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11　ジェット機あらわる

　どんな優秀な飛行機でも、いつまでも使っていると、本来の目的からはずれて使用されやすいものである。
とくにＭｅ109のように、多種大量に生産されたものは、必然的にそうなる。
　Ｍｅ109は、純粋に戦闘機として、設計、製作された。
　しかし作戦に参加すると、たちまち地上部隊支援に使われた。
　最初は装備した銃砲による支援だけであったが、しまいには爆弾やロケットをも搭載するようになった。
　戦争はしばしば、いきあたりばったりの便宜主義をとることがある。

1 敵編隊群に空中爆弾 top

　伝統的な武器の機関銃や機関砲で、爆撃機と闘う目的で造られたＭｅ109が、最後には爆弾とロケットをもって、米爆撃機との戦いに投入された。
　ドイツ軍パイロットは、米爆撃機の大編隊の中心に、爆弾を投下する実験をした。
　この攻撃は、投下した爆弾を数秒間でうまく爆発させるために、技術とタイミングを必要とした。
　すなわちＭｅ109のパイロットは、米爆撃隊の上空を正確なコースで飛び、爆弾を正確に必要な高度で投下しなければならなかった。
　ねらいがうまくいくと、爆弾は編隊のなかで爆発した。
　これは直接命中しなくても、爆発の威力で、爆撃機を破壊するか、操縦力を失わせてしまった。
　しばらくのあいだ、Ｍｅ109のパイロットは、この方法でかなりの成功を収めた。
　しかし米軍に護衛戦闘機がつくようになると、この方法も効果がなくなった。
　敵を求めてむらがる米護衛戦闘機が攻撃してくると、重い爆弾かかかえたＭｅ109は太刀打ちできず、やられてしまった。

2 親子飛行機 top

　Ｍｅ109（Ｆｗ190も同様だが）は攻撃機として、別の、もっと奇妙な役割を演じた。
　これは、Ｍｅ109をユンカースＪｕ88爆撃機の上に、強固な支柱で固定したものであった。
　このような組合わせは、「ベートーベン」または「ミステル」〔やどり木〕とよばれた。
　爆撃機のほうには、人はのらず、約四トンの高性能爆薬を満載したが、ときにはカラのときもあった。
　両機は強く結合されており、三つのエンジンを動かして離陸したが、万事はＭｅ109のパイロットが操縦した。
　攻撃目標に近づくと、急降下で下降し、あらかじめきめられた距離で、爆薬を満載した爆撃機を切り離し、爆撃機は目標に突っ込むのである。
　いかにして、この計画を実行するかについては、いくつかの議論があった。
　しかし、戦闘機を別の飛行機に取付けるという考えは、輸送用グライダーという奇抜な方法を生みだす計画からはじまった。
　技師たちは、グライダーを曳航するかわりに、飛行機とグライダーのあいだを、しっかりした構造で結合させ、攻撃目標に近づくと、グライダーを切り離し、そのあとパイロットによって降下させることが可能であると考えた。
　初期のテストは、シュタル・シュレップ〔硬性グライダー曳航〕という名で行われた。
　これは低馬力の飛行機とＤＦＳ230グライダーを組み合せたもので、飛行機は水平飛行できるだけのエンジンをもち、グライダーは空中に曳航された。
　その後、Ｍｅ109Ｅ3がＤＦＳ230のうえに設置され、両方の飛行機が結合したまま離陸、飛行、着陸できるようになった。
　大量の爆発物を正確に命中させる必要があり、Ｍｅ109Ｅ3とＤＦＳ230との結合が成功したことから、Ｍｅ109をＪｕ88と結合させる構想が生まれた。
　最初の型は、Ｍｅ109Ｆ4を、爆薬三四八八キロを搭載したＪｕ88Ａ4に結合させたものであった。
　のちに、Ｍｅ109Ｇ6がＪｕ88と組みあわされた。　（あるいはＦｗ190がＪｕ88Ｇ1と組みあわされた）
　Ｍｅ109・Ｊｕ88は重量的一万八〇〇〇キロ、航続距離は六七五キロ、巡航速度は時速四五〇キロであった。
　爆撃機を切り離したのち、戦闘機はなお七二〇〜八〇〇キロの航続能力をもっていた。
　これはＭｅ109が目標までの片道の燃料をＪｕ88の燃料タンクから引出していたからである。
　戦闘機は、普通高度九〇〇ないし三〇〇〇メートルで爆撃機を切り離し、その後Ｊｕ88は降下の角度によって、時速五六〇ないし六五〇キロで、目標に向って突進していく。
　この計画には、多くの努力が継ぎ込まれたが、成果はそれほどあがらなかった。
　この任務のために用意されたＪｕ88の大部分は、連合軍戦闘機の銃撃によって破壊されるか、終戦時に捕獲されてしまったのである。

3 「ヘルキャット」にこてんぱん top

　Ｍｅ109の経歴を追ってきた人たちは、もしＭｅ109がグラマンＦ6Ｆ「ヘルキャット」と、戦闘機対戦闘機の戦いをやった場合、どうなるかと、考えるであろう。
　日本軍パイロットの証言によれば、「ヘルキャット」は、敏捷な零戦の内側に、回り込める連合軍で唯一の戦闘機であった。
　速度、上昇力、重武装、操縦性の点で、「ヘルキャット」はＭｅ109を必殺できる相手であることを実証した。
　熱心な人たちには残念なことであるが、「ヘルキャット」とＭｅ109の出会いは、第二次大戦中、わずか一回だけあった。
　一九四四年〔昭和十九年〕五月八日、英空母「エンペラー」から発進した「ヘルキャット」隊は、ノルウェー沖を飛行中、各種の型のＭｅ109、Ｆｗ190からなる混成隊と遭遇、「ヘルキャット」には損害なく、二機のＭｅ109、一機のＦｗ190が撃墜された。
　奇妙なことに、英海軍戦闘機とＭｅ109の最後の戦闘は、Ｍｅ109とグラマン「ワイルドキャット」（古いＦ4Ｆの輸出用改造機）とで行われた。
　ノルウェー南部上空を飛行中の第八百八十二飛行中隊の「ワイルドキャット」隊は、明らかに未経験のパイロットが操縦するＭｅ109編隊に突っ込んでいった。
　アッというまの戦いで、「ワイルドキャット」隊の四機は、Ｍｅ109をそれぞれ一機ずつ計四機を撃墜し、英軍の損害はなかった。
　前にものべたように、Ｍｅ109の改造型は、ドイツ以外の国に数百機も売却あるいは供与された。
　その大部分は、ドイツの戦時中の同盟国によって、共通の敵にたいして使用されたのだが、少なくとも一回は、ドイツ軍パイロットは、ユーゴのＭｅ109Ｅと戦ったことがある。
　これは両国が敵対関係になる前に、ユーゴに送られたものであった。

4 スイスのＭｅ109にも敗れる top

　Ｍｅ109の歴史にとって、奇妙な側面の一つは、スイスに送られたＭｅ109の運命である。
　これらのＭｅ109は、ドイツおよび米国の戦闘機、爆撃機を攻撃するために、しばしば使われたのである！
　スイスは、Ｍｅ109Ｃ型からＧ型にいたるまで、あらゆる型を使用した。
　最もＧ型は、生産過程で関係者をなやませた粗悪な技術のために、しばしば地上で故障し、スイス空軍にあまり役にたたなかったが、その他のものは、スイス国境を越境した飛行機と、小気味のよい戦闘をやった歴史をもっている。
　最初の、よく知られた戦闘は、一九四〇年五月十日、パトロール中のスイス空軍の一機のＭｅ109Ｅが、バーゼル〔スイス首都ベルン北方七〇キロ〕方向から飛来したＪｕ88爆撃機一機を迎撃したときに起った。
　赤地に白十字の標識をつけたスイスのＭｅ109Ｅは、ユンカース機の鼻先をかすめて信号弾を発射した。
　すると爆撃機の銃手が、ただちに反撃した。
　スイス戦闘機が、攻撃態勢をとって向っていくと、Ｊｕ88は逃げて、近くの雲のなかに隠れた。
　同じ日に、別のスイス空軍のＭｅ109Ｅは、ドイツ爆撃機一機と砲火を交えた。
　今度は、アルテンハイム付近で、ハインケルＨｅ111を攻撃、片方のエンジンに命中弾をあたえた。
　スイス軍パイロットは、ドイツ爆撃機が国境外にでると、射撃をやめた。
　一週間後、リニエール付近で、スイスのＭｅ109Ｅ数機は、ハインケルＨｅ111を追撃したが、爆撃機が激しく応戦したので、取り囲んで撃墜した。

5 ドイツ・スイス軍の空中戦 top

　神経戦、あるいはちょっとした砲火の応酬として、はじまったものが、一つの戦争になった。
　ドイツ空軍機がスイスの領空を侵犯するとただちに、スイス空軍のＭｅ109はスクランブル（緊急発進）した。領空を侵犯すれば攻撃するぞという警告をするため、スイス軍パイロットは、一ヵ月たたないうちに、ウルシンスとルフアル付近で、二機のＨｅ111爆撃機を撃墜した。
　スイスが、ドイツ空軍のゲーリングの好戦的な報復の威嚇を無視すると、ドイツ空軍は、この小癪な小国に、存分に思い知らせてやれと、攻撃するよう命令された。
　一九四〇年六月の第一週からはじまって、Ｈｅ110爆撃機の編隊が、強力なＭｅ110双発戦闘機に護衛されてスイス上空に姿を現した。
　いまや双方のドイツ戦闘機――あっちはスイス空軍のＭｅ109と、こっちはドイツ空軍のＭｅ110――のあいだで、激しい空中戦が演じられた。
　Ｍｅ110が長距離戦闘機として失敗作であるという見解に、まだ疑問をもつものには、スイス空軍が、それは完全に失敗作であると証明してくれた。
　スイス空軍は数で劣っていたにもかかわらず戦意旺盛で、Ｍｅ110を二機、Ｈｅ111を一機撃墜、スイス側の損害はＭｅ109Ｃ（スイスではＪ399）一機だけであった。
　この機のパイロットは脱出したが、パラシュートをドイツ軍の砲火でやられて戦死した。
　スイスの喜びようは、ものすどかった。
　怒ったドイツ空軍は四日以内にスイス機を求めて、引返してきた。
　六機のＭｅ110は、複葉機一機を襲い撃墜した。

6 Ｍｅ110の運命 top

　同じ日、スイスの戦闘機コントロール・センターは、三二機のＭｅ110が散開しながら各種高度で、ジュラ山脈〔スイスとフランス国境の山脈〕の上空を飛行、スイス空軍の出撃を待ちうけているとのドイツ軍の連絡を傍受した。
　現場に到着した最初のスイス機は主としてドイツ軍の連絡を確認するためであったが、Ｍｅ110の降下する編隊に攻撃された。
　スイス軍パイロットは、近くの雲に飛び込み、反対側にでて、別の方向からドイツ機を不意に攻撃しようとした。
　しかしそうはいかなかった。
　ベテランのＭｅ110パイロットは、ただ旋回して、罠〔わな〕をしかけ、スイスのＭｅ109Ｅが雲から現れたところを、機関銃と機関砲の集中砲火をあびせた。
　Ｍｅ109Ｅは、機首から尾部まで蜂の巣のようになり、パイロットも肺と足に弾丸をうけたが、やっと胴体着陸をし、奇跡的に助かった。
　二番目のＭｅ109Ｅは、僚機に損害をあたえたドイツ軍のＭｅ110を攻撃していたが、他のＭｅ110数機が、四方から発砲してきたため戦闘を中断した。
　スイス軍パイロットは、全速で深い峡谷に入り込み、ドイツ機が追いかけてくるのを待った。
　しかしドイツ機は、知らない山峡に飛び込むことを嫌い、追跡を断念した。
　スイス軍パイロットが着陸して数分たって知ったことだが、彼が攻撃したＭｅ109は操縦力を失い、胴体着陸し、搭乗員は捕虜になった。
　これは思いがけない収穫であった。
　しかし、このことは、高まりいく空中戦の第一段階にすぎなかった。
　そのあと、スイスのＭｅ109Ｅがさらに一二機、現場に到着、Ｍｅ110編隊に、激しい降下攻撃をくわえ、山上数キロにわたり、空中戦が展開された。
　乱戦が終った時、スイス機はすべて空中に飛んでいたが、ドイツ軍のＭｅ110はさらに三機が撃墜され地上に激突した。
　これで、戦闘は一段落した。
　フランスが降伏し、ドイツはスイスを挑発し続ける必要がなくなっだからである。
　翌月スイスは、思いがけず戦闘機兵力を完令に回復することができた。
　二機のドイツのＭｅ109Ｆ戦闘機が、燃料つきてスイスに着陸したからである。
　パイロットが進路を誤ったのであった。
　二機はスイス政府に接収され、これは先にドイツ側に撃墜されたＭｅ109Ｃ、Ｅにかわって、すばらしい戦力になると思われた。（二年後スイスは、同じような状況で二機のＭｅ109Ｇを獲得した）

7 スイス領空侵犯の副産物 top

　一九四三年、スイスは外国機の領空侵犯問題について、新しい難問を背負いこんだ。
　エンジンを射ぬかれたり、ひどく破損した米爆撃機の搭乗員は、ドイツ空軍の捕虜になるよりは、できればスイス国境に辿り着こうとした。
　飛行機はしばしばひどく破損していたので、できるだけはやく着陸させる必要があった。
　この誘導の仕事は、四機の戦闘機からなるスイス空軍パトロール隊に割りあてられた。
　二機は破損した爆撃機を飛行場に誘導し、他の二機は爆撃機の後尾にくっついた。
　これは爆撃機の搭乗員が、なんとか困難を突破して、基地へ帰ろうとするのを防止する措置であった。
　というのは、スイス政府は、他国の飛行機がスイス国境を越えれば、その搭乗員は完全にスイスの管理下におかれるべきだと考えたからである。
　しかし、ときとして、この取り扱いは思わぬ危機を生んだ。
　一九四四年九月五日に起ったことだが、スイス空軍四機のＭｅ109Ｅは、破損した「リベレーター」Ｂ24を、デュベンドルフ空港に護送していた。
　飛行場にわずか一六キロの地点まできた時、Ｍｅ109Ｅのうち一機が、突然爆発して燃えあがった。
　Ｂ24の後尾についていた僚機は、米国の「ムスタング」Ｐ51Ｄ戦闘機が翼から発砲しながら接近してくるのをみて驚いた。
　米国機はドイツ戦闘機がＢ24に発砲していると、信じこんだに違いなかった。
　「ムスタング」は何回も攻撃をくわえてきたため、Ｍｅ109Ｅは煙をあげて逃れ、かろうじて胴体着陸した。
　そこで、「ムスタング」は、攻撃を中止し、英国の基地に向って帰っていった。――
　おそらくメッサーシュミット二機が、彼の撃墜記録のなかに、含まれることになったであろう！

8 Ｍｅ109Ｋ、Ｌ、Ｓ型 top

　Ｍｅ109Ｋ14は、大量生産の過程に入った最後の戦闘機であった。
　そしてわずか二機が戦闘に参加しただけである。
　もし戦争が、さらに長く続けば、もっと多くのＭｅ109の改造機が空を飛ぶことになったかもしれない。
　Ｍｅ109Ｌは、最新型のＭｅ109Ｇ戦闘機から発展したものだが、一七五〇馬力の新しいユンカースＪumo二一三Ｅエンジンを装備するために再設計されたものである。
　二一三Ｅエンジンが、これまでより大型になったのを埋合わせるために、技師たちはＭｅ109の機体を、新エンジンを搭載できるように、太くするよう再設計した。
　翼長は、低速における操縦と性能を改良し、また一平方メートルあたり二一六キロをこえつつあった翼面荷重の増大を防ぐために長くなった。
　最大速度は、増力器をつけずに、時速七六二キロになったかもしれない。
　連合軍がフランスのコードロン・ルノー研究所を占領した時、Ｍｅ109Ｓ計画は、突然終止符をうたれた。
　これは高速における性能の良さをたもちながら、低速における操縦や性能を改善しようとしたものであった。
　連合軍が占領した時、Ｍｅ109Ｓは、三ヵ月以内に完成の予定であった。
　Ｍｅ109Ｖ24試作機（これはＭｅ300計画とともに進行された）は、Ｍｅ109Ｓの形をとって製作された。
　Ｍｅ109Ｌ計画とともに、技師たちは、Ｍｅ109の小さな機体という問題にも取り組んだ。
　そして、Ｌ型と同じくＳ型も、機体が少し大きくなったはずである。

9 高々度戦闘機Ｐ1091型 top

　別の高々度戦闘機は、Ｍｅ109Ｇ5から発展したものであった。
　これはＰ1091−1と命名されたが、尾部の大きいことがＭｅ109Ｇ5とハッキリ違っていた。
　メッサーシュミットのノートによると、この機はＤＢ六〇五Ａエンジンを装備するはずであった。
　しかしＤＢ六〇三エンジンを装備して、高度一万五〇〇〇メートル以上になると、強力な過給器（スーパーチャージャー）を使用することも考えられた。
　武装は三〇ミリ機関砲一門、二〇ミリ機関砲二門を装備する予定であった。
　Ｐ1091−2は、同じ設計だが、高空の稀薄な空気でも、操縦が容易なように、機体を少し大きくし、翼をさらに長くするよう修正された。
　さらにＰ1091−3も提案されたが、これは機体を再び設計しなおして、新しい過給器をもったＤＢ六〇三エンジンと、高空での性能を良くするために四枚羽根のプロペラを取付けようとするものであった。
　Ｍｅ109Ｚ（双発双胴）は、すでにのべたように、Ｍｅ109Ｇの機体二つを、翼の大部分と内部装備をそのままにして結びつけて、長距離用の双発双胴機に仕上げたものであった。
　攻撃用ないし破壊用戦闘機として、Ｍｅ109Ｚは、三〇ミリ機関砲五門と五〇〇キロ爆弾を搭載した。
　爆撃機として使うときは、三〇ミリ機関砲二門と、二〇〇〇キロ爆弾一を搭載することができた。
　最後の型では、Ｊumo二一三エンジン二基を装備し、総出力は三五〇〇馬力に達した。

10 “新戦闘機”Ｍｅ209型 top

　Ｍｅ209については、この本のはじめで、詳細に論じた〔第五章〕。
　しかし一般にＭｅ109Ｒとして示されたＭｅ209とはなんの関係のない、全く別の計画があった。
　これはＭｅ209Ｖ5（あるいはＭｅ209Ｈ）として知られており、Ｍｅ109Ｇを基礎にしたものであった。
　Ｍｅ209Ｖ5計画は、フォッケウルフＦｗ190Ｄや、Ｆｗ190の最新型ですぐれた性能のＴａ152より、さらに優秀な戦闘機を造り出そうとしたものであった。
　Ｍｅ209Ｖ5シリーズは、製作を急いだため、全く新しい飛行機を造ることではなかった。
　全く新しい飛行機となると、生産までの準備に時間がかかりすぎて、戦争に間にあわなくなるからである。
　そういうわけで、初めからＭｅ209Ｖ5は妥協の産物であったが、それでも当時のメッサーシュミットの設計技術陣のあらゆる新機軸を取入れていた。
　だが歴史家の多くは、Ｍｅ209Ｖ5を、メッサーシュミットが“新戦闘機”とみせかけた誤魔化しと感じるかもしれない。

11 雑種の109Ｖ31 top

　いずれにしても、最後の飛行機Ｍｅ109Ｖ31は、Ｍｅ109Ｆ1を改造したものだが、Ｍｅ109ＧとＦｗ190の雑種のようにみえた。
　それは広い、内側にたたみこまれる主脚をもち、臨時措置として、ＤＢ六〇三エンジンを使用していた。
　（高空での性能を良くするため、ＤＢ六二八エンジンがのちに装備されることになっていた）
　武装は、翼に機関砲と機関銃を装備していた。
　最初の飛行は、一七五〇馬力のＤＢ六〇三Ａエンジンを装備して、一九四三年十一月三日、フリック・ウェンデルによって行われた。　（ウェンデルはＭｅ209で、プロペラ機による世界最高スピード記録を樹立している）
　九日後、新しいエンジンの一九〇〇馬力ＤＢ六〇三Ｇが装備され、再び飛行した。
　その後八ヵ月間、同機は空中でいろいろテストされ、大きな変更がつぎ次にくわえられて、原型がハッキリしなくなるほどであった。
　新型のＤＢ六〇三Ｇエンジンも、放棄されねばならなかった。
　というのは、ＤＢ六〇三Ｇは、大量生産が困難になって、メッサーシユミットは、Ｊumo二一三Ｅエンジンに逆戻りしなければならなかったからである。
　これは、これまでより大きいエンジンをつけることになるので、飛行機を（またもや！）再設計しなければならない。
　第二の試作機は、Ｍｅ209Ｖ6として知られており、いろいろなプロペラをテストしたのち、Ｍｅ209Ａ2として、生産に入る予定であった。
　Ｍｅ209Ｖ6は、一九四四年五月に初飛行をし、技師たちはその性能に熱狂した。
　しかしその時までに、Ｆｗ190ＤとＴａ152は、大量生産に入っており、Ｍｅ209Ａ2計画は、すべての研究を中止するよう大ナタがふるわれた。
これはすでに就役中のフォッケウルフ戦闘機の生産に全力をあげるためであった。
　Ｍｅ209Ｖ5は、前述したＰ1091計画に取入れられた。
　この計画はまたＭｅ109Ｖ49、Ｖ50も利用している。
　別のＭｅ109Ｇ5は、Ｍｅ109Ｈの原型になった計画にも取入れられた。
　この飛行機は、最後にはＭｅ209Ｖ5の尾部と、大きな翼を取入れるように、再び改造され、Ｍｅ109Ｖ54と再命名された。
　これらの戦闘機のテストは、一九四三年の春遅くはじまった。
　第二のＭｅ209の原型になったＭｅ209Ｖ6は、Ｍｅ109Ｖ55と再命名され、Ｍｅ106Ｈの原型として役だった。
　Ｍｅ209シリーズの一部として、別の高々度戦闘機の開発計画があった。
　これはＭｅ109Ｈ計画と並行して行われた。
　この試作機は、一九四四年六月、ＤＢ六〇三Ｇエンジンを装備して飛行し、のちにＤＢ六二七エンジンを装備する計画であった。
　最初の試験飛行の結果は、極めて有望であったが、連合軍の進撃によってこの計画は何回も中断され、ついに中止となった。

12 失敗だらけのＭｅ309型 top

　これまでのべてきたものとは、全く別個の戦闘機の設計計画があった。
　それはＭｅ309である。
　この計画は一九四〇年にはじまり、Ｍｅ209計画と並行して進められた。
　メッサーシュミットの技術陣は、Ｍｅ209の設計に、より大きな信頼をよせ、Ｍｅ309をママ子扱いにする傾向があった。
　Ｍｅ309は、多くの特徴をもっていた。
　間隔が広い三車輪で、引き込み式ラジエーター冷却装置、操縦室与圧装置などは、Ｍｅ109Ｆ型を改造したＭｅ109Ｖ24、Ｖ31、Ｖ30、Ｖ30Ａなどでテストされた。
　そうこうしているうちに、ドイツ政府のこの計画にたいする熱意は消えうせて、当初の計画は大幅に切りつめられ、試作機九機だけということになった。
　当局者の熱意が冷めたのは、新しい戦闘機を造るとなると、その準備によって、今までの生産が阻害されはしたいかと懸念したためであった。
　一九四二年六月、Ｍｅ309Ｖ1が工場からでてきた。
　地上テストのときでも、技術的に困難な問題が多かったので、七月十八日まで、飛行テストの用意ができなかった。
　テスト飛行では、冷却装置が作動しなかったため、パイロットはわずか七分滞空しただけで、すぐに着陸しなければならなかった。
　またドイツ人がほとんど経験をもっていない車輪着陸〔これまでの飛行機は主輪と尾輪で着陸していたがＭｅ309は現在ほとんどの旅客機にみられるように、前輪と主輪で着陸する方法である〕は、あらゆる種類の困難な問題を引き起した。
　その主なものは、離陸のさい横に傾くのを防ぐためであったが、三輪降着装置は、完全には作動しなかった。
　メッサーシュミットを悩まし続けた問題を解決しようと技師たちは、五つも違った備品を取付けたが、すべて不成功であった。
　最初の試作機は、離着陸のさい何回も破損したために、九機建造計画を大幅に切りつめざるをえなくなった。
　Ｍｅ309Ｖ1の修理に多数の部品が使われたために、完全に製作されたのは四機になった。
　Ｍｅ309は、初めから終りまで失敗であった。
　そしてついに、Ｍｅ262ジェット戦闘機が有望になったので、Ｍｅ309計画は終止符を打たれ、その武装、脱出装置、操縦室与圧装置などが、Ｍｅ262のテストに使われた。

13 設計だけの艦載用Ｍｅ155型 top

　メッサーシュミットの設計のうちでＭｅ155ほど、設計者、競争会社、政府間の争いに巻込まれたものはなかった。
　Ｍｅ155は、Ｍｅ209あるいは309計画（また309を拡大した409計画）とは違い、Ｍｅ109Ｇから直接分派したものであり、Ｍｅ109Ｅを空母用に改造したＭｅ109Ｔの構想を、あとになって採用したものであった。
　この計画は放棄されたが、一九四二年になって、空母「グラーフ・ツェッペリン」を公海に出動させる計画がむしかえされ、このため高性能の艦上戦闘機が必要になった。
　しかし前回と同じく、空母「グラーフ・ツェッペリン」その他の空母計画は、お流れとなり、Ｍｅ155は、最初の設計が終ったものの、その原型のまま放棄されることになった。
　Ｍｅ155は、艦上戦闘機として、一四七五馬力のＤＢ六〇五Ａエンジンを装備する予定で、武装は二〇ミリ機関砲三門、一三ミリ機関誠二挺の重装備であった。
　また強化した主脚、カタパルト用設備、停止用フックなど空母搭載用としての重装備にもかかわらず、速度は時速六四八キロと推定されていた。
　設計の段階で死んでしまったＭｅ155は、Ｍｅ155Ａとして、新しい生命を吹き込まれた。
　これは、空母用の装備をすべて取り除き、尾輪を修正し、機関砲を減らして燃料を増加した戦闘爆撃機で、さらに一〇〇〇キロの爆弾を搭載することができた。
　しかし、空軍省はメッサーシュメットの提案を拒否した。
　メッサーシュミットは、設計室に戻り、一九四二年末から四三年初めにかけて、ドイツ空軍が緊急に必要とした問題――高々度での性能のよい戦闘機――に取り組んだ。
　彼は、ＤＢ六二八エンジンを装備し、二〇ミリ機関砲三門をもつＭｅ155Ｂを設計、最初の試験飛行の準備を進めた。
　しかし空軍省は、再びこのメッサーシュミットの提案を退け、メッサーシュミットが、多くの手持ちの計画で忙殺されているので、Ｍｅ155Ｂのすべてを、プローム・ウント・フォス会社に引き渡すよう命じた。
　同社は、これを大幅に設計しなおして、冷却用ラジエーターや主脚の格納場所を翼の外においた。
　それはＢＶ155Ｖ1と命名されたが、試験飛行でこわれ、二番目の試作機ＢＶ155Ｖ2は、戦争が終った時、まだ地上にいた。

14 ジェット機出現 top

　メッサーシュミットのＭｅ109ＴＬ計画は、一九四三年にはじまった。
　それはＭｅ109、Ｍｅ409、Ｍｅ155Ｂの三つを組み合せたものであった。
　一九四三年初めの打ちあわせでは、この飛行機に発展したが、最終的には、Ｍｅ109ジェット戦闘機案になったのである。
　この計画は、空軍省がメッサーシュミットに、二〇〇〇馬力のＤＢ六〇三エンジンが、すでに失敗の色を濃くしていたＭｅ309にかわって、新しく設計したＭｅ109戦闘機に装備できるかどうかをたずねた時、第一歩を踏みだした。
　もし二〇〇〇馬力の新飛行機が成功すれば、Ｍｅ262ジェット機の生産を減らすことが、可能になるであろうか？
　Ｍｅ262Ａ0戦闘機はすでに飛行しており、メッサーシュミットは、一三〇機のＭｅ262（Ａ0およびＡ1）の注文をうけていた。
　メッサーシュミットは、ジェット動力のＭｅ262戦闘機の可能性を考えていた。
　技師たちは、Ｍｅ109の設計では役にたたないことが、ただちにわかった。
　しかし技師たちは、Ｍｅ109Ｂの設計なら、ジェットエンジンに、十分適応できることを知った。
　それは、ジェット戦闘機によく適合したＭｅ409と同じ翼をもっていた。
　新しい設計は、ＤＢ六〇三エンジンを取り除き、その場所に、機首の車輪（Ｍｅ309からのもの）と補助燃料タンクがおかれた。
　また二個のＪumo〇〇四Ｂターボジェットは、Ｍｅ262と同じ様式で、翼の下に取付けられた。
　さらに武装は二〇ミリ機関砲一門、三〇ミリ機関砲二門からなるはずであった。
　技師たちが、Ｍｅ155Ｂジェット案をみればみるほど、変更をくわえる必要があることが、明らかになった。
　それは、尾部を大きくすることを意味した。また降着装置は、計画されたように、三輪型式でなければならなかったが、これは技師たちを最初の混乱にまきこんだ。
　空軍省は、新しいジェット機がＭｅ109戦闘機の部品をできるだけ多く利用することを要求した。
　もし、出来てくる飛行機が、完全に新しい形のものであれば、当然、Ｍｅ109の生産過程を阻害するであろう。
　こうして、Ｍｅ109Ｂは、他のＭｅ109の派生物と同じ道をたどり、“キャンセル”〔取り消し〕の書類つづりのなかに消えていった。
　しかし、今度の場合、メッサーシュミットＭｅ155Ｂにかわったものは、結局メッサーシュミットのＭｅ262ジェット戦闘機であった。