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1 大型長距離爆撃機の生い立ち

　Ｂ29戦略爆撃機は、第二次世界大戦において、いちばん強力で、もっとも破壊的な兵器であった。
　それはずっと以前、一九一四〜一八年〔大正三〜七年〕の第一次世界大戦から誕生を約束されていた。
　それは第一次大戦中に、帝政ドイツが史上初の戦略爆撃部隊を出陣させ、独軍のレイモンド・Ｈ・フレデット中佐が、いわゆる最初の「英国存亡の戦い」〔第二次大戦の一九四〇年の有名な「英本土航空決戦」の先例をなすもの〕で、英本土を初空襲して勇名をはせたときに、始ったのである。
　このドイツ爆撃部隊はフレデット中佐が率いて、占領下のベルギー各地の航空基地から出撃し、英本土の主要地を攻撃したが、数種類の飛行機から編成されていた。
　そのなかに巨大な爆撃機がふくまれていた。
　それは第二次大戦の後期に出現したＢ29より、翼長がわずか九〇センチ短いだけの巨人機であった。
　一九一五年〔大正四年〕一月十九日から二十日にかけて敢行された独空軍の最初の対英爆撃には、有名なツエッペリン飛行船とゴータその他の爆撃機が参加して、合計二七〇トンの爆弾をロンドンその他の都市に投下して、死者一四〇〇人以上の損害をあたえた。
　これにたいする英軍側の反発は強烈であった。
　なによりもまず、別々に空軍省と英空軍総司令部〔ロイヤル・エア・フォース＝ＲＡＦ〕を設置したうえ、一九一八年〔大正七年〕六月にはヒュー.トレンチャード少将を司令官にして、独立した在フランス英空軍部隊を創設した。
　このトレンチャード司令官の主要な任務は、ドイツ軍にたいして報復することであった。

1 第一次大戦で航空兵力の優位を予言 top

　こうして第一次大戦末期の数ヵ月間に、この独立英空軍部隊はデハピランドとハンドレーページ両爆撃機隊で、ドイツの工業中心地マンハイム、カールスルーエ、フランクフルト、コブレンツ、シュツットガルトなどを攻撃した。
　そして総計五四〇トンの爆弾を投下して、およそ七〇〇人を殺した。終戦時には、トレンチャード司令官はベルリン空襲の準備をしていた。
　英国政府は、有名な南アフリカ連邦の指導者ヤン・クリスチャン・スマッツ将軍を委員長とする委員会の勧告をいれて、独立した空軍部隊を創設した。
　この勧告のなかで、スマッツ将軍は新しい航空兵器を「戦争行動の一つの独立した手段として」使用できるものと予測していた。
　そして航空部隊というものは砲兵部隊とはちがって「遠方から、しかも陸海軍兵力のいずれからも独立して、広い地域にわたる作戦を遂行できる」と指摘した。
　さらに彼は、つぎのように主張した。
　「現在の時点で予想できることは、将来、航空兵力は独立して使用され、その規模は広範なものとなっていくだろう。
　そして航空作戦が、敵の大規模な産業中心地および人口の多い都市を破壊して、国土を荒廃させることによって、戦争の主役を演ずる日も遠くはないだろう。

これまでの古い形式の陸軍や海軍の作戦は、二次的な、あるいは補助的なものになりさがってしまうに違いない」 　だが、このような意見は、当時、大西洋の両側の欧米諸国で、将軍や提督たちの支持を得なかった。 　陸海軍から独立した航空作戦という構想にも、また航空機がいつか陸海軍を従属させるという理念にも、彼らは強く反対を表明した。 　米国にはただ一人、空軍力の忠実な信奉者がいた。 　それは“ピリー”の愛称で知られた陸軍准将ウイリアム・ミッチェル〔一八七九〜一九三六年〕で、はやくから独立した大空軍を提唱していた。 　彼は第一次世界大戦では、在フランス米陸軍航空隊司令官として西部戦線で功績をたてた。 　戦後の一九二一年〔大正十年〕に空軍力の優位を実証するためにチェサピーク湾〔米国メリーランド州とバージニア州の大西洋岸に面した長さ三二〇キロの入江〕でドイツ海軍から捕獲した軍艦数隻を、彼の指揮する米陸軍航空隊の爆撃隊が、見事に爆沈するという爆撃実験に成功した。世界中の新聞は大見出しで報道した。

ウイリアム“ピリイ”ミッチェル准将：1921年7月、爆撃実験で数機のマーチン爆撃機をひきいて旧ドイツ戦艦「オストフリースラント」を撃沈し、航空攻撃の威力をしめした

2 ミッチェル、空軍独立を提唱 top

　ミッチェル准将は、英国が空軍を独立させた先例を大いに見習う価値があると考えて、独立した米空軍の設置を熱心に説いてまわった。
　だが米陸軍参謀総長ジョン・Ｊ・パーシング元帥〔一八六〇〜一九四八年、第一次世界大戦でアメリカ派遣軍総司令官〕をはじめ上司たちは、これに不賛成であった。
　パーシング参謀総長は一九二四年〔大正十三年〕九月十三日付けの陸軍長官にあてた最終報告のなかで、つぎのように自分の見解を明らかにした。
　退役する前日のことであった。
　「アメリカ航空部隊は、戦場における陸軍部隊に、補助兵力として必要な助力をあたえるものであり、地上部隊との緊密な協力によってのみ、その最善の効果が生みだされるのである」
　パーシング元帥は、航空隊員たちの主張を軽蔑した。
　「戦争中に敵国の諸都市や軍事施設に大荒廃をもたらした」という彼らの話は、偽りであり、地上部隊が実地検分したところでは、その損害はほとんど「取るに足らぬもの」であることがわかった、とパーシング元帥は言明した。
　また彼は「将来の戦争では航空爆撃で、いくらか大きな損害をうけるであろう」と、一応は認めながらも「陸軍部隊が主戦力であり、また勝つためには敵軍を地上で圧倒しなければならない」と力説した。
　さらにミッチェル准将のチェサピーク湾上空で実験された爆撃デモンストレーションについては「しかし、高射砲の命中精度の改善が、航空機の進歩改善と足並みをそろえて進展しているようにみえる」とパーシングは主張した。
　独立空軍論者のミッチェル准将は、このように米軍首脳から非難されても自説をまげず、各方面に説きまわっていた。
　彼は米陸軍航空隊副司令官の要職を解任されて、テキサス州アントニオに左遷されたあとでも、沈黙を強制されることを拒否した。

そして一九二五年〔大正十四年〕九月、米海軍の飛行船「シェナンドア」号が墜落大破して、船長はじめ一三人の搭乗員が惨死したとき、ミッチェル准将は新聞に声明書を発表して米陸海軍最高統帥部の「無能力、犯罪ともいえる職務怠慢、国家利益に反する国防の管理行政」をはげしく非難した。 　それで、彼は、ワシントンで陸軍将官により構成された軍法会議にかけられ、上官に反抗したかどにより有罪と決定、「階級、指揮権、職務から、向こう五年間停止処分に付され、一切の給与、手当を没収する」と陸軍当局に通告された。 　当時のカルビン・クーリッジ大統領〔第三十代〕は一九二六年〔大正十五年〕一月に、この判決を承認した。 　その直後にミッチェルは独立空軍事件をアメリカ国民に訴えるために、米陸軍をやめ退役した。

3 世界最初の総金属製爆撃機Ｂ9製作 top

　一九二〇年代の末期、ミッチェル以後の時代に、米航空部隊は陸軍航空隊〔ＡＡＣ〕に改編されたが、その地位は以前とほとんど変わらなかった。
　しかしミッチェルの後輩の独立空軍信奉者たちは、航空工業技術における進歩、発展に将来の希望をつないでいた。
　この再編成された陸軍航空隊にとって注目すべき事件は、一九三〇年〔昭和五年〕に開始された世界最初の金属製爆撃機、双発のＢ9型機の製作であった。
　それは第二次大戦後半で猛威をふるったＢ29と同じく、米国ワシントン州シアトル市のポーイング航空機会社の製作であった。
　一九三一年〔昭和六年〕四月に最初の試作機を飛ばせたのち、ポーイング社は同機をオハイオ州デイトンのライトフィールド航空技術センターヘ輸送した。
　そこは陸軍航空隊の開発、試験センターである。
　米陸軍当局は、その素晴らしい飛行性能――高度一八○○メートルで最高時速三〇〇キロをだした――に心が動て、早速この試作機を購入し、さらに同型機を六機も追加発注した。
　しかし、このＢ9は、コロラド州デンバー市にあるマーチン航空機会社で製作した他の二種の爆撃機に、じきにとってかわられてしまった。
　その一機は総金属製、引っ込み車輪装置のマーチンＢ10型の試作機であった。
　これは一九三二年〔昭和七年〕八月にライトフィールド航空センターの試験飛行で、高度一八〇〇メートルで最高時速三一五キロをだした。
　さらに同機は新式発動機を装備したたのち、同年十月には、高度六三〇〇メートルで最高時速三三一キロを記録した。

　これにたいして、カリフォルニア州サンタモニカ市のダグラス航空機会社から提出された設計図が選定されて、ダグラスＢ18とよばれた。
　同社は一九三六年〔昭和十一年〕一月、一三三機の製作契約をあたえられた。
　さらに陸軍航空隊はその翌年にもＢ18を多数、追加発注した。
　それで一九四〇年〔昭和十五年〕までに、陸軍航空隊の大半の爆撃隊に、すべて新式の双発爆撃機Ｂ18またはＢ18Ａが配備された。この双発爆撃機は最高時速三四七キロをだした。
　このＢ18爆撃機が作戦に使用されるようになるだいぷ以前から、ライトフィールド航空技術センターの技術将校たちは、これよりもっと進歩した長距離爆撃機の計画案を起草していた。
　彼らの目的は、一九三三年〔昭和八年〕一月の米陸軍省の声明を実現することであった。
　この声明とは、それまでアメリカ合衆国ならびにその海外領土の沿岸を、陸上基地航空隊で防衛することに限定されていた陸軍航空隊の任務を拡大して飛行機の行動半径をのばして、長距離偵察と作戦活動をおこなうことを承認したものである。
　このように陸軍航空隊の行動範囲を拡大するために、陸軍航空隊では「Ａ計画」の開発を提案した。
　それは航続距離八〇〇〇キロで約九〇〇キロの爆弾を搭載できる飛行機を建造することであった。
　「この飛行機は米国の海外領土〔当時〕ハワイおよびアラスカ両方面の防備を援助できる」と指摘した航空軍幹部の説明をきいたのち、米陸軍当局はこの計画を正式に承認した。
　そしてただ一機の原型の試作契約がポーイング社にあたえられ、一九三四年〔昭和九年〕の夏から製作が開始された。
　この試作機は四発の大型爆撃機でＸＢ15とよばれ、その翼長は四四・七メートル、胴体は二六メートルであった。
　しかし機体の総重量が約四一トンもあり、当時使用できるエンジンでは、余りに重すぎることがわかった。
　それでこのＸＢ15機の最高時速は、わずか三〇四キロにとどまった。

5 「空の要塞」Ｂ17を計画 top 　この大型爆撃機が組み立てられていたあいだに、ライトフィールド航空センターの技師たちは、やや小型で航続距離三二〇〇キロていどの爆撃機の仕様書をつくった。 　それは時速四〇〇キロで、爆弾一〇〇〇キロを運ぶことを要求していた。 　ボーイング社は、この飛行機の試作も引受けた。 　ＸＢ17とよばれ、一九三五年〔昭和十年〕七月二十八日、はじめて試験飛行をした。 　この新型爆撃機は、プクット・アンド・ホイットニー発動機四基を装備し機関銃五挺をもつことで有名になり、たちまち「空の要塞」というあだ名をつけられた。 　このＸＢ17は試験飛行では速度、上昇力、航続距離、搭載能力などが仕様書を上回っていた。 　ところが、一九三五年〔昭和十年〕十月三十日、大事故がおこった。 　それは別の試験飛行で離陸している最中に、このＸＢ17原型機がライトフィールドの飛行場で墜落して、ポーイング社専属のテスト・パイロット、レスリー・タワーと、陸軍航空隊のプロイヤー・Ｐ・ヒル陸軍少佐が惨死したが、若いテスト・パイロットと技師とドナルド・プット中尉の三人が生きのこった。

ドナルド・Ｌ・ブット中尉:B17試作機の事故の生きのこりで、B29試作計画に参加した

このプットは後年、Ｂ29の開発に重要な役割を演ずることになる。 　この原型機を失ったことは、陸軍航空隊にとって大打撃であった。 　この悲惨な事故のために陸軍参謀本部は、この爆撃機の製作発注を六五機から一三機にへらした。 　だがこの「空の要塞」については、機体の欠点はつきとめられ、その生産は重大な時期に間にあった。 　第二次世界大戦が始ったとき、このＢ17は米軍の手持ちの軍用機の中にあった唯一の最新型の爆撃機であった。 　このＢ17と、その以前の各爆撃機を造り出した航空工学上の技術こそ、後年、Ｂ29開発の重要な下地をつくっていたのである。 6 軍用機制限の世界風潮 top 　さて長距離爆撃機にいろいろな改良がくわえられているあいだに、欧米諸国では、将来の戦争において軍用機がはたす役割について、多くの人の関心を増々深めるようになった。 　すでに一九二三年〔大正十二年〕には早くも、ハーグの法学者会議〔日・米・英・仏・伊・蘭の六ヵ国代表よりなる戦時法規改正委員会〕が、各国が神経をとがらしている軍用機使用についての基準をつくろうと試みた。 　それで「爆撃は軍事的目標にたいして行われた場合にかぎり適法とす」と宣言した。 　しかし各国家の安全は、軍用機の全面的廃止によってのみ保障される、と信ずる人たちもあった。 　第一次大戦に航空攻撃のもとで苦しんだ英国は、完全な航空軍縮を支持しなかった。 　また一九三三年〔昭和八年〕三月十九日、ジュネーブの軍縮会議に提出された条約草案は「すべての国が航空爆撃の完全廃止を受諾する」ように勧告した。 　ただし「特定のへんぴな地域における警察目的をのぞく」という保留条件をつけた。 　この保留条件は、大英帝国の治安維持のために、いかに軍用機が役に立っているかがわかったあとで、つけくわえられたものである。 　この除外例に、新任の米大統領フランクリン・Ｄ・ルーズベルト〔第三十二代〕は不安をいだいた。 　彼はすぐジュネーブ会議に出席中の米代表団にたいして「最終の目標は、地上戦および海上戦において、航空機のいかなる使用も一切禁止することでなければならない」と打電した。 　ついで五月十六日、彼は全世界の国家元首にむけて、実際的な軍縮を訴え、あらゆる攻撃用の現代兵器を廃棄すること、に同意するようもとめた。 　彼は攻撃用兵器として、戦争用飛行機、機動力のある重砲、戦車、毒ガスなどを列挙していた。 　〔この大半は英国側からすでに提案されていたものである〕

ボーイング299、B17シリーズの試作恨が1935年7月28日、最初の試験飛行のために格納庫からだされるところ。その後非公式にXB17とよぱれたが、この飛行機には軍による名前はつけられなかった ボーイング294は1937年10月15日にXB15【上、下】としてテストされた｡「これはこのときまでに米国でつくられた最も大きい、最も重い飛行機であった。出力不足のため、爆撃機としては採用されず、1945年に廃棄されるまで貨物輸送機として使用された

「空の要塞」のB17E型。操縦席の上部と機体腹部の二連銃座、それに尾部円錐部の“スティンガー”銃座がこの型の特徴である。このB17E第一号機は1941年9月5日に飛んだ

その後の量産型B17F−70がヨーロッパ上空で作戦任務についているところ。爆弾倉のとびらが開かれているのがみえる

7 ファッシズムの猛威 top

　しかしながら、第一次大戦以後のすべての軍縮努力は、当時すでに野ばなしになっていた独裁政権とファッシズムの波に押し流されていた。
　日本の満州支配〔一九三一〜三二年〕イタリアのエチオピア征服〔一九三五〜三六年〕ナチス・ドイツのラインランド再占領〔一九三六年三月七日〕スペイン内乱〔一九三六年七月〕などが第二次大戦への道をしめしている。
　一九三七年〔昭和十二年〕四月二十六日、スペインでは、ヒトラー総統の命令により「コンドル部隊」とよばれたドイツ義勇空軍部隊が、古都ゲルニカを大空襲して徹底的に破壊した。
　これはドイツ空軍総司令官ヘルマン・ゲーリング元帥が後日、証言したように「ドイツ空軍の爆撃試験場」として利用したのであった。
　この残酷きわまるゲルニカ大爆撃から二ヵ月後に、日本軍部隊と中国軍部隊は北哀付近で衝突し、日中戦争の火ぷたが切られた。
　日本政府の声明したところによれば「中国にはびこる排外、排日運動」を根こそぎにするために、日本の全面的な戦いのスタートを告げるものであった。
　この戦いの当初から、日本航空部隊は中国の多数の都市に無差別爆撃と機銃掃射をくわえ、その中には南京、漢口、南陽、重慶などの主要都市がふくまれていた。
　これらの不法攻撃にたいして米国政府が抗議するや、日本はこれを無視したので、フランクリン・ルーズベルト大統領は一九三七年〔昭和十二年〕十月五日、全米国民にあてた演説のなかで
　「世界の平和愛好国民は侵略者を隔離する措置をとらねばならないであろう」と提唱した。
　このルーズベルト大統領の発言は、その深長な意味が米国内の孤立派の有力な上院議員と新聞を刺激して、ルーズベルト弾劾〔だんがい〕を要求する騒ぎをおこした。
　また全米労働総同盟〔ＡＦＬ〕は、米国が外国の戦争に巻込まれることに反対する決議を行った。
　ルーズベルト大統領は中国にたいして気をもんではいたが、彼のいちばんの関心はなんといっても欧州にあった。
　英仏両国は増大しつつあるドイツの国力にたいする恐怖でマヒ状態になり、一九三八年〔昭和十三年〕三月ヒトラーがオーストリアを、彼の第三帝国に併合〔アンシュルス＝独襖合邦〕したときには、ただ腕をこまねき、傍観するばかりだった。
　それから六ヵ月後にミュンヘン〔ドイツ南部の古都でババリア州の首都〕で、第一次世界大戦の勝利国〔英仏両国〕は、ヒトラーのチェコスロバキア共和国の分割〔ズデーテン地方の割譲〕を黙認した。
　多くの米国人にとっては、英仏両国がドイツの独裁者にたいして宥和〔ゆうわ〕政策をとることが不可解に思われた。

　その当時、英国議会の下院議員であったウィンストン・チャーチル〔一八七四〜一九六五年、第一次大戦で海相、軍需相、第二次大戦で首相、戦後に再び首相〕は一九三八年十月に米国民にむかって演説し
　「全体主義国家プラス航空爆撃という恐喝力をもつ国に直面した議会主義社会は、悲痛にも、実際的に不利である」
と欧州の実情をのべ、米国民の理解をのぞんだ。
　また米国言論界の長老ウォルター・ジップマンは、もっとはっきりと直言した。
　「もしも強大な敵空軍部隊が、ワシントン、ニューヨーク、ボストン、デトロイト、ピッツバーグ、シカゴ各都市から一時間たらずのところに基地を持ち、ただ一回の空襲で三万から四万五千の人間を殺傷することができると知ったら、アメリカ国民は一体どう考えるか、自問自答すべきである！」

8 ルーズベルト空軍力を強化 top 　Ｂ29の開発、さらに原子爆弾の開発こそ、一九三八年〔昭和十三年〕と、その以降に欧州でおこった病的症状の諸事件から、直接に自然発生したものであった。 　ルーズベルト大統領は、ドイツの独裁者がドイツ空軍を政治的恐喝の武器として使用したことに注目して、米国の空軍力を強化する決意をかためた。 　一九三八年九月下旬、彼は米国の軍備増強の最初の措置の一つとして、国内の航空産業の実情調査を命じた。 　一年間に一万五〇〇〇機の航空機を製作するために、その生産能力を拡大できるかどうかを決定するためであった。 　彼は米空軍力を、いかなる侵略国、または侵略国の集団の脅威にたいして、米国と西半球を防衛できる線まで増強する意向であった。 　当時、米陸軍航空隊の司令官代理であったアーノルド陸軍少将〔当時〕の語るところによると、彼はこの問題についてホワイトハウスで相談をうけた。 　その席上、ルーズベルト大統領は「空軍こそヒトラーが米国の力を理解する唯一のものである」という確信を表明したという。 　大統領特別顧問で親友のハリー・ホプキンスも、またジョージ・Ｃ・マーシャル陸軍大将も空軍力優先の強力な支持者になった。 　マーシャルはこのあとまもなく陸軍参謀総長になった。 　一九三九年〔昭和十四年〕一月四日、ルーズベルト大統領は議会への教書のなかで、なぜ米国の航空兵力を大幅に増強する必要があるか、を説明した。 　「いまや世界は余りにも小さくなってしまった。 　そして攻撃用の各種兵器は余りにも素早くなったので、強大国が、問題を会議の席上話し合いで解決することを拒否するとなると、いかなる国家も“平和”のお題目だけでは安閑としてはいられない。 　もし、ある政府が戦争道具を拡充して、力の政策を固執するならば、相手国は防御用の兵器をもつことだけが、その安全保障となるだろう」 　こうしてルーズベルトは議会にたいして「陸軍に数種の型式の飛行機を購入するため」三億ドルの歳出予算を要請した。それは最小限三〇〇〇機の飛行機を増強するものであった。（ミュンヘン会談の当時に、米陸軍航空隊の保有機数は総計約一八○○機に達したが、三分の一は時代遅れの旧式機であった） 　数ヵ月間にわたる論争のあげく――米議会の孤立派は、ヒトラーがチェコスロバキアの残る国土を併呑して議論の行き詰りをブチやぶるまで、まるで足を引きずるようにダラダラと論争を続けていたが――ついに議会は一九三九年四月三日、米陸軍が新型飛行機三〇〇〇機を購入することを認めた。 　そして陸軍航空隊に、保有機数の最大限度を五五〇〇機に引き上げることを承認した。 　その後、議会の歳出予算委員会が供与した予算は、陸軍航空隊がＢ29の設計、製作に着手するための必要経費を含んでいた。

B17F−100:これは機首下部の銃座が装備され、翼桁の位置が修正された。この型はB17Cの試作機となり、B17Gは最後の量産型として大量生産された 「空の要塞」の最初の量産型B17Bは1937年6月27日に飛び、陸軍航空隊のために39機が製作された 「超空の要塞」のXB29試作機3機の第1号機。これは1942年9月21日、エドムンド“エディ”アレンが操縦して、初めてシアトルで飛んだ