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1　日本軍機、中国の空を制圧

　一九三一年〔昭和六年〕、日本が満州を侵略した直後、中国政府は、中国本土にたいする日本の攻撃にそなえて、いろいろな手をうった。
　まず、ベルサイユ条約によってドイツ陸軍を退役した将校たちが、中国陸軍部隊を訓練するために募集された。
　同時に、アメリカ軍事使節団〔以下ミッションという〕が、中国空軍の再編と拡充のために招かれた。

　ジュエット大佐の米航空ミッションは、短期間にたくさんの仕事をしたが、不幸にも、日本の圧迫が強くなったことと、中国とアメリカの政策上の食い違いなどがあって、突然、この仕事を終らせなければならなくなった。
　米航空ミッションが一九三四年に帰国したあとは、イタリアの軍事顧問団が、アメリカのミッションにとってかわった。
　蒋介石総統のまねきにこたえて、ムソリーニは、一九三五年に、パイロット四〇人、整備工および技師一〇〇人からなる公式のミッションを、中国に派遣した。
　彼らは、洛陽〔ルオヤン〕に飛行学校を、またフィアット飛行機の組立工場を南昌〔ナンチャン〕に新設した。
　アメリカの民間人たちは、その後もしばらくは、杭州の訓練学校を運営し続けたが、彼らも、しだいにイタリア人にとってかわられ、早々に引揚げていった。
　イタリア人たちは、中国空軍の生徒を数多く訓練するだけではなく、中国政府の数百万ドルにのぼる飛行機購入費からも、なにか得るところがあった。
　一九三七年、日本が本格的に中国侵略を開始した直前には、イタリアは、完全に中国空軍を支配していた。

3 無能ぶりを暴露した中国空軍 top

　日本軍の侵略が開始された直後における中国空軍の行動は、洛陽飛行学校卒業生の無能ぶりと訓練の欠陥を、痛ましいほど暴露した。
　日本軍が、一九三七年七月の蘆溝橋事件を、中国侵略の口実としていろいろ工作していたとき、シェンノートは、中国空軍に関する報告を作成中であった。
　日本軍の攻勢は迅速で、しかも決定的であった。
　ある地域においては、中国軍の英雄的抗戦にもかかわらず、日本軍は、中国沿岸部の都市を次々に占領し、中国政府が西方にしりぞくにつれて、揚子江にそって、どんどん西進していった。

　その結果、パールハーバー〔真珠湾〕攻撃のときまでに、日本軍パイロットたちは、世界中でいちばん戦闘経験を積んだ者となっており、ドイツやイタリアの枢軸軍パイロットをはるかにしのいでいた。
　中国空軍が、日本軍の攻撃にたいして、国土防衛能力のないことが明らかになると、多くの中国要人は、国土を防衛するため、国際航空志願兵部隊を編成すべきであると提案した。
　これは、新しい考えではなかった。
　日本軍が満州を侵略したあとの一九三年に、蒋介石の義弟であり、国民党の重要人物であった群が、この案を提出したことがあった。
　ところが、この群の提案は、当時、米航空ミッションの団長であったジュエット大佐の「このような計画は、中国空軍の拡張を阻害するだろう」という意見に従って、蒋介石がにぎりつぶしてしまったのである。
　しかし、一九三七年の九月には、情勢はかわっていた。
　日本との条約の拘束により、イタリア軍の顧問団は、中国をひきはらってしまい、上海〔シャンハイ〕戦の後は、わずかに一二機だけが作戦飛行機として残っているだけで、中国空軍は、日本軍にたいしてほとんど抵抗できなかった。
　そこで、国土防衛のための国際飛行中隊が、大急ぎで編成されることになった。

4 ソ連の肩入れで空軍再編成 top

　この国際飛行中隊は、イギリス、オランダおよびアメリカ人志願兵数十人で編成された。
　これら外国人志願兵たちは、アメリカの武器商人ウィリアム・ポーレーが中国政府のため調達した飛行機を飛ばして、一九三七年から一九二八年にかけての冬、華北地区にある日本軍施設にたいする攻撃の任務についた。
　だが中国軍にとって不幸なことに、このような寄せ集めの人員、機材では、とても日本軍に対抗することができなかった。
　一九三八年、漢口〔ハンコウ：現在の武漢（ウーハン）〕にあった彼らの航空基地が破壊されると、彼らの活動は、たちどころに終止符をうたれてしまった。
　もし、ソ連軍の顧問団と航空部隊が到着しなかったならば、中国は日本軍の航空攻撃にたいして、全く無力であっただろう。

　一九三七年八月二十一日、中ソ不可侵条約締結の直後、ソ連が飛行六個中隊（爆撃二個中隊と戦闘機四個中隊）を中国に送り込んだので、中国空軍は、昆明〔クンミン、雲南省の省都、ラオス国境北方三〇〇キロ〕にいた空軍部隊の再編成ができた。
　中国に派遣されたソ連の航空部隊は、彼ら本来の指揮官に指揮された正規の部隊で、地上勤務要員と補給品を、完全に編成装備されていた。
　ソ連のパイロットたちは、有能で軍紀厳正であり、中国を自分たちの装備品や戦術の試験場として使った。
　一九三七年から一九四〇年までのあいだ、彼らは、日本軍にたいする中国のもっとも重要な“空の砦”となった。
　ソ連は、中国にたいして飛行六個中隊を派遣したうえ、さらに、中国空軍用として飛行機四〇〇機をおくった。
　中国の航空兵や士官候補生たちに機材の使用法を教育するため、いくつかの飛行学校や砲兵学校も設立された。
　これらの学校の卒業生たちは、まもなく中国空軍のもっとも有能な将兵になった。
　従って、戦争中、中国空軍の指導者は、ほとんどがソ連空軍に訓練された人たちであった。
　だが、中国でのソ連部隊による航空防御にも、限度があった。
　というのは、彼らの作戦はすぐれていたが、数的には、日本軍よりはるかに劣勢であった。
　日本軍は、華北地区にあるソ連軍を“打つ手なし”の状況に追い込んだうえ、四川〔スーチョワン〕省や雲南〔ユンナン〕省内にある中国の各種施設を攻撃するために、新しい部隊を追加派遣していた。

5 降伏迫る日本空軍の猛攻勢 top

　一九三九年一月、日本軍は中国南西部にたいする大々的な航空攻撃を行い、中国の戦時首都であった重慶〔チュンチン〕に、はじめての航空攻撃を開始した。
　この攻撃は、中国国民党との軍事的“ゆきづまり”を打開して、彼らに降伏をおしつけるために、一ヵ月にわたって、よわまることなく続けられた。
　しかし中国は、この攻撃にたいする適切な防御手段をもっていなかったため、日本軍機に、思いのまま爆撃させる結果となった。
　中国空軍はまたも、日本軍の攻撃目標を、防御することができなかった。
　国際飛行中隊や、その残留部隊は無能であり、ソ連部隊は華北に釘づけにされていた。
　ようするに、戦況は緊迫していた。
　この状況に即応するため、アメリカ志願兵部隊の必要性が認識され、ついに部隊が編成されることになった。