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9　地中海戦線の制圧

　数は少なかったかも知れないが、地中海方面のＢ17部隊は、戦争の始まった時から手際よく任務を果していた。
　第97爆撃飛行群と第301爆撃飛行群とは、第8爆撃兵団の開拓者的存在であった。
　第97飛行群は、ルーエンの船舶集合所攻撃のために、イギリス本土から第一回目の攻撃任務飛行を行なったのである。

1 北アフリカ戦線のＢ17 top

　第97群と第301群は、双方とも選ばれて、北アフリカに移動して、一九四二年十一月七日、アルジェリアとフランス領モロッコに上陸するアメリカ軍を支援することになった。
　第97群所属の第340飛行隊は、十一月十日、イギリス基地を出発、途中二日間ジブラルタルに滞在した後、アルジェの空港メゾン・ブランシェに到着した。
　部隊は、イギリス製爆弾を搭載すると、時を移さず戦闘に参加した。
　十一月十六日、ビゼルテのシディ・アーメド空港を攻撃した。
　六機のＢ17は、Ｍe109戦闘機の攻撃を受け、対空砲火で機体に孔を開けられたが、基地に帰るまでには、ブリキカンと粘着テープとで修理されていた。
　第1戦闘飛行群と第14戦闘飛行群のＰ38「ライトニング」は、十一月初旬、イギリスから到着して、Ｂ17の護衛任務につくことになっていた。
　第14爆撃飛行群のＢ24「リベレーター」隊は、第97群のＢ17「空の要塞」隊と連合して、十一月十八日、チュニスのエル・ウィナ飛行場を空襲して、多数の敵機を地上で破壊した。
　ドイツ空軍機は、十一月二十日夕方、メゾン・ブランシェに来襲した。
　多数のユンカースＪu88とＪu87急降下爆撃機が、アルジェの空港と港を爆撃した。
　この攻撃で多くのアメリカ機が爆破されたが、第97群のＢ17も一機含まれていた。
　爆撃機をタファラウイに退かせては、との提案が出された。
　ジェームズ・Ｈ・ドーリットル将軍の新編成の第12航空軍司令部でも、第97群のタファラウイ退避について論議されていたが、最終決定は、十一月二十一日夜、ドイツ軍の再攻撃で、Ｂ17一機が破壊されたあとに下された。
　第97群と第301群は、十二月までは、タファラウイから作戦行動に出撃することになった。
　このチュニジア作戦時のＢ17部隊の攻撃目標は、チュニス、ビゼルテ、スース、スファックスであった。
　十二月半ば、両爆撃群は、再びビスクラヘ移動した。
　第97群は、この新しい基地からたびたび目覚しい攻撃を行なった。
　十二月三十日、スファックスを空襲、北突提と繋船溜りに大火災を引き起こした。
　一九四三年一月五日、再びスファックスを攻撃、発電所を完全に破壊し、港内の船舶一隻を撃沈した。
　一月八日、Ｂ17隊は、雲の切れ目を利用して、フェリービィユを空襲、ドックや燃料貯蔵所を爆撃し、港内のフランス船五隻に損害を与えた。

2 ロンメル軍団を苦境に追い込む top

　一九四三年二月、ロンメル元帥のアフリカ軍団は、二正面作戦の苦況を味わわされていた。
　アメリカ軍は、強大な軍事力をそそぎ込んで、チュニジアのカセリーヌ峠地区でドイツ軍を北東方に圧迫していた。
　イギリス軍は、その反対側、マレト戦線で苦闘を続けていた。
　第97群は、一九四三年一月十二日、カッスル・ペニトを攻撃して目覚しい戦果をあげた。
　地上で二〇機以上の敵機を破壊し、多数の格納庫に爆弾を命中させた。
　迎撃してきたドイツ、イタリア戦闘機は、爆撃機と護衛のＰ38戦闘機との交戦で、多数撃墜された。
　ドイツ空軍は、二月六日、連合国の北アフリカ向け輸送船団を発見して、攻撃を加えた。
　これがきっかけとなって、第12航空軍のＢ17部隊は、もう一つの著名な攻撃を行なうことになった。
　翌七日、Ｂ17とＢ26の五一機は、前日船団を襲撃した敵機の基地、サルジニア島カグリアリのエルマス飛行場を攻撃した。
　爆弾は飛行場全体をおおい、火災が発生して敵機二五機を破壊した。
　爆撃機の銃手たちは、空戦でメッサーシュミットＭe109を五機撃墜、味方Ｂ17の損失は皆無であった。

　メッサーシュミットは、そのまま突進を続けて、ブラッグ中尉のＢ17の後部に切り込むように突っ込み、左側の水平尾翼と昇降舵とを真っ二つに取り去った。
　ブラッグ中尉は、さんざんに痛めつけられた愛機をいたわりながら、なんとかビスクラ基地まで戻って安全に着陸させた。
　すぐ、機体の点検が行なわれたが、その最中、後部胴体がバラバラになった。
　そのＢ17は、完全にバラバラになったが、任務を果していた。
　すなわち、搭乗員を安全に攻撃目標上空まで運び、基地まで連れ戻ったのである。

5 ドイツ・アフリカ軍団、ついに降伏 top

　地上軍は、ドイツ・アフリカ軍団を両方から押しつめている間にも、イタリアの残存兵力を、次々にチュニジアの狭いポケット地帯に追い詰めていた。
　一方では、重爆撃機部隊は、イタリア本土、シシリー島、サルジニア島の目標を集中的に攻撃していた。
　一九四三年五月初旬、チュニジア作戦は終結した。
　連合国側の海空兵力によって補給網は完全に遮断され、取り残された枢軸国側の軍隊は、降伏するより外に方法がなかった。
　六月一日、Ｂ17部隊の注意は、パンテレリア島に向けられた。
　港や空港施設は、すでに完全に破壊しており、海岸沿いに設けられた砲台や、砲の据付地などの攻撃に的をしぼった。
　爆撃は、駐屯部隊が降伏を決定する六月十日まで、休みなく行なわれた。
　これは、地上軍が上陸して橋頭堡を設けるようなことはしないで、征服が完了した初めての例であった。
　パンテレリア島の陥落後、Ｂ17部隊は、シシリー島への上陸に備えて、島内の飛行基地爆撃という本来の任務に戻った。
　六月二十五日、最も激しい攻撃が行なわれた。
　北アフリカのＢ17四個飛行群は、メッシナの倉庫や波止場、連絡船や操車場を、三〇〇トンの高性能爆弾で猛爆した。
　七月十日の連合軍のシシリー島上陸後の爆撃は大効果をあげ、上陸軍にたいする枢軸国空軍の抵抗はほとんどなく、島の防衛軍は、空からは、貧弱な援護を受けただけだった。

　Ｂ17隊は、以前からアウクスブルク攻撃を狙っていたが、悪天候にさまたげられて果さなかった。
　が、一九四三年十月一日、これが実現した。
　他のＢ17隊は、ドイツのグンデルフィングンを爆撃し、同時に、別のＢ17隊が、帰り道にイタリアにあるドイツの目標を攻撃した。
　これらの隊は、いずれも激しい敵戦闘機の抵抗に出会って、Ｂ17三機が犠牲になった。

7 第15航空軍の新編成 top

　一九四三年十一月一日、第15航空軍が編成されて、長い間の要望が達成された。
　アイゼンハワー将軍は、その日、新部隊の発足を公表して、ジェームズ・Ｈ・ドーリットル将軍を司令官に任命した。
　この新しい戦略空軍は、第9航空軍と第12航空軍から重爆撃機を集め、第12航空軍からＰ38三個戦闘機群とＰ47一個戦闘機群を集めて、それに、中型爆撃機五個群が加って編成されていた。
　中型爆撃機群は、一九四四年初頭、新たにＢ24部隊が如えられた際、第12航空軍に戻されることになっていた。
　一九四四年一月、ドーリットル将軍は、イギリス駐留の第8航空軍司令官となり、後任には、ネーサン・トワイニング将軍がなった。
　新しい空軍は、すぐに、目立つ存在になった。
　一九四三年十一月二日、七二機のＰ38に護衛されたＢ17七四機と、Ｂ24二八機は、ウィーンの近くのウィンナー・ノイスタッドの航空機組立工場を攻撃した。
　組立作業用の大きな建物は完全に破壊され、付近の機械工場や格納庫にもひどい損害があった。
　敵戦闘機一二〇機から一六〇機の大集団に遭遇して、Ｂ17とＢ24がそれぞれ五機ずつ失われた。
　この爆撃行動の重要性は、新しい戦略空軍が南方から出現することで、ドイツ空軍は、その方向からの攻撃に備えて多くの戦闘機を割かなければならない、ということだ。
　この結果、広範囲に、まばらに配備されたドイツ軍戦闘機部隊は、三つの主要な前線を守備しなければならなくなった。
　第15航空軍のＢ17部隊は、Ｂ24部隊に比べて、数の上ではずっと劣ってはいたが、業績では目立っていた。
　結局、一九四四年の春、第463群と第483群が到着すると、六個のＢ17飛行群となり、Ｂ24は、一五個飛行群で三個の作戦飛行団を編成することになっていた。
　一九四三年十二月、北アフリカからイタリア基地に移動した直後、Ｂ17隊は、寒さとぬかるみとで困難していた地上軍を支援するために、北イタリアの戦術的諸目標を攻撃した。
　その後、この地上軍の困難を軽減するために、連合軍は一九四三年一月二十二日、新しい部隊をアンツィオに上陸させた。
　上陸部隊が、アンツィオの橋頭堡に取りついて必死に闘っていた時、ドイツ空軍は、連合軍の橋頭堡やナポリ港の船舶に攻撃を加えた。
　あたかも、ドイツ空軍は、全部の航空兵力をアンツィオ攻撃に備えて、南フランスや北イタリアの基地に集めたかのようであった。

8  南仏のドイツ防衛軍を猛爆 top

　一月二十七日と翌二十八日、Ｂ17部隊は、フランスにあるドイツ軍基地を攻撃した。
　一月二十八日の飛行偵察の結果、北イタリアのマニアゴ、ラバリアーノ、ビラオルバ、ウディネなどの飛行場に、一二〇機のドイツ軍機がいるのがわかった。
　ドイツ空軍は、イタリア方面の連合軍船舶や航空基地を攻撃するため、これらの基地で兵力の整備をしていたのであった。
　すでに、多数のユンカースＪu88型爆撃機が、ビラオルバに到着していた。
　一月三十日、連合軍の攻撃計画は、見事に実施された。
　Ｐ47隊は、レーダーに探知されないように、非常な低空飛行で北方に向かった。
　基地上空に着いたのは、高々度を飛行したＢ17編隊が到着したわずか数分前であった。
　ドイツ空軍は、レーダーでＢ17を探知、Ｐ47隊が攻撃をかけた時には、多くの戦闘機が、ビラオルバ基地をゆっくりと滑走しはじめたばかりのところであった。
　Ｐ47隊は、二八機の敵機を撃墜したが、二機を失っただけだった。
　七六機のＢ17編隊が、六九〇〇メートルの高度から一万一〇〇〇発近くの破片爆弾（着地の瞬間に炸裂して、無数の鉄片が四散する爆弾）を投下した。
　他のＢ17三五機はマニアゴ基地を攻撃し、Ｂ24部隊は、同じ地区の他の飛行場を爆撃した。
　敵基地は壊滅的な打撃を受け、飛行機のほとんどが破壊された。

10 ブレンネル峠を交通遮断 top

　第15航空軍は、爆撃機の数は増加していたが、「爆撃強化週間」のドイツやオーストリア出撃で証明されたように、護衛戦闘機の十分な増強は受けられなかった。
　第15航空軍に補充される予定になっていたＰ38戦闘機隊も、一九四三年十月、第8航空軍が所属重爆撃機を大量に失ったことから、イギリスへと移された。
　第15航空軍のＰ47戦闘機一個戦闘群と、第12航空軍から移籍された三個戦闘機群が、長距離用戦闘機のＰ51「ムスタング」に装備換えされるのは、一九四四年四月以降の予定であった。
　一九四四年三月十八日、Ｂ17隊が参加して、北イタリアのドイツ空軍基地を空襲した。
　このときも、その地区の敵兵力が増強されていて、三月初めには、六つの航空基地に二三五機の敵機が所在していた。
　Ｐ38隊は、アドリア海上空を低高度で飛び、一部がユーゴスラビアを攻撃し、主力部隊は、敵航空基地に向かって北上した。
　Ｐ38隊が攻撃を終えてから、ただちに、一一三機のＢ17編隊が破片爆弾を投下した。
　編隊の接近に気づいた、クラゲンフルトやグラーツ地区の敵戦闘機が空中に飛びあがってくる。
　Ｂ17が爆撃を終えると敵戦闘機は、燃料補給のために基地に戻った。
　ドイツ軍が地上で補給をしている最中、今度はＢ24三個編隊が急襲して、破片爆弾を投下した。
　少なくとも六〇機の敵機を地上で爆破し、さらに六〇機を空中戦闘で破壊した。
　一九四四年五月、第301群は初めてアゾン爆弾を使用した。
　この爆弾は、四五〇キロ爆弾の尾部に無線装置をつけ、爆撃機内に備えつけられた無線発信装置によって、爆撃手が爆弾の進行方向を修正できるものであった。
　五月十三日、このアソン爆撃を積んだ四機のＢ17が、第301群のアビズオ陸橋爆撃の先導機隊として参加した。
　二一発のアソン爆弾を投下して、四発を目標に命中させた。
　他のＢ17は四五〇キロ通常爆弾を投下した。
　爆撃の成果を確認するため撮影した写真は、ブレンネル峠の交通が効果的に遮断されていることを示していた。

　混乱の際ではあり、急いでもいたので、後部銃手のパラシュートがみつからない。
　キングスレーは、ためらわずに、自分の包みを銃手に渡して、後部銃手の脱出を助けた。
　他の乗員たちも脱出していった。
　キングスレー中尉が、爆弾倉の狭い通路に立っているのがみえた。
　これが彼の最期であった。
　機体はしばらく空中に浮んでいたが、やがて地上に突っ込んだ。
　その後、キングスレー中尉の死体は、残骸の中から発見された。

12 米・ソ協同作戦に参加 top

　第15航空軍のベテランＢ17四個群は、一九四四年六月二日、ソ連基地までの最初の往復攻撃飛行に出撃した。
　ハンガリーのデブレセンの鉄道センターを二三〇キロ爆弾で爆撃した後、ポルタバとミルゴロドへ到着した。
　護衛機のＰ51隊は、ピルヤチンに着陸した。
　この攻撃行動中、対空砲火にも、敵戦闘機にも出会わなかった。
　唯一の損失は、原因不明の空中爆発を起こしたＢ17の一機だけだった。
　Ｂ17隊のミエレク攻撃は、悪天候にさまたげられて、六月六日、ルーマニアのギャラッツ飛行場を攻撃した。
　その後数日間、悪天候でソ連領内に留まった後、イタリアの基地に戻った。
　イタリアへの帰途、ルーマニア北部のフォスカニイ飛行場を爆撃した。
　この爆撃の成功は、アメリカ軍側に楽観主義を引き起こした。
　同月に行なわれた第8航空軍による、最初のポルタバ往復爆撃の悲劇の前であった。

　第15航空軍のＢ17隊は、一九四四年八月の、連合軍のフランス南部上陸に備えて、その方面の広範囲にわたる爆撃を行なった。
　空港、橋、ハイウェイ、鉄道、すべての攻撃目標が、イタリアから出撃する爆撃機隊の暴威にさらされた。
　同時に、Ｂ17隊は、プロエシュチの石油施設や、ドイツのグレウィツにあるブリキ加工工場、オーデルタール、ブダペストなどへ攻撃を続行した。
　ソ連軍が、一九四四年九月にプロエシュチを攻略すると、総合精油所に攻撃を集中できることになった。
　幸運なことに、第15航空軍の重爆撃機部隊にたいする敵戦闘機の攻撃は、一九四四年九月以降非常に散発的になった。
　ドイツ空軍は、限られた兵力で攻撃を選択しなければならなくなり、戦闘機の大半を東部、西部の両戦線に配置して、南部戦線を無防備の状態に放置しなければならなくなっていた。

13 「空の要塞」の名は永遠に top

　このような状態になっても、対空砲火による被害は皆無というわけにはいかなかった。
　対空砲は、ウィーン、ブダペスト、ミュンヘンなどの戦略的要地や、人造石油精製工場などに集中的に配備されていて、それによる損失は依然として多く、搭乗員の不安をつのらせるのに十分であった。
　第15航空軍のＢ17隊は、輝かしい業績にさらに光彩をそえた。一九四五年三月二十四日のベルリン攻撃である。
　約一五〇機のＢ17は、ダイムラーベンツの戦車エンジン工場に三五七トンの爆弾を投下した。
　ドイツ空軍は、またしてもこれを阻止するため、多数のジェット戦闘機を繰出したが、Ｂ17の損害は、わずか二機であった。
　地中海方面のＢ17部隊は、その足跡を北アフリカの焼けつく砂の上に、アルプスからドイツにかけての空に、そしてまた、バルカン諸国や、イタリアの、およそ想像できる限りのあらゆる攻撃目標の上に記してきた。
　それは、忘れ去られることはないであろう。