6 ドイツ空軍果敢な迎撃 top
海岸線をこすと、爆撃機はミュンスターを目ざすかのように東に変針した。
三〇キロほどの飛行の後、オランダのベーンストレヒトの北西二八キロの地点では、高度六〇〇〇メートルで飛行し、六五キロほど先のベルギーの国境に向かい、ほとんど真南に向け急激に変針した。
そして、このベルギー国境地点でリーゲの東三〇キロのオイペンに向け西北西に再び変針した。
オイペンに接近すると戦闘梯団は、ルクセンブルクの東に達する東南コースに針路をとった。
このルートをとることによって、ドイツへの接近ルート上にある強力な対空砲火地帯を避けられ、恐らくは敵防御陣にフランス南東部、またはシュツットガルトヘの攻撃ではないか、と思わせることが期待された。
しかし一〇一五ころには、もう小口径の対空砲火を受け始めており、ドイツ戦闘機は護衛戦闘機を伴わない後続梯団を発見し、ブラッセルの東三〇キロから迎撃を開始した。 |
たびたび呼称変更されたＨe113 (試作機のみで量産はされなかった)は、達合軍にとり、つねに恐怖の的だった
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第1戦闘航空団第Ⅱ中隊のＦw190はロッテ（二機編隊）単位で直上攻撃をかけ、一〇三〇ころには第100爆撃航空群（狙われやすい梯団の下段を飛んでいた）のＢ-17二機が撃墜された。
一〇三〇には、重爆隊が変針を完了したので、Ｐ-47はオイペン付近から引返した。
この後は中隊単位の迎撃が始まり、不運な第100航空群はドイツ戦闘機の集中攻撃を受けたのである。
爆撃機群がオイペンの変針点に到着するまでに、Ｂ-17は四機が撃墜されており、前進にはまだＦw190とＢｆ109との戦闘が待つ二四〇キロの道程があった。
オイベンを過ぎて一六〇キロほど、カイザースローテンの西三〇キロほどで再び変針、この時点ですでにＢ-17は七機が失われ、うち三機はオイペン通過後の犠牲であった。
カイザースローテン以後は大きな方向転換はなかったが、目標までにはまだ一六○キロの距離があった。
この最後の行程で、彼らはライン河をこえ、マンハイム、シュツットガルト、ニュールンベルク間の対空砲火網の中に突入した。
この間の攻撃で、さらにＢ-17七機（うち一機は編隊を脱落した機で、車輪をおろして降伏を示しており、Ｂf109三機が降下するその機の上を旋回していた）が失われ、目標到着前に、合計一四機を喪失した。
ドイツ戦闘機は、オイペンから目標直前までの九〇分間に、驚くべき攻撃法の数々を展開した。
一一五〇、爆撃後、ふたたび英国にもどる爆撃機との戦闘に備えて、ドイツの戦闘機が燃料補給に基地に帰った束の間に、爆撃機の乗組員たちは一息いれていた。
参謀のバーン・レイ中佐（一九四二年二月にエイカーと共に英国に飛んだ七人の一人）は、第100航空群の「ピカディリイ・リリイ」号に搭乗して観戦しており、落ちてゆく残骸、空に飛ぶパラシュート、燃える飛行機、乱舞する戦闘機が同時に見える情景を《それは異様な光景であり、想像を絶していた》と記述している。
ある副操縦士の記述した、ある「空の要塞」の運命は、その情景を要約しているように思われる。
《強烈な色形の大爆発の中で、そのＢ-17は一瞬のうちに消え去り、残ったものは四つの火の塊りだけであった。
火の塊り、燃料タンクは落下しながら、たちまち燃えつきてしまった》
またある者は、戦闘の緊張を次のように述べている。
《操縦席の中は寒かったが、向こう側のパイロットを見ると、額の汗が酸素マスクの上に滴り落ちていた》
アノハイムの東の迎撃から単発戦闘機は脱落して行ったが、Ｂf110「セルシュテーラー」（駆逐機の意）双発重戦闘機は、まだ密集編隊にロケット弾攻撃を続けており、Ｊu88夜間戦闘機も上方から空中爆雷攻撃を続けていた。
また時には、速度の遅い双発機も、通常の攻撃法で戦闘に加わった。
この頃には爆撃機の銃手たちは応戦に疲れ果て、弾薬も残り少なくなっていた。
敵の迎撃でＢ-17が、みな撃墜されると思っていたある乗組員は、こう言っている。
「私は気持の上では、いつかは死ぬのだ、ということがわかっていたが……
人が従容として死ねるものだということを、身をもって知った」
一一五〇、高度六〇〇〇から六五〇〇メートルでメッサーシュミット工場を、きわめて正確に爆撃してから爆撃機は、北アフリカに向けスイスの東に出るため、およそ南南東に向けてコースをとった。
これで大あわてをしたドイツ軍は、それ以後、申しわけ程度の戦闘機が追尾しただけであった。
インゴルシュタットの夜間戦闘機学校の双発戦闘機、第101夜間戦闘航空団とノイビペルクの第51戦闘航空団第Ⅱ中隊、フェル・ザム・ワグラムの第27戦闘航空団第Ⅰ中隊の機が攻撃してきただけであった。
彼らは、さらにＢ-17二機を撃墜した。
7 レーゲンスブルク隊、北アフリカへ top
一七二八に最初のＢ-17が北アフリカに着陸した。離陸後、一一時間以上たっていた。
しだいに多くのＢ‐17が、見知らぬ地形と、局地的な砂嵐に悩まされながら、ボーヌ、テレルグマその他の砂漠の滑走路に、ヨタヨタとたどりついた。
撃墜された機の他に、二機がスイスに、一機がイタリアに着陸大破し、五機が燃料ぎれで地中海に不時着水した。
この地中海に落ちた飛行機「プリグナント・ポーシャ」号の乗組員たちは、緊急用のボートを一隻しか持たず、五人ずつ交替でボートに乗った。
やっと空・海救助隊のランチに救出された乗組員の一人は、こう語った。
「我々は頑強であり、とどのつまり我々は戦闘員なのだ、と思っていた。
だが、あの時は九十歳の年寄りのように感じた」
不時着水した乗組員たちは救助されたが、Ｂ-17二四機が失われ、さらに数機が大破して、第100航空群だけでも一〇機を喪失した。
第4爆撃航空団はアフリカにも着陸したが、第1爆撃航空団の方は、さらに被害の大きかったシュバインフルト爆撃を終えて、北海をよろめきながら帰途についていた。
レーゲンスブルク攻撃隊は、彼等の耐えなければならぬものが何を暗示しているのかを体験した。
8 シュバインフルト隊の出撃 top
その日の朝、○九四五まで、シュバインフルト攻撃隊の乗組員たちは、まだ飛行機の最終チェックをすませていなかった。
一一○○ころ、立ちこめていた地上の靄（かすみ）が上がって、低空の雲量が一〇分の六となり、落伍機の交替機を含め、第1爆撃航空団のＢ-17二三〇機が離陸した。
小隊ごとに基地上空を旋回し、飛行隊を集め編隊を組んだ。
波うつ穀物畑と、暗いビート畑の上を飛び、見なれたダウンハム・マーケットから南に走る小高い丘をこえて進んだ。
無線標識をたどり、飛行機は戦闘梯団を組んで飛び、攻撃隊集合地点に到着すると、色わけされた信号弾を射ち上げ、作戦命令に従って隊形を整え、サフォークをこえて南東へ針路をとった。
それぞれ二個の戦闘梯団からなる、攻撃部隊が組み合わされた。戦闘梯団の構成は、第1爆撃航空団の場合、それぞれ三個航空群からなる臨時編成の戦闘爆撃三仞航空団（第101、102、103）であった。
各航空群は四個飛行隊編制で、第四戦闘梯団を編成するため、各航空群から一個飛行隊が抽出された。
従って、それぞれの戦闘梯団は六機編制の九個飛行隊からなっており、二一六機が実際に敵の海岸線をこえたのである。
各戦闘梯団は先導編隊、上段編隊、下段編隊の三個編隊で構成されていた。
各航空群も順に先導、上段、下段の飛行隊で構成されていた。
各飛行隊の編隊は、一個小隊三機の二個小隊で構成されているが、「フォートレス」は翼幅がほぼ三二メートルあるので、相互に防御するため、わずか一三〇メートルほどの範囲の中で小型の戦闘梯団隊形を形成していた。
密集隊形を保つために、飛行隊の段差は小隊の段差とは反対の方向にやや傾斜していた。
戦闘梯団の全容は、たがいに段差のある三つの逆Ｖ字形をなしており相互に傾斜して、頂部を前方に向けた鈍角のＶ字形であった。
二群の攻撃隊は一二分間隔、各攻撃部隊の戦闘梯団は、相互に五分間隔の距離となるよう計画されていた。
爆撃機が敵地上空に達したころには、各戦闘梯団は基準高度を取るべきものとされた。
先導グループの戦闘梯団の飛行隊が八五〇〇メートルをとれば、上段編隊は八五三五メートル、下段編隊は八四一五メートル、上段戦闘梯団隊形の先導飛行隊が八八四〇メートルをとれば、上段編隊は八八七五メートル、下段編隊は八七五五メートルを飛ぶことになる。
下段戦闘梯団編隊の先導飛行隊が七二九五メートルをとれば、上段編隊は八一九五メートル、下段編隊は八〇七五メートルを飛ぶのである。 |
雲上高くシュバインフルトを目ざす「フライング・フォートレス」
シュバインフルトの目標に爆弾を投下した「フライング・フォートレス」
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第1爆撃航空団のこの隊形の配分は、臨時編成戦闘爆撃航空団の構成に従っていた（
5節 巨大な戦闘梯団で進撃するＢ-17参照）。
第一攻撃隊には、第101、第102臨時編成戦闘爆撃航空団がふくまれていた。
第101は、バッシングホーン基地から先導隊として行動する第91爆撃航空群のクレメンス・ワーツバッフ中佐に率いられており、そのうちの一機にはロバート・ウィリアムズ准将が観戦将校（指揮権はない）として搭乗していた。
リッジウェル基地のジョゼフ・ナザロー大佐の第381爆撃航空群は下段を飛び、ポールブルックのウィリアム・ハッチャー大佐の第351爆撃航空群は上段を飛んだ。
第一攻撃隊の第二戦闘梯団はアルコンベリーのウィリアム・リード中佐の率いる第92爆撃航空群（名声に恵まれた少数者たち）、チェルベストンのドナルド・ファーゴー中佐の率いる第305爆撃航空群（“やればできる”）、サートレイのジョージ・ロビンソン大佐の率いる第306爆撃航空群で構成されていた。
第二攻撃隊は、キンボルトンのモーリス・プレストン大佐の第379爆撃航空群、グラフトン・アンダーウッドのジュリアス・レーシイ大佐の第384爆撃航空群、モールズワースのカーミット・スティーブンス大佐の第303爆撃航空群（地獄の天使）で構成されていた。 |
投弾後、離脱するＢ-17
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彼らの後方を予備機の九個飛行隊が飛んでいた。
一三二六に第二攻撃隊の先頭編隊が英国海岸線をこえ、イプスウィッチの東二四キロのオーフォード岬から北海に進入した。
下方に積雲が点在したが、飛行機は時速二六〇キロで順調に上昇を続け、高度は四二六〇メートルに達していた。
海上に出て八〇キロほどで銃手は、機銃の試射を行ない撃鉄は起こしたままにし、副操縦士は酸素供給装置の点検をした。
レーゲンスブルク隊の飛んだコースより、やや南寄りに飛びオーフォード岬から三〇分たらずで、二つの攻撃隊は順にオランダのバルヘレン島を高度六四〇〇メートルで通過した。
海岸線をこえると爆撃機は、ルール地方の対空砲火の集中地区の西を、着々と南東に向かって飛び、ドイツ側にレーゲンスブルクか、あるいは、おそらくミュンヘンへ向かうのではないか、と思わせた。
ダルムシュタット地区のマンハイムの北東およそ三二キロ、目標までおよそ一三〇キロの地点でＢ-17は、急に東南東に変針した。
爆撃機はベルギー上空では、地表の靄がアントワープやその他の町を覆っていたため、軽い対空砲火に遭遇しただけであった。
9 戦闘機隊、苦心の護衛任務 top
この作戦の前段では、英空軍第11飛行群（司令部はアクスブリッジ）の「スピットファイア」が爆撃機の護衛として飛んだ。
この英空軍の飛行隊は、もとの二目標同時作戦で、レーゲンスブルク行き爆撃隊を護衛する第8航空軍のP147「ザンダーボルト」と共に、シュバインフルト攻撃隊の護衛に当てられていたものであった。
敵地での滞空時間を延ばすため、第222（ネイタル）、第129（マイソール）飛行隊は、エセックス州のホーンチャーチから、第303（ポーランド）はミドルエセックスのノースホルトから、チェルムスフォードの東三二キロのエセックス海岸のブラッドウェル湾に同様に集中している第403、第421（カナダ空軍）飛行隊が、ケント州マンストンヘ夜の間に集結した。
さらにエセックス州のノース・ウェルドからノルウェイの飛行隊（第331、第332）が、八月十七日に護衛任務についたが、爆撃機の護衛を終えるとマンストンに引き返し、帰路につく爆撃機の護衛に備えて給油した。
シュバインフルト攻撃隊が発進しようとしていたころ「ザンダーボルト」は、レーゲンスブルク攻撃隊をオイペンまで護衛して帰り、燃料補給を終えていたので、護衛任務には、やや変更が加えられた。
「スピットファイア」はオランダ海岸で攻撃隊と合流し、Ｐ-47が任務を引き継ぎ、アントワープからドイツ国境まで護衛することになった。
しかし、戦闘機の護衛は、まだこの時点では、最初の二つの攻撃部隊のためだけの計画であった。
「スピットファイア」を装備する英空軍の全飛行隊は「ラムロッド」206パートー作戦（ラムロッドは銃の洗い矢のこと）の秘匿名のもとに、一三〇五から一三ー五の間に離陸し、喪失機なしで全機が一五〇〇に帰還した。
四個飛行隊（第331、332、403、421）は、一三三六にバルヘレン島上空で最初の戦闘梯団の先導編隊と会同し、Ｐ－47と交替するアントワープの北東一六キロまで、無事に護衛した。
敵機との交戦はなかった。
彼らの飛行から浮かび上がった縁起でもない感触と言えば、高度三〇〇〇メートルの往路の雲量一〇分の三が、帰りには一○分の七に増加していたことであった。
これは午後もおそくなってからの天候の前触れではなかったが、戦闘機が帰還につく爆撃機を見逃す可能性があった。
一方、英空軍の三個飛行隊（第129、222、303）はオステンドの北西二四キロで、最初の戦闘梯団の先導編隊を視認したが、バルヘレン島上陸で第二戦闘梯団に会同すべく飛行を続けた。
この戦闘梯団が海岸線をこえた直後に、戦闘機の護衛があるにもかかわらず、敵は攻撃をかけてきた。
第303飛行隊はアントワープ付近で、四機のＦw190と交戦し、不確実撃墜一、撃墜三を報告した。
この飛行隊は、ベンストレヒトとアントワープ間に重対空火器の軽微な応戦のあったことを報告し、帰路の途中に一五〇〇～一八〇〇メートルに低い層雲のあることを観察している。
英空軍コンプトン中佐の率いるホーンチャーチ隊（第129、222飛行隊）も、またフリシングン上空で第二戦闘梯団の先導編隊に会同し、そこでタンクを切り換え、八五〇〇メートルに上昇、第222飛行隊を第129飛行隊の右翼に配し、上段護衛位置についた。
爆撃機はバルヘレン島をこえるとアントワープに向かい、戦闘機隊はノイツェンまで護衛し、そこでＰ-47と交替した。
敵のＢf109が、オステルシェルデ地区とブュステルシェルデ入海の方向から、南西寄りのコースで接近してくるのが視認され、同時に第二攻撃隊がバルヘレン島ヘ一五キロ足らずの距離に迫っているのが望見された。
護衛を伴わない第二攻撃隊を、身をもってかばい、敵を外（そ）らすため第129、第222飛行隊は戦いを挑んだ。
第222飛行隊は「すばらしき一日……飛行隊の記念すべき日、一九四〇年九月十一日以来の最良の日」と戦闘詳報に記述するような大成功をおさめた。
ハルストの東一六キロで、Ｂf109一二機と戦い、四機を撃墜したのである。
10 ドイツ戦闘機部隊、熾烈な迎撃を展開 top
「スピットファイア」と「ザンダーボルト」が引き返した後、アーヘンから先はＢ-17の出合うのは、敵機だけであった。 英国の広範囲にわたる編隊集合地点の上空を旋回する機影が、爆撃機の奥地ふかい進攻を予測させたため、ドイツの防空陣は、交替制で兵力の集結をはかることができた。
特に、レーゲンスブルクへ向かう爆撃機阻止のために西部戦線から集結したドイツ戦闘機の大部分は、まだそれぞれの基地へもどっていなかった。
護衛戦闘機が引き返した瞬間から、目標までの道程と、再び味方の支援を受けられる比較的安全な地区へもどる間、Ｂ-17は二〇〇～三〇〇機におよぶ敵機の迎撃と戦わなければならなかった。
ドイツ軍はルール地方から三二〇キロ以上離れた各基地の飛行隊から戦闘機を抽出した。
北部戦線のイェーファーとノルトホルツ、東部戦線のバンストホルツとガルトレーゲン、西部戦線のエブルーである。
ドイツ空軍戦闘詳報によれば、シュバインフルト攻撃に対処するため三〇〇機が発進した。
第1、第2、第3、第11、第25、第26、第50、第300の各戦闘航空団と第27戦闘航空団第Ⅱ中隊、第54戦闘航空団第Ⅲ中隊を含む各部隊の単発戦闘機に加え、第26駆逐戦闘航空団の双発戦闘機が狩り集められたのである。
彼らは究極的には、すべてベルリンの中央防空司令部の隷下にあったが、直接にはオランダのツァイストにある第12航空軍司令部の指揮を受けていた。
アドルフ・ガーランドは、こう記述している。
《これまでの戦争で、最も重要な空戦であった》
レーゲンスブルク攻撃隊のように、シュバインフルト攻撃隊も、ドイツ戦闘機の、ありとあらゆる戦術を体験した。
爆撃機がオランダをこえるや否や、第11戦闘航空団のＢf109が翼下面に懸吊した二一センチのロケット弾を、戦闘梯団後方の編隊に七〇〇メートルの距離から発射した。
その大部分は手前に落下したが、ドイツ側の発表では《二機の爆撃機が、文字どおり空中でバラバラになった》と言っている。
米軍のあるパイロットは、ロケット弾がＢ-17の上に、ゆるやかな弧を描いて落下するのを見ている。
飛行機の側面、操縦席のすぐ後方に命中したロケット弾は、胴体を引き裂き、片翼を吹き飛ばし、飛行機全体が分解する前に、操縦する二人のパイロットがチラリと見えた、と証言している。
このようなロケット弾攻撃を別にすれば、第26駆逐戦闘航空団のＢf110の攻撃方法では、編隊上方からの爆弾投下があり、時には落下傘つきの爆弾が用いられた。
ドイツ戦闘機の攻撃は、単機攻撃から翼端を接して横一列にならんだ中隊単位の攻撃まで、多岐にわたっていた。
最も一般的な攻撃の方向は、正面からの攻撃であったが、大陸上空の空は晴れわたっていたので、戦闘梯団の上段編隊から下段編隊にいたるまで、頻繁に太陽を背にした急降下攻撃がかけられた。
乗組屓たちの報告の中には、二〇～二五機が一直線になって攻撃する戦術もいくつかあった。
射程外を飛行するＪu88またはＢf110による協同攻撃が何度も展開され、米軍の乗組員たちは各機種の飛行機が取合わされているのを目撃している。
攻撃のほとんどはＦw190、Ｂf109、Ｂf110、Ｊu88で行なわれたが、Ｆw189三機、Ｍe210数機、Ｄo217Ｅ、Ｈe113の攻撃も報告された。
一四二六に第二攻撃隊の先導編隊がオイペンを過ぎると、左手に阻寨気球を揚げて防御を固めるアーヘン地区と、対空砲火の集中したルール地方を避けるため、そこでさらにやや南寄りに変針した。
この時点で、すでにＢ-17三機が失われており、理屈の上では、フェリクストウ付近で再び英国の海岸線をこえるまでに、あと五時間一七分か残っていた。
オイペンからダルムシュタットのすぐ西で、目標に向かって大きく変針する最終の地点にいたるルートは、右手にルクセンブルクとザール地方、左手にルール地方を望む中間にあった。
そこを切りぬけるには二九分かかり、犠牲なしにはすまぬこの作戦中の最も凄絶な区間であった。
11 爆撃機の損害あいつぐ top
一二機が並列になって爆撃機編隊の前後から機銃掃射する中隊単位の攻撃は、三～五機があらゆる方向からやってくる攻撃と組み合わされ、応戦に疲れた銃手たちを困惑させた。
特に乗組員の志気を阻喪させた戦法は“槍投げ”戦術であった。この戦術では、戦闘機は高空にヨロヨロと上かって行き、雲の中から現れて、上方の晴れた空から、下の爆撃機に射弾を浴びせかけた。
一四三〇から後は、さらに多くの飛行隊が現れて、燃料の尽きかけている戦闘機と交替した。
従ってＢ-17は、連続して新手の敵と戦わなければならなかったのである。
ダルムシュタットの変針点に達する直前に、コブレンツ、ビースバーデン、マインツの対空砲火集中地の外にある対空砲が発砲してきた。
この頃には、燦々たる陽光の中で、さらに一二機が落ちて行き、喪失機は全部で一五機になっていた。
一四五五に第二攻撃隊がシュバインフルトに向かって変針した。
シュバインフルトは二〇分ほど先にあり、後は微修整があるだけだった。
この時点では、ドイツ戦闘機の攻撃は和らいだが（恐らく“東京タンク”なしでは、第1爆撃航空団は英国に帰るに違いないと気づき、帰路を狙う準備をしていたと考えられる）、目標を爆撃する前に、さらに六機のＢ-17が撃墜された。
従ってシュバインフルトヘ到着しないうちに「フォートレス」は敵の迎撃で失われていったのである。
比較的、息抜きのできることに感謝はしていたが、目標を前にした最後の数分間は、乗組員たちにとり不安な時であった。
爆撃手は投下角度、飛行速度、風による偏流、信管の衝圧力などを勘案して信管の諸元を修正しなければならなかった。
約一〇分おくれて第一攻撃隊の後を追う第二攻撃隊は、爆撃開始進入点に一五〇八に到着した。
その地点に到達した乗組員たちは、飛行機の周りを飛び交う対空砲火の至近弾に備えて安全ベルトを締めた。
進入地点で戦闘梯団は、三群に分かれ、各自のコース（事前に決定された対空砲火を避けるためのジグザグ飛行を含め、最終爆撃コースになる七〇秒間）を進み、各個爆撃をした。
進入点から投弾地点までは八分間かかり、この間は爆撃手が自動飛行制御装置を介して、飛行機を操縦した。
シュバインフルト上空では、対空砲火は公式文書では《中程度》と記述されているが、一部のＢ-17にとっては、それどころではなかった。
12 追撃に苦しむ top
爆撃完了直後、爆撃機は九分ほどの距離にある、マイニングン付近の集合地点に向かって急角度で北に変針した。
そこで戦闘梯団を再編成しアントワープに向かったが、シュブァインフルトとマイニングンの間で、さらに三機が森林地帯に墜落し、爆撃機は基地を目前に（エンジン一基か二基でノロノロと飛ぶ機や、胴体に大穴をあけられた機は別にして）、喪失機は全部で二五機に達していた。
一五二五に第二攻撃隊の飛行機は、集合地点で短時間旋回して落伍した機を集め、一〇分前にこの地点を去った第一攻撃隊の後を追って、基地の方向に針路を定めた。
Ｂ-17が、着実に西北西に針路をとって、晴れた夏の空を飛行して行くと、地上の緑におおわれたスロープの景観は牧歌的であり、銀色に輝くライン河に浮かぶ艀さえ小さな昆虫のように思われた。
この景観を台なしにしたのは、敵戦闘機への新たな見張りであった。
アントワープへ到達するまでに、さらに七機が失われた。
帰路のＰ-47の護衛は、オイペンからと決定されていた。
第56戦闘航空群の五一機は一五二〇に基地を発進した。
慣習どおりに敵海岸線で胴体下の増加タンクを投棄せず、そのまま進めば、Ｐ-47は爆撃機の方向に向かって一〇分以上航続距離をのばすことができたので、彼らはオイペンの先二四キロまで進入し、一六二一に第一攻撃隊のＢ-17に会同した。
「フォートレス」の上方に占位した彼らは、ドイツ第26戦闘航空団の断固とした正面攻撃と戦わなければならなかった。
第二攻撃隊は、オイペンに到達したとき、北海をこえ英国東部に向かう北西寄りのコースをとったため、護衛のＰ-47と出合えず、海岸線までに、さらに二機が失われた。
しかし、アントワープとゲントの間は、英空軍の「スピットファイア」が計画（「ラムロッド」パートⅡ）に従って護衛任務を引きついだ。
「サンダーボルト」同様、彼らは陽光の明るく輝くベルギー上空で、絶え間ない敵戦闘機との格闘戦を演じなければならなかった。
13 護衛戦闘機の活躍 top
その空戦は、その日の午後に爆撃機の乗組員をいためつけた恐怖を静めさせるほどのものであった。
英空軍第485、第341飛行隊のフランスへの牽制攻撃は、すでに集合地点に到達していたにもかかわらず、雲量一〇分の一〇という天候不良のため中止されていた。
「ラムロッド206」作戦パートⅡの「スピットファイア」は、出撃する「フォートレス」を護衛したのと同じ飛行隊であった。
彼らは一六〇〇から一六一五の間に発進し、一八〇〇に基地に帰還した。
第403と第421飛行隊は、第一攻撃隊の先導梯団にアントワープ・ベルゲス地区で会同した。
第403は敵と遭遇しなかったが、第421は味方二機を失い、Ｆw190二機撃墜を報告した。
第303飛行隊の九機と第316の三機（臨時に第303と一緒に飛行していた）は、最初の戦闘梯団にアントワープの南で一六四五に、高度六四〇〇メートルで会同した。
その梯団が、すでに充分に護衛されていることに気づくと彼らは、先導攻撃部隊の第二戦闘梯団の上方に位置して飛行した。
アントワープの上空で「軽微な重対空砲火あり」とまた報告があったが、敵の機影は認められなかった。
オランダで晴れていた天候は、しだいに雲を増し、北海上空五五〇〇～六四〇〇メートルでは、雲量一〇分の一〇となった。
「スピットファイア」の飛行隊の作戦報告は、少なくともある米軍パイロットは遺憾ながら敵味方識別能力の精度に欠けていることを明らかにし《最初の梯団を護衛していたある「サンダーボルト」は、被害はなかったが我々の機に短い連射を浴びせた》と付記している。
第二攻撃隊は、アントワープ地区から基地までは英空軍戦闘機の護衛を受けることができた。
サン・ニクラス上空七九〇〇メートルを飛行していた第331、第332飛行隊は一六一六に、アントワープの南約一五キロを飛行する第一攻撃隊の後部戦闘梯団を視認した。
その後すぐ第二攻撃隊を発見した両飛行隊は、先導戦闘梯団の左上方六〇〇～九〇〇メートルに占位して飛行した。
第331飛行隊はＦw190三六機と交戦するよう分遣されたが、敵機は戦いを挑まず方向を変えて飛び去った。
数分後、第332飛行隊はエクルー上空でＢf110一機、第331はフリシンゲン南南東一五キロでＢf110二機を撃墜した。
北海上空に達すると天候は所々で雲量一〇分の八に悪化した。
第332飛行隊の青小隊と黄小隊は、被弾した落伍機を護衛するため分遣されたが、Ｂ-17一機はマンストンの東の海上に不時着水し、乗組員はランチに救助された。
第二攻撃隊の最後尾の戦闘梯団は、ホーンチャーチの「スピットファイア」が護衛した。
一六四二に第222と第129飛行隊がノッケ付近でベルギーの海岸線を高度七〇〇〇～七六〇〇メートルでこえ、右方向に針路をとってアントワープ付近の「フォートレス」を集め、最後の戦闘梯団の右に占位した。
《第222飛行隊は、戦闘機の多くの編隊を認めたが、高度一万メートルを飛ぶ第129飛行隊が調べた結果、味方機であることが判明した。
爆撃機を狙うアントワープ付近の対空砲火は、かなり激しく……照準は正確だった》と記述されている。
海岸線付近で飛行隊は、戦闘のため分断され、爆撃機の編隊の中を縫うように飛んだが、爆撃機を見張りながら高度七六〇〇でノッケの北東で海岸線をこえた。
この最後の戦闘梯団には何ら攻撃が加えられず「スピットファイア」は燃料が乏しくなったので、オランダの海岸沖三〇キロでＢ-17の編隊から離れた。
事実、第222飛行隊の二人のパイロットは、燃料切れでダンケルクの北からマンストンまで、ずっと滑空して帰らなければならなかったのである。
14 英国への帰途、損失なお続く top
オランダの島の上空で六〇〇〇メートルで一〇分の五の雲量は、海上ではさらに悪くなってゆくことが判明し、疲労困憊（こんぱい）した爆撃機の乗組員たちに、新たな難局をもたらした。
大破した数機は、幸運にも生きのびることができた。
「マイ・プレイヤー」号はドイツ上空で火災を起こしていた。
パイロットが炎を吹き消そうとして、急降下をしたので、副操縦士と上部回転銃塔の銃手（彼のパラシュートは、すでに焼失していた）を別にして、他の乗組員は緊急脱出していた。
パイロットが急降下から機を引き起こした時、副操縦士と銃手（彼は足に高射砲弾の破片を受けていた）は、どうにか火を消しとめていた。
その後はパイロットが攻撃してくる戦闘機にちゅうちょさせるため超低空を飛んだので、銃手は機首の機銃三挺にとりつき、副操縦士は左右両舷の側面銃を操作した。
ベルギー上空で高度を失い始めると、副操縦士は動かせるもの何であろうとすべて、一足の靴まで（左右を紐で結んで）畑で声援する農夫の方に見当をつけて放り出した。
航法士もおらず、燃料もほとんどつきた状態で「マイ・プレイヤー」号は英国に胴体着陸した。
他の一機は、もう少し不運だった。
その機は北海に着水した。全乗組員は英国の飛行艇に救助されたが、過荷重で離水できぬことを知った飛行艇のパイロットは、狼狽した。
しかし、この機智に富んだ機長は、英国の方向に向かい、海上救助隊のランチが爆撃機の乗組員を収容するまで、海上を滑走した。
こうして第一攻撃隊は海上で二機を失い、対空砲火による一機を含め三三機を失って、シュバインフルト爆撃の喪失は合計三六機に達した。 |
上下とも：基地へ帰りつくことができたＢ-17の１機｡
ヨーロッパ大陸の海岸線をこえて行った363機のうち60機が失われた
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この喪失機のうち第91航空群は一〇機、第381航空群は一一機を失った。
こうして、この日のシュバインフルト、レーゲンスブルク爆撃のためヨーロッパの海岸線をこえた総計三六三機のうち、六〇機が失われたのである。
これまでの一日の最高喪失機数は、七月十三日の二六機であった。
三七〇人以上の乗組員が失われており（シュバインフルト爆撃では、ほぼ一五〇人のパラシュート降下が報告されたが）、帰ってきた飛行機にも機上に戦死者や負傷者がいた。
飛行機の消耗率の点では、八月十七日に送り出された爆撃機の全機数の一六パーセントに達している。
しかし、シュバインフルト作戦のみをとれば、パーセンテージは、さらに高くなる。
英国を出発したのは本来二三〇機で、このうち三六機が任務達成に失敗した。
従って任務を遂行した残余の機数からのパーセンテージは、ほぼ一九・四パーセントが妥当な喪失率である。
従って護衛なしの昼間爆撃の将来は、きわめて大きな疑問となってきた。
事実、ガーランドは、その日を《敵にとって災厄の日》と評している。
15 損害に見合う大戦果か top
護衛なしで奥地深く進攻する、このような作戦の価値を、敢えて問う軍事的な見解を全く別にすれば、新聞は米第8航空軍の、かくも多大な人員と機材の損失に注意を集中した。
そのうえ、一週間後に、第4爆撃航空団のＢ-17が英国に帰ってくると、彼らはさらに（八月十七日の二四機喪失に加え）六三機を失っていた。
これらのうち六〇機は、飛行不能と判断され、北アフリカに放置され（一部は砂漠の飛行場での修理設備の不備によるものであった）、英国の基地へもどる途中、さらに三機がエンジン不調で失われていた。
こうして八月二十六日までに第4爆撃航空団は、レーゲンスブルク爆撃の直接的な結果として、Ｂ-17八七機を喪失していた。乗組員が大陸から持ち帰った広報用の二葉の写真も、この不快な大損失を繕うことはできなかった。
損失は遺憾ではあるが、価値ある損失であった、とする擁護論がとりあげられた。
この二目標の同時攻撃作戦を、軍のあるスポークスマンが
「戦争が始まって以来の最も強烈な一撃」と呼んだことは、八月十七日の犠牲が同時に
「第8航空軍の歴史における最高最大の悲惨な日」であったことを釈明するものであることを立証している。
釈明の論拠は、二つある。敵施設の破壊（たとえば目標地区）、空戦での敵機破壊である。
シュバインフルトでは二大ボール・ペアリング工場（クーゲルフィッシャーとＶＫＦ第二工場）への直撃弾八〇発、その他の工場への「少ながらざる被害」、生産力の甚大なる低下が戦果として主張された。
さらに「鉄道の主要駅と、通信交通の中枢を一掃した」と主張された。
攻撃直後の偵察写真が広範な破壊の例証として示され、広報担当官の資料には「激甚な損害」……「めちゃめちゃにした」……「破壊した」などの言葉が多用された。
レーゲンスブルクの被害は「集中的かつ甚大である」と判断され、爆撃は効果的であった、としている。
ヨーロッパ大陸爆撃一年の頂点として、シュバインフルト爆撃について論評した米陸軍航空軍総司令官ヘンリー・アーノルド中将は、こう断言している。
「アメリカの主張――高々度精密爆撃――は疑念の域を脱却した。
その擁護論の誇るべき実験となった」
敵戦闘機に対する勝利の報告も、同様に威勢のよいものであった。
レーゲンスブルクとシュバインフルト攻撃隊は、両者で二二八機の敵機を撃墜した、と主張した。
あるパイロットは簡潔に「敵機はバタバタと落とされた」と報告し、またある航法士は「外を見ると、きたない雨の滴のように敵機の群れが落ちて行ったのを憶えている」と言った。
従って、爆撃によってドイツ空軍に関連した産業を破壊したことを全く別にすれば、Ｂ-17がドイツの航空兵力を、しだいに撃滅しつつあったことが立証されよう。 |
第一次シュバインフルト爆撃は生産を、わずか四週間、
阻害しただけであった
破壊されたクーゲルフィッシャー工場の一部
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このような誇張された報告は、民衆の恐怖を静めるためと、昼間爆撃を継続するための二つの目的に必要であった。
しかし、八月十七日の攻撃に対する評価は、実際には、かなり誇張されていた。
ヒトラー政権の軍需相アルペルト・シュペアーは、シュバインフルト被爆の結果、ボール・ベアリング生産は三八パーセント低下した、と見積っていた。
しかし、工場の修復は速やかに開始され、二大ボール・ペアリング工場は最高四週間の中断で生産を再開した。
クーゲルフィッシャーとＶＫＦ第二工場が爆撃されたことに疑いはないが、被害は決して広範なものではなかった（たとえばクーゲルフイッシャー工場は南側が影響を受けただけだった）。
ヒヒテル・ウント・ザックス社の被害は、きわめて軽微でＶＫＦ第一工場は事務所の一ブロックを失っただけであり、ＤＳＫ社は無傷のままであった。
事実、爆撃で最も大きな被害を受けたのは鉄道中央駅で、これは完全に破壊された。
敵機撃墜の報告も、正確ではなかった。
厳しい再検討が加えられた結果、撃墜一四八機、撃破一〇〇機とされたが、実際には二四機が撃墜されただけであった。
16 引き合わない勝利 top
おそらく当時、民間人と航空関係者の志気高揚のためにも、成功を確信することが必要であったのだろうが、時間をかけて検討し、もっと現実的な見解がとられるべきであった。
たとえアメリカ側の、シュバインフルトに与えた損害の評価が正確だったとしても、建物や器械は修理できるのである。
このことは、選択爆撃に対する論争の中に現実に存在する落とし穴であった。
成功するためには、目標は規則正しく攻撃しなければならなかったのである。
だからこそ、英国の経済相は「シュバインフルトは、ただちに再攻撃すべき状態にある」と断言したのである。
戦後、シュペアーは、一九四三年のこの段階で、規則的な攻撃が加えられれば、シュバインフルトの修復と減退した生産は大打撃を受けたと思う、と語っている。
もし、八月十七日の空襲を成功であったとするならば、それはピュロス王の勝利（注）のようなものであったと言えよう。
（注＝紀元前二七九年、アスクラムの戦いでローマ軍に勝ったが、両軍の死者は、ほとんど同じであったことから、損害の多い勝ち戦、引き合わない勝利をさす）
しかし、爆弾が現実に目標に当たろうと当たるまいと、なおかつアメリカの戦略爆撃理論を成功に導くためには、シュバインフルトを再度攻撃すべきであった。
しかも不幸にして、それはただちに実行することは、不可能であった。
八月十七日以降、第8航空軍はしばらくの間、再びあのような犠牲の多い危険を冒すことはできなかったのである。
もはや、北アフリカまで大飛行をする価値も疑わしく思われ、ドイツ防空陣は、ドイツ南部の奥深く侵攻されることを警戒していたので、二目標同時攻撃（ある作戦に対して、牽制のため他を攻撃するのとは異る）の着想も、その効果が失われてしまった。
いまやシュバインフルトを攻撃して帰るだけの、単独目的の作戦が緊要となってきた。
それは、自己防衛型の爆撃機と選択的精密爆撃についての概念に、将来性があるかどうかを立証することになろう。
またそれは、第8航空軍の全任務の上にも大きく影響し、さらに連合爆撃攻勢の運命にも影響を及ぽすであろう。
最初のシュバインフルト攻撃は、疑念を生起させただけであり、シュバインフルトとレーゲンスブルクに、兵力を二分する決定は誤った着想であったことが立証された。
シュバインフルト攻撃隊もレーゲンスブルク攻撃隊も、エイカーがこのような作戦に対して要求した、最少限三〇〇機の条件を充たされていなかった。
さらに、天候も作戦計画者たちや乗組員たちに味方しなかったのである。
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