＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
HOME　　ＴＶＡ　　黒部ダム

ＴＶＡ物語
（秦　正流著　少年少女20世紀の記録15　あかね書房刊　1982年刊）

　1  グラビア top

荒れ果てた川筋	ダムで水位が上がり、はしけが運航できるようになった。
同じ場所のＴＶＡ計画の前（左）と後（右）
ＴＶＡ前のはげ山（左）も計画後（右）は青々と森林が茂るようになった
ＴＶＡケンタッキー・ダム	ポンプによる水汲みも不要になった

　　　　　　　2  はじめに top

　秋になると台風がきます。台風が通ると大雨が降り、大洪水がでます。
　家がこわされ、田畑が荒らされ、いっぺんに数億円、数十億円の損害をこうむるのです。
　多くの人命をうしない、ゆくえ不明者をだすこともしばしばです。
　しかも、同じようなことが毎年くりかえされているのです。
　もちろん、日本だけではありません。
　自然の猛威は、世界じゅうのほとんどの国で、しばしば人間の生活を荒らしてきています。
　人間は、自然のまえには無力なのでしょうか？
　それに、日本だけではなく、世界じゅうで、人口がどんどんふえてきています。
　けれども、人間の住む地球の大きさは変わりません。
　いまでも、住む家もなく、ひもじい思いをしている人々が何百万人もいるというのに、我々の地球は、はたして、世界じゅうのすべての人間に、これからもどんどんふえていく人間全部に、充分な食料や衣料を保障することができるでしょうか？
　二つとも人類が、これからもなお栄えていけるかどうかにかかわる重大問題です。
　だが、二〇世紀の自然科学と、社会科学は、このどちらの疑問にたいしても「大丈夫」だとこたえています。
　人間は、自然にたいして無力ではないし、我々の地球は、まだまだ、いくらでも人間を養っていくことができます。
　ただ、自然と社会を改造すればよい、というのです。
　地形を変え、海流を変え、気象を変え、土壌を変えて、不毛のさばくや凍土帯を実りゆたかな緑野に変えたり、あるいは谷を埋め、川を逆流させ、人造湖をつくり、電力を開発し、工業をおこして、これまで人間が足をふみいれたこともないような辺境に、文化的な大都市を建設したり……。
　それは、もはや一部の科学者や技術者たちの単なる夢物語ではなく、いまでは規模の大小こそあれ、多くの国々で、いくつも実現してきています。
　この本は、このような「自然改造計画」のなかでも、もっとも規模が大きく、世界的にも注目されてきたソビエトの中央アジア砂漠地帯の開発（省略）と、アメリカのＴＶＡ（テネシー川流域の開発）を中心に、人間の自然にたいする闘いぶりを紹介したものです。
　みなさんは、この本のなかで、我々の科学と技術がどんなに大きなことをやってのける能力をもっているか、人間の知恵と労働のもっている計り知れないほどの大きな力を、あらためて認識されることでしょう。
　たしかに、自然や社会についての充分な知識と、みんなの力をあわせた労働がなければ、どんなにすばらしい夢も計画も実現するはずはありません。
　みなさんが、このことを理解してくださるなら、それでこの本の目的は、大部分たっせられるわけです。
　人間にとっては、なんといっても、この地球ほどすばらしい所はありません。
　そして、この地球上でもっともすばらしく、とうといものは、人間の労働です。
　それは、この地球を人類にとってますます幸福な住み家かとするでしょう。
　最新の科学・技術による宇宙開発計画にしても、結局は、地上における人間生活を、もっともっと幸福なものにする努力の一つにほかなりません。
　地球ばんざい！　であります。

3  ＴＶＡ計画全体図 top   （23項参照） たくさんのダムを川筋にならべてダム湖をつくり、各ダムには水門を設けて船の運航を可能にした。 このダムは、発電、船の運航、潅漑、下流の治水対策と多目的の総合開発であった。