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9　危うし！　米守備隊

　約束の補給物資の投下地点には、米第101空挺師団の戦闘司会所の西方のゆるやかな斜面にある、いくつかの大きな畠がえらばれた。
　十二月二十三日、土曜日の朝、五トン・トラックと兵士が、弾薬をひったくって、待ちに待っている砲のところに急送しようと畠をとりまいていた。
　バストーニュでは、この晴上がった朝、西の地平線の方を、不安そうに眺めない者はいなかった。
　夜明けのあと約一時間、ドイツ軍がもう一度スノンシャン地区のブラウン隊を突破しようとしていたが、ちょうどその時、二機の飛行機が低空でやってきた。
　この先導機から投下地点表示班がうまく降下し、この地区に電波発信器を設置した。
　これが空輪部隊のＣ47輸送機を、目標に誘導することになった。

1 空からの救援はじまる top

　正午頃、飛行機のリズミカルなエンジンの音が聞え、大きな輸送機の第一陣が、Ｐ38「ライトニング」〔電光〕戦闘爆撃機の護衛のもとにゆうゆうとやってきた。
　四時間以内に、二四一機の輸送機が一四四六個の補給品を投下した。
　バストーニュの砲兵は、最後の飛行隊がやってきた時には、投下された弾薬の一部をすでに発射していた。
　ドイツ軍の高射砲部隊は、できるかぎりの対空砲を動員して砲撃した。
　バストーニュの米守備隊員は、多数のＣ47が、火炎に包まれて落下するのを目撃しなければならなかった。
　輸送機が補給物資を投下して帰途についたあと、Ｐ38「ライトニング」戦闘爆撃機は、ドイツ軍陣地にねらいをつけると急降下し、破片爆弾やナパーム弾〔ガソリンをいれたタンク〕を投下し、機銃掃射をやった。

　第26国民擲弾兵師団長ココット少将は、のちに自分の気持を次のように描写している。
　［私は十二月二十三日、戦闘司会所をオンプレにおいた。
　ここは第7軍の作戦地域内にあったが、作戦地境を心配している暇はなかった。
　第5空挺師団の行動は、私にとって重大な関係があった。
　というのは、米第4機甲師団の北進によって、背後に脅威をうけていたからである。
　敵に背後を衝かれるのは気持のいいものではない。
　米第4機甲師団が“精鋭”師団であることを知っていたので、私は、ショーモンの近くに抵抗線をつくるよう命じた」

3 包囲環しめつけるドイツ軍 top

　土曜日の夜明けに、クンケル少佐の戦闘部隊は、スノンシャンの米軍陣地を攻撃していた。左の方では、第39国民擲弾兵連隊が、米ブラウン隊を攻撃して米軍の右翼を衡き、同時に第26偵察大隊が、米軍の中央部を攻撃していた。第39連隊はまた、西方からフラミエ−ルジュの米第327グライダー歩兵連隊の第3大隊を攻撃していた。
　これらすべての攻撃は、夜明け前後に始まったが、教導機甲師団が、マルビー攻略のために、後方に残しておいた戦闘部隊（戦車二個中隊と第901装甲歩兵連隊からなる）は、連合軍の戦闘爆撃機がいなくなるまで、ジャン・コランの森に隠れていた。
　スノンシャンの戦闘は、ドイツ軍砲兵の猛烈な弾幕射撃で始まった。
　四、五両の戦車と約一〇〇人の歩兵を一波として、ドイツ軍の波状攻撃が続いた。
　歩兵はシーツでつくった白い偽装服に身をかため、戦車には白い塗料を塗っていた。
　この攻撃と同時刻に、フラミエールジュの近くの米グライダー歩兵の前哨部隊は、ドイツ第39国民擲弾兵連隊の攻撃をうけ、止むなく後退した。フラミエールジュは陥落したが、米軍は猛反撃をくわえ、これを奪回した。
　ついでドイツ軍戦車は、バストーニュ〜ウルトゥールビル道を守備している米空挺隊に砲撃をくわえた。
　このようにして米軍を制圧しつつ、ドイツ歩兵は米軍の殲滅をめざして前進した。
　この時、ドイツ歩兵は、スノンシャンの米軍陣地からの砲火により撃退されたが、米軍の西部防衛線はバストーニュの方に押され、守備範囲はせばめられた。

4 バストーニュに暗雲たちこめる top

　土曜日の夕刻六時三十分頃、ブラウン隊正面の状況が危険なように見えたので、マッコーリフ准将は、手もとの機動予備――第10機甲師団からでていたチェリー隊の生存者からなる――の半分を、援助に派遣した。
　このすこしまえ、マルビーの米第327グライダー歩兵連隊の第2大隊とオハラ隊は、ドイツ教導機甲師団の戦闘部隊の戦車と装甲歩兵から、激しく攻撃されていた。ここの米軍もまた救援を必要としたので、マッコーリフ准将は、チェリー隊の残りの半分を急派することにした。
　バストーニュの戦いで、最も苦しい時機であった。
　第101空挺師団の作戦参謀キナード中佐は、第8軍団の作戦参謀を電話で呼びだし、救援部隊を急派してほしいと申入れた。
　「わが状況は、かなり切迫してきました。
　敵は、南方から全面的に攻撃してきており、数両の『パンテル』戦車と『ティーゲル』戦車が、わが陣地内を走りまわっています
　。第8軍団から第4機甲師団に、できるかぎりの圧力を敵にかけてほしいと要求してください」
とキナード中佐は、悲痛な声でうったえた。
　包囲されて戦闘している第101空挺師団から伝えられたこの言葉は、バストーニュが危急の状態にあるものと受取られた。
　マッコーリフ准将は、マルビー陣地応援のため、機動予備の残りを吐きださざるをえなくなったので、スノンシャンから、チェリー隊の半分を呼び戻した。
　予備隊なしで戦うことは、敗北の始まりを意味するからだ。
　スノンシャンでは、ブラウン隊が、ドイツ軍の攻撃を持ち堪えていた。

5 マルビー攻防の大激戦 top

　ドイツ軍の攻撃は、一晩中続き、成功の寸前までいっていた。
　米軍陣地は、左のオハラ隊――最初にドイツ教導機甲師団を阻止したのち、ウィルツ道を北東方に移動し、モンの第501空挺歩兵連隊の陣地につらなる防衛線を保持していた――と、右の第327グライダー歩兵連隊のハーバー中佐の率いる第2大隊――マルビーの北東方からマルビーの真西にあるアルロン進上の拠点までのバストーニュ防衛線を保持していた――とのあいだが、分断されてしまったのだ。
　ドイツ軍はまず、ジャン・コランの森の中の小さな村、マルテモンに隠れていた戦車が一五〇〇メートル以内の距離で猛射を浴びせて、攻撃を開始した。
　約一五分間の猛射ののち、二縦隊の戦車が、装甲歩兵に支援されて、森の中から現れ、マルビーの約一キロ南方の高地を守備していた一個小隊の米グライダー歩兵を包囲し、ほとんど全滅させた。
　この高地からドイツ軍戦車四両が、森の中からマルビーを射撃中の砲火に協同し、ついでマルビーに突撃してきた。
　だが、一両の破壊されたハーフトラックが、進路をふさいでいたので、前進はストップした。

6 米軍崩れず、ドイツ軍増強 top

　真夜中頃、射撃がやみ、戦闘が終ったように思われたが、ドイツ軍は、マルビーの村を奪取しようとして、もう一度、一五両の戦車と歩兵一個大隊を使って攻撃してきた。
　これは、バストーニュの包囲戦のなかで、最も激しい戦闘となった。
　米グライダー歩兵は、民家の土台のすぐ下に壕を掘り、家屋を陰にして、火炎にてらしだされるドイツ兵を小火器でなぎたおした。
　戦闘は夜明け直前に終ったが、この時、ドイツ軍はマルビーの南で一部の家屋を占領していた。
　しかし米軍は、バストーニュ防衛線の危険な地区をなんとか持ち堪えたのであった。
　ドイツ軍では、リュットウィッツ少将〔第47機甲軍団長〕が、ココット少将の第26国民擲弾兵師団と一装甲特別隊だけでバストーニュの堅固な防御をくずすのは無理だと主張していたが、ドイツ軍最高統帥部は、ようやく総予備から二個師団−−機甲師団と機甲擲弾兵師団−を、第5機甲軍に増加した。
　しかし、マントイフェル第5機甲軍司令官は、バストーニュ奪取よりも、もっと心配なことがあったので、第26国民擲弾兵師団の増援に手ばなせるのは、装甲擲弾兵連隊の戦闘団だけしかなかった。
　ココット少将は、この連隊戦闘団をバストーニュの北西方にむけ、自分の司令部をオンプレからジブリーに移し、さらにクリスマスの早朝三時に、再度攻撃をかけるため、部隊の配置がえにとりかかった。

　戦闘は一晩中続いたが、休む暇もなく、翌朝、日の出とともに、狙撃兵を乗せた米軍軽戦車が、三方から侵入し、Ａ機甲戦闘部隊の砲兵がワールナハの村を砲撃した。
　戦車と歩兵が家並みのあいだに進出すると、米軍砲兵は砲撃を中止しなければならなくなり、ドイツ軍は死物狂いで応戦した。
　五両の「シャーマン」戦車が破壊され、六八人の米兵が戦死または負傷したが、日曜日の昼までに、ワールナハのドイツ兵は撃退された。
　道路上や屋内に一三五人のドイツ兵の死体が発見され、ほぼ同数が負傷するか捕虜となった。

8 Ｂ機甲戦闘部隊はショーモン抜けず top

　米第4機甲師団のＢ戦闘部隊のショーモンにたいする攻撃は、タイミングもよく、成功するかに思われた。
　すなわち、装甲歩兵一個大隊と「シャーマン」戦車二二両が包囲運動をはじめ、このあと西方と北方から攻撃をくわえ、この間、全装甲砲兵大隊が、ドイツ軍陣地に情け容赦なく、集中砲火を浴びせかけた。
　米軍が攻撃する直前に、バストーニュヘの補給物資の空中投下援護にきたＰ38「ライトニング」戦闘爆撃機が、ショーモンにたいして、急降下爆撃と機銃掃射を浴びせた。
　このあと、十二月二十三日、土曜日の午後一時三十分頃、歩兵を搭載した米軍戦車が村に突撃し、装甲歩兵が続いた。
　同時に、西方の畠の中から「シャーマン」戦車が前進し始めた。
　しかし雲一つない晴天のため、地面がぬかるみ、戦車はやがて泥の中でもがくようになった。
　機をのがさず、ドイツ軍のココット少将の派遣した何両かの自走砲が砲撃をはじめ、約一一両の「シャーマン」戦車を破壊した。
　米軍の装甲歩兵中隊は、六五人の死傷をだすにいたり、将校は全員戦死した。
　ドイツ軍は、依然ショーモンに頑張っていた。

9 予備のＲ機甲戦闘部隊投入さる top

　米第4機甲師団のバストーニュヘの突進計画は、このように二つの戦場で厳しい試練をうけていたが、師団の不運は、まだ終ったわけではなかった。
　装甲歩兵一個大隊と中型戦車一個大隊からなる第4機甲師団の予備のＲ戦闘部隊を、一個大隊の支援砲兵とともに、Ａ機甲戦闘部隊の右に投入しなければならなくなった。
　この時、あらたなドイツ機甲部隊が南進中で、米第4機甲師団と米第26歩兵師団の接合邦を攻撃しようとしている、というニュースが届いた。
　このドイツ軍の機甲部隊とは、ブランデンベルガー大将〔第7軍司令官〕が、国防軍最高司令部の総予備から引きぬくよう手配していた総統直轄擲弾兵旅団の前衛であった。
　南方から米第3軍の第3軍団がやってくるというニュースが流れたので、ドイツ軍がとった対抗策であった。
　ワールナハの第4機甲師団のＡ戦闘部隊と第26歩兵師団の左翼のあいだに面して隙間ができたため、ギャフェー少将は、予備のＲ機甲戦闘部隊を、Ａ機甲戦闘部隊のむきだしになった翼を援護するために移動させなければならなくなった。
　Ｒ機甲戦闘部隊は、マルトランジュまで、北進するＡ機甲戦闘部隊のあとを追い、マルトランジュで、シュール川をわたらずに右折し、北東進してビゴンビル村の方向に前進した。
　道路には氷が張っており、戦車はしばしば滑り、ハーフトラックは、たびたびブレーキをかけなければならなかった。
　ドイツ軍との最初の接触は、ハーフトラックに乗った歩兵の前衛が、ビゴンビルの南方十字路にさしかかった時に起った。
　米軍はドイツ軍の小火器の攻撃をうけたので、掩蔽地にのがれ、続行する砲兵大隊に砲撃を要求した。
　砲兵は約一時間砲撃を続け、森を粉砕した。
　砲撃中止と同時に、狙撃一個中隊が森に向って突進したが、ドイツ兵の姿は見えなかった。
　ドイツ軍は、米軍に砲撃を浴びせるだけ浴びせたあと、砲兵の弾幕の援護のもとに、森を捨てて四〇〇メートルほど後退していたのである。
　米軍は北進を続けようとして再びハーフトラックに乗車を始めたが、ドイツ兵が姿を消していると報告された森の中から、貧弱ながら小銃火をうけ、乗車は中断された。
　ドイツ軍は、第5空挺師団の兵士がさらに多数来援し、米兵の跡を追って森を再び占領したのであった。
　今度も米軍は戦車を呼びよせたが、ドイツ空挺歩兵は、正確な射撃を続け、米軍戦車の指揮官をほとんど全員、なぎたおしてしまった。

10 バストーニュヘの道けわし top

　短い冬の一日が暮れようとしていた。
　日没時、ドイツ軍は一・六キロ北方に後退し、ビゴンビルの石造りの家々に立て籠もった。
　翌日曜日の朝、Ｒ機甲戦闘部隊は、ドイツ軍のいる村の家にたいし、巧みな狙いうちの攻撃をかけた。
　猛烈な砲兵の弾幕に続いて、二組の攻撃隊――それぞれ一両の「シャーマン」戦車と装甲歩兵一個中隊――が突進した。
　この間、大隊からでた戦車が曳光弾で各家屋に火災を起し、一人のドイツ兵をも逃がすまいと、機関銃火を浴びせかけた。
　ドイツ軍（第5空挺師団第13連隊の一部）は、射撃をひかえて待機し、米軍が村に突入すると、バズーカ砲、迫撃砲、機関銃で、一斉射撃を始めた。
　ドイツ軍は、勇敢に奮戦したにもかかわらず、優勢な米軍に対抗することはできなかった。日曜日の午前十一時までに、ドイツ軍はビゴンビルから一掃されてしまった。

　この戦闘は損害も大きく、また時間もかかったので、Ｒ機甲戦闘部隊は、第4機甲師団の他の二つの戦闘部隊と同じように、北進はドイツ軍の側面を通過していくだけの簡単なものでない、と悟り始めたのであった。
　連合軍航空部隊は、クリスマスの日に再開する米第4機甲師団のバストーニュヘの進撃を支援するよう、要求された。
　第4機甲師団は、十二月二十四日の日曜日の大部分を進撃の準備に費やした。
　土曜日の晩、第4機甲師団司令部に一通の電報が届けられていた。
　電報はバストーニュから発信されたもので、
　「クリスマスまで、もう一日しか“買物日”がこっていない！」といっていた。
　米第3軍団正面で、戦術的に最も重要な展開になると思われる措置がとられた。
　米第26歩兵師団には、中央でビゴンビルを保持する任務があたえられた。
　また、米第4機甲師団のＲ戦闘部隊は、一六キロ西方で軍団の背後を通過し、右にでて、ヌフシャトー〜バストーニュ道をこえて、ヌフシャトーの北東方一四キロのところに集結するよう命じられた。
　そこは、スノンシャンの米軍陣地に対抗しているドイツ軍の後方わずか八キロの地点であった。
　Ｒ機甲戦闘部隊は、クリスマスの夜明けに、そこに到着した。
　この地点はＢ機甲戦闘部隊が、十二月十九日の夜占領したところであった。

　しかし、戦車と協同したドイツ軍の突進にたいしてはまだ十分とはいえなかった。
　日曜日はまた晴天となり、一六○機のＣ47が、バストーニュに物資を投下した。
　護衛についてきたＰ38「ライトニング」戦闘爆撃機が、防衛線の外側のドイツ軍に、組織的に爆撃をくわえた。
　マルビーでは、Ｐ38「ライトニング」戦闘爆撃機が、六発の五〇〇ポンド爆弾を、こともあろうに米軍陣地のド真中に投下したが、驚いたことに、怪我人はなかった。

　午前四時、ドイツ軍と米軍の兵士たちは、シャンの村で白兵戦を演じ、軒から軒への戦闘にはいった。
　米軍の増援隊は村の背後に移動したが、夜が明けて状況がハッキリするまで、行動をひかえていた。

　ココット少将は、新来の第115戦闘部隊から、楽観的な電報を受取らたのち、何の報告もうけなかった。
　一七両の戦車と乗車していた装甲歩兵がどうなったかについては、終戦後まで何もわからなかったのである。
　一方、クンケル少佐の第26偵察大隊はクリスマスの日に、一つの戦果をあげた。
　それはなによりも目標を制限したために成功したのであった。
　すなわち、米軍のブラウン隊が撤退した時に、スノンシャンに突入したのだが、今度は一五〇〇メートルほど前進して、イル・ラエッスという部落（ウルトウールビル道に沿い、バストーニュの西方約二・五キロ）を奪取した。
　このため米軍は、バストーニュに後退しなければならなくなった。

14 “万事休すだよ！” top

　十二月二十六日、ココット少将は、　バストーニュ奪取のため「最後の死物狂いの努力」をした。
　第26偵察大隊から、ハーフトラックに搭載した歩兵と自走砲一〇両からなる攻撃隊を、イル・ラエッスの突出部から米軍の道路閉鎖点を包囲し、北方からバストーニュにむかうように派遣したのである。
　しかし、ドイツ軍自走砲一〇両はすべて、集結した米軍の榴弾砲と対戦車砲によって破壊されてしまった。
　この日の午後、ココット少将は、第39国民擲弾兵連隊長カウフマン中佐から電話をうけた。
　カウフマンは、「米戦車一二両がアッスノアにいて、あらゆる方向に射撃をしています」と報告した。
　これにたいし、ココット少将は、
　「そちらに増援を送ろうとしたが、第26国民擲弾兵師団の部隊は、綿のように疲れきっていて、それができないのだ。万事休すだよ！」といった。