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1 戦略爆撃機の開発に着手

コンガー・プラット准将、 ライトフィールド陸軍 航空兵団資材部長

クレア・エグトベット・ボーイング社会長（右）

　この飛行機はＸＢＬＲ1と呼ばれ、実験爆撃機、長距離、一号機、航空兵団計画「Ａ」号を表わしていた。
　一九三四年六月二十八日付けで航空兵団は、ボーイング社の新飛行機製作契約を承認、この新飛行機はＸＢ15と呼称された。
　若いエドワード・Ｃ・ウェルズ技師の指導で、世界最大の軍用機の製作が始まった。

5 目を見張らせる高性能 top

　テスト・パイロットのレスリー・タワーが操縦して、滑走路の先端でエンジンをフル回転、うなり声を残しながら朝露の中へ飛びたっていった。
　タワーは通常飛行に移った後、やがて飛行機を旋回して鮮かな着陸を行なった。
　工場での初度試験飛行を数回繰返した後、299型機は、一九三五年八月二十日の夜明け前、暗闇の中を離陸して競争試験を受けるためにライトフィールドに直行した。
　出発してから九時間後、レスリー・タワーは、オハイオ州のライトフィールドに着陸した。
　シアトルからライトフィールドまでの三二〇〇キロを、当時最高の平均速度、時速三七三キロで、無着陸飛行した。
　飛行場ではだれも出迎えなかった。
航空兵団では、少くともあと二時間はタップリかかるもの、と思っていたからである。
　ボーイング機は、滑走して待機地帯に入り、すでに到着していた双発機のマーチンＢ12とダグラスＢ18の隣に停止した。
　その時には、競争の勝者がだれかを疑う者はいなかった。
　ボーイング機は、優れた速力と優美な外観だけでなく、一一七〇キロ爆弾八発を八人の乗員と共に胴体内に格納することができた。
　「空の要塞」には、四個の機銃装備用風房がある。
　胴体の両側に一個ずつ、胴体の上方に一個、胴体の下方に一個。
　それらには、口径七・七ミリ、または一二・七ミリ機銃が取付けられ、第五番目の機銃の装備位置は、機首である。
　テストが行なわれているうちに、その性能は明白となった。
　最高時速は、高度三〇〇〇メートルで三二二キロから四〇二キロ、実用時速は同高度で二七四キロから三二二キロであった。実用上昇限度は七六〇〇メートル付近で、航続時間は六〜一〇時間であった。

6 犠牲者第一号が… top

　ボーイング299型機は性能に関して、何から何にまですべて最優秀、というわけにはいかなかった。
　一九三五年十月三十日の朝、不幸な出来事が起きた。
　ブロイヤー・ヒル少佐が操縦、ボーイング社のレスリー・タワーが副操縦士となって離陸したＢ17が墜落し、片翼から接地して大破した。
　これは、昇降舵の固定装置が外れなかったために起こった事故であった。
　この悲しむべき事故でヒル少佐は殉職し、その後タワーも死亡した。
　そして、この事故は、「空の要塞」の発展をも妨害することになった。
　最初六五機の注文予定であったこの新型機は、Ｙ1Ｂ17と少し模様がえされて、注文機数もわずかに一三機に減らされた。しかも、そのうちの一機は、ライトフィールドで地上試験に使用されることになった。
　最初のＹ1Ｂ17は、ボーイング299型とほとんど変らないが、エンジンがプラット・アンド・ホイットニー七五〇馬力からタイト・サイクロン・Ｒ1820八五〇馬力に変わり、脚部と兵装に多少の変更があった。
　Ｙ1Ｂ17の一号機は、一九三六年十二月二日に完成、航空兵団から派遣されたスタンレー・ウムステッド大尉によって領収された。
　最初の飛行には見事に成功したが、またしても事故に災いされる運命に見舞われた。
　ウムステッド大尉は、飛行機をボーイング飛行場に見事に着陸させたが、滑走のスピードを弱めようとしてブレーキを踏んだ時、不用意にも強く踏み過ぎた。
　事故はこの直後に起きた。
　ガクンと止まりながら急に右に横すべりして、折から来合わせていた議会監察団の真ん中に突っ込んだ。
　幸いなことに、ボーイング社はこの事故の責任を取らされなかったが、この事故はＢ17計画の首をしめる、いま一つの原因となった。

　この飛行中は悪天候に悩まされ、アンデス山脈のギザギザした、気流の悪いいくつもの高い嶺の上空を飛ぶ長い飛行であったが、全機無事に目的地に到着した。
　ブエノスアイレスで、大統領の就任式に列席した一行は、パナマ運河地帯を経由して、バージニア州のラングレー基地に無事に帰った。
　この最後の飛行航程は、緊急事態が発生した時、Ｂ17が戦略上重要なパナマ運河地帯に、どれだけ速かに駈けつけられるかを実証したのであった。

9 さらに、強化した性能 top

　Ｂ17Ｂにタービン式のスーパー・チャージャーを装備したところ、飛行機の性能が急増したので、最初一三機に取付ける予定だったのを三九機に改められた。
　初期のスーパー・チャージャーは、各エンジン頭部に装備されていたが、エンジンと整流覆との間に取付けたところ、実用上昇限度は九〇〇〇メートルを優に超し、最高時速も四九八キロに達した。
　第2爆撃飛行群のＢ17は、新たに設けられた参謀本部直轄の参謀本部空軍に編入されたが、彼らは、引続いて威力を宣伝するための行動を続けていた。
　第2爆撃飛行群では、彼らが誇る防衛能力と優れた航法技術とを誇示する意味で、一九三八年五月、Ｂ17三機をアメリカに向かって航行中のイタリア豪華客船「レックス」号に会合させるように派遣した。
　オルズ中佐がパイロットとなり、後年戦略爆撃といえばだれでもその名を思い浮かべるほど有名になったカーチス・ルメイ中尉が航法土として搭乗したＢ17は、アメリカの沿岸から一三〇〇〇キロも離れた大洋の真っ只中に浮ぶ一点を発見したのである。

10 責任防衛区域を制限 top

　明らかに焼きもち気分の海軍は、陸軍参謀本部にかけあって、陸軍の法的な本土防衛区域の問題を取り上げて論争することになった。
　この結果、陸軍では防衛責任区域を、沿岸から一六○キロ以内に制限した。
　このような戦略爆撃問題にとって有害な事件は、一九三九年にも起こっている。
　それは、陸軍省が一九三八年に、一九三九および四〇会計年度では大型爆撃機購入の予算が含まれないであろう、と声明したことである。
　このように、Ｂ17の進歩を阻害するような事件が増加していたにもかかわらず、Ｂ17は相変らずレコード破りの進歩を続けていた。

12 Ｂ17増産に暗いカゲ top

　Ｂ17Ｃが生産されている間、ボーイング社と陸軍省との間に財政的な問題が大きく立ちはだかっていた。
　ボーイング社では、飛行機を一機つくればそれだけ赤字になる、というところまで進んでいた。
　これにたいし、陸軍省では、値段を下げないならば生産計画を取消しにするというのである。
　アーノルド将軍の個人的な調停のお陰で、Ｂ17生産計画は生き残ることになった。
　カール・スパーツ大佐は、アーノルド将軍の私的代表の役を引き受けてボーイング社と陸軍省との間の最終協議に臨んで、両者間にいくつかの解決案を示した。
　彼は、「我々が腹を割って話し合うのでなければ、大型爆撃機計画はつぶれるであろう」と一同に訴えた。
　幸いなことに、彼の良識は認められて、ボーイング社は四二機のＢ17Ｄの注文を受けることになった。
　Ｂ17Ｄは、Ｂ17Ｃとほとんど変りなかったが、カウル・フラップ〔注〕を取付けたことと、電気装置に若干の相違があった。
　〔注＝カウル・フラップとは、エンジンの各シリンダー（気筒）周囲の空気の流れを適切にして、シリンダーの温度を調節するもの〕
　一九三九年九月、ヨーロッパに戦争が起こった時に、米陸軍航空兵団は二三機のＢ17を持っていた。
　ルーズベルト大統領は九月八日、国家非常事態を宣言したが、ヒトラーの電撃作戦を阻止しようとしていた英仏両国に飛行機を渡すことは、とうてい時間的にも問に合いそうもなかった。

　「空の要塞」は、初めから悪い星回りに当ったように思われた。
　一機は、最初にウェスト・レーンハムに着陸する際に壊れた。
　そして、大きな期待がかけられた第一回目の出撃には、三機がウィルヘルムス・ハーフェンにあるドイツ海軍兵舎を爆撃するために派遣されて、一機はエンジン故障で途中から引き返している。
　残り二機が高度九〇〇〇メートルから爆撃したが、全部目標から外れてしまった。
　厄介なことがその上に重なった。
　ドイツ軍戦闘機が襲ってきたので、応戦しようとしたが、機銃が固く凍りついて動かなかった。

14 昼間爆撃効果なし top

　一九四一年六月二十四日、第90飛行隊は、「空の要塞」に最初の「飛行隊命令」を与えた。
　フランスのブレスト港に碇泊中のドイツ巡洋戦艦「グナイゼナウ」の爆撃に関したものだった。
　だが、この爆撃は九〇〇〇メートルの高度で実施されたので、相手に損害を与えられなかった。
　そのうえドイツ戦闘機が、群がり集って攻撃を加えてきた。だが、「空の要塞」は撃墜をまぬがれた。
　しかし、攻撃を受けたうちの一機はひどく破損していて、着陸の際、文字通りバラバラになってしまった。
　その後しばらくしてから、三機のＢ17が、ノルウェー作戦参加のために分遣された。
　分遣部隊が三機編隊でナルビク上空を飛行中、敵機の攻撃を受けて全機撃墜されるということが起きた。
　幸いそのうちの一機は、ノルウェーの陸地にどうにか不時着することができた。
　これでドイツ軍は、アメリカが自慢する「空の要塞」に、初めてお目にかかれたことだけは間違いなかった。
　一九四一年九月、英空軍は昼間攻撃を断念した。
　英空軍「空の要塞」隊の作戦記録は、実に情けないものであった。
　与えられた作戦任務行動の多くが達成されなかったし、達成されてもその爆撃成績は不良であった。
　そのうえ、損害は七機にもおよび、どう考えても、英空軍の爆撃兵団の覚えは目出たいものではなかった。
　それで生き残ったＢ17は、沿岸航空兵団に移されて偵察と潜水艦狩りの任務を当てがわれた。
　英空軍は、「空の要塞」を手に入れてから訓練も十分にしないで実戦に投入したこと、Ｂ17の初期の型には多くの欠陥があったこと、それに乗員の訓練不足のため、技量が不十分であったことなどが重なって、作戦成果が慘たんたるものとなったのである。
　英空軍パイロットのある者は、Ｂ17の飛行性能を賞讃して数多くの有益な提言を行なっている。
　英空軍爆撃兵団のＢ17にたいする意見は、一九四一年六月にはアメリカ側に知らされていたのだが、米陸軍航空当局者は、依然として「空の要塞」に熱中しており、英空軍ではＢ17に公平な機会を与えなかったのだ、と信じていた。