『ウィークリー・ヘラルド』と名づけた。
　それはたぶん列車上で作られた世界最初の新聞で、ロンドンの『タイムズ』に紹介された。
　『ウィークリー・ヘラルド』は仲のよい機関士の消息や、商品の値段、列車のサービスなどについての記事や、戦争のニュース、地方記事などをのせていた。
　「誕生」という欄の記事の一つにこういうのがある。
　「グランド・トランク鉄道デトロイト乗換駅の食堂で、今月二十九日、Ａ・リトル夫人が女の子を生んだ。」
　あるコラムの穴埋めに、彼はこう挿入した。
　「理性、正義、公平は、地上では、人の会議を支配するほど重みをもったためしはない。」
　一八六二年四月、デトロイトの新聞社に新聞をとりにいくと、興奮した群集がまわりをとりまいて、シャイローの戦のニュースを待っていた。
　この戦いは南北戦争の命運を決定したものである。
　最初の掲示では、死傷者六万と発表された（実際は二万五千だった）。
　エジソンは群衆がこのニュースにすさまじいほど興味を向けているのに気づいた。
　「そこで私は、このニュースを前もって打電しておくことを思いついた。
　それで、停車場の電信手のところに行き、彼に三ヵ月間『ハーバーズ・ウィークリー』その他の新聞をただでやるという条件で、そのニュースをすべての駅に打電し掲示板に出させることを承知させた。」
　ふだんなら彼はデトロイトの新聞を百部買うのだが、この日に限って一千部買い入れ、帰途についた。
　最初の停車駅ユティカで、新聞を求める人がどっとおしよせた。
　「これで私は電信が大した発明だということをしみじみさとった。」
　そのあとの駅で彼は新聞の値段をしだいに上げ、ポート・ヒューロンでは四分の一ドルもとった。
　こうして、十五歳の少年にとっては莫大な金がふところにはいった。

　5 さすらいの電信手 top

　こうして、電信の力を身をもって体験し、また鉄道電信手と知合いになったせいで、電信に対する興味は高まった。
　電信は新しい鉄道を安全に巡行するためには絶対必要なものであり、実際、合衆国を一つの国家として維持するには不可欠のものだった。
　ほとんど瞬間的に通信を送れるこの装置がなかったら、合衆国はあれほど急速に発展できなかっただろうし、統一国家として成長することはたぶん全く不可能だったろう。
　エジソンはある鉄道電信手にたのんで、電信術を教えてもらった。
　「それはグランド・トランク鉄道のマウント・クレメンズ駅の駅長マッケンジーだった。
　一八六二年の夏ごろ、この駅でエジソンが列車の入れ換えを待っていたところ、駅長の三歳の息子がレールの砂利の上で遊んでおり、そこに突き放された貨車が走ってきた。
　間一髪のところでエジソンはその子を抱き上げ、感激した駅長はお礼に電信技術を教えてくれることになった。」
　エジソンはデトロイトの銃器店で自分の電信セットを作り、マッケンジーの家に寝泊りして五ヵ月間きびしい訓練を受け、時には一日十八時間もそれを練習した。
　彼は約一マイルの長さの線を使って自分の電信事業を経営しようとしたが、そんな短距離の通信を利用しようとする人は一人もいなかった。
　それで電信手の職をさがすことになった。
　戦争中のことで、正規の電信手はほとんどいなくなっていたから。
　職さがしに苦労はなかった。
　十五歳で電信手の仕事をはじめ、昼間はずっとオフィスではたらき、夜は家で午前三時まで練習した。
　はじめて正式に採用されたのは、グランド・トランク鉄道のカナダの駅ストラットフォードで、任務は発車掛だった。
　エジソンはひまさえあれば自分の装置を使って実験にふけった。
　ストラットフォードにいるあいだ、十六歳で、最初の発明をした。
　夜勤の電信手は、確かに目をさましていることを示すため、一時間ごとに時間信号を送らなければならなかった。
　エジソンは、自分のかわりに自動的にそれをやってくれる時計を考案したのである。
　この装置は原理からいえば、後世の地方通信士を中央局へよびだす装置と同じだった。
　エジソンはストラットフォードの職を失った。
　二つの列車に信号を出しそこない、もうちょっとで大事故をおこしかけたからだ。
　彼は尋問のためトロントによび出されたか、途中でアメリカ側へ逃亡した。

　6 南北戦争終わる top

　シンシナチにいたとき、エブラハム・リンカーン暗殺（一八六五年四月十五日）のニュースがはいってきた。
　次の電信局に中継するため、エジソンはそれを書きとりながら、数年前、新聞社の前の通りに大群集が集まっていたときのことを思いだした。
　彼は仲間の電信手にその電文を知らせ、事件の詳細をさぐるため使いを出した。
　使いは走り帰ってきて叫んだ。「リンカーンが射たれた。」
　その場にいた電信手は仰天して、互いに顔を見合わせるだけだった。
　彼がまず考えたのは、その通信をだれが送ってきたのかつきとめることだった。
　実は、電信手の一人がそれを新聞社に向けて送り出しだのだが、あまりに機械的に仕事をしていたので自分が送っている通信の内容をまるきり気にとめなかったのだとわかった。
　シンシナチはそのとき、戦争終了の祝賀をしており、思ってもゾッとすることだが、暗殺犯人ブースの兄弟の一人がここの劇場で芝居を演じていた。
　その不幸な男はたちまち町から逃亡し、町通りの陽気な飾りは一夜のうちに喪のとばりに変えられた。
　エジソンはシンシナチにいる間よく芝居を見にいった。
　特に『オセロ』が好きだった。
　まだタイプライターのない時代だったので、脚本を筆写して数ドル小づかいかせぎをするのが常だった。
　エジソンは仲間の電信手がストライキにはいっているとき、スト破りをして仕事をするという手を使って、最も高給とりの階級に昇進した。
　しかし、いつでも仕事かとれたわけではない。
　メンフィスでは仕事を求めて各オフィスを歩きまわり、アラバマではほとんど食物も買えない状態におちいった。
　ルイズビルに到着したときは、霜のふるころだったのに、ダスター・スーツを着たきりだった。
　戦争がすんで電信手たちが故郷へ帰ってきたとき、彼らの生活の荒廃ぶりは頂点に達した。
　彼らは民間の業務を退屈に感じ、オフィスでは互いにインキつぼを投げあい、連発銃をもって追っかけ回した。
　夜には近くの賭博場に乗りこんだが、ここでは誰でもただで食事かとれた。
　エジソンはある晩、仲間の一人と、夕食にありつくため「豪華な家具で飾られた『銀行』（賭けトランプの一種）の部屋」に足を踏み入れたと語っている。
　そこでは二十組のケノ賭博が行なわれていた。
　「私が訪れた賭博場の一つはバプチスト教会の中にあって、ホイールをまわす男は説教壇の上におり、賭ける男たちは会衆席にすわっていた。」
　南北戦争の最中（一八六四年）、エジソンがシンシナチにいたとき、ワシントンから、ナッシュビルで南軍に包囲されそうになっていたトマス将軍にあてた至急電報を送らなければならなくなった。
　彼はルイズビル経由でまわり道の連絡をつげようとしたが、ルイズビルのオフィスから何の応答も得られなかった。
　あとでしらべてみたところ、そこにいる三人の電信手のうち一人も勤務についていなかったことがわかった。
　一人は足を折り、もう一人は賭博場でナイフで刺され、三人目はある男が絞首刑にされるのを見にいって、帰りの列車にのりそこねたのだった。
　エジソンはルイズビルに二年間いた。
　彼は筆記について実験をし、電文を非常に速くはっきりと書きとめられる簡単な書体を発展させた。
　エジソンはデトロイトへ放浪し、南アメリカに移住することも考えたか、また中西部へもどった。
　そこで彼はエルズワースとよぶ電信手に会った。
　エルズワースは南北戦争では南軍にくみし、北軍をまどわせるため偽の電信を送ったりした。
　彼はエジソンに、敵に妨害されないような電信法を考案すべきだといった。
　この示唆から、エジソンは後に四重電信法を開発することになった。
　四重通信法とは、一つの導線で四つの通信を同時に送れる仕組みである。
　エルズワースは平和時の文民生活におちつくことができなかった。
　彼はテキサスヘいってガンマン（銃をもつならず者）になり、ぷっつり姿を消した。

　7 発明生活のはじまり top

　一八六八年にエジソンは一文なしでポート・ヒューロンのわが家へ帰った。
　少したつと彼はボストンにあるウェスタン・ユニオンのオフィスに就職を志願した。
　彼がそこに出頭したとき、はいていたズボンは短かすぎ、靴はすりへり、つばの広い帽子はぼろぼろで、髪は長く乱れっぱなしだった。
　粗野なアクセントで話し、かみタバコをひっきりなしにかみ、しょっちゅう唾（つば）を吐きちらした。
　彼はその前五年間暮らしていた野卑な社会にすっかり染まりこんでいたのだった。
　ボストンの電信手たちはこの「羊くさい西部からきた間抜け野郎」をからかってやろうと考えた。
　彼らはニューヨークにいる仲間と打ち合わせて、ひどく速い電文を送ってもらい、それをエジソンに受けさせた。
　エジソンは自分の特別な書体を使って非常に速く受信し、送信に楽についていくことができた。
　するとニューヨークの電信手は、意味をとりにくいよう、ダラダラ区切りなく送りはじめ、エジソンはまわりの電信手の態度から、彼らが何をもくろんでいるかをさとった。
　彼は意味のわかりにくい続き文や、その他のトリックにはなれていたので、平気で受信をつづけることができた。
　やがて彼は自分のキーをとり、ニューヨークの電信手にあててこう送信した。
　「おい、若いの、くたびれたらしいな。こんどはもう一本の足にかえて打ってこい。」
　（こんなに送信がのろいのは、足で打っているのだろう、とあざけったのである。）
　ボストンにいる間に、エジソンはある発明に対し最初の特許権を獲得した。
　それは、電気投票記録機で、議会で使うと、議員は自席を離れずに投票することができた。
　エジソンがそれをワシントンの政治家たちの前で実演してみせると、彼らは冷笑した。
　彼らは、議事妨害の役に立つから、速い投票よりおそい投票のほうがよいのだと説明した。
　この経験をへた後は、エジソンは、販路のはっきりしていないものは今後絶対に発明しまいと決意した。
　以来彼は発明を商業上の需要に従属させ、発明を空想（ファンタジー）の活躍から、必要に応じようと努める散文的な活動に変えようと努めた。
　彼は後になっていったように、「発明は一パーセントの霊感（インスピレーション）と九十九パーセントの発汗（パースピレーション）である。」
　エジソンか次に発明したのは株式相場表示機で、オフィスに最新の株式取引価格を表示記録する機械だった。
　この種の機械で最初のものは一八六七年にキャラハンが作った。
　それは印刷電信機を単純化したもので、各株式仲買人のオフィスに取付けられ、株式取引所にすえつけた中央送信所からの信号で操作された。
　エジソンが改良した株式相場表示機は、ボストンでかなりの数のオフィスに取付けられたが、ボストンは株式取引の中心ではないので、あまり利益はあがらなかった。
　エジソンは、この機械からたくさんの金をもうけるには、ニューヨークで採用してもらうほかないとみてとった。
　エジソンは株式相場表示機と仲買人のオフィスをつなぐにあたって、わざわざ電柱を立てたりせず、途中のビルの屋上に針金を吊ってのりこえさせるだけですませた。
　彼はビルの住人に、元からある針金を修理にきたとことわり、勝手に自分の新しい針金をつけ加えた。
　ボストンにいる間、彼は二重電信システムを研究した。
　これは一本の導線で二つの電文を同時に送る仕組みである。
　彼はもうけを実験費につぎこんだが、とうてい足らず、借金をせおいこんだ。
　ニューヨークではもう少しうまくいくだろうと判断して、一八六九年にニューヨークに移ったが、ついたときはほとんど食事する金もなかった。
　彼は一番栄養価のある食物は何かを慎重に研究し、リンゴのプディングとコーヒーだけで暮らした。
　今や二十二歳になっていた。
　彼はニューヨークのウェスタン・ユニオンのオフィスに電信手として勤めることになったが、泊るところがないので、金相場表示（ゴールド・インジケーター）会社の電池室に寝泊りした。
　この会社は、金価格の変動をニューヨークの金仲買人や投機家のオフィスに送信する表示機システムをもっていた。
　エジソンは自分も相場表示機を発明していたので、金相場表示会社の機械を専門家の目でしらべ、すみずみまで詳しくマスターした。
　この知識のおかげで、彼はそのすぐあと、本格的な発明家としての生涯をスタートすることができたのだった。

　8 ドルーとバンダービルトの争い top

　南北戦争の結果、北部の資本家たちの優位は決定的なものになった。
　ニューヨークの銀行家たちは、巨大な新鉄道、鉱山、運河や、それらの発展に必要な大規模な土地売買に融資しつつあった。
　建設の可能性はほとんど想像を絶するもので、人々は予想と希望の大混乱のさなかに生きていた。
　南北戦争による財政膨張で、アメリカ人は百万という新しい単位で考えることになれっこになった。
　北部の財政を管理したのはジェイ・クックだったが、彼は戦争中の借入金を返却するため、また復員軍人に一時金を給付するため、大量の紙幣を発行した。
　こうして平時だったら大金を手にするはずのない何十万という人々が、相当な金額を手に入れた。
　実のある建設に対する膨大な需要と可能性、またおびただしい数の計画――まじめなものもあればインチキなものもあったか――がまじりあって、底抜けの投機さわぎを生みだした。
　この騒動のただなかにあって最も頭角をあらわしたのは、鉄道を支配する百万長者たちだった。
　アメリカ政府は鉄道の発展をうながすため、鉄道会社にただで広大な土地を下付した。
　鉄道百万長者は鉄道を支配しただけでなく、鉄道がもつすべての土地を、それがもつ農業、林業、鉱山の富もあわせて支配した。
　彼らは金融力にものをいわせて株式取引所で株価を操作し、それから生じる膨大な利益を財産につけ加えた。
　一八六六年、エリー鉄道会社の会計係ダニエル・ドルー（一七九七〜一八七八）は、それまでだれも思いつかなかった巧妙な金融政策により自社の株の大部分を取得することに成功した。
　彼は「嫌われ、恐れられ、大金持になり、讃美されながら」この分野から隠退した。
　二年後、それよりはるかにドラマチックな人物、コーネリアス・バンダービルト（一七九四〜一八七七）――　一般には「コモドール」（退役海軍准将）として知られ、個人の財力を金融企業の財力に結合させる可能性をはじめて認識した人だった――が、ニューヨーク市にサービスする鉄道全部の支配権を一手におさめ、それによって全国の取引の大部分をしめるこの市の取引をおさえて莫大なテラ銭をまきあげようというアイディアをいだいた。
　一八六八年のうちに彼はドルーのエリー鉄道を除いて、ニューヨークにサービスするすべての路線の支配権を確保した。
　そこで彼は最後にのこったドルーをやっつけにかかった。
　この二人の男は完全に対照的だった。
　バンダービルトは声が大きく、気軽で陽気で、馬と酒と女が好きだった。
　彼がホイスト「トランプの一種」をやっているとき、ドルーは祈りの集会に出席していた。
　バンダービルトは完全な「牛」だったが、ドルーのほうは完全な「熊」だった。
　「牛」族は株の値段をつり上げることで財産を作ったが、「熊」族のほうは逆に株価をおし下げることによって財産を作った。
　どちらの方法を選ぶかはその人の心理によってきまり、「牛」族の性格は概して楽天的（オプティミスティック）だったが、「熊」族のほうは悲観的（ペシミスティック）だった。
　バンダービルトははじめ、策略により相手をおとし入れようとしたが、想像力に欠けていて、バンダービルトのような計画をけっして思いつけないドルーは、防衛線の内側で守備することではじつに抜け目がなかった。
　彼は無類の巧妙な誤魔化しによってバンダービルトの計略の裏をかいた。
　「コモドール」は恥で真赤になり、大声で悪態をつきながら、ウォール・ストリートから退去せざるをえなかった。
　こんどは彼は、「自分の全財力をあげて」ドルーを攻撃した。
　二人のどちらも裁判官にわいろをおくり、武装した男たちをのせた列車を敵の鉄道に送りこんだ。
　ときには両方の列車が正面衝突をすることもあり、そうすると乗っていた男たちは列車からとび下りて、互いに近づき、射ちあった。
　ドルーの同僚、つまりエリー鉄道会社の取締役に、ジェイ・グールド（一八三六〜一八九二）とジェームス・フィスク（一八三四〜一八七二）がいた。
　グールドは、誤魔化しではドルーに匹敵し、金融上の想像力ではドルーよりまさっていたが、フィスクはエリー鉄道会社のため暴力を組織する海賊だった。
　バンダービルトは、ドルー、グールド、フィスクの三人はとうてい自分の手におえないとさとり、敗北の中に隠退せざるをえなかった。
　その間、バンダービルトとドルーの間のたたかいは、株式の価格に比類のない大変動を生みだしていた。
　おびただしい戦後の新投機大衆は、その変動をすばやく追っていけるような手段をもっていなかった。
　だから、株価を送信する株式相場表示システムが切実に要求された。

　9 金（ゴールド）の買いしめと「暗黒の金曜日」 top

　紙幣インフレーションの進行により、金の価値が大いに高まったので、金の価格には特別な関心が向けられた。
　グールドとフィスクは、ベンダービルトに対して勝利をおさめた後、合衆国の金を残らず買いしめて、その値段を天井知らずにつりあげようというアイディアをいだいた。
　彼はエリー鉄道の金融力を総動員してこの操作を開始し、そのため金の値段ははげしく変動しはじめた。
　金の価格は合衆国政府の一委員会の委員長が公表することになっており、彼は自分のオフィスの外にある掲示板にそれを張り出した。
　金相場表示会社はＳ・ローズが創立したもので、掲示された金の公定価格を電信によって仲買人のオフィスに送信する仕事を受けもっていた。
　ローズの簡単な装置では、グールドとフィスクの操作が引き起したはげしい価格変動を処理しきれなかった。
　ところで、エジソンがニューヨークに出てきて、金（かね）がないため金相場表示会社の電池室に眠ったとき、金（きん）買いしめの操作ははじまったばかりだった。
　エジソンがニューヨークについて三日目、彼が金相場表示会社の送信機に坐っていたとき送信機が酷使にたえかねてこわれてしまった。
　一、二分のうちに、金相場表示会社のオフィスは、最新の価格を知らうとして仲買人たちが派遣したメッセンジャーボーイたちによってぐるりととりまかれ、金切声がこだまするさわぎになった。
　ローズがかけこんできて、何がおこったかときいた。
　機械の担当者は説明できなかったが、その場にいる権利のないエジソンは、機械のすみずみまでよく知っていたので、すぐさま、接触バネが一つこわれて二つの歯車の間にはさまったのだと教えた。
　「直してくれ！　直してくれ！」とローズは叫んだ。
　エジソンは二時間たたないうちに表示機をもとどおりに働くようにし、ついでに設計のどこどこを改良したほうがよいと示唆した。
　ローズはその場で彼を一月三百ドルの給料で総支配人に任命した。
　エジソンはそれまでこんな高給をもらったことは一度もなかった。
　たった三日前には、ほとんど飢えかかっていたのである。
　それから一ヵ月たって、アメリカじゅうの金（ゴールド）を買いしめようというグールドとフィスクの努力はクライマックスに達した。
　彼らはエリー鉄道の財力を使って、一般人が買える比較的小量の金をのこらず買いこんだ。
　このため金が不足し、それを解決するには政府所有の金を売却するほかなかった。
　政府の金を売却するには合衆国大統領の認可が必要だった。
　ときの大統領は南北戦争の勝者グラント将軍だった。
　グラントはすぐれた将軍ではあったが、民間のことについてはまるきり無能で、政治家や金融家をすばらしい人々と考えていた。
　グールドとフィスクはうやうやしい態度でグラントに近づき、グラントはそれを大変名誉に感じた。
　彼は田舎者の常で、これらのすばらしい力をもつ金融家たちを尊敬し、彼らの説得に乗って政府の金（ゴールド）を売り出す命令を出すことを拒んだ。
　グールドとフィスクはグラントの親戚にわいろを送って、グラントをへんぴな田舎につれて行かせた。
　そうなると、誰一人として、グラントに会って考えをかえさせることができなくなった。
　今や金の価格は幻想的な高さまでのぼった。なぜなら、外国貿易に従事する商人たちは、金がなくては事業がやれなかったからだ。
　同時に、バンダービルトの鉄道の株価は破局的な暴落を演じた。
　バンダービルトが例によってわめき立てながら特別列車でニューヨークへ帰りつつあったころ、フィスクは金取引所で、これから金がどんな値段になるか賭けをしようと叫んでおり、合衆国大統領も我々とグルになっているのだと胸を張ってうそぶいた。
　法にかなった事業は衰微し、やけになった投機師の群は金取引所から近くの宿屋に流れこんで夜をすごした。
　政府の反抗にもかかわらず、金価格はさらに高くつり上げられた。
　しかしあくる日、一八六九年九月二十四日の金曜日になって、ついに政府は所有の金を売りに出し、その圧力が効果を示しはじめた。
　フィクスの豪語は浮き上がってただのこけおどしにすぎなくなり、政府の金販売人が彼に一三五の値段で売るといったとき、一六○払うといってがんばった。
　しかし販売人が、ではそれで取引をきめようと迫ると、フィスクはその揚から逃亡した。
　一方グールドはその間にひそかに手持の金を売りはらい、かねを回収していた。
　金曜の夜までに、総額五億ドルにのぼる取引が解きほぐしようのない大混乱のうちにおわっていた。
　すべての決算はご破算になり、投機家たちは損失をカットすることを承諾した。
　この悪名高い「暗黒の金曜日」に、エジソンは金相場表示会社の機械システムを担当していた。
　午前中は、あまりの価格の変動のはげしさに機械が追いつけなくなったが、午後一時にはなんとか追いつき、そのあとちゃんと動きについていけるようになった。
　その日遅く、エジソンはウェスタン・ユニオンの電信局のてっぺんに陣どって、気ちがいのような群集を見守った。
　彼は一人の男が鉛筆をひっつかんで、ボストンあての電文を書こうとしているのを見た。
　鉛筆は紙をつき破った。彼はあんまり興奮していたため書くことができなかったので、誰かがかわって書いてやらねばならなかった。
　エジソンは銀行家のスペイヤーが気が狂い、五人の男がかかってやっとおさえつけたのを見た。
　ウェスタン・ユニオンの電信手が彼のところへやってきていった。
　「握手だ、エジソン、よかったな。おれたち、一セントももっていなかったおかげだぜ。」
　エジソンは、事件にまきこまれなかったのは本当にうれしいことだと答えた。
　こんなできごとは、貧乏人にとってはまことに痛快だが、めったにおこらないものである。
　エジソンは電信の文章からみて、政府とウォール・ストリートの間に何か陰謀が存在するのを知った。
　彼はビロードのコール天のコートと、変わり模様のチョッキを着たフィスクを見た。
　「彼はひどく陽気で、呑気で幸福らしく見えた。部屋のまわりには一ダースほどの身なりのよい男たちが坐っていた。
　みな死人みたいな顔色をしていた。シャンパンのかごもあった。」
　この光景は、ジョージ・ハドソンを頭とする一八四五年のイギリスの鉄道投機家たちを思いおこさせるものだった。

　10 自分の会社をつくる top

　「暗黒の金曜日」から六日後、エジソンはＦ・Ｌ・ホープと協同で電信装置や表示機を設計する会社をつくった。
　エジソンは自分の意図は「自分の発明を世に出すために時間をついやす」ことだと宣伝した。
　ポープ・エジソン会社は自分たちを「電気技術者」と表現した。
　この称号を専門家の意味で使ったのはこれが最初だといわれる。
　したがってエジソンは、電気技術という職業を発明した人といえよう。
　ホープとエジソンの最初の事業は、一本の針金で働く株式相揚表示機を世に出すことだった。
　金・株式電信会社の社長マーシャル・レファーツはそれに興味をもち、エジソンに自分の装置を改良してくれとたのんだ。エジソンはつづけざまにいくつかの改良を発明し特許をとった。
　彼は「いっせいストップ」装置を考察したが、これを使うと中央送信所のスイッチ一つですべての表示機をゼロにもどすことかできた。
　これは、表示機を同時にスタートさせるための費用を節約した。
　レファーツは、エジソンの表示機関係の諸発明を買い入れることにきめ、彼を招いた。
　エジソンはレファーツに会いにやってきたが、三千ドル以下なら承諾しまいと決心していた。
　レファーツはエジソンに、どのくらいほしいかときいたが、エジソンは気がひるんで、レファーツに、どのくらい出すつもりかたずねた。
　レファーツは、四万ドルではどうかねといった。
　エジソンはほとんど気が遠くなったが、なんとかどもりながらも、それでけっこうですと返事することができた。
　この経験があるまでは、彼は発明の価値を、自分がそれについやした労力の量ではかっていた。
　これから彼は、他人にとってその発明がどんな値打があるかによって、判断することにした。
　レファーツはその場で四万ドルの小切手を手渡した。
　エジソンはそれまで、小切手の形で金を受けとったことは一度もなかった。
　それを銀行にさし出すと、出納係は裏書がないからといって、受けとるのを拒んだ。
　恐怖の一瞬、エジソンは詐欺にかかったかと思い、レファーツのところへ走り帰って、今おこったことを話した。
　レファーツは大笑いし、小切手に裏書きしたあと、秘書を一人エジソンにつけて銀行へ行かせ、彼が確かに本人であることを証明させた。
　出納係は、エジソンが何も知らないのを見て、面白半分に小額紙幣を山のように渡した。
　エジソンはそれを家にもちかえったが、それが家にある間は気になってどうにも寝つけなかった。
　あくる朝レファーツのところへいって、どう処置したらよいかときいた。
　レファーツはまたまた大笑いし、銀行の預金口座を開けと教えた。
　あくる年、二十三歳になったエジソンは、五十人の工員が働く工場をもち、電気装置、主としてレファーツのための表示機を製造していた。
　部下は二交替制ではたらいたが、エジソン自身は昼夜とも工場にいた。
　毎晩二、三時間しか眠らなかった。
　強いコーヒーをのみ、ほとんどひっきりなしに葉巻をふかした。
　最初の工場ではドイツ人のＪ・Ｓ・シュッカート（一八四六〜一八九五）とＳ・ベルクマンを雇ったが、彼らは後になってそれぞれドイツの大電気会社、ジーメンス・シュッカート社とベルクマン社を創立した。
　生涯を通じてエジソンは、ずばぬけた才能をもつ人々をひきつけ、雇うことができた。
　ほかに著名な人をあげると、大気上空に存在して長距離無線通信に深い関係をもつケネリー・ヘビサイド層（電離層）を発見したＡ・Ｅ・ケネリー（一八六一〜一九三九）と、カーボランダムを発明したＥ・Ｇ・アチソン（一八五六〜一九三一）がいる。
　数年のうちにエジソンは株式相場表示機の改良に対して四十六の特許をとった。

　11 電信の改良をすすめる top

　エジソンは大変なエネルギーをもって電信の発展に力をつくした。
　初期の電信装置は手動式なので、動作が、のろかった。自動装置はずっと速く働くことができた。
　しかし高速になると、低速では無視できたさまざまな電気的効果が、深刻なまでに増大し、信号の明瞭度を低下させるようになった。
　特に電気的自己誘導の増加がトラブルの源になった。
　エジソンはそれを防ぐ一つの方法を発明し、自作の装置を一八七六年のアメリカ独立百年記念博覧会に展示した。
　（この博覧会には無名の発明家グレアム・ベルも自作の電話を出品した。
　さっぱり注目されなかったが、ろうあ教育で知りあったブラジル国王ドン・ペドロがそれを自らためし、いっぺんに有名になり、金賞をえた。
　エジソンもこの博覧会で電話機を見て興味を感じた。）
　サー・ウィリアム・トムソン（ケルビン卿）が電気関係の展示品の審判委員で、エジソンの装置に賞をあたえるよう推薦した。
　彼はこう報告している。「エジソン氏が発明した軟鉄心をもつ電磁分流器は、ヘンリー教授が発見した単一回路内での電磁誘導を利用したもので、電池を切った瞬間にそれまでの電流と逆方向の電流が瞬間的に発生してぴたりその瞬間に化学的マークを鋭く遮断する。
これは彼があれほど大スピードを達成できた電気的秘密である。……」トムソンはこれを、陸上電信の分野できわめて重大な進歩だとのべた。
　エジソンは一八七四年に実用的な四重通信法を世に出した。それは彼の主要発明の最初のものだった。
　この装置を使うと、一つの針金で、一方向に二つの電文と、反対方向に二つの電文を、同時に送ることができた。一つは方向が変動し、もう一つは強さが変動する二つの信号電流が使われた。
　外へ出ていく信号電流は、遠方の局の受信機には作用するが、発信局自体には作用しないように仕組むと、各々の電流に二つの電文を送らせることができ、合計で四つの電文が送れる。
　そのために、発信局の主要導線の端に、主要導線と同じ電気抵抗、同じ電気容量をもつ遊び導線をつなど、これが不要な信号を抹消するようにした。
　エジソンは、商業的価値のあるものを発明することがたいせっだと、いつも強調していたか、自身はすぐれたビジネスマンではなかった。
　彼は自分の経理が混沌として手がつけられなくなるまで、簿記係を雇わなかった。
　初期のころには、不良弁護士を雇ったおかげて多額の金を損した。
　後になって、電灯の研究を仕上げたあと、ドイツの大物理化学者ネルンスト教授（一八六四〜一九四一。一九二〇年度ノーベル化学賞）に会ったが、そのとき彼は発明と発明家はビジネスライクでなければならないという、お得意の持論を展開した。
　ネルンストはエジソンが、大学教授たちがどんなに非実務的な性向をもっているかをとうとうと酷評するのをだまって聞いていた。
　あいにくネルンストは、希土類金属のフィラメントを使う電球を発明した人だった。
　しかしそのフィラメントは、うんと強く熱しないと十分明るく光らないので、商業的にはあまり成功しなかった。
　やがてネルンストは、エジソンが彼の炭素フィラメント電球からどのくらい金をもうけたかときいた。
　エジソンはまるきりもうからなかったよ、と答えた。
　「私のほうは、私の電球に対して、ＡＥＧに二十五万ドル払わせましたよ」とネルンストは答えた。
　エジソンの四重電信や、その他の電信関係の発明のおかげで、合衆国の商業活動の速度と規模は大幅に増加した。
　ジェイ・グールドはエジソンの会社に、百万ドルでそれらを買おうと申し出たが、それはウェスタン・ユニオンの株価を下落させようとする策略の一つにすぎなかった。
　申し出が受けいれられると、グールドは実行を拒否した。
　グールドからこうむった損害を回復するため、法律上の訴訟が三十年にわたってつづいた。
　エジソンはこの事件の初期の段階にまきこまれた。
　エジソンはグールド邸に裏門からはいって、秘密交渉をした。
　グールドは四重通信の発明に関して個人的利害関係があるからということで、エジソンに三万ドル支払ったが、そのほかの責任を負うことは拒否した。
　後になるとエジソンは、成功した金融家をほめ上げるという自分の政策に従って、グールドのこともいつもぼめたたえたものだが、一八七六年にはグールドにあてて痛烈な手紙を書き、グールドの自分に対する振舞いは、「長い、消えることのない」失望だったと毒づいた。
　二、三年のうちに、エジソンは五十ものちがった発明を同時におしすすめていた。
　彼はミメオグラフ、つまり一種の謄写版を発明した（一八七四）。
　これはモーターでペンの尖った先端を上下に振動させる仕組みで、これで原紙の上に字を書くと、線にそって細い穴が並んであき、これにインキをのせておしつけるとたくさんの複写がとれる。
　また、菓子をつつむためのパラフィン紙を発明した（一八七五）。

　12 炭素送話器を発明 top

　一八七六年にベル（一八四七〜一九二二）が電話の特許をとった。
　ベルの最初の送話器は、磁揚の中で鉄板を人の声の音波で振動させ、電磁誘導により送信電流をつくるものだった。
　電流がひどく弱く、そのため短距離しか送信できなかった。
　エジソンはさっそく炭素送話器を発明し、この限界をとりはらった（一八七七）。
　これは人の声で振動する鉄板のうしろに小さい炭素のボタンをおしはさんだものである。
　炭素の電気抵抗は、それに加わる圧力の大小によってかわる。
　炭素に電圧をかけて電流を通しておき、振動板に向かって話しかけると、電流の大きさは炭素の抵抗の変化とともに変動し、したがって音声の振動にともなって変化する信号電流か生まれる。
　これを変圧器につなぐと電圧をいくらでも大きくすることができる。
　この高圧電流を使えば、長距離の送信を行なうことができた。
　これは電話つまり「大きなトラストを生んだ小さな母」を実用的な発明に育てあげた。
　このころ、エジソンはウェスタン・ユニオンと手をつないだ。この会社はバンダービルトの支配下にあった。
　ウェスタン・ユニオンが手に入れたエライシャ・グレイの受話器はベルの特許権に抵触し、他方ベルの会社が手に入れたエミール・ベルリーナーの送話器はエジソンの特許に抵触した。
　結局、エジソンは自分の送話器に対して、毎年六千ドルを向こう十七年間にわたって受けとることになった。
　彼は一時払いで十万ドルもらうより、このほうを選んだ。
　というのは、実験をしたり、ものを試したりすることに熱をあげている間に、そんな金はたちまち使ってしまうだろうと恐れたからだった。

　話は少し前にもどって、ジェイ・グールドは、ウェスタン・ユニオンをたたくことによって、宿敵バンダービルトを攻略しようと決意した。
　彼はページが発明した電磁リレー（継電器）の特許を買いとったが、この特許はあらゆる形のリレーを含むものと信じられていた。
　ウェスタン・ユニオンはエジソンに、磁石を使わずに導線の端でテコを動かすことはできないものかとたずねた。
　エジソンはさっそく、湿らせたチョークの上にテコがのっている形のリレーを作り出した（一八七四）。
　彼は以前に、しめったチョークに電流を通すと、チョークがすべるようになることを発見していた。
　そこで、針金を通して電流を送ると、テコがチョークの上をすべり、信号を伝えた。
　この特許のおかげでバンダービルトは、ジェイ・グールドがもっている特許に抵触しないですんだ。
　金融戦争におけるこの強力な武器を発明したことに対して、エジソンはまたもや毎年六千ドルを十七年間支払われることになった。
　この発明はまたイギリスでベルの特許と戦うときにも使われた。
　エジソンの会社がイギリスで電話システムを設立した（一八七七）とき、（先に設立された）イギリスのベル会社はそれに反抗し、自分たちの受話器を使うことを拒否した。
　そこでエジソンは奇妙な受話器を作った。
　それは棒の一方の端を振動膜におしつけ、もう一方の端を湿らせたチョークの円筒にのせたものだった。
　円筒を回転するとそれが棒の一端をこする。
　電話線からきた音声電流を湿らせたチョークに通すと、棒は少しすべるようになり、振動が膜に伝えられるため、膜はラウドスピーカーのはたらきをして大きな音を出した。
　これによってエジソン会社はベルに対抗することができた。
　やがて両者は折合いがつき、イギリス郵政省とたたかうため合併した。
　合併した会社はエジソンの特許権に対して十五万ドルを支払った。
　ロンドンのエジソン会社の職員にＧ・バーナード・ショー（一八五六〜一九五〇）という青年がいた。
　彼はゾッとするような初期の電話を買ってくれそうな人の前で実演してみせるという自分の体験を、『わけのわがらぬ結び目』という長編小説の中で使っている。
　この小説は一八八〇年に書かれ、彼にとってはじめて出版された作品だった。
　主人公はエドワード・コノリーというアメリカの電気技術者である。
　コノリーは、イートンやオクスフォードで教育された軽薄なイギリス貴族とは対照的に、大変有能で行きとどいた人物としてえがかれている。
　一九〇五年の版の序文で、ショーは、エジソンがロンドンの自分のオフィスに送った若者たちを描写している。
　彼らは希望にみち、無知で、神を敬わなかった。アメリカの自由の理想を誇り、上役が手ひどい弱い者いじめをしても、一ことも文句をいわず耐えしのんだ。
　大きなエネルギーをもって困難に取組み、ものはよく知っているが自発的でない同僚のイギリス人のように、むだなことに努力はしなかった。
　本当のところ彼らはコノリーとはまるきり違っていた。
　しかしそれにもかかわらず、ショーはアメリカの電気の発明家たちの中に、伝統的なイギリスの支配階級と対照させて効果をあげるような新しいタイプの性格をかぎつけたらしい。
　ショーは、エジソンのチョーク受話器は大きな音を出したが、何をいっているのかほとんどきき分けられなかったといっている。
　そこで実演室にこっそり伝声管を通し、となりの部屋から男がわめきたてた。
　チョーク受話器から出ているのかどうかわからないにせよ、ともかくお客は轟音の中に言葉らしいものを聞き取れるようにたくらんだのである。

　13 結婚、メンローパーク研究所 top

　エジソンは一八七一年に最初の結婚をした。妻はメリー・スチルウェルといい、エジソンがはじめて彼女に会ったのは、女学生時代、彼の研究所の戸口階段に雨宿りしていたときだった。
　二人の最初の子供（女の子）は一八七三年に生まれた。
　エジソンは新しい研究所と住居を建てるためにもっと便利な揚所をさがした。
　一八七六年に彼はニューヨークから二十五マイルほど離れたところにあるメンローパークという静かな場所に移った。
　ときに二十九歳だった。
　彼のメンローパーク研究所は、新しい種類の組織体だった。
　それは、全く職業としての発明だけのために計画された最初の経営体だった。
　この研究所は、近代の工業研究所を生みだした萌芽であり、工業研究課題を解決するため研究者たちを二チームに編制するシステムだった。
　エジソンは、最初の妻が死ぬ一八八四年までメンローパークにとどまった。
　このメンローパークの八年間は、類のない活発な発明活動にあてられ、次の世紀の技術的進歩の方向と性格を決定する重要な一要因となった。
　メンローパークで彼は、自分か実用価値があると認めたらどんな発明でもやってみることにした。
　炭素電話送話器はこの新しい研究所であげた最初の大きな成功だった。

　14 蓄音機の発明 top

　15 電灯の完成 top

　エジソンの一番重要な発明――一番独創的なものではないけれども――は、フィラメント電球をはじめて実用化したことだった。
　彼は友人のバーカー教授の示唆によって、一八七八年からその研究をはじめた。
　バーカーは、部屋やオフィスで使える小電力の電気照明が必要だと指摘したのである。
　イギリスのニューカッスル・オン・タインに住むＪ・Ｗ・スワン（一八二八〜一九一四）は早くも一八六〇年に炭素電球を作っていた。
　一八七八年には炭素棒を真空中で白熱させる形の電灯を展示したし、一八八〇年には、炭素フィラメントに吸着されているガスを追いだすため、電球内の空気を排出している間フィラメントを加熱するという方法を特許にとっている。
　しかしスワンの電球は商業的には成功しなかった。後になってエジソンが自分の電球をイギリスへ導入したとき、どうしてもスワンの特許に抵触せざるをえないことに気づいた。
　そこでエジソンはスワンと折り合いをつけ、両者協同の電球はエジスワンという名をつけて製造された。
　電灯を実用化するには、信頼できる電球を大量生産できる工程を編み出し、また満足できる電球が生産できるようになったら当然おこる電力供給の問題を研究することが必要だった。
　エジソンは照明の主要側面を徹底的に研究した。ガス灯産業のほうからどんな攻撃をかけられるか、どのようにすればその競争に打ち勝つことができるかを見定めるため、ガス灯産業の経済性をしらべあげた。
　ある大きさの電気照明システムを維持するにはどのくらいの電気が必要かを計算した。
　導線に使う銅の値段、発電機設計の諸問題、電流配分システムなども調査した。
　（一八七八年エジソンは新聞記者に対して、まもなく数台の蒸気発電機でニューヨークの下町に五十万個め電灯をつけようと大見得をきり、そのためロンドンのガス会社の株価が十二パーセントもさがった。
　すぐにバンダービルトほかウェスタン・ユニオンの人々を中心に、資本金三十万ドルで、「エジソン電灯会社」が設立された。）
　エジソンの助手たちは、いろいろな形に巻いたフィラメントから出る放射の量を計算した。
　供給ケーブルに使う銅の量を節約するためには、高電圧・小電流が望ましかった。フィラメントを細くすることも重要だった。
　というのは、フィラメントの直径を半分にすれば、八分の一の電流で白熱させられるからである。
　一方でエジソンは炭素フィラメントの問題を徹底的に追求した。
　電話送話器の改良に使って実験したので、炭素についてはたくさんのことを学び知っていた。
　彼はタールからチーズにいたる、炭素を含む何千という物質をためし、最後に竹の繊維が一番よいフィラメントになることをみいだした。
　（はじめて実験が成功したのは一八七九年十月二十一日のことである。
　木綿糸を炭素粉でつつんで、ルツボの中で空気を断って強熱し、フィラメントを作った。
　これをガラス球に封入し、真空にしてから通電したところ、赤っぽいかすかな光が午前一時半から午後三時まで、十三時間半ともった。）
　実用的な電球の発明を仕上げるには、ガラス球の経済的製造、工業的真空技術の開発、真空密封接着の技術、可換性のある電球とソケット、配線システム、電流メーターなど、おびただしい問題を解決しなければならなかった。
　エジソンは最初の中央発電所を設計、建設した。発電機から出る強力な電流を細分して数千の小さな電灯に分配できるかどうかという問題は、まだはっきりわかっていなかった。
　多くの専門家は、中央発電所の発電機が強い電流を供給しはじめたら、すぐにシステム全体がとけてしまうだろうと考えた。
　多くの人々は、発電機の内部抵抗は配電網の抵抗にほぼ等しくなければならないと信じていた。
　これは間違いだったのだが、エジソンはそれが一般に理解される前に、内部抵抗がひどく小さい、大きな発電機をつくることにきめた。この見込は正しかった。
　一八八二年、ニューヨークで最初の中央発電所が電力供給を開始した（九月四日のこと。ロンドンのほうが一月十二日で少し早い）。
　こうしてエジソンは、商品としての電力の販売をはじめたのである。
　新しい電気装置を作るために、何千もの職工を使う工場が必要になった。
　エジソンの電力供給システムは、発電機の設計や配電系統の面で数々の重要問題を提起したか、そのいくつかは、イギリスの大電気技術者Ｊ・ホプキンソン教授により理論的に解決された。
　エジソンの中央発電所は、新しい世代の技術者たちに活躍の機会を提供した。
　デトロイトのエジソン発電所にはたらいた技術者のなかに、ヘンリー・フォード（一八六三〜一九四七）という青年がいた。
　この未来の自動車王は長年にわたってデトロイト・エジソン会社に雇われたが、その間七年間ひまをみつけては自分の研究をすすめ、ついに彼の最初の自動車をつくった。
　若いフォードはエジソンの目をひくようになり、この大発明家から力強いはげましを受けた。
　後年になって、エジソンとフォード、それに他の有名な発明家一、二人が加わって、毎年のようにキャンプ旅行に出かけた。
　彼らは簡素な生活を人々にすすめ、自らも楽しんでいるのだと考えられた。
　しかし、彼らが本当に楽しかったかどうかはたしかでない。
　というのは、いつもかなりの数のジャーナリストが彼らに同行し、日々の行動を逐一報告したからである。
　確かなことは、彼らのだれもが、おかげて毎年何千というコラムでただの宣伝をしてもらえたということである。

　16 エジソン効果を発見 top

　エジソンの炭素フィラメント電球の研究から生まれた最も注目すべき科学上の成果は、一八八三年のエジソン効果の発見だった。
　これは、純粋科学に対する彼のただ一つの重要な貢献である。
　炭素フィラメント電球を長くともしていると、フィラメントから炭素が少しずつ蒸発してガラス面に沈着するため、ガラス球の内面がしだいに黒ずんでくる。
　エジソンはこの黒ずみ方がガラス全体で一様ではないことに気づいた。
　フィラメントの平面の延長がガラス球と交わる区域は、あまり黒くならなかった。
　これは、フィラメントの一方の脚が、もう一方の脚から射出される炭素原子を遮断し、この方向のガラス内面に当たらせないためだろうと考えられた。
　イギリスの電気技術者Ｊ・Ａ・フレミング（一八四九〜一九四五。フレミングの右手・左手の法則でも有名。マルコーニの項でも登場する）は、一時ロンドンのエジソン会社の顧問もつとめたが、この現象を徹底的に研究した。エジソン効果がおこるのは、高温のフィラメントから電子が放出されるためだった。
　フレミングはこれを利用して、電流を一方の向きには通すが、反対方向には通さない敏感な整流器を作り、無線電波から作られる微弱な電流の検出に応用した。
　これ（二極真空管）はラジオ真空管のはじまりだった。
　一八九七年に電子が発見されると、ラジオ真空管の土台となっているエジソン効果は、熱電子放出、つまり高温のため炭素フィラメントから電子が射出される現象に基づいていることがはっきりした。
　エジソンは電波通信に対しては直接の貢献を一つもしていない。
　ただ、一八八五年に、静電誘導を利用した無線通信システムの特許をとっている。彼はかなりの距離をへだてて二本の高いマストを立て、各々のてっぺんに金属板を取付けた。
　一方の金属板に高い電圧をかけて電場を生じさせると、受信マストにつけた金属板でそれを検出することができた。
　高いマストのてっぺんにつけたこれら二つの金属板は、最初の電気空中線だった。
　数年後に電波通信が生みだされると、その発明者たちはエジソンの特許を侵害することなしに空中線を使うことができないのに気づいた。
　マルコーニ会社の敵はそれをエジソンから買おうとしたが、エジソンは一九〇三年に特許をマルコーニに売った。

　17 再婚、映画の開発 top

　一八八四年に最初の妻が死んでから、二年たった一八八六年にエジソンは再婚した。
　彼は三十九歳で、新妻は二十歳だった。
　（この年彼の研究所はメンローパークからニュージャージー州のウェストオレンジに移り、彼の活動は第二期にはいる。）
　暮らしぶりも仕事の性格も、根本からガラリと変わった。
　それまでの八年間は、何物かに取付かれたように、なりふりかまわず仕事に熱中したものだったが、これからはもっと月並な行動になる。
　二度目の妻ミーナ・ミラーは高い教育を受けた人で、もっと常套的な社会階層に属していた。
　エジソンの会社の宣伝部はエジソンを、アメリカを象徴する人物、発明から金をもうけて、晩年の余暇を文化活動や慈善行為についやす成功したアメリカ実業家として描きだし、産業界一般もそれにならった。
　しかしエジソン自身は、個人生活をこの描像に合わせようなどという努力はほとんどしなかった。
　彼は第二期でも多数の発明をしたが、それらは第一期のものに比べれば光輝に乏しく、失敗も多かった。

　彼は、人々がクラシック音楽を欲しているというドイツの蓄音機セールスマンの報告を信じることができなかったが、それと同じように、新しい映画産業にふさわしい文化的基準を思いつくことができなかったのだった。
　彼の一番最初の映画実験では、フィルム上に顕微鏡的な大きさに縮小撮影した写真を利用した。
　かくて彼はマイクロ・フィルムの原理にも通じていたのだった。

　18 磁気選鉱とアルカリ蓄電池 top

　年をとるにつれてエジソンはますます助手たちに仕事をまかせ、また粘り強い努力にたよるようになり、インスピレーションからスタートすることはいよいよ少なくなった。
　十九世紀最後の十年間、彼は磁石を使って鉄鉱石を選択濃集する方法を開発する仕事に莫大な努力をふり向けた。
　富鉱の鉱床が使いつくされたあかつきには、このような技術の所有者は世界の鉄鋼業を独占支配することになるだろうと信じたのである。
　彼は八年にわたってエネルギーの大部分をこの計画についやした。
　しかし、ミネソタのミッサバ山脈にすばらしく豊かな鉄鉱床が発見されて、良質な鉱石を、低級な鉱石から磁気選鉱法によって濃集したものよりはるかにやすい値段で供給できるようになった。
　エジソンは自分のプラントを閉鎖せざるをえないはめになったが、これにそれまで貯えた全財産二百万ドルを投資してしまっていた。
　しかし、将来、富鉱の鉄鉱床が決定的に枯渇してしまったときには、磁気鉄鉱選鉱法への関心がまた生きかえるかもしれない。
　もちまえのエネルギーと勇気で、エジソンは鉱物処理に関して得た広範な体験をボルトランド・セメント工業に応用し、原料岩石からセメントまでの連続生産工程をかつて達成されなかったほどの段階まで発展させた。
　また特有の先見の明で、家屋をコンクリートで鋳造する方法につき多くの実験を行なった。
　ここでも大きな成功はおさめられなかったが、後の進歩（今日のプレハブ住宅）を先がけするものだった。
　二十世紀の最初の十年間は、新種の蓄電池の開発に多くの時間をついやした。
　普通の蓄電池は鉛と硫酸を使っている。
　重いうえ、あまり丈夫でないし、硫酸は腐食性があるので万一こぼれるとやっかいなことになる。
　エジソンの新しい蓄電池は鋼鉄でできており、アルカリ性の電解液を含んでいた。それは危険なしに手早く交換でき、大変丈夫だった。
　以来それは電気自動車や潜水艦にたくさん使われているが、これから出る電流の電圧は、鉛蓄電池のそれの約半分しかないという、重大な限界がある。
　一九〇七年にエジソンは六十回目の誕生日をむかえた。
　彼はなお二十四年間も長生きするが、その間彼はいよいよアメリカ国家を代表するシンボルとなった。
　彼の助言はひっきりなしに求められたが、概してそれは彼の天才に比べて質の低いものだった。
　エジソンは行動の人であって、彼があたえることのできる最良の助言は、言葉の中にはなく、むしろ初期の生活の実例の中にあったのである。

　19 第一次世界大戦中の研究 top

　第一次世界大戦がおこると、エジソンは発明に関する合衆国海軍顧問委員会の委員長になった。
　彼は特に、対潜水艦聴音装置について、大量の研究を促進した。
　彼は船の約二十フィート前方の水中に、蓄音機の振動膜をおさめた装置をつるした。
　これを使うと、水中を走る魚雷の音を三千メートル離れたところからきくことができた。
　魚雷のありかがつきとめられれば、船は浮き錨を使って急転回し、魚雷の進路からそれることができた。
　浮き錨とは大きなキャンバスのふくろを長いロープのはしにつないで、水中にひきずっているものである。
　エジソンの委員会はまた、音波測定によって銃砲の位置をつきとめること、待避行動のさい地平線展望鏡や潜水艦の潜望鏡の目をくらますための装置、水中サーチライト、水中に射ちこむ投射体、夜間使える双眼鏡、その他数々の軍事上の発明問題に取組んだ。
　しかしエジソン自身がこの分野でかなり大きな個人的成果をあげた例は一つもない。
　第一次世界大戦中、エジソンは直接軍事的な発明のほかに、アメリカの化学工業を促進することに大変関心をはらった。
　蓄音機のレコードとか電気備品のような、彼自身の主要な発明品の製造に使う原料は、多くドイツとヨーロッパからきた。
　自分の蓄電池を作るのに水酸化カリウムが必要だったか、これはアメリカでは手にはいらなかった。
　そこで彼は水酸化ナトリウムで代用する方法を確立した。
　蓄音機のレコードを作るために、大量の石炭酸が必要だった。
　数ヵ月のうちに彼は一日六トンを生産するプラントを作った。
　ついでアニリン染料や爆薬を製造するため、ベンゾール、トルオール、キシロール、溶剤ナフサの生産をはじめた。
　彼の最初のベンソール・プラントは、着工してから四十五日たたないうちにもう生産を開始した。
　蓄音機レコードの製造に必要なもう一つの成分は、パラフェニレンジアミンという薬品で、それまでドイツから輸入されていた。
　エジソンはすぐに、自分で必要な分量だけは十分生産することができた。
　しかしパラフェニレンジアミンは、毛皮商が毛皮を黒く染めるのに使うもので、これがないとアメリカの毛皮取引がストップする恐れがあった。
　毛皮商たちはエジソンがそれを作っているときいて、自分たちにも供給するよう必死になって懇請した。
　そこでエジソンは生産を増加し、毛皮商の必要に応じた。
　エジソンの戦時研究の最も目立つ特徴は、新生産の開始の速さだった。
　第二次世界大戦でもアメリカは技術革新や新生産開始のスピードで驚くほどの成果をあげたが、エジソンはその先駆者だったといえる。

　20 幅広い関心と研究 top

　エジソンは人間の努力という面でも、自然資源の面でも、節約という問題にいつも関心をもった。
　簡易化された、流線型的な筆記法という、彼の初期の発明はこの動機から生まれたものだった。
　それ以来、子供たちに書き方を教える教育家たちの中で最も進歩的な人々が多くエジソンの字体をまねてきた。
　各文字は画数や飾りをできるだけ少なくしてあり、走り書きというよりはむしろ印刷体に似ている。
　同じ節約の精神にうながされて、彼はむだなボイラーや蒸気機関の介在なしに熱から直接電気を生みだす機械を開発しようと努めた。
　エジソンは、ウィリアム・ギルバートがエリザベス一世の時代に発見した、鉄を赤く光るほど熱すると磁気的性質がなくなるという効果を利用した発電機を作った。
　立軸上に水平に支えた鉄棒を交互に加熱しまた冷却する。
　冷やされると鉄棒は磁性を取戻して近くにある電磁石に引きつけられるが、赤熱されると磁性を失うので引力が消える。
　こうして棒は左右に振動し、それから回転運動をつくることができる。
　この装置は、エジソンがチャンスさえあれば新分野に足をふみこもうといつも努力していることを、まざまざと示す一例である。
　匂いの測定に関する研究は、彼が何にでも興味をもつことを示すもう一つの例である。
　彼はゼラチンの細長い膜から成る匂い計（オロドスコープ）を考案した。
　ごく小量の水蒸気や香料でも、それに作用し変化をおこすので、鋭敏な鏡検流計を使って検出記録する。
　そのほか彼は、果物を真空中で貯蔵する方法、板ガラスの製造、針金の引抜加工、ニッケル・銅・金の精製など、さまざまな問題に取組んだ。
　彼は電話のよびかけ語として「へロー」「日本語ならモシモシ」を採用したが、今では各電話会社はこの習慣にあからさまに不賛成の態度をとっている。
　またニューヨークの道路から雪をとり除くための機械を考案した。
　それは雪をおしかためて、体積がもとの十分の一しかない氷のかたまりにし、楽にはこび去れるようにしたものである。
　エジソンの自動「ニッケルオデオン」機械（銅貨を入れるとのぞき穴に短時間映画が映写される機械で、デパートの屋上や遊戯場にある）は遊戯場になくてはならない設備の一つで、近年に　いたってひどくふえた。
　彼はヘルムホルツの人工喉頭を一つと、はっきりした言葉を出すいくつかのサイレンをそなえた音楽機械を発明した。
　音の研究から生まれたもう一つの発明は、音波を直線にそって集中させ、外に散らばらないようにする方法で、タバコの煙の輪に似た原理を基礎にしていた。
　海事関係の発明には、海の深さを連続的に記録するための検流計や、船にフジツボがとりつくのを防ぐ方法などがある。
　彼はつんぼの人の助けになるような聴音器「今でいえば補聴器」を発明した。
　新型動力に関する研究の例として、水を金属塩と分離させまた再結合させることによって蒸気をつくりだし、それでエンジンを動かす方法があげられる。
　これは一種の化学エンジンで、化学エンジンは第二次世界大戦中にドイツ人が大いに発展させたものである。
　彼は匂いを結合する一つの方法を発明した。
　これを使えば変動する香気の雰囲気を作り出すことができる。
　いわばオルダス・ハクスレーが『すばらしい新世界』の中で考えた「スメリー」の先駆であった。
　エジソンのアイディアのゆたかさと空想のみのり多さとは、全く比類を絶するものだった。
　それは範囲が広大なだけでなく、いつも実用度の高い目標に向けられており、後に後継者たちが延長展開した発展の幹線ルートを前もってさし示していた場合がじつにたくさんあった。
　彼は今日はやっているサイエンス・フィクション（ＳＦ）にまで興味をもった。
　未完成で出版されなかった長編小説を一つ残したが、それらはまだ人間に知られていない新しい発明や装置ばかりが登場する。
　エジソンは、自分が実用的価値をみとめることのできるものなら、どんな種類の装置でも、発明しようと試みる心がまえをもっていた。
　この機械万能主義からして彼は、生活全体を機械化しようと努め、重要なことだろうとささいなことだろうと、すべて自動機械にやらせることをめざす現代発明家たちの祖型となった。
　彼がきわめて重要な近代的人物とされ、アメリカの発明力の主要シンボルとされているのは、一つには彼の研究にこういった側面があるからである。

　21 生活と性格 top

　エジソンは中背の男で、頭がひどく大きかった。
　目は灰青色で、子供のころは金髪だった。
　顔色がよく、歩調は活発だった。三十代になると、ナポレオンのように、前髪をのばしてひたいの上にたらすようになった。
　何かに興味を感じると、目がキラキラ輝き、つきさすように見すえた。
　目は表情を支配したが、さもないときは口が気むずかしくゆがんでいるため、あまりりりしくなかった。
　三十になる前から「オールド・マン」（おやじ）とよばれており、自分と意見のちがうひどく有能な男たちを部下に雇い、ひきとめておく特別な力をもっていた。
　荒々しい青年時代を送り、正規の教育をほとんど受けず、またほとんどつんぼに近かったので、言葉も粗野なアクセン卜をまじえており、それを改めようなどとは夢にも考えなかった。
　Ｍ・Ａ・ロサノフは、一九〇三年、つまりエジソンが五十六歳のとき雇われたが、そのころのエジソンのふるまいについて、印象に残ったことを書きとめている。
　雇い入れられたあと、ロサノフは、研究所の規則はどんなことでしょうとたずねた。
　エジソンは床のまんなかにペッと唾（つば）をはき、こう叫んだ。
　「くそっ！　ここには規則なんてねえんだ！　わしらは、何かをつくろうてんだからな！」
　エジソンは、わしは「ドン・キホーテ」だといい、もう三十年も一緒に働いている主任助手のＪ・Ｆ・オットを「サンチョ・パンチョ」と紹介した。
　ほかの仲間を「がさつ者たち」と呼び、自分は「がさつ者たちの頭」だといった。
　エジソンは人間性を鋭く見ぬいた人で、部下たちの弱点をうまく利用してこき使った。
　彼は、部下のだれでも、内心はどう考えていようが、外見だけは自分の仕事がうまくいっていて、前途洋々たるものだという顔をしていなければならないと主張した。
　犠牲者たちはそういうふりをさせられると内心に苛責をおぼえ、エジソンの冷酷な目の下で自己を正当化するためにも、いっそう熱心に仕事をした。
　彼の宣伝に対する態度は完全に近代的だった。
　若いころジャーナリズムに足を踏み入れたおかげで、彼は新聞の事情によく通じていた。
　「私たちのいうことは何だって真実さ」というのが口ぐせで、そのあと「ただし、引き出せない貯金みたいな真実かもしれないがね」とつけ加えた。
　ともかく、結局のところ、それは全くの「真実」だった。彼はビジネスの競争には良心のとがめを感じなかった。
　蓄音機のレコードを作るための原料混合の秘密がある競争者によって盗まれたとき、エジソンの助手は敵のレコードを分析して秘密が盗まれたことを証明したが、エジソン自身は別にいやな顔をしなかった。
　「なにをそんなにおこっているんだね？」とエジソンはたずね、こうつけ加えた。
　「商工業ではだれだって盗んでいる。私だってたくさん盗んだ。だが私はどうやって盗むかを知っていた。やっらは盗み方も知らない。――それだけのことなのさ。」
　エジソンは極度に根気が強く、また細かいことをおっくうがらず取り上げる並はずれた包容力をもっていた。
　毎日仕事につくときは、心は子供のように素直で希望にみちており、失敗などという思いはきれいさっぱり意識からぬぐい去られていた。
　大声で哄笑することもあったが、機嫌を損じるとものすごい怒りようだった。
　そういうときには、ひたいのまんなかの皮膚がピクピクひきつって動きまわるのが常だった。
　美術、音楽、文学には全く趣味がなかった。
　彼の蓄音機会社の巡回セールスマンが、ドイツ人がクラシック音楽のレコードをほしがっていると報告したとき、それを信用することができなかった。
　新しく生まれた蓄音機に何をふきこもうかと考えたとき、彼が思いついたのは「メリーちやんのひつじ」だったのだ。
　映画の発明の使い道として、彼の心がまず遊戯場へと走っていったのも自然なことだった。
　彼は数ヵ月にわたって、一日二十時間もはたらきつづけることがちょいちょいあった。
　しかしそれ以外は、毎晩規則正しく家でベッドにはいって九時閧眠り、この期間のほうが長かった。
　彼は部下を非常に長い時間働かせようと努めたが、それに耐えられる人はほとんどいなかった。
　あるとき、彼の息子が疲れたと文句をいったら、エジソンは実験室のベンチの下でうたたねするようすすめた。
　しかし心配した母は少年をゆりおこし、ベッドヘつれていった。
　若いころは食べもののことを気にかけなかったが、年をとってからは食事に注意して体重を一定に保つようつとめた。
　しかし若いころとかわらず強い葉巻をすい、かみタバコをかみ、強いコーヒーをのみ、運動を全くしなかった。
　いろいろな事実についてずさまじいほどの記憶力をもっていた。
　彼が発明をする方法は、強度のエネルギーと根気をもってこれらの事実を経験的に結びあわせて、ついに求めるものを獲得することにあった。
　科学理論というものはほとんど知らなかった。
　第一期にあっては、人が自分をどう見るかということをまるきり気にかけなかった。
　服装はだらしなく、きたなかった。部下の中には、一種のカムフラージュとして、服や顔にすすをくっつけていたものもあった。
　それをみればエジソンは、彼らが自分と同じくらいよく働いていると錯覚する可能性があった。
　エジソンは部下をこき使ったが、えらぶったりはしなかった。
　彼は問題にじかに体当たりして発明を生み、ロサノフの言によれば、部下たちを「幸福な不良少年」みたいな顔で指揮した。

　22 業績と死 top

　エジソンは生涯に一千以上の特許をとった。うち二百ほどが電信と電話に関するものだった。
　電灯と中央発電所に関係したものが三百以上に達し、炭素フィラメント電球のさまざまな側面に関するものが数十ある。
　蓄音機のレコードに関する特許も数十ある。
　ほかにアルカリ蓄電池、磁気選鉱法、セメント製造法についても多数の特許をえた。
　エジソンは、発明を市場の要求に従属させる必要があること、求められていないものを発明しようとして時間とエネルギーを浪費すべきでないことを、つねづね好んで語った。
　しかし彼はひどく大きな財産を貯えはしなかった。
　多くの金を受取りはしたものの、その大部分を、ますます多くの発明をなしとげるために使った。
　ロサノフはいっている。
　エジソンの本当のねらいは、偉大な人物になること、輝かしい発明の山をきずいて人類をおどろかせ、永遠に自分の名を忘れさせないようにすることだった、と。
　エジソンは一九三一年十二月十八日に、ニュージャージー州ウェストオレンジの自宅で死んだ。
　八十四歳という高齢だった。
　彼は産業人として主だった表彰をすべて受け、また数々のアカデミックな栄誉をさずけられたばかりでなく、国民全体から祝福された。
　若かりしころの荒々しい天才ぶりとはくっきり対照的に、人類にめぐみをあたえた尊敬すべき人という雰囲気のなかでこの世を去った。

　　参考文献 top

　Ｊ・Ｇ・クラウザー『有名なアメリカの科学者たち』ゼッカー・ワールブルク社、1937年。
　Ｆ・Ｌ・ダイヤー、Ｔ・Ｃ・マーチン、Ｗ・Ｈ・メドウクラフト『エジソン――その生涯と発明』ハーバー社、1929年。
　Ｗ・Ａ・サイモンズ『エジソン――その生涯、業績、天才』ジョージ・アレン・アンウィン社、1935年。
　Ｍ・Ａ・ロサノフ『研究所でのエジソン』ハーバーズ・マガジン第165巻（1932年9月号）所収。
　（邦訳書にマシュウ・ジョセフソン『エジソンの生涯』矢野・白石・須山訳、新潮社、1962年がある。訳注は主として同書を参照した。）