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五章　性奴隷にされた女性

　1　日本軍専用の性奴隷 top

　韓国の蔚山（ウルサン）に住んでいるお婆さんを訪ねた。
　私がその女性に会うのは初めてである。アパートのドアを開けると、キムチが入った大小いくつもの容器が狭い部屋の中に広げられていた。
　ちょうど、キムチを小さな容器に移し替えている最中なのだ。
　皿に盛って出されたそのキムチは、私が今までに食べた中で最も辛いように思えた。
　最近の健康状態から話を聞こうとしたら、それをさえぎるように「話したいことがある」と言う。
　彼女はせきを切ったように大きな声で話し始めた。
　顔が次第に紅潮していくのがわかる。
　「テレビから日本語が聞こえるとスイッチを切るんです。
　日本人を街で見かけると殺したいと思う時があります。死ぬ前に必ず復讐したい！」
　その激しい言葉に、私は口をはさむどころか顔を上げることもできず、彼女のまくしたてる話をただひたすらノートに書き続ける。
　カメラを向けるなど、とてもできるような雰囲気ではない。
　先ほどの辛いキムチと厳しい話のためか胃が痛み始めた。
　彼女は、日本軍によって「慰安婦」にされた女性である。
　この女性が日本人に自分の体験を話したのは初めてだという。
　地獄のような体験を自分に強要した日本国家と日本人への怒りを一気に吐き出しているのだ。
　私の、元日本軍「慰安婦」たちへの取材は、このようなことの繰返しだった。
　どの被害女性も日本への厳しい言葉を投げつけてきた。
　興奮した女性に、録音中のテープレコーダーをはじき飛ばされたり、バッグで叩かれたこともあった。

　日本によって被害を受けたさまざまな韓国・朝鮮人を取材している中で、「いつかは会って話を聞きたい」と思い続けてきたのが日本軍「慰安婦」にされた女性たちだった。
　日本がアジアの国々で行った加害行為の中で、女性たちを日本軍「慰安婦」にしたことは、とりわけ非人間的で残酷な行為だったからだ。
　だが、自分の意思で積極的に体験を話してくれる人は誰もいなかった。
　ところが一九九一年八月、韓国で一人のお婆さんが名乗り出たのである。
　その勇気あるに女性は金学順（キムハクスン）さん（一九二四年生まれ）だった。
　両期的なことが起きたと思った私は、彼女に会うためソウルへすぐに向かった。
　全学順さんに続いて名乗り出ようとしている被害女性たちがいることを知り、私は立て続けに会って話を聞いた。
　その後、韓国だけでなく朝鮮・台湾・フィリピン・中国・インドネシア・マレーシアから、日本軍「慰安婦」だった女性たちが次々と名乗り出たのである。
　インドネシアで被害を受けたオランダ人女性も体験を公表した。
　朝鮮の平安南道（ピョンアンナムド）で暮らしている李京生（リギョンセン）さん（一九一七年生まれ）は、亡くなった夫にも日本軍に受けた被害は話さなかった。
　「当時を思い出して夜中に何度飛び起きたことか――。
　胸の内にしまってきた過去を告発して楽になりたいと思い、何日も考えたすえに平壌のテレビ局に名乗り出たのです」
　フィリピンのパナイ島に住むトマサ・サリノグさん（一九二八年生まれ）は、自分の毛布を一〇〇ペソ（約五〇〇円）で売って交通費をつくり、被害女性たちを搜している女性団体の事務所へ行った。
　どの国の女性たちも、日本軍に受けた忌まわしい体験は誰にも知られないようにひたすら隠し続けてきた。
　だが、永遠に続くかと思われたその沈黙が突然破られたのだ。
　どの被害女性たちも、日本軍によって奪われた人間としての尊厳を取り戻すために名乗り出たのである。
　歴史の闇の中に葬り去られようとしていた国家による重大な犯罪が、彼女たちの勇気ある告発で次々と暴かれ始めた。

　ところで、社会で一般的に使われてきた「従軍慰安婦」という言葉は、彼女たちが受けた被害の実態とあまりにもかけ離れている。
　被害女性たちは、自らすすんで「従軍」したわけではないし、兵士たちが長期にわたって集団で強姦した行為を「慰安」とは呼べない。
　例えば廬清子（ノチョンジャ）さん（一九二二年生まれ）は、豆の種を畑でまいている時に日本兵たちに捕まった。
　三台のトラックに乗って来た一〇人の兵隊が、目についた若い女性をかたっぱしから荷台に押し込んだのである。
　廬さんは、五日後には結婚することになっていた。この時に捕まった三八人の女性たちは、中国の最前線部隊に連行され、毎日二〇〜四〇人の日本兵に強姦された。
　「皇軍」 * が人狩りまでしていたのである。
* 皇軍＝天皇が率いる軍隊。旧日本陸軍・海軍のこと。

　連行方法で最も多かったのは、日本軍の依頼を受けた民間業者が、「食堂の仕事」などと若い女性をだまして「軍慰安所」に送るという手口だった。
　貧しい家庭で育った文玉洙（ムンオクジュ）さん（一九二四年生まれ）は、「食堂で働いて故郷に金を送ったら家族が楽に暮らせる」という言葉を信じた。
　ところが、一五〇〜二〇○人の女性と共に送られだのはビルマの「軍慰安所」だった。
　「だまされたことがわかり、みんなびっくりしたのです。それからは昼も夜も泣いていました。
　川に飛び込んで自殺した人もいます」
　文さんは、多い日には七〇人もの兵隊の相手をさせられた。
　彼女と一緒に大邸（テグ）から行った一七人の中から、投身自殺・薬物自殺・肺病での病死・船の沈没で四人が亡くなった。
　日本軍「慰安婦」にされた女性たちは、暴力的にせよ、だまされたにしろ人間としての最低限の自由さえ奪われ、死ねば代わりの女性が次々と連行されて来るというように　“消耗品”として扱われていた。
　これは奴隷そのものだ。
　「軍慰安所」によっては女性たちに金を支払ったこともあったようだが、女性たち自身の意思に反して連行したという本質に変わりはない。
　彼女たちが日本軍から受けた行為を正確に表現するならば、決して「従軍慰安婦」などではなく、「日本軍専用の性奴隷」というべきである。

　2　差別社会が生んだ「従軍慰安婦制度」 top

　一九一八年、日本はロシア革命を妨害するため「シベリア出兵」 * を行ったが、その時に多くの兵士が性病にかかった。　そのため日本軍は、一九三一年の「第一次上海事変」 * で侵攻した中国において、最初の「軍慰安所」を設けたという。
* シベリア出兵＝一九一七年のロシア革命で成立した社会主義政権を倒すため、翌一八年、日本・米国・英国・フランス・イタリアなどが軍隊を派遣したこと。　日本は、他の国々が撤兵したあとも一九二四年まで干渉しつづけたが、膨大な戦費と死者約三五〇〇人を出して失敗に終った。
* 第一次上海事変＝一九三二（昭和七）年一月一八日に日本軍の謀略から日本軍と中国軍との間で始まった「満州事変」に関連した戦闘。

　これ以降、日本軍が侵略した場所には、激しい戦闘が行われている最前線であろうとも「軍慰安所」が部隊の中かその近くに設置された。
　日本軍は、将校・兵士が性病にかからないようにするため、日本軍管理下の「軍慰安所」において健康な女性たちに性的相手をさせる制度を考え出したのである。
　日本軍「慰安婦」のほとんどは朝鮮やアジア各国の女性たちである。
　少数だけいた日本人は、貧困のため遊廓に身売りされていて「軍慰安所」に移った女性たちだった。
　日本軍が必要としていた膨犬な数の「慰安婦」は、拉致したりだましたりしなければ集めるのは不可能だった。
　それを日本人女性にではなく、朝鮮やアジア諸国の女性たちに行ったのは、日本のアジアの国々への民族差別の表れである。
　そして、女性たちを暴力でおどしながら、兵隊という男性の性的な相手をさせたことが女性差別なのは言うまでもない。
　この制度は、民族差別と女性差別が根強くあった当時の日本社会の中から必然的に生み出された。
　差別社会・日本を象徴した存在ともいえるだろう。

　日本軍の性奴隷にされた女性たちの話は、それまでの戦争被害者への取材で聞いたどの体験よりも衝撃的な内容だった。
　彼女たちは、過酷な体験をさせられたというだけでなく、性的な虐待を受けたために肉体だけでなく心に大きな傷を負ってしまった。
　戦後になって生まれた私は、植民地支配や侵略戦争に直接かかわってはいないが、自分の国が他民族に行った非人間的な行為を日本人として深く恥じた。
　しかも、男である私にとって、彼女たちの話を聞き続けるのは針のムシロに座らされているように辛く、この取材をやめてしまおうと何度も思った。
　被害女性たちの怒り・悲しみ・苦しみを真正面から受け止めようとすればするほど、自分の内にある民族差別・女性差別の意識が厳しく問われたからである。

　3　植民地と占領地の被害女性 top

　日本軍が「軍慰安所」を設置したのは、軍隊を送り込んだ中国・香港・フィリピン・インドネシア・ニューギニア・タイ・ビルマなどが中心だった。
　それだけでなく、朝鮮・台湾・サハリンなど日本が統治していた地域と日本本土・沖縄にも設けられた。
　つまり、日本の陸軍・海軍が駐屯したすべての地域である。
　日本が殖民地支配していた朝鮮・台湾で集めれた女性たちは、占領地まではるばると船で運ばれた。
　そこの「軍慰安所」へ入れられてからは、生活は厳密に管理されて厳しい監視下に置かれた。
　そのため、逃亡が成功でもしない限り日本の敗戦まで監禁され続けている。
　現在、朝鮮の咸鏡北道（ハムギョンブクド）在住の李福汝（リボクニョ）さん（一九一九年生まれ）は、中国の「軍慰安所」に八年間もいたという。
　平壌市内で話を聞いた。
　「兵隊の相手を拒否したということで、私たちの目の前で二人の女性が乳房をえぐり取られて殺されたのです。
　私はここから逃げることにしました。
　最初に捕まった時には、逃げ出せないようにと足の神経を切られました。
　それでも逃げようとしたところ、鉄条網に付けられていた鈴が下をくぐった時に鳴ってしまったのです。
　兵隊たちは、赤く焼いた鉄板を私のお尻に押しつけました。
　この火傷のため、今でも歩くのが難しいし、痛くて横になることもできないほどです」
　にらむような厳しい表情で話をしていた李さんは、気分が悪くなったということで、付き添いの女性に抱えられながら部屋の外に出て行った。
　日本軍は次々と戦線を拡大したため、植民地から連行してきた女性たちだけでは人数が足りなかった。
　それをおぎなう形で、占領地の女性たちをかたっぱしから連行して強姦・監禁した。
　インドネシアでは、二万人以上もの女性が日本軍によって性的被害を受けたと名乗り出ている。
　フィリピン・中国などでは、侵略して来た日本軍に住民たちは根強く抵抗した。
　「皇軍」はそれに対し、赤ん坊からお年寄りまでを皆殺しにし、女性たちを強姦した。
　この女性たちはその場で殺されるか、「軍慰安所」に連行されて一定の期間を兵隊に強姦され続けた。
　連行される際に目の前で家族を殺された人がいる。
　フィリピン人のトマサ・サリノグさん（一九二八年生まれ）は、まだ初潮も迎えていない一三歳の時、自宅からあまり離れていない「軍慰安所」に連行された。
　「夜中、二人の日本兵が家の中に侵入して来ました。一人は大尉でした。
　お父さんは、『隠れるように』と私に言いましたが見つかってしまいました。
　私が連れ去られるのを止めようとしたお父さんは、大尉に刀で切られたのです。
　私が駆けつけて抱きしめた時には、お父さんの首は胴体から離れていました」
　フィリピン人のマリア・ロサ・ヘンソンさん（一九二六年生まれ）や中国人の万愛花（ウァンアイファ）さん（一九二九年生まれ）のように、抗日運動に参加していて日本軍に捕まった女性たちもいる。
　万さんは次のように語った。
　「山西省に入って来た日本軍は、あちこちで三光作戦 * を行ったのです。
* 三光作戦＝「日中戦争」で日本軍が行った非人道的な掃討（そうとう）作戦。
　　　　　　　　　「三光」とは「焼光（焼きつくす）」「殺光（殺しつくす）」「搶光（奪いつくす）」のこと。

　隣村では殺した村人を井戸に投げ込んでうめてしまいました。
　私の村の副村長は、キリストのように両手両足をクギで壁に打ち付けられ、何日間も血を流して死んでいきました。
　日本軍を憎むようになった私は、一一歳から抗日運動に参加しました。
　ところが、一九四三年のうちに三回も捕まったのです。
　毎日、多数の日本兵に強姦され、何度も気絶しました。
　三度目に捕まった時、腰の骨やあばら骨が折れるほど殴ったり蹴ったりされました。
　そのため体は変形し、一六五センチあった身長は一四七センチに縮んでしまったのです」
　このように、占領地の女性たちは死と隣合わせの状況の中で日本軍の性奴隷にされた。
　占領地の女性たちが入れられた「軍慰安所」は管理がおおざっぱで、医師による性病検診もほとんどなく、コンドームを使わない兵隊も多かったという。
　「従軍慰安婦制度」の重要な目的のはずの「性病防止」さえ行われなかったのだ。
　そして、占領地の被害女性たちは、自宅からあまり離れていない「軍慰安所」に連行された。
　そのため彼女たちは、自分が兵隊の相手をさせられた建物やその跡を今でも容易に捜し出すことができる。
　また、彼女たちが連行・監禁されたようすを目撃している証人も多い。
　日本軍によって「慰安婦」にされた女性たちの総数は不明である。日本政府が、資料を廃棄して事実を隠してしまったからだ。
　よく言われている八万人とか二〇万人という数字は推測でしかないが、占領地で被害を受けた女性たちを合わせると膨大な数であったのは間違いない。

　李貴粉（イクィブン）さん（一九二七年生まれ）の場合は次のようだった。
　「故郷に戻ると、お母さんは私を見て『知らない』と言ったのです。
　私の顔があまりにも変わってしまったからです。
　首のホクロを見てようやくわかり、手を取り合って泣きました。
　お母さんには『捕まってからは日本の工場で働いていた』と言いました。
　そのため、『嫁に行け』とさかんに言われたのです。過去を隠して結婚したら相手の人をだますことになるので、結婚はしませんでした」
　「軍慰安所」に監禁されていた女性たちは、淋病・梅毒といった性病を予防するための注射を打たれ続けた。
　その後遺症などによって、結婚しても子供ができなかった人は七割以上もいると被害女性たちは言う。
　私が驚いたのは、戦争が終わって半世紀以上もたった今でも、梅毒や精神的な後遺症に苦しんでいる人たちがいることだ。
　忠清北道（チュンチョンボクド）に住むある被害女性の指先は、梅毒でできた潰蕩によって形が崩れている。
　「梅毒の後遺症が指だけでなく喉・腹・足などに出ています。今でも薬を飲まないと体がかゆくてたまらなくなります」
　後遺症がひどかったために仕事もあまりできず、「死んだほうがまし」と思ったこともあるという。
　金卿順（キムキョンスン）さん（一九二七年生まれ）は、「帰国してからの一〇年間は、部屋に鍵をかけて外には一歩も出ませんでした。
　精神的なショックを受けたため、対人恐怖症になってしまったからです。今でも人が怖いです」とポツリポツリと話した。
　日本軍に受けた大きな心の傷は、金さんを実際の年齢以上に老けさせている。

　インドネシアの首都ジャカルタから南に約九〇キロのスカブミを訪ねた。
　地域の人たちが使う大きなホールに、イスラム教徒のベールをかぶり、色とりどりの民族衣装で正装した女性たち二〇人が私の到着を待っていた。
　その中に、日本軍将校によって連行されたあげく妊娠までさせられたドリス・スマンポウさん（一九二七年生まれ）が、その子供である息子のエディーさんを連れて会場に来ていた。
　「戦後、日本兵の子どもを生んだ女性は殺されると思いました」と彼女は言う。
　日本軍は、インドネシアやフィリピンを占領すると、そこに戦前から移民していた日本人を徴用した。
　フィリピンのパナイ島に住むロルデス・ディビナグラシアさん（一九二四年生まれ）は、日本兵たちによって強姦され続けただけでなく、現地召集された日本兵の子供たちの世話までさせられた。
　「日本軍が島からいなくなると、フィリピン軍は日本人の子供を搜しては復讐のために殺していました。
　私は『この子は私の子供で日本人じゃない』と泣いて訴えたのです。
　フィリピン人の子供たちからの中傷や喧嘩からも守ってやらねばなりませんでした」
　彼女は、その子供・清彦さんと今も一緒に生活している。
　このように、かって日本軍に占領された国々には、日本兵の子供を生まされたり苦労しながら育ててきた女性たちがいるのだ。
　加害者である日本兵たちは、占領地女性たちを凌辱して地獄のような苦しみを与えた時のことなどすっかり忘れているだろう。
　だが、被害を受けた女性たちの方は、はるか昔に受けた肉体的・精神的な傷に今でも苦しんでいる。
　被害はまだ終っていないのである。

　5　今も続く「従軍慰安婦制度」 top

　「元日本軍『慰安婦』の女性たちがソウルの日本大使館前で割腹自殺をする」。
　電話でそう連絡を受けた私は、直ちにソウル行きの飛行機に乗った。
　一九九四年一月のことだ。
　白のチマ・チョゴリ姿に鉢巻きを締めた三人の被害女性たちは、ふところから短刀を取出したところで警察官に取り押さえられた。
　三人とも、取材をとおして私が良く知っている人たちだ。
　混乱の中で失神した彼女たちは救急車で病院に運び込まれた。
　ベッドの上に横になり点滴を受けていた李容洙（イ　ヨンス）さん（一九二八年生まれ）は、私に気がつくと涙を流しながらしがみついてきた。
　どの国の被害女性たちも、自分の体験が明らかになれば日本政府は責任を認めて謝罪するだろうと思い、大変な勇気を出して名乗り出た。
　ところが、いつまでたっても日本政府は誠意ある対応をしない。
　そのため、絶望的な気持ちになった被害女性たちが、自らの命を断って抗議しようとしたのだった。
　「自分が生きているうちに、心からの謝罪と補償をして欲しい」という願いを、日本政府はかたくなに拒否し続けてきた。
　そのため、韓国・フィリピン・中国・オランダの被害女性たちは、日本政府を相手にいくつもの訴訟を起こした。
　また、ソウルとマニラの日本大使館前で抗議行動を続けてきた。
　年老いた韓国人の被害女性たちは、真冬には氷点下一〇度にも下がる寒さの中でも、毎週水曜日には大使館前に集まり、日本政府に向けて怒りをぶつけている。
　名乗り出た女性たちから、亡くなる人も増えている。
　フィリピンのパナイ島を訪ねた時、「補償が出たら、そのお金で具合の悪い鼻の手術をしたい」とコラソン・コルネルさん（一九二〇年生まれ）は語っていた。
　だが、それから三ヵ月後の一九九三年二月に亡くなってしまった。
　フィリピンで名乗り出た被害女性一六九人の中で一七人（一九九七年一一月現在）が、韓国では一七八人中の二〇人（九六年一一月現在）が死亡した。

　日本軍がつくり出した「従軍慰安婦制度」 * は形を変えて現代に続いている。
 * 人類の歴史でこのような制度をつくった国家はいまだかってありません。
　　だから恥ずかしいからそんなことはなかったと、いつまでも否定をつづけているのです。　

　例えば、アジアの国々へ集団で買春に行く男性とそれを容認する妻、日本に働きに来たアジアの女性たちへの売春の強要、「国連平和維持軍」として海外派兵された「自衛隊」にコンドーム支給が検討されたことなど――。
　これらを見ると、「従軍慰安婦制度」を生んだ過去と今とは本質では変っていないことがわかる。
　沈美子（シムミジャ）さん（一九二四年生まれ）さんは、
　「日本軍によって監禁され暴行された私たちについて、日本の若い人たちに教科書で教えて欲しいのです」と言う。
　同じ過ちを二度と日本に繰返して欲しくないからだ。
　過去の過ちに責任をとろうとしない日本政府だけでなく、民族差別・女性差別を許してしまっている一人ひとりの日本人が聞かれている。