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江戸から東京へ
（おはなし明治維新史3　高橋碩一他編集委員　岩崎書店　1968年刊）

箱館港は完全に政府の海軍におさえられてしまい、 甲鉄艦からの強力な砲弾が、うなりをたてて 五稜郭におちてきました。（「五稜郭」）

　1　はじめに　　　一九六八年七月十四日 top

　私たち日本国民にとって、明治維新はあたらしい時代の夜あけでした。
　大小二本の刀をさした武士がいばっていた時代、
　大名の行列にゆきあったら百姓や町人はみちばたにひざをつき、頭をひくくさげていなければならない世の中、
　農民が働いても働いても、とれたもののなかば以上を年貢として取上げられた社会、
　こうした暗い封建社会から、もっと明るい自由な社会へすすもうとして、力づよく足をふみだしたのが明治維新です。
　その明治維新の歴史を、みなさんのために、やさしく、おもしろく、いきいき書いたのがこの『お話明治維新史』です。
　坂本竜馬がでてきます。近藤勇も西郷隆盛もでてきます。
　高野長英や福沢諭吉のような学者も大切な役割をしています。
　なによりも、これまで名もしられなかった多くの民衆が、あたらしい世のなかをつくるために、命がけではたらく姿を書いてあります。
　世界の歴史のなかで日本人はどんな役割をはたしたか、そこにも心をくばりました。
　日本の未来をになう若いみなさん。
　この本が、みなさんによろこんでもらえるように、そして、たくさんのお友達に読みつがれるように、私たちはそれをたのしみにしています。

　高橋碩一（たかはししんいち）／遠山茂樹（とおやましげき）／徳武敏夫（とくたけとしお）
　小沢圭介（おざわけいすけ）／鈴木亮（すずきりょう）／佐藤伸雄（さとうのぶお）

　2　あとがき top

　これまで、一巻と二巻で、封建社会の動揺が大きくなり、江戸幕府を中心とする支配のしくみが、たおれる寸前にきたことが、あきらかになったと思います。
　この巻では、江戸幕府がたおれて、明治政府の手で、統一したあたらしい支配のしくみができあがるまでの、約十年間のお話をまとめました。
　政治、社会、生活、どれをとっても大きく動く十年間です。
　しかし、ここでどれだけのものが変り、また変らなかったかは、この巻だけでなく、四巻、五巻とのかかわりのなかで、考えてください。
　江戸幕府がたおれるのは、倒幕派の武士や公卿だけの力ではありません。
　封建制度のもとで苦しめられていた農民や町人が一揆にたち、世直しを始めたことが、幕府や大名の支配をよわめる力となったのです（『世直しの人々』）。
　幕府は倒幕派の中心、長州を攻めますが、武士からも民衆からもみはなされて敗走しました（『おわれる幕兵』）。
　大将軍慶喜はフランスの援助をたのみ、建直しをはかりましたが（『フランス公使ロッシュと将軍慶喜』）、倒幕派は慶喜をおいつめて将軍をやめさせ、天皇中心の政治を宣言しました（『王政復古』）。
　このころ、民衆の日ごろの不満を爆発させたような「ええじゃないか」で、幕府の統制力はくずれていました（『“ええじゃないか”』）。
　倒幕派は、形だけ幕府をやめさせたことで満足しないで、戦争をしかけて、慶喜をやぶり、江戸を占領し、東北諸藩や旧幕臣の反抗をおさえました（『鳥羽。伏見の戦い』『江戸城さいごの日』『五稜郭』）。
　この一年あまりもつづいた内乱によって、幕府の土台は根だやしにされて、中央政府の統一した支配がおこなわれる地ならしができたのです。
　この戦いには、「御一新」といって世のなかがかわることをねがって、名もない郷土や農民も協力しました。
　しかし政府は、民衆の期待する「御一新」をしようとしないばかりか、民衆のなかで活躍する指導者を排せきし、民衆に基礎をおいた部隊を解散させました（『にせ官軍』『長州藩諸隊の反乱』）。
　江戸幕府のときと同じように、キリスト教を禁止し、キリシタン信徒を罰しました（『浦上のキリシタン』）。
　「御一新」の夢やぶれた農民は、再びはげしく、各地で一揆をおこすようになりました（『明治の世直し』）。
　いっぽう、政府は西欧諸国との不利な条約はかえることができなかったので、日本の商人は不利なあきたいをしなければならなかったのです（『開港場の日本商人』）。
　政府のなかに反対の意見があり、財政を大商人の力にたよらなければなりません。
　植民地にされる危険もあります。
　政府も民衆をおさえ、支配をつよめ、中央集権のしくみをつくるために、廃藩置県にふみきったのです（『政府をうごかした人々』『廃藩置県』）。

　この本のお話を書くにあたって、つぎの先生方にご協力をいただきました。
　荒井知子（あらいともこ）　大森良治（おおもりりょうじ）　奥西一夫（おくにしかずお）　川口洋（かわぐらひろし）　川崎利夫（かわさきとしお）　斉藤保好（さいとうやすよし）　下村效（しもむらいさお）　長光徳和（ながみつのりかず）　花田久（はなだひさし）　半沢光夫（はんざわみつお）　古川隆（ふるかわたかし）　吉村徳蔵（よしむらとくぞう）

　　　一九六九年五月三十一日

　3 この巻の舞台の日本地図 top

　4 この巻の舞台の世界地図 top

　5 この巻の維新史年表 top
 （日本と世界の主なできごとのらんにある＊は、この本にでてくることがらです）