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6 十月十四日、第二次空襲
一九四三年の八月下旬から九月上旬にかけての期間、第8航空軍の爆撃機部隊は「スターキイ」作戦に従事した。
この作戦は、大陸沿岸への短距離爆撃であった。
これによって、ドイツ側にヨーロッパ大陸北西部への進攻が、さし迫っていることを示し、ドイツ軍にこの方面に兵力を集中させ、イタリア戦域の連合軍と、東部戦線のソビエト軍の負担を軽減するととが狙いであった。
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英国の基地を発進、ドイツへ向かう第8爆撃兵団のＢ-17
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1 Ｂ-17を夜間作戦に使えるか？ top
九月末の悪天候で、ドイツへの作戦は制約されていた。
九月六日のシュツットガルトの工場群に対する空襲は、天候による被害が、きわめて大きいことを立証していた。
この作戦にＢ-17三八八機が英国から出撃した。
ドイツ戦闘機は、爆撃隊が目標地域に接近するまで、攻撃をさしひかえた。
そして、その後に重爆撃機の被害が出はじめたのである。
ネッティスホールの第388爆撃航空群の第563爆撃飛行隊は、この作戦に参加した全機を失った。
目標を確認できたのは一個戦闘梯団に過ぎず、シュツットガルト上空では数機のＢ-17が撃墜された。
そして帰路で一二機が燃料ぎれのため海上に不時着水し、海上救助隊が乗組員一一八人を救助した。
海没した一二機をふくめ四五機のＢ-17が、この作戦で失われ、その他五機がスイスに緊急着陸した。
シュツットガルト爆撃作戦の体験は、悪天候下における航法と、爆撃用の電子装置を使用する実験を、いっそう推し進めることに役立ったに過ぎなかった。
その一環として「オーボエ」とＨ2Ｓ（後者は機首下面に吊りさげられ、しばしば故障するので、乗組員たちに“鼻つまみ”と呼ばれていた）のレーダー装置が実際に採用され、短距離爆撃作戦で使用された。
「カーペット」と呼ばれる飛行機搭載用レーダー妨害装置も実験され、これを装備したチェルビストンの第305爆撃航空群第422爆撃飛行隊のＢ-17数機が、何回か夜間爆撃に参加した。
この結果、米陸軍航空軍の昼間爆撃論者にとって幸いにも、夜間爆撃のために「フォートレス」には、かなりの改造と、乗組員の集中的訓練をしなければ、夜間作戦は不可能なことが判明したのであった。
2 第8航空軍に航空爆撃師団創設 top
一方、重爆撃機の可能性についての楽観論が、要職にある人間の間から流れ出ていた。
ルーズベルト大統領は、ヨーロッパに関するドイツの関心は難攻不落の「ヨーロッパ要塞」である、と称し、議会で
「ヒトラーは、この要塞の上に“屋根”をかけることを迂闊（うかつ）にも怠った」と語った。
アーノルド中将もまた、第8航空軍が、八月十七日のシュバインフルトやレーゲンスブルク爆撃のような、一連の空襲を行なうことを期待している、と述べた。
このような作戦の準備のためには、八月中に補充機を英国に送らなければならなかったが、飛行機同様に乗組員補充の不足で、補充機の効果はやや阻害されていた。
新たに補充された中には、失敗に終わったＹＢ-40のように、前方防御火力を増すため、動力駆動のチン・ターレット（顎型回転銃塔）を備えたＢ-17Ｇの改装機が数機ふくまれていた。
Ｂ-17Ｆの後期型にも、このタイプの回転銃塔を備えたものが一部あった。
機材の改善同様、この頃第8航空軍内部では、作戦効率向上のため指揮系統の再編成が行なわれた。
九月十三日に、第1、第2、第4爆撃航空団が第1、第2、第3航空爆撃師団（重爆撃機）と改称された。
おそらくＢ-26の第3爆撃航空団が六月に、航空支援兵団に移管されていたからであろう。
すでに非公式になっていた呼称の臨時編成戦闘爆撃航空団は、正規編制となり、部隊番号が変更された。
これにより九月十二日には、第1爆撃航空団は第101臨時編成戦闘爆撃航空団（第91、第351、第381航空群）、第102（第92、第305、第306航空群）、第103（第303、第379、第384航空群）から構成されていた。
一日後に、各航空群については部隊番号の変更も再編成もなかったが、第1爆撃航空団は第1爆撃航空師団（航空の二字は、しばしば省かれる）となり第101、第102、第103臨時編成戦闘爆撃航空団は、それぞれ第1、第40、第41戦闘爆撃航空団と改称された。 |
（左）議会で「ヒトラーは“ヨーロッパ要塞”に“屋根”をかけるのを怠った」
と述べたローズヴェルト大統領
（右）犠牲の多かった1943年9月6日のシュツットガルト爆撃
機体を傾けてボール・ターレットとチン・ターレットを見せるＢ-17Ｇ
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この変更は、作戦の細部にいたるまで効果的に策定できるようにする運用上の便宜のためであった。
一つの例外を除いては、基地配置の変更も、指揮官の変更もなかった。
臨時編成戦闘爆撃航空団の指揮もとっていた、ある航空群司令は、新編成の戦闘爆撃航空団の指揮に専念することになったのである。
しかし戦闘隊形、すなわち三個飛行隊一六機で梯型編隊を編成し、これを三個集成して戦闘梯団とする方式は、そのまま踏襲されていた。
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Ｂ-17のフランクフルlヽへの攻撃で護衛のＰ-47は、ドイツ戦闘機隊を手ひどくたたきのめした
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3 ドイツ空軍の防空戦力増強 top
このように第8航空軍が第一次シュバインフルト空襲後、その作戦を反復する意志のあったことは明白である。
その計画を推進する準備が進められていたのである。
九月に米本土から容量七五ガロン（約二八四リットル）の落下式増加タンクが大量に到着した。
このタンクを使えば理論上、戦闘機の作戦行動半径を基地から五四〇キロに伸ばすことができるわけである。
しかし、英国製の一〇八ガロン（約四一〇リットル）タンク（理論上の行動半径の増加は六〇〇キロ）と同様に、この行動半径増加の数字は、単に直線飛行距離を示すもので、戦闘行動においては、もっと低かった。
十月四日、この七五ガロンと一〇八ガロンの落下タンクをつけた第56戦闘航空群のＰ-47が、フランクフルト爆撃のＢ-17を護衛した。
この戦闘では、Ｂf110双発戦闘機が戦闘梯団を奇襲し、その真っ只中に大きく緩いカーブを描いて落下するロケット弾を射ちこみ、強打を加えた。
このときのＰ-47は、記録的な一二〇〇キロを飛行した。
しかしドイツ空軍は、この戦闘機の航続距離増加の脅威に、速やかに対応した。
ドイツ空軍は「サンダーボルト」が海岸線をこえるときに戦闘機を出撃させ、戦闘行動では機動性を減殺する落下タンクを、投棄せざるを得ないように仕向けたのである。
ドイツ空軍の第1戦闘航空団と第26戦闘航空団のかなりの数のＦw190も、Ｂf110同様二一センチ・ロケット弾（長さ約こ一〇センチ、時限信管付き）を装備しており、いまやオランダ、ベルギーなどの上空での新戦術として、このロケット弾を爆撃機に向けて発射するようになっていた。
十月上旬に、第8航空軍が新たな奥地進攻を準備しているときに、ドイツ空軍は防空戦力の大幅な増強を始めていた。
事実、ドイツ本国に進攻する第8航空軍に直面する立場にある単発戦闘機（重爆撃機に対して最も効果的な）は、ドイツ空軍の動員可能機数の六五パーセントに達していた。
フランス、オランダ、ベルギーなどには、この頃になると第2戦闘航空団と、第26戦闘航空団の、わずか六個飛行隊が基地を置いているだけであった。
そしてドイツ本国には戦闘一九個飛行隊に相当する戦力が集中されていた。
第1、第3、第11、第300戦闘航空団の全機と、第5、第27、第51、第54戦闘航空団からの若干の飛行隊である。
これらの単発機を別にすれば、第26、第76戦闘航空団の双発戦闘機六〇機と、さらに夜間戦闘一六個飛行隊が動員可能であった。
連合軍同様、ドイツ空軍も使い捨て増加燃料タンクを開発していた。
しかし、ドイツにとって最も必要であったのは、英国の集合地点上空を旋回して、さし迫った空襲についてレーダーに早期警戒情報を与える、米軍大編隊の動向であった。
この早期警戒情報で、ドイツの防空陣は遠くから援軍を呼び寄せ、予想される目標地区周辺の基地で、燃料補給をして待機させることができたのである。
飛行機の改良も継続されていた。
Ｍe210（速度六四〇キロ／時以上）が、速度の遅いＢf110の後継機として配備され始めており、Ｊu88は、さらに装甲を強化し、二〇ミリ機関砲六門を装備する新型高速単発戦闘機Ｈe113が出現しようとしていた。
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マリエンブルク爆撃後にエイカーは、これを評して「ドイツに対する精密爆撃の模範的な例」と絶賛した
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4 米軍爆撃櫃の損害増加 top
十月の第二週中に、再びドイツに進攻した第8航空軍は、この増強された防空陣の威力を思い知らされた。
十月九日、三五二機の爆撃機が別個の三目標を攻撃した。
グディニャ（ポーランド）の海軍基地、マリエンブルクのフォッケウルフ組立工場、アンクラムの飛行機工場である。
マリエンブルク攻撃の結果は、特に印象的であった。
五九八発の爆弾（いずれも五〇〇ポンド高性能爆弾）のうち二八六発が目標地区の中に落下した。
エイカー少将は、この爆撃成果に感激して「精密爆撃の模範的な例」と評した。
しかし彼は、この目標がベルリンの東三〇〇キロにあり、従って第8航空軍が、これまでに実施した最も遠い目標であったが、事実上、無防備であり、爆撃は三〇〇〇～四〇〇〇メートルの高度から実施されたことには触れていない。
しかも、その日にはＢ-17とＢ-24二八機が失われていたのである。
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航法支援装置が急速に進歩したにもかかわらず、第8航空軍のＢ-17 は､しばしば発進できなかった
「フライング・フォートレス」30機が撃墜されたミュンスター空襲
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その翌日、Ｂ-17二三六機でミュンスターを攻撃した。二〇～四〇機のドイツ戦闘機が、爆撃機の機銃の射程外を、密集した梯形編隊で並行して飛び、一機または二機で急降下して戦闘梯団の最下段の編隊に襲いかかった。
Ｆw190とＢf109も梯団後方一五〇〇メートルからロケット弾を発射し、その後は通常の戦闘機の攻撃法で銃撃した。
そのうえ、Ｄo215、Ｄo217、Ｊu88が爆撃機に並行して飛び、ほぼ一三〇〇メートルの距離からロケット弾を発射し、その間には他の双発機が同じ距離から機関砲を射ちまくった。
爆撃隊は敵戦闘機一七七機撃墜を報告したが、事実は、一四機が失われ、九機が損傷しただけであった。
一方、Ｂ-17は三〇機（喪失率約一三パーセント）が失われた。
十月八日から十日の三日連続の出撃で第8航空軍は爆撃機八八機を失ったのである。
このお先真っ暗な情況下で、第二次シュバインフルト攻撃計画が進展していた。
ドイツ戦闘機の戦力増強は、いやが上にも拍車がかけられていた。
十月一日に英国の情報筋は、ドイツは西からの侵入を防御するために単発戦闘機八〇〇機、双発戦闘機七二五機を擁している、と推定していた。
六日後、米軍の公式文書は、一九四三年になってからの九ヵ月間に、この方面のドイツ単発戦闘機兵力は、三〇〇機から七〇〇機に増加し、双発戦闘機は三七〇機から五九〇機に増加した、と記録している。
シュバインフルト第二次攻撃の前夜、米軍側は総計一〇〇二機の戦闘機が西部戦域で動員可能と判断していた。
実際には、その数は単発戦闘機九六四機、双発戦闘機六八二機であり、この数字は「ポイントブランク」作戦以来、四〇〇機ほど増加していることを示している。
5 第二次攻撃実施に踏み切る top
米軍側の、ドイツ防衛戦力推定の不正確さは重要ではない。
敵戦闘機兵力が驚異的に増加していること、その脅威に速やかに対処する手段を構じなければならないことは、英米連合軍の双方にとって明らかであった。
もし、それができればボール・ベアリングを生産不能にするためのシュバインフルト再攻撃は、所期の目的を果たし、そのうえ自己防御型の爆撃機で、奥地ふかく進攻できる、という信念が充分に根拠のあることを立証できるであろう。
シュバインフルト第二次爆撃は、十月十日木曜日と予定された。
そして、同時に三ヵ所に侵入するよう計画された。
第1、第3の両爆撃師団から抽出されたＢ-17三六〇機が、五〇キロ間隔の二個攻撃隊となってオランダ海岸線をこえ、第2爆撃師団のＢ-24六〇機が第三の攻撃隊として、さらに南へ飛ぶこととなった。
Ｂ-17のコースは、通常の最大航続距離をこえるので“東京タンク”を持たないＢ-17は、爆弾搭載量を減らして、爆弾倉に臨時に燃料タンクを増設するように準備された。
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Ｐ-47の改良型はＢ-17の長距離護衛ができるようになった
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Ｐ-47一個航空群が、各攻撃隊を可能な限り奥地まで直援することとし、その他の戦闘航空群が、内陸一〇〇キロから海峡中部までの、帰路の直援にあたることになった。
落伍した被弾機の護衛には、英空軍の「スピットファイア」Ⅸ型の二個飛行隊が、攻撃隊の最後尾機が退路にあたる地区を去ってから五分後に、その地区を徹底的に捜索することとした。
そして、はるか西のノーソルト、ミドルエセックスの英空軍飛行隊も、必要となれば行動を起こす態勢におかれた。
そのうえ奥地進攻が危ぶまれた場合には、Ｐ-38Ｈを装備するナットパンプスデッドのフランク・ジェイムズ中佐の米第55戦闘航空群が、爆撃機の前方を警戒することまで考慮された。
しかし、このＰ-38は十月十五日以前には、作戦可能な態勢ではなかった。
その日、それまでの週の喪失機が多かったため、三六〇機の戦闘可能なＢ-17をそろえることは、不可能となった。
一例をあげれば、第100航空群はわずか八機しか参加できなかった。
こうした情況の中で第1爆撃師団が一六四機、第3爆撃師団が予備機をふくめ三六○機の「フォートレス」を、やっと準備した。
そのうえ天候は再び悪化して、雲が一面にたれこめ、作戦計画の実施を、ひどく妨げた。
飛行機が英国を出発する前に、Ｂ-24の出撃は中止された。
離陸できた「リベレイター」四九機のうち、集合地点に到着したのは、各戦闘爆撃航空団（リーランド・フィーゲル大佐の第93航空群と、アービン・レンドル大佐の第392航空群）の飛行隊の二四機に過ぎなかったのである。
その他の二五機は、ボドニイのジョゼフ・メイスン大佐の第352戦闘航空群の五三機のＰ-47と会同したが、他の機が発見できなかったので三〇分ほど旋回した後、爆撃機も戦闘機も共に作戦を断念した。
集合できたＢ-24の数が、第三の攻撃隊を構成するには、ほど遠い数であると判断されたので、彼らは五四機のＰ-47に守られて、北海のフリージアン諸島まで、平凡な陽動作戦を企てたのである。
Ｂ-24の牽制攻撃部隊がないということは、ドイツ軍に第2戦闘航空団、第26戦闘航空団の戦闘機を、Ｂ-17の二個攻撃隊に集中させることを可能とした。
また天候が、今回も編隊の集結に悪く影響したという事実は、さらに重要なことであった。
6 予期された苛烈な戦闘 top
翌日の大陸上空の天候は良好、という予報に照らして前日の午後、シュバインフルト爆撃に対する作戦番号一一五号実施の決定が、第8爆撃兵団司令部の定例作戦会議で下された。
ただちに各爆撃師団に、目標の秘匿名（これで情報将校はシュバインフルトが目標であることを確認する）や爆弾搭載量などを含む準備指令が発せられた。
一八〇〇直後に、Ｂ-17やＢ-24の爆弾搭載にかかる一九個爆撃航空群に指令が伝達された。
さらにルートの詳細や必要機数などは、夕方から十四日早朝までにテレプリンターで伝達された。
作戦要領説明は○七〇〇から行なわれ、各航空群は一〇〇〇から一〇三〇の間に離陸するための各個の離陸指定時刻を指示された。これは集合地点における攻撃隊形を整えるのを容易にするためである。
たとえば、ポディントンの第92爆撃航空群はＢ-17二四機を出し、一〇一二に離陸して第40戦闘爆撃航空団の先導隊として飛ぶことを指示されたのである。
乗組員たちは、例によって作戦要領説明に出席して初めて、目標地点を知らされた。
八月十七日に二五機出撃して、うち一一機を失ったリッジウェル基地での反応が、ある軍医によって次のように記録されている。
《シュバインフルトの地名が出たとき、乗組員たちは完全にショックを受けていた。……
多くの者が、再び帰っては来られぬだろう、と考えていたことは明らかだった》
ポディントン基地では、乗組員たちはシュバインフルトが
「全ドイツ中の最重要目標で、目標リスト中の最初に載っており、シュバインフルトを事実上、破壊してしまうか、最少限でも生産不能に追い込むまでは、次の目標に進むことはできない」
という情報将校の言葉に、ほとんど反応を示さなかった。
壇上の作戦参謀が、あまりにも何気なさそうな調子で、この作戦について“牛乳配達”のようなものだ、とする楽観的な所見を述べたのに対して、素直にこれを受けとめた者は、ほとんどいなかった。
しかし乗組員たちは、シュバインフルトが今では推定三〇〇門の八八ミリ高射砲（実に楽観的な見方であった）で防御されており、彼らはそれを避けて飛ぶようになっていたとは言え、目標付近の七分間はその対空砲火の集中する真っ只中を飛ばなければならぬことを聞いていた。
乗組員たちは、工場群が迷彩塗装で偽装されており、市の内外に爆撃手を混乱させる煙幕の輪が張られることも知っていた。
7 またしても悪天候下の出撃 top
爆撃コース進入地点、これを目ざして三個攻撃隊（Ｂ-17の二個攻撃隊と、集合に失敗したＢ-24の一部）がやってきたのは、シュバインフルトの南西三〇キロの地点であった。
乗組員たちは、ボール・ベアリング工場が第一目標（第3師団の一部は、他の工場の東に位置するＶＫＦ第一工場爆撃を特に指定されていた）であることを知らされていた。
市の中心そのものは、第二目標となっていた。急に天候が悪化した場合には、ルートビヒスハーフェンとザールブリュッケンが代替目標に選ばれていた。
第1爆撃師団の情報将校の中で、対空砲火の集中地帯は避けられるが爆撃機のルートが、ドイツ空軍の主要飛行場に、きわめて近いことを述べた者は、ほとんどいなかった。
作戦説明の終わりに第8爆撃兵団司令官アンダーソン准将が寄せたメッヤージが読み上げられた。
《本作戦は、今次大戦開始以来の最重要作戦である。
目標は必ず破壊しなければならない。
それは敵にとってきわめて重要なものである。
これまでも戦友が失われてきた。
今日もまた戦友が失われよう。
それは諸子の健闘いかんにかかっている。
彼らの犠牲を無にしてならない。
諸子の武運と、見事な防御戦闘、見事な爆撃を切に祈る》
身近にいない将軍からの感動的な激励の辞に、この手の訓話に慣れてしまっている者たちが、感銘を受けたかどうかは疑わしい。
彼らは、すでにシュバインフルトについては知り尽くしていたのである。
外は天候が悪くなっていた。ある基地は土砂降りになり、ある基地では霧雨が降りつづいていた。
離陸に要する視界は一五〇〇メートルと考えられていたが、どこもかしこも寒く霧が深く、完全に晴れているのは高度六〇〇〇メートル以上であった。
似たような情況のもとで行なわれた第一次シュバインフルト爆撃を思い起こせば、ある程度の遅延が起こるのは避け難かった。
またもやＢ-17攻撃部隊の形成に天候が災いした。航空群が集合し、梯団をつくり、攻撃隊を編成するのに電子装置の支援を受けたが、やっと出撃したのは第1、第3爆撃師団が、それぞれ一五一機と一四三機であった。
一八〇〇メートルの高度まで垂れ込めた雲で迷い、集合地点に到達できなかった機もあった。
また、機械的故障で基地へもどった機もあり、一機はターレイ基地で誘導路を踏み外し泥土の中に擱坐してしまった。
離陸以外の他の点でも、天候は重要であった。
編隊を集めるために例にない長い旋回をつづけたために、シュバインフルトヘ行くための燃料に不足をきたした機もあった（旋回や避退行助をしなくても、往復七四〇キロあった）。
その結果、北海上空で爆弾の一部を投棄せざるを得なかった。
さらに攻撃隊が行動計画より遅れたため、護術戦闘機の一部は爆撃機がまだ敵海岸線に近づかぬうちに、会合地点に到着してしまった。
8 乱れた戦闘隊形、変則のまま進撃 top
第1爆撃師団は、特に悪天候の影響で混乱させられた。
計画では、第40戦闘爆撃航空団が第1を上段に、第41を下段に配して先導梯団になる予定であった。
攻撃隊の指揮官バッド・ピースリー大佐は、第92航空群のＢ-17の副操縦士と交替し、副操縦士は尾部銃座を担当した。
攻撃隊指揮官に後に続く編隊の模様を伝えさせ、正確な情報を確保するために、よくとられる手段であった。
しかし、第305航空群は集合地点の雲が厚く、先導梯団の下段編隊の位置についていなかった。
このため第40航空団は二個航空群だけになり、当然、先導梯団としては最も攻撃を受けやすい存在になってしまった。
第1航空団が交替して先導梯団となり、第40航空団は先導梯団の左翼上段位置につき、ほぼ同じ高度で飛行した。
このため先導梯団は事実上、五個航空群の戦闘梯団になった。
こうして不運にも、この戦闘梯団の再編成で第91航空群は、シュバインフルト爆撃の命運を賭けた第一陣を務める先導編隊となったのである。
ところが、第40航空団がややかわった位置についたため、ピースリー大佐は知らなかったが、彼が予想していた五個航空群ではなく、この戦闘梯団はさらに強力な六個航空群の梯団になっていたのである。
なぜなら、行方不明の第305航空群は、実際には第1航空団の下段編隊に加わり、結果として第351と第381の両航空群が一緒になって上段編隊を構成していたからであった。
従って、第1航空団は四個航空群（個有の三個航空群と第40航空団の一個航空群）になり、第40航空団は二個航空群になっていたわけである。
先導隊が二個航空団となった奇妙な隊形をとった第1爆撃師団（第一攻撃隊として行動）は、防御火力の効率を弱めたことは疑いない。
やっと目標を目ざしたとき師団は、第91航空群を先頭に、第351と第381を上段に、第305を下段に配して、一個航空群増えて強化された第1航空団で構成されていた。
その後に二個航空群だけになった第40航空団が、上段と言っても、ほとんど先導梯団と同高度だが、第92航空群を先頭に、第306航空群を上段に配して続いた。
最後に第41航空団が、第379航空群を先頭に、第303を上段に、第384を下段に配して後を追った。
第3師団のＢ-17第二攻撃隊は合計七個航空群の三個梯型編隊で構成されていた。
第45航空団（第96航空群を先頭に第388を上段に）が先導して、第4航空団（第94と第355航空群）と、第13航空団（第95、第囲、第390航空群）が後続した。
9 護衛戦闘機、帰途につく top
第1爆撃師団は高度六一〇〇メートルで一二二〇にオーフォード岬をこえ、北海上を南西に向かってバルヘレン島を目ざして、着実に上昇を続けていた。
北海を半ばこえ、予定より一〇分遅れて第1爆撃師団は、メトフィールドのローレン・マコロム中佐の率いる第353戦闘航空群の「サンダーボルト」四四機と会同した。
第351戦闘飛行隊は「フォートレス」の上空に、第350は同高度で爆撃機を右に見て、第352は左上方に占位して飛行した。
バルヘレン島上空で第26戦闘航空団の二〇機以上のドイツ戦闘機が攻撃してきて、ただちに第352飛行隊が応戦した。第352は思う存分の格闘戦を演じて、首尾よく敵機四機を撃墜し、四機を大破させた。
他の二個飛行隊に守られたＢ-17は一二二五にシェルト河口をこえ、なお北東寄りの針路を進んでいた。
この針路を進めば、アントワープとアーヘンの防御厚い地域の東に出る。
ディーレン付近で第350飛行隊は、三〇機を撃退し、うちＦw190三機を撃墜した。敵戦闘機は「フォートレス」に一弾をも浴びせることはできなかった。
一二三〇、アーヘンに近づいたＰ-47は、味方一機と引き換えに（他一機が英国で墜落した）、一〇機撃墜、不確実撃墜一機、撃破四機の戦果を得て引き返した。
Ｂ-17はボンの西三〇キロの地点を目ざしてひた進み、一三四〇にそこで東北東に針路を変えた。
爆撃機の行程中この部分は、わずかな針路修整で、一四一〇にフランクフルトの北四〇キロの地点に出るために二一〇キロを飛ばねばならぬ特別な意味をもった区間であった。
つまり、ボンとコブレンツの間でライン河をこえることによって、爆撃機はルール地方の対空砲火の集中する地区を避けることができたのである。
フランクフルトの北のこの地点で、南南東に針路をとると爆撃機は、その東に出て、マイン河の南部に達する。
その結果、ドイツの防空陣は「フォートレス」がアウクスブルク、あるいはミュンヘンを狙っているのではないか、と考えたであろう。
マイン河の南一五キロ、マインハイムの東北東八〇キロ、ニュールンベルクの北西一一〇キロの地点で、爆撃機は急激に北東寄りに変針し（これでビルッブルクの防御の堅い鉄道集中地の西に到達できる）、シュバインフルトに向かって最後の五六キロを飛行した。
この間に、さらに多くの飛行機が失われた。第40戦闘爆撃航空団の、第92の上段を飛んでいた第306航空群は、目標到達以前に一〇機を失っており、ピースリー大佐は、この時点で第92航空群には一四機しか残っていないことを知った。
第40戦闘爆撃航空団だけで、シュバインフルトヘ到達する前に、二七機を失っていた。
11 第二攻撃隊は往路の損害、僅少 top
ドイツ空軍の攻撃の強烈さと、その機関砲、ロケット弾、空対空爆弾の協同戦術は、ドイツ空軍がＢ-17の侵入ルートを、くわしく知っていたことを暗示していた。
これが、シュバインフルト爆撃作戦が敵側に洩れていたのではないか、という強い疑惑を引き起こした。
シュペアーが後になって述べた見解では、ドイツ側はシュバインフルトの脆弱性に気づいていただけでなく、米陸軍航空軍が再び爆撃にくるであろう、と予想していたことを示唆している。
従ってドイツ防空陣がボール・ペアリング生産の中心地を、再度の攻撃から守る備えをしていたことは確実なのである。
目標に接近して、突然、北東寄りに変針したことは、ドイツ防衛陣を大いに混乱させ、爆撃機が目標へ到達するよりも前に、その行動を手控えさせる原因とはなったが、第1師団はシュバインフルトヘ到達する以前に三五機を失うという大損害を出したのである。
一方、第3爆撃師団（第二攻撃隊）の方は、一二二五にハーウィッチの南一六キロのネイズで英本土を離れ、大陸を目ざして東南東に針路をとった。
三〇分後、ノッケ付近でベルギイの海岸線をこえると同時に、サス・ファン・ゲント上空でヘイルズワース基地のヒューバート・ゼムケ大佐の率いるＰ-47護衛戦闘機隊に出会った。
攻撃隊は第1師団のとったコースに、ゆるやかに沿ってゆくコースをとっていた。
一三三〇、Ｂ-17二機が撃墜される直前に「サンダーボルト」五三機の護衛（損失なしに敵機三機撃墜、一機撃破の戦果を得た）は引き返してゆき、爆撃機はそこから約二五キロのオイペンの西へ向け、わずかに針路を修整した。
一二三五に、そこで第1師団のとったコースから外れて、ほぽ南に向かうコースをとり、トリエールとモーゼルの方向に向かった。
ルクセンブルクの東を飛ぶことは、爆撃機が対空砲火の集中するルールの西の外れを飛ぶことになり、ドイツ側に彼らがザールブリュッケン・メッツか、あるいはシュツットガルトに向かうものと思わせた。
一四〇五に第3師団は、トリエールの北西一六キロで一七〇キロ先のダルムシュタットに向かって真東に変針した。
この部分のルートはビースバーデン、マインツ、フランクフルトの南にいたり、シュバインフルトの北西六〇キロの進入地点へは、ダルムシュタット付近でもう一度、針路修整が可能であった。
第1師団とくらべれば、この第3師団の七個航空群の被害は、目標まではほんのわずかであった。
ルクセンブルク国境を離れるコース変更で、ライン河の東方の戦闘機群からは安全を保証された。
事情はともかく、その戦闘機群は第1師団を襲ったものであった。
攻撃隊がコブレンツ・マインツ地区からモーゼル・ダルムシュタット地区に進出するまでは、被害を受けるような攻撃は、ほとんどなかった。
事実、トリエール地区まで激しい迎撃は、受けなかったのである。
目標までに先導編隊の第96航空群は、一機を失っただけであった。 |
被弾中のグーグルフィッシャー工場
シュバインフルト上空のＢ-17 「フォートレス」
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