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9　原爆から終戦まで

　　　　1 ついに、原子爆弾うまれる top

　七月十七日に、世界をゆるがすようなニュースが到着した。
　その日の午後、米国務長官スティムソンが、私をおとずれ、一枚の紙をまえにおいた。
　それには、「赤ん坊は、満足に生まれた。」と、書かれていた。
　私は何か大変なことがおこったと思った。
　彼は「この意味は、ニュー・メキシコ砂漠で、実験が行われたことです。原子爆弾が実現したのです。」といった。
　このおそろしい研究の情熱を注意していたが、ついに赤ん坊は「満足に生まれた」のである。
　人類の歴史におけるおそるべき事件――爆弾かまたは、それに似たようなものが、高さ三〇メートルの塔の頂上で爆発させられたのだ。
　すさまじい爆風、炎と煙の巨大な柱が、地球をとりまく大気のはしまで、つきあがっていったのだ。
　周囲一六キロには、だれもちかよれないのだ。
　いまこそ、第二次世界大戦の終りがやってきたのだ。
　大統領はすぐに会談するため、私の来訪をもとめた。
　彼はマーシャル将軍とリー提督と一緒だった。
　この瞬間まで我々は、日本本土を猛烈な空爆と大軍を進攻させて、攻め落とそうと考えていた。
　日本人が、一つ一つの穴や防空壕でも、サムライの捨身の戦法で戦ってくるだろうと、覚悟していた。
　私には、沖縄の情景が頭にうかんでいた。
　そこでは数千の日本人が、降服するよりはとハラキリの儀式を荘重に行ったのち、一列になって手榴弾で自決したのであった。
　日本軍の抵抗を一人一人おさえ、その国土を一歩一歩征服することは、百万のアメリカ人と、その半数のイギリス人の生命を失わなければならないことは、確かであった。
　今やこの悪夢のような情景も、全く消えうせてしまった。
　そのかわりに、一、二回のすさまじい爆発のうちに、全戦争が終りをつげる光景がうかんできた。
　このとき私が、瞬間おもいめぐらしたことは、私がつねづね、その勇気を感嘆している日本人たちに、このおそるべき新兵器が現れたとき、どうして日本人の名誉を救う口実をみつけだし、また無駄に生命をすてることを、救ってやろうかということだった。
　この原子爆弾という兵器をつかうことに、イギリスが賛成したのは、まだこの実験が行われていない七月四日だった。
　最後的決定はトルーマン大統領にあった。
　この新兵器によって、我々はこれ以上、都市を破壊せず、また敵と味方の生命を、同時に救い得ることになった。

　　　2 原爆投下！　日本やぶる top

　日本にたいする破壊的攻撃は、空と海からつづけられた。
　今や日本艦隊の残りの艦船は、分散して内海に避難していた。
　一隻一隻と、大艦船がねらわれ、七月末には、日本海軍はほとんどなくなっていた。
　日本本土は混乱のなかにあり、くずれおちる一歩手まえにあった。
　外務省の役人たちは、天皇の命令によって、すぐに降服することしか、日本を、全滅から救う道はないと思っていたが、実権は、軍部の手にあり、彼らは敗北を認めるくらいなら、国民全部に自決をもとめる決意をかためていた。
　このせまりつつあるおそるべき運命も、いまになにか、神の助けがあると信じていた、気ちがいじみた軍部や国粋主義者たちの心をあらためさせることは、できなかった。
　私は、大統領といろいろ相談した。
　その週のはじめに、スターリンは私に、あて名のない書面が日本大使から渡されたと話した。
　それは、日本の天皇からのものであった。
　おそらく、スターリンがそのほかのソ連政府の大官にあてたものらしかった。
　それによれば、日本は『無条件降服』を認めるわけにいかないが、ほかの条件なら降服を承知してもよいというのだった。
　この書面にはなんらはっきりしたことが書いてなかったので、ソ連政府はなんとも返事ができないと答えたといった。
　しかし私は、もし日本軍にたいして『無条件降服』をおしつけるならば、アメリカ国民やイギリス国民の生命を、おおいに犠牲にしなければならないということを告げた。
　なんとか、将来の平和と安全のために必要な条件をみとめさせ、そのうえで、そのほかの必要な要求をみとめさせるならば、日本軍の名誉をいかしてやることと、日本民族の生きる道をあたえてやることを、考えてやるべきだと、私は思った。
　これにたいしてトルーマン大統領は、真珠湾を奇襲攻撃した日本軍に、軍事的名誉などというものは全くないと、そっけなく答えた。
　結局日本軍に、すぐに『無条件降服』をもとめる最後通牒が発せられることに、決定した。
　この文書は、七月二十六日に発表された。
　この通牒は、十三項目から成っていた。
　しかしこれらの条件は、日本軍首脳部によって拒否された。
　そこでアメリカ空軍は、原子爆弾一個を広島に、さらに一個を、長崎に投下する計画をたてた。
　我々は日本国民にたいしては、あらゆる機会をあたえることに、意見が一致した。
　実行方法は、くわしく計画された。
　人命の損失をできるだけ少なくするために、七月二十七日に日本の諸都市は、猛烈な空爆をうけることになるだろうというビラを、空からまいた。
　この翌日、六都市が空襲された。
　さらに十二の都市が七月三十一日に警告をうけ、四都市が八月一日に空爆された。
　最後の警告は、八月五日にあたえられた。
　これまでに「空の要塞（Ｂ29重爆撃檐）は、毎日、百五十万枚のビラと最後通牒のうつし三百万枚を、空からばらまいたという。
　ついに八月六日最初の原子爆弾が、広島市に投下された！
　八月九日には、長崎市に、第二の原爆が投下された！

　ソ連は、日本がやぶれるわずか一週間まえの八月八日に宣戦した。
　それにもかかわらずソ連は、交戦国としての完全な権利を主張した。
　日本の運命が、原子爆弾によって決定されたと考えるのは、あやまりである。
　日本の敗北は、原子爆弾投下まえに、すでに確定していたのであり、圧倒的な海洋軍事力が、これをもたらしたのであった。日本の海軍力は、撃破されてしまっていたのだ。
　日本は五百五十万トン以上の船をもって戦争に入り、その後、ぶんどりや建造で非常に増大されたが、日本の輸送船団や護衛は、うまくいっていなかった。
　我々ひとしく海に頼っている島国は、この教訓をよく読みとることができる。
　そして我々が、Ｕボートを征服することができなかったときの我々自身の運命をも、知ることができるのである。