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英空挺部隊、砲台を爆破（ノルマンジー上陸作戦8）

　英第六空挺師団の任務は、カーンとノルマンジー海岸の中間にあるオルヌ川とカーン運河を横ぎって、橋頭堡をつくりあげ、海から上陸してくる部隊の東側面を護ることだった。
　そして海岸に堅固な拠点ができるまで、もちこたえなければならなかった。
　二つのパラシュート旅団は、ドイツ第七軍と第十五軍の真中に降下し、いちばん重要な目標地点を確保したあと、敵の増援部隊が主戦場に到着するのを、全力をあげて阻止しなければならなかった。
　ドイツ軍の第七百十一師団と第七百十六師団は、村落、重要拠点、橋をすべて堅固に護り、第二十一機甲師団は、いつでも攻撃ができるようその右側面に待機していた。
　その背後には予備のドイツ機甲師団が、攻撃距離内にひかえていた。
　このため、先遣のパラシュート二個旅団が稲妻のように攻撃をくわえ、占領地点をかためなければ、あるいはまた、後続のグライダー旅団の着陸地点にいる敵を追いはらい、グライダーが運んでくる対戦車砲、迫撃砲、その他多くの重装備をすばやく手にしなければ、その任務は全く絶望的になる。
　たとえ電撃戦で勝利をえても、後続の強力な兵器がなければ、日がのぼるまで、あるいは日没後には、必ず、すべてを失ってしまうに違いなかった。

　霧雨が降り、突風の吹く夜で、月光がきれぎれにあたりを照らしていた。
　爆撃機、輸送機、グライダーなど各種航空機が何千機と、ルアーブルからシェルプールにかけて、イギリス海峡の空をうめつくし、その轟音はあたりを圧していた。
　眼下には、五〇〇〇隻の船が、鉄灰色の海をわって進み、緑がかった白色のアワの航跡が続いていた。
　六日午前零時二十分、降下地点標示機部隊の第一陣がフランスに着陸したが、標識灯の三分の二が風で吹き飛ばされてなくなり、破損した器材も多かった。
　しかし、最小限重要な目標を示すのには、ことたりた。
　数分以内に、第一次奇襲部隊の先頭のグライダーが、目標地点から四二メートル離れたところへ、機体を破損しながら着陸し、寝ぼけまなこの敵をぎょうてんさせた。
　奇襲部隊は、カーン運河とオルヌ川にかかる橋を完全に占領した。
　すでに敵の曳光弾は空に弧をえがき、対空砲火は厚い雲のなかにながれ、海岸上空のグライダーや輸送機をうちおとし、雲の中から降下する第五パラシュート旅団の第七、第十二、第十三大隊の兵士たちには、ドイツ兵の銃口が待ち構えていた。
　空から地上まで、一〇秒でおだぶつだ。
　まるで鳥の群れのように、つぎからつぎへとパラシュートが、振り子のように舞いおりるのを、ドイツ兵が狙い撃ちするが、その敵めがけて手榴弾をなげつける。
　戦いながら着地した多くの兵士は、すぐにドイツ軍と交戦した。
　木にひっかかりぶらさがったままの者や、座ったまま動けない者もいたが、彼らを救い出すのは困難であり、生きのびたものは少なかった。

2 英降下第12大隊の幸運 top

　英第五パラシュート旅団の第七大隊は、午前一時すぎに急いでかけつけたドイツ軍第七百十六師団の部隊と、フォイヒティンガー将軍の第二十一機甲師団の二個大隊を相手に、オルヌ川の両岸で二時半まで戦いを続けていたが、勝ちめはなかった。
　第七大隊のある中隊は、ベヌービルで、三方から敵に強く圧迫されたが、迫撃砲手と機関銃手からなる小規模な大隊の予備隊を吸収した。
　この中隊は自分の武器を入手できず、捕虜や死者からまきあげていた。
　それは時間との戦いだった。
　救援隊は正午すぎまできそうもなかったが、上陸にさきがけての、ものすごい艦砲射撃が行われたため、新しい勇気が湧き上がってきた。
　第十二大隊〔第五パラシュート旅団］は、模範的ともいえる猛スピードで、ランビルの低地を占領したが、湧き上がる力もさることながら、幸運にもめぐまれた。
　先頭の小隊は、敵の二〇分の一の兵力だったが、六〇メートル離れたところで零距離射撃をしている敵の八八ミリ砲とまともに向いあっていた。
　しかも味方のただ一つの六ポンド砲は、着陸のとき砲尾が壊れたので、唯一の希望といえば、敵が混乱しているので、なにをやりだすかわからないということだった。
　幸運なことには、ここに大きな希望がつなげたのである。
　プルーメントリット中将〔ルントシュテットの参謀長〕がドイツ国防軍最高司令部に危機をうったえ、予備機甲師団を投入しようと努力していたときに、シュパイデル中将〔ロンメルの参謀長〕もロンメル元帥に事態は猶予を許さないと進言し、第二十一機甲師団を使用することについて、いろいろ命令をうけていた。
　しかし六時すぎ、フォイヒティンガー将軍は、第二十一機甲師団の戦闘部隊を手元にしばりつけようとしていた。
　もしこの戦闘部隊が攻撃を続行していたら、ランビルの低地を護っていた連合軍を圧倒し、橋頭堡も重圧をうけていたであろう。
　だが、ドイツ軍の指揮系統が混乱し、ノルマンジー海岸全体は恐怖につつまれていたため、パラシュート部隊には、ねがっていた幸遅がめぐってきた。
　朝の九時か十時ごろ、ドイツ軍機甲部隊は、ランビル低地でぐるりと方向転換し、大損害をうけた連合軍守備隊をそのまま残して引きあげてしまったのである。

3 米軍の危機救う top

　この最左翼面で行われた初期の戦闘は“オマハ”海岸の危機に決定的な意味をもつことになった。
　というのは、第二十一機甲師団長フォィヒティンガー将軍が、米軍に反撃するため歩兵大隊を移動させよ、との命令をうけたとき、この部隊が英第五パラシュート旅団と戦闘中だったので、引揚げることができなかったからである。
　ドイツ軍の対戦車大隊も、上陸した連合軍の歩兵部隊と機甲部隊の攻撃をうけている第七百十六歩兵師団を、破滅からすくおうと懸命に戦っていた。
　こうしていちばん大事なときに、“オマハ”海岸にさしむける予備兵力がドイツ軍にはなかったのだ。
　夜明けまえには、シェルブール半島一面に空からやってくる敵がどれだけのものか、ドイツ軍には見当がつかなかった。
　ドイツ軍は連合軍のもてる力を過大評価しがちであり、ドーバー海峡地区にもやってくるのではないかという恐れを、どうしても捨てることができなかった。
　一方、英第五パラシュート旅団の第三大隊と第十三大隊は、ドイツ軍のかたい護りの突出部の奥深くに降下した。
　グライダーではこぼれる増援部隊の到着にそなえ、杭や地雷を取り除くよう、一個中隊をあとに残し、主力はランビルヘ進んだ。
　この中隊は迫撃砲で、戦車三台を破壊したが、対戦車砲や重火器がないのが残念でならなかった。
　ドイツ軍の第七百十一歩兵師団の一個中隊は、ランビルで壊滅し、村と老齢のロアン伯爵夫人の別荘は、二時半までに英軍の手におちた。
　第五パラシュート旅団は、目標地点を奪取するため、十分な兵力ですばやく集結をはかったが、地上では手薄なままだった。
　多くの兵士が木にひっかかって生命をおとし、またあちこちで小規模ながら猛烈な戦闘をくりひろげたものも多かった。
　しかし最煥には、この戦闘のおかげで、全般の戦況が有利になった。

6 難攻不落のメルビル砲台 top

　しかし第三パラシュート旅団の旅団長が予言した混乱の中で、満足すべきスピードで達成されたこのような手柄も、その朝のもう一つの偉業のまえには、すっかりかすんでしまった。
　この武勲は、メルビル砲台にたいする奇襲であった。
　メルビル砲台にあるドイツ軍の一五五ミリ砲は、二メートルの厚さのコンクリートの掩体におおわれ、さらに厚さ四メートルの土塁で補強され、鋼鉄の扉で護られていた。
　その突出部の防壁には、幅約五メートル、高さ約一・七メートルの鉄条網がめぐらされ、そのまわり約四〇〇平方メートルの地域は、一三〇人のドイツ兵が守備にあたっていた。
　少なくとも二〇の壕と機関銃座が、まわりの地雷原に通じる道を全部護っており、野原と果樹園を横ぎって攻撃をしかける者にとっては、銃砲火から身を護るすべはなかった。
　上陸部隊の左側面を射程内におさめ、大きな損害をあたえることができるこれらの大砲を、緊急に破壊しなければならないのだ。
　空からの爆撃では、直撃しても防壁を壊すことができず、艦砲射撃も銃眼にまともに命中させないかがり、大砲を沈黙させることは望めなかった。
　「ランカスター」爆撃機一〇〇機が、深夜すぎてまもなく、一八〇〇キロ爆弾の雨をふらせたが、目標には命中しなかった。
　そのかわり家畜を数多く殺し、あちこちに深い穴をあけたので、奇襲部隊が身を隠すのに役立ちそうだった。

7 ドイツ軍司令部の庭に降下 top

　イギリスからパラシュート部隊をのせて飛んできた飛行機が、最後の四、五分になってドイツ軍の対空砲火をあびたため、操縦士が回避しようとしてあわてたので、ある大隊長はドイツ軍司令部の庭に降下してしまった。
　残りの兵士たちは予定より一〇倍も広い地域にわたって散らばっていた。
　しかし午前二時五十分、この大隊長は一五〇人の部下と、ビッカース機関銃一挺、最低限の信号用装備、それに爆薬筒二〇本を寄せ集めた。
　ジープ、六ポンド砲、迫撃砲、地雷探知機それに工兵などはみな行方不明となっていた。
　これだけの兵力を三〇人単位の部隊にわけ、それぞれに特別の任務をあたえて、大隊長は攻撃を命じた。
　幸運なことには、少人数の偵察隊がうまく降下し、作戦どおり堅固な拠点をつくりあげた。
　彼らは敵中に侵入し、鉄条網のそばに身をひそめ、盗み聞きした敵のきれぎれの会話から、ドイツ軍の正確な位置を探り出そうとした。
　二番目のグループは、地雷原を通る道を三本伐り開き、しるしにヒモをはっておいた。
　メルビル砲台にたいする攻撃は、細かく計画され、徹底的な練習が繰返されていた。
　第八パラシュート大隊の全員、それに少人数の第五百九十二パラシュート中隊の志願兵、さらにまた三機のグライダーに分乗し、敵の砲台の上に強行着陸することになっていた英工兵隊はいずれも、空中写真と大きな実物模型で砲台の隅々まで研究していた。
　だから失敗する余地はほとんどなかったわけだ。
　頭上にグライダー二機がやってくる二、三分まえまで、敵はさしせまった攻撃に警戒態勢をとっている気配はなかったが、第八パラシュート大隊の一五〇人の兵士が強固な拠点につくとすぐ、ドイツ軍の機関銃一〇挺――うち六挺は突出部の防壁の外にあった――が火をふき、戦闘に入った。
　ちょうど午前四時半のことだった。
　これではグライダー部隊が失敗することは、目にみえていた。
　一機は途中で曳き綱を離れてしまったし、残る二機は砲台の二〇ミリ砲の砲火をあび、うち一機は大きくゆれながら飛んでいた。
　二機ともパイロットには荒れはてたディーブ川の氾濫地帯の中から正確な降下地点を探し出すことが難しく、一機はメルビルの村落を砲台とかん違いしてしまった。
　同時に地上の兵士たちも、グライダーを迎え入れる信号弾を約束通り打ちあげることができなかった。
　このため一機のグライダーは目標から六・四キロも離れたところに降下し、乗員はメニルで旅団主力と合流した。
　残る一機は地雪原をやっとさけ、味方の陣地から二〇〇メートルほどのところに、燃えながら不時着した。
　乗員は全員負傷し、燃えあがるグライダーから転がりおりたあと、四時間も敵の小隊の攻撃をよせつけず、ドイツ軍の増援部隊が砲台に着くのを、たくみに阻止したのである。
　同時に、四時半から一、二分とたたないうちに、襲撃が開始された。
　三つの小突撃隊が鉄条網を爆破し、奇襲隊は標識のヒモを伝い地雷原をぬけ、爆弾でできた穴やもつれた鉄条網をこえて敵と白兵戦をくりひろげた。
　主力攻撃部隊が南東から進んでいるあいだに、ある分隊は、たくみに銃火をあびせながら、北側の主要門にたいし、牽制攻撃をしかけた。

8 砲台を爆破 top

　半時間後、非常に激しい、絶望的ともみえる大乱戦のあと、成功を知らせる信号がパッと燃えあがった。
　この戦いは煙と炎と爆発が断続的におこり、これを背景として、気味悪い影がつくられるという戦闘だった。
　砲台の大砲一門は、同時に二発の砲弾で狙い撃ちされて破壊し、ほかの三門は爆薬で壊された。
　ある中尉は瀕死の重傷をおいながらも、この破壊を確認してから、イギリス兵の六六人目の戦死者にくわえられた。
　ほかに二〇人の重傷をふくむ三〇人が負傷した。
　戦死者は、みな若い兵士だった。
　英第六空挺師団の二個旅団は、グライダー部隊と上陸部隊の増援を待ち望みながら、夕方早くまでに任務を遂行し、カーン運河とオルヌ川を横ぎる橋頭堡を確保した。
　彼らは第一特殊任務旅団の到着でさらに強化され、東からの道路をすべて封鎖した。
　彼らの将来は――もし将来があるとしての話だが――海岸で左側面の上陸部隊の先頭にたった英第三歩兵師団の成否にかかっていた。
　海岸からの前進は遅過ぎるということが、夕方までにハッキリした。
　歩兵は前進を急ぐべきであったのに、あまりにも早く塹壕を掘ったのだ。
　海岸で交通マヒがおこったため、英軍は午後まで展開できず、とうとうドイツ軍のフォイヒティンガー将軍の第二十一機甲師団が戦闘態勢をととのえ、九〇両の戦車でリオン・シュルメールで海岸にまで押し寄せた。
　それにもかかわらず、空挺部隊が壊滅をまぬがれたのは、ドイツ第二十一機甲師団が英上陸軍の主力を攻撃するため、迂回してしまったからである。