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10　最後の牙城、ライン突破

　一方、そのころヨーロッパ戦線では、連合軍が第二次大戦最大の空挺攻撃”マーケット”作戦を行ない、ついで一九四四年十二月二十三日には、ベルギー領アルデンヌのバストーニュ〔ベルギー南東、リエージュの南一〇〇キロ〕で包囲されている米第101空挺師団に補給品を投下する地域を標示するため、二〇人のパスファインダー・チームを降下させた。
　（皮肉にも、第101空挺師団は、バストーニュでは一般歩兵として戦い、大きな功績をたてたのだった）
　さらに、本格的な戦略任務で空挺部隊を試してみたいと望んでいた航空および空挺関係者によって、これまで多くの空挺作戦が提案され、実行に移されていたが、ただ一つだけ、実施されないまま残っていた空挺攻撃があった。

　従って、地上部隊との連絡はすぐにつくと考えられたが、もし、空挺部隊が渡河攻撃よりも早く、あるいは同時に降下することになると、地上部隊は、極めて近距離にしか攻撃準備砲撃ができなくなることを意味していた。
　さらにまた、地上部隊は、夜間に渡河攻撃をはじめなければならなかったが、“マーケット”作戦でも実証されたとおり、空挺攻撃には昼間が最良であった。
　英第二軍司令官デンプシー中将は、その解決策――渡河攻撃は三月二十三日の夜、空挺攻撃はその翌朝――を提案した。それはのちになって振り返ってみると、いかにも単純に響くかもしれないが、このときは、それまでの経験から割り出された大胆で画期的なものであった。
　一九四五年三月二十四日の午前九時少しまえ、数百機のエンジンの力強いうなり声が、西方からきこえ始めたころ、この巨大な空・陸協同攻撃は、すでにかなりの成功をおさめていた。
　二時間半にも渡って、太く、低く、激しいエンジンのうなりが続いた。
　八八九機の護衛戦闘機、一六九六機の輸送機および一三四八機のグライダー（多くは二重曳航されていた）からなる強大な航空部隊が、一侵攻作戦としては最大の航空輸送を実施し、二万一六八〇人のパラシュート兵とグライダー兵を戦場に送り込んだ。
　二四○機の「リベレーター」爆撃機がすぐあとに続き、五八二トンの補給品を投下した。
　一方では、べつの二一五三機の戦闘機が、目標地域上空で敵機にたいする防護幕をはり、あるいは、妨害にやってくるドイツ機をさがし求めて、ドイツ領上空深く飛びまわっていた。
　そのほか、二五九六機の重爆撃機と八二一機の中型爆撃機が、ドイツ全体の飛行場、橋梁、鉄道操車場、その他の目標を攻撃した。
　輸送機の中には、空挺部隊を念頭において特別設計された最初の飛行機――米軍のカーチスＣ46「コマンド」――があった。
　この飛行機は、C47よりかなり大型で、胴体の両側に扉があり、積荷を楽に上げ下げできるようにしたばかりでなく、二ヵ所からパラシュート兵が同時に飛び出せるようになっていた。
　一機に搭載できる兵はかなり多く、しかも同時に大量に飛び出せるようにしたので、広い地域に分散降下する危険性は少なくなっていた。

　また、米軍グライダー兵とパラシュート兵は、ウェーゼルに近いイゼル川とイゼル運河にかかるべつの橋梁を占領した。　夜がせまってきたころには、英軍地上部隊との連絡も確保されていた。

6 物量でねじふせる top

　“パーシティ”作戦は、確かにすばらしい成功をおさめた。
　最初の部隊が目標地域に到着してから三時間以内に、一〇九トンの弾薬、六九五両の車両および一一三門の火砲とともに、全空挺部隊が地上に降り立った。
　そして数時間のうちに、全目標を手中におさめた。
　米第17空挺師団は捕虜二〇〇〇人を、英第六空挺師団は一五〇〇人をえた。
　午後遅くには、補給品が、大量に水陸両用車でライン川を渡って送り込まれ、空輸による補給の追加は必要ないほどになっていた。
　“パーシティ”作戦の意義は、連合軍の人員の損害、飛行機の損失、ドイツ軍の無力化された状態などを考え合せると、いくらか首をかしげたくなる点はあったが、成功である、とみられた。
　第一日には、英第六空挺師団は三四七人が戦死、七三一人が負傷した。
　一方、米第17空挺師団は、戦死一五九人、負傷一五三人であった。
　（合計一〇〇〇人を越える両師団の行方不明者の大部分は、まもなく各々の部隊に復帰した）
　輸送部隊では、米軍輸送機の搭乗員だけでも同一人が戦死し、一六三人が行方不明、一五三人が負傷した。
　また八〇機以上のグライダー、四四機の輸送機が破壊され、六二三機が損害をうけた。
　さらに、補給任務についていたコンソリデーテットＢ24「リベレーター」爆撃機も損傷をうけた。
　この数字は、これまでに行われた空挺攻撃の第一日にうけた損害と比較すると、かなり好成績であったかもしれない。
　しかし、渡河攻撃でライン川を渡った地上部隊の損害にくらべれば、全く比較にならなかった。
　たとえば、米軍の歩兵二個師団の損害は、戦死同一人、負傷四五〇人、それに行方不明七人だけであった。
　だが、ウェーゼルの橋頭堡では、パラシュート兵とグライダー兵の支援があったおかげで、空挺支援なしで確保したほかの橋頭堡よりも、深い縦深陣地をしかなくてすんだのだった。
　また、モントゴメリー元帥がライン渡河のために払った大きな努力が、戦争のあの段階で必要だったのか、あるいは正当なものであったのかは、まことに重要な問題であった。
　しかし作戦のあと、成功に酔いしれたのか（あらさがし的批評はあったものの）、誰もこの問題点を詳しく取上げようとはしなかった。
　「親愛なる将軍よ」とチャーチル英首相はラインの西岸に立って劇的な空挺作戦を見つめながら、かたわらのアイゼンハワー最高司令官にいった。
　「いい気味だ。我々は勝った。敵はもう何もできまい」
　約五年前のダンケルクのドン底を経験した国と国民にとっては、一九四五年三月二十四日のは華々しさは、このうえもなく痛快だったであろう。