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7　安いジープは、ほんとうに買えるのか？

　ジープの人気は衰えるどころか、ますます高くなっている。特に機械いじりの好きな若者の間にある、ジープを持ちたい、という気持のおかけで、ジープは売り手市場になっている。
　そして、若者の願望が、安いジープがある、という広く信じられた神話を生んだ。

1 詐欺のネタになったジープ top

　アメリカでは、ジープを買おうと思った人なら、木枠に入った新しいジープを五〇ドルとか一〇〇ドルとかで買ったという人――ふつうは友達の友達――の話を、一度やニ度は聞いているはずである。
　イギリスでも同じような噂が二〜三年ごとに流れるが、価格は三〇ポンドから八〇ポンドとなっている。
　また、木枠に入った軍用のハーレー・ダビッドソンの買い物の話もあり、こちらは「一〇〇台買うなら一台あたり三〇ドル」である。
　余剰物資の売却を担当する兵站サービス・センターの広報官は、こういう話を一笑に付す。
　新品のオートパイが放出されることは、どんな値段であってもあり得ないし、ジープについて言えば、放出品は程度が悪く、重要な部品が付いていないこともある。
　安いジープがあるという信仰は、願望の産物にすぎない。

　余剰物資のジープを買うことはできるが、修理が必要であり、すっかり作りなおす必要のあることも多い。
　そしてその価格は、乗れる状態にするための工賃を除いても、五〇ドルという安値であることはけっしてない。
　それでも、ただ同然で買えるジープがどこかにある、という信仰が根強いので、詐欺師たちがそれにつけこんで、ありもしないジープを売って高飛びする事件が跡を絶たない。
　アメリカ政府当局は、こうした詐欺師を何人も逮捕して有罪にしている。
　安売り屋でバカ安い値段の付いたジープは、他の商品を売るためのオトリ商品として使われる。
　ここに掲げるアメリカの雑誌に絨った広告は、この手のものである。
　「ジープ、五三ドル九〇セント。トラック、七八ドル四〇セントより。飛行機、タイプライター。ボート。衣類。キャンプ用品。スポーツ用品……。品名一覧表と余剰物資部門別カタログ、一ドル」

2 公式の競売でも安くはない top

　ところが、兵姑サービス・センターに直接請求すれば、品名一覧表と余剰物資部門別カタログは無料で送ってもらえるのである。
　そういうことを知ったうえで、なおかつジープを買いたいと思っており、そのためには多少の手間暇は借しまない人のためには、次の方法がある。
　アメリカ合衆国での最もよい方法は、政府の競売人名簿に登録することである。
　ここに登録された人は、自動的に余剰ジープや歯科医療器具から歌集まで何千という品物の入札に参加する、最もよい機会にめぐまれ、もしそんなものがあるとすればの話であるが“安い”ジープを手に入れるチャンスも得られるのである。
　最近の国防省の規則では、余剰物資を中央の機関を通じて処分することになっており、どの部隊の余剰資産でも、すべて一つの窓口から売却される。
　この窓口では「次期放出品」の完全な目録を、すべての軍事施設を通じて発行し、政府が使用しなくなった国防省の資産を売却する。
　入礼者名簿に名前を載せてもらうには、次の所に申し込む。

　DoD Surplus Salen ； Dept RDL‐02，PO Box 1370， Battle CreekMichigan 49016.

　すると必要な説明書と入札資格申請書の用紙が送られてくる。
　ジープが目録に載ることは、そう頻繁にはない。余剰車輛の数がまとまるまで国防省が待っているからである。
　売却方式はオープン・オークションとシールド・ビッドの二つの方式がある。
　オープン・オークションは開催される回数が少ないが、品物の程度がよく、競売場で品物を調べることができる。
　欠点としては開催頻度が少なく、ジープの品物もまあまあのため、入礼者の数が多くて競争率が高いことである。
　また、買おうと思う人の家から違い場所で開かれることが多いので、一台だけ買いたい人には向かない。
　それでも非常な幸運にめぐまれて、財布もずっしり重ければ、個人入礼者でもジープを買うことができ、欠けている二〜三の部品を取り付けて、ちょっと修理すれば、乗れる状態に仕上げることができる。
　それでも誇りをもって乗れる状態にするには、かなり手をかけなければならない。
　ここで競売されるジープの程度を知ってもらい、後に述べるシールド・ビッドのパンフレットとの違いを知ってもらうために、一九六八年のオープン・オークションで競売されたジープの説明書をあげておく。

　オーブン・オークションの入札希望者が、前もって知っておくべき制約は、説明書に記載されている。
　重要な二つの条件は、入札は入礼者自身かその代理人が行なうこと（郵便での入札は認めない）と、落札価格の二〇パーセント以上を入札日の業務終了時までに支払うことである。
　シールド・ビッドは購入できるチャンスがもっと多い。
　入礼者はパンフレットの情報を頼りに（行って調べることもできる）、郵便で入札を行なう。
　他の入礼者がいくらの値段をつけるか、自分でいくらの値段をつけたらよいのか、経験がないことにはわからない。
　パンフレットの例でジープの程度を示す。これは一九七〇年夏に売却されたジープについての記述である。

　二つのジープのうち初めのものの方がよく、落札価格は四八五ドルであった。
　後の方はクルマとは認められないほどで、この時の競売での最低価格。一九〇ドル五〇セントであった。
　この競売での最高価格は程度中の一九六三年Ｍ151で、一〇三〇ドルであった。
　一九七一年五月のシールド・ビッドでは、程度下のＭ38ジープが三八九ドルから七三二ドルであった。
　五〇ドルの新車ジープとは、こんなものである。
　中古のジープがたくさん放出されていた一九四六年でさえ、一台あたリ七〇〇ドルはしていた。

3 放出ジープ真の価値は top

　一九六二年から余剰ジープを買って復元してきたルイス・バレンテは、最近は需要が多くなって「信じられないほど価格が上がった」と述べている。
　彼はスクラップとして目方で放出されたジープを買ったこともあるが、初めのころはトン〔ロング・トン＝一〇一六キロ〕あたり一四ドルであった。
　それがどんどん値上りして、今では二〇〇ドルになっている。
　バレンテ氏も他の中古ジープ業者と同じように、お客から五〇ドルか一〇〇ドルの新品ジープの話を聞いている。
　お客は、その話をしてバレンテ氏の値段が、高すぎる、と言おうとするのである。
　バレンテ氏は次のように言う。
　「うちのお客さんで、ペンシルベニア州のチェンバースバーグにあるレターケンリー補給廠の大佐と知り合いの叔父さんがいて、新品のジープを一台一〇〇ドルで手に入れられるという人がいた。
　私は一台二〇〇ドルで一〇台まとめて買おうと言った。
　彼は、この取り引きで一〇〇〇ドルの儲けになるのだ。
　……それから三週間ほどたって、この人がまた私の店にやってきて、彼の錆びついたジープのボディと載せかえるために、私の店から中古のジープのボディを七五ドルで買っていったよ」
　もう一人のジープ復元業者アルバート・ビショップ氏は、五〇〇ドルで買った放出品のＭ38に、部品代として二二〇ドルかかり、これには工賃が含まれていない、と言う。
　彼は悲しそうに、こう言う。
　「新品同様のジープが五〇ドルで売っている所を知りたいものだ。
　私の父は一九四五年から政府放出品の商売をやっていたけど、新品のジープなんて一回も買ったことがないんだ」
　「フォア・ホイーラー」誌一九六八年十二月号で、チャールズ・マッキントッシュは放出ジープを復元する費用の総額に関する単純な公式を発表した。
　彼の計算によると、もとの売り値がいくらであっても、ユーザーの手に渡る時は、はぼ一〇〇〇ドルになるという。
　「つまり、“安いジープ”を二〇〇ドルで買うと、八〇〇ドルの部品を買わなければならないんだ」
　それから彼はおきまりの警告を付け加える。
　「そして、これには工賃がはいっていないんだよ」
　イギリスやヨーロッパ大陸では、これより少々高くなりそうである。

　こうして出来上がったジープは、それだけの手間をかける値打ちがあるのだろうか？
　ジープ・ファンにとって答えはもちろん“イエス”である。
　ジープ・ファンの集まりや一般道路で、美しく復元されたジープを見ると、ジープ・ファンがたくさんいることがわかる。
　レストアされたジープの所有者は、歴史の断片を運転しているのであり、お金待ちの飛行機ファンが、大金を投じて見事な状態に保っているＰ40や「スピットファイア」を飛ばし続けているのとよく似ている。
　何世代にもわたって魅力をもち続けているという点で、ジープに匹敵する製品は数少ない。
　従軍記者アーニー・パイルの言葉は、本人は気付いていなかったであろうが、まさに予言していた。
　「あいつは、なんでもやってくれます。どこにでも行ってくれます」
　彼は感嘆して、こう付け加えていた。
　「それでも進み続けます」
　まさに、そのとおりである。