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　　6　新中国の建設

　　　1 スターリンと会う top

　日本との戦争中も、ソ連は蒋介石政府をたすけていたし、アメリカ大統領からの使者にも、毛主席の中国共産党は本物ではない、などといっていた。
　戦争が終わるとスターリンは国民党政府と同盟条約をむすんだ。
　人民解放軍が南京を占領したあとでも、ソ連の大使館は蒋介石について広州までいった。
　スターリンは中国共産党が勝つとは思っていなかったようだった。
　だからソ連軍は、はじめ東北を占領していたのだが、占領地を解放軍にひきわたさないで、国民党軍にひきわたした。
　毛主席はスターリンと会って、スターリンのまちがった見方を正さなくてはならないと考えていたのだ。
　十二月十六日、毛主席はモスクワの飛行場についてスターリンの出むかえをうけた。
　毛主席はそれから二ヵ月、毎日のようにソ連の工場を見てまわり、これからの中国を工業化してゆくにはどうしたらよいかを考えた。
　毛主席は、さきに社会主義の国になったソ連が中国にたくさん援助してくれるはずだと思った。しかし、スターリンはけっきょく三億ドルだけ貸してくれる（返さなくてはならない）ことを約束して、中ソ友好同盟条約がむすばれた。
　三億ドルというのは、アメリカが蒋介石政府にやった十六億ドルにくらべて、ずいぶん少ない。
　毛主席は、ちょっとさびしい気がしたのではないだろうか。
　共産主義になれば、国境というものがなくなって、世界じゅうの人がすきなだけ、食物でも着物でも日用品でも手に入れられるようになり、さきに革命をした国は、あとから革命をした国に、できるだけ助けてあげて、一日も早く世界じゅうの国が共産主義になるようにするのが本当ではないか。
　ソ連のやりかたはすこしおかしい、と毛主席は考えたようだ。
　毛主席は一九五〇年の三月四日に北京にかえってきた。
　国へもどった毛主席には山のようにたくさんの仕事が待っていた。
　四月から六月にかけて、婚姻法、労働組合法、土地改革法という三つの法律をつくった。
　いままでの中国では結婚はみな親がきめたのを、本人が自由に相手をえらんで結婚してよいことをきめたのが婚姻法だ。
　この法律のおかげで、生まれるとすぐ嫁に売られていた女の子が自由になったり、いやな人とむりやり結婚させられていた人が離婚したりすることができるようになった。
　土地改革法では三億の農民が、四、六七〇万町歩の土地をただで分けてもらった。
　それまで五十パーセントも小作料をはらっていた小作人も、一銭もはらわなくていいようになった。
　農民たちは、新しい政府は、本当によい政府だと思うようになった。
　蒋介石政府の時代に、ものすごい物価の値上りで苦しんでいた民衆は、新しい政府が物価があがるのをいっぺんにとめてくれたので大変よろこんだ。
　毛主席は生活をらくにするために、がんばろうとよびかけた。

　　　2 朝鮮戦争 top

　毛主席は考えた。朝鮮戦争は朝鮮人民が、自分の国を統一させ、人民の政府をつくろうとしておこした内戦だ。
　しかしアメリカは、第二次世界大戦のときよりもたくさんの爆弾をつかって、朝鮮人民をみな殺しにしようとしている。
　朝鮮人民をだれかが助けなければならない。朝鮮人民のうしろにはソ連と中国がある。
　しかし、ソ連が戦争に参加したら、世界でもっとも大きな二つの国が正面からだたかうことになって、両方とも原爆を持っているし、第三次世界大戦になってしまう。
　そうなれば人類は滅亡してしまうかもしれない。だからソ連は正式に参戦できない。
　中国も正規の軍隊をおくるわけにはいかない。

　一九五一年六月に停戦会議が始まったが、それから二年間、三十八度線近くでは毎日はげしい陣地戦がつづいた。
　アメリカ軍は、中国の東北に、細菌弾をたくさん投下した。それは奇妙な爆弾だった。爆発はしない。
　おちてくると、ふたがはずれて、おそろしい病気のもとになる細菌をいっぱいつけたハエやノミがとびだしてくるのだ。中国政府はアメリカに抗議すると同時に愛国衛生運動をおこして、ハエやカやノミやナンキンムシやネズミを退治した。
　昔の中国にはどこにもいた、こういう害虫は、ほとんどいなくなって、中国は世界で一番清潔な国になった。
　一九五三年三月五日にスターリンが死に、その年の七月二十七日に朝鮮停戦協定が結ばれた。
　三年間の戦争で、中国人民は、敵がアメリカ帝国主義だということを知った。
　アメリカは、戦争が始まるとすぐ台湾と中国福建省のあいだの台湾海峡にアメリカ第七艦隊を出動させ、解放軍が台湾を解放できないようにしたのだ。
　もしアメリカがこういうことをしなかったら、一九五〇年ちゅうに、台湾は解放されていただろう（チベットは一九五〇年十月に平和のうちに解放されている）。
　朝鮮戦争の犠牲は大きかった。中国人民志願軍に参加した毛主席の長男、毛岸英（がんえい）も戦死した。
　その骨はいまも朝鮮の土に埋まっているという。
　毛主席はかわいい息子を朝鮮で、アメリカ帝国主義のために失なったのである。
　朝鮮での犠牲者があまりにも多かったので、人民志願軍の総司令官彭徳懐（ほうとくかい）は、これからの戦争は、やはり近代的な兵器をたくさん持たなくてはだめだと考えるようになった。
　これは毛主席の、武器よりも人間の心のほうが大切だという考えとは反対だった。

　　　3 社会主義の国ヘ top

　ー九五四年九月二十日、中国はこれから社会主義の国になるということを書いた「中華人民共和国憲法」が全国人民代表大会できまった。
　全国人民代表大会というのは中国の国会だが、日本のように衆議院と参議院にわかれているのではなくて一つしかない。
　毛主席はこの憲法できめられている「国家主席」になった。
　政務院は国務院と名前がかわり、周恩来がひきつづいて総理になった。
　社会主義というと、そのころお手本はソ連だと思われていた。
　ソ連は世界で一番さきに社会主義の国になったからだ。
　ソ連のやりかたというのは、つぎのようなやりかただっだ。
　まず重工業（鉄鋼をつくる工業や機械をつくる工業など）をおこす。
　そしてトラクターなどの農業機械が全国にゆきわたるようになってから、農村を集団化する。
　集団化というのは、それまで一軒一軒別々に畑を耕やし、取入れをして、それを売って生活していたのをやめて、村なら村の全部の農民が協同組合をつくりみんなで一緒に生産の計画をねって、手分けして仕事をし、取入れたものはまとめて売って、得たお金は各人の働きにおうじて分配するようになることだ（もちろん生産物をそのまま分けることもある）。
　だが毛主席は、ソ連のようにやっていたのでは、中国の農民は幸せにはなれないと考えた。
　五億もいる農民のところに機械がゆきわたるまで待っていると、まだ何十年もかかりそうだ。
　そのあいだ、農民たちは税金をはらって貧しい生活をつづけていくことになる。
　そのあいだには、貧しい農民はせっかく分けてもらった土地を手ばなして、金持ちの農民にやとわれて働くようになってしまう。そうすると、農村には、人をやとって耕作する富農という資本家と、やとわれて働く農業労働者がうまれ、資本主義に逆もどりしてしまう。
　毛主席は、中国で資本主義を復活させないためには、農村ではやく集団化をすすめるほかはない、と考えたのだ。
　土地改革が終わったあと、全国の農村では協同組合ができたが、はじめのうち、組合にはいるのは貧しい農民（貧農）だけだった。はじめはいっていた富農もぬけてしまった。
　土地や農具や牛やロバをたくさんもっている富農は、組合にはいると損だったからだ。

　こういう高級協同組合をつくるには、金や物を持っていればそれだけもうけるのがあたりまえだという気持ちをなくしていかなくてはならない。中国共産党は農民のなかにはいって、こういう金持ちになってもうけようという気持ちを、みんなのために働き、みんな一緒にゆたかな暮らしをしようという気持ちにかえるために、しんぼうづよく話しあいをした。
　ソ連ではコルホーズという名の高級協同組合をつくるとき、ずいぶん多くの富農が反抗し、殺された富農も多かったし、コルホーズにはいるのがいやな富農は、どうせみんなのものになるのなら、といってニワトリやブタをみんな殺してしまったりした者だが、中国ではほとんどそういうことがおこらなかった。
　同じころ、都市では工業・商業の社会主義化がすすめられていた。
　ソ連では革命のとき資本家が革命に反対したので、政府が資本家から工場や機械をみな取上げていっぺんに資本家をなくしてしまったが、中国ではちがったやりかたをした。
　中国では、前にも書いたように、資本家のうち民族資本家（帝国主義に反対する資本家）が革命に協力して、政府のなかにも民族資本家の代表がいた。
　政府は、まず資本家のつくった品物を買いあげた。
　資本家はつくったものをみな政府が買ってくれるのだから大変よろこんだ。
　つぎに政府は、資本家と契約（ちゃんとした約束）をむすんで、何をどれだけつくるかを決めさせた。
　一九五五年の六月には、資本家のつくる品物の九十パーセント以上が、こういう契約でつくられるようになった。
　さいごに政府は工場や商店を資本家と協同で経営するようにした。
　一九五六年の末には、全国の資本主義工業（資本家が工場や機械を持っている工業）のつくる品物の九十九パーセントが政府と協同経営でつくられるようになった。
　商業でも資本主義商業の商店の八十二パーセントが政府との協同経営になった。
　資本家は工場や機械や店などの財産の五パーセントにあたる額を、毎年政府からうけとる。
　資本家はボロいもうけはできなくなったが、毎年確実にこの五パーセントを利息としてもらえるのでみんな政府に協力するようになった。

　　　4 人民公社 top

　一九五七年の末から五八年にかけて、中国の農村のどこでも、大がかりな治水工事が始まった。
　中国の農村は水の便利なところとそうでないところでは収穫がまるでちがう。
　協同化ができたところで、今度は川から水をひいたり、井戸をほったりして生産をあげようとしたのだ。
　けれども大がかりな工事をするには人手が足りない。そこで女の人が立ち上った。
　それまで婦人は子供の世話や老人の世話、食事の世話でいそがしくて外に働きにゆけなかった。
　婦人をこういう家の中の仕事から解放しよう、ということになって、どこでも托児所や老人ホームや共同食堂や共同洗濯場がつくられた。

　「そんなにたくさんとれるのか。県の人口は三十一万だから、とても食べきれないな。
　そんなにたくさんの食糧をどうするつもりかな。」
　「あまった食糧は機械ととりかえます。」
　毛主席「ここだけが食糧が多いのではないよ。どこでも食糧が多くなっている。
　機械ととりかえるといっても、だれも食糧はいらないというだろう。」
　「私たちはイモでアルコールをつくります。」
　毛主席「うん、どこの県でもアルコールをつくっている。
　だがそんなにたくさんアルコールばかりできてもつかいきれないだろう。アッハッハ。」
　県の共産党の責任者もつりこまれて笑いながら、
　「実は、私はどうすればもっとたくさん食糧をつくれるか、ただそれだけを考えていたものですから。」
　毛主席「そりゃあ、食糧が多いのはやはりいいことだ。
　どこでもたくさんとれたら政府のほうでも食糧はいらなくなる。
　だれもほしがらない。そうしたら人民公社の社員たちで食べるさ、一日に五回めしを食ってもかまわない。」
　毛主席は、こうして人民公社をいくつか見学して　「人民公社はすばらしい！」といったのだ。
　人民公社ではどこでもタダの食堂をつくって、なかには本当に一日に五回も食べる人もでてきた。
　この八月ちゅうに全国の農家の三十パーセントが人民公社をつくった。
　そしてこの年のおわりには九十九パーセントが人民公社にはいっていた。