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3　世界を驚かした改良機

2 Ｍｅ109の製作 top

　一九三四年の夏、メッサーシュミットとレセールの設計チームは、新しいＭｅ109戦闘機を製作するために懸命に努力した。
　Ｍｅ109には、先にすばらしい成功を収めたＭｅ108の設計の特徴を取入れることにした。
　最初の試作機Ｍｅ109Ｖ1は、登録番号Ｄ1ＡＢ1をつけていたが、明らかにＭｅ108の後継機であり、機体の後部、尾部、主翼、降着装置などは、Ｍｅ108と同じであった。
　ただ機体は、一人乗りの操縦席のため細くなり、これまでハマグリの貝のように左右にわれていた風房は、右に開くものに変った。
　またＭｅ109は、強力なエンジンを装備したため、機首をみただけで、すぐ他機と区別できた。
　さらにＭｅ108と同様、密閉された操縦席になっていたが、他の三社の試作戦闘機は、みな解放式操縦席であった。
　また翼前縁のスラット〔可動式すきま翼〕やフラット〔下げ翼〕も、降着装置もＭｅ108と同じ設計であった。
　さらに重量を減らすため、降着装置を動かすのは、Ｍｅ108と同様、手動式であった。　（これはのちに動力式にかえられた）
　Ｍｅ109は、戦闘機のりたちがおもわず見ほれるようなスマートな戦闘機で、競馬で勝ったサラプレッドのようにみえた。
　Ｍｅ109は、地上の停止姿勢では前部が高くあがって、離陸する時、前方視界がよくないという、悪い結果を生んだ。
　しかしメッサーシュミット設計チームは、これは離陸のさい、最高の揚力を得るために、やむをえないことだと考えた。
　一九三五年九月、メッサーシュミットのテスト・パイロット、クノイチェは、Ｍｅ109Ｖ1（Ｖは試作機の意味）の最初のテスト飛行を行った。
　彼はその後数週間、テスト飛行を続け、設計チームは、新設計につきものの欠陥を発見した。

3 主脚の間隔拡げ安定 top

　Ｍｅ109は、Ｍｅ108の難点であった異常に間隔の狭い主車輪を受継いでいた。
　クノイチェは、この降着装置は、地上滑走時の操作が極めて困難であると指摘し、さらにその引っ込み方式については、ただちに動力式にかえるようつよく勧告した。
　しかし、これを改造する時間がなかった。
　一方、ドイツ空軍の技術者たちは、レヒジンのテスト・センターで最初のテストをしようと待機していた。
　ところがレヒジンの滑走路はアウグスブルクより、表面がデコボコしており、パイロットは地上でＭｅ109Ｖ1を扱うのに、非常に苦労した。
　それでドイツ空軍は、ただちに車輪の間隔を拡げるよう要求した。
　メッサーシュミットの技師たちは、Ｍｅ109Ｖ1をアウグスブルクまで持って帰る時間がなかったので、現地で改造した。
　その結果、主脚柱を、正面からみて、斜めの角度をつけ、主車輪の間隔を拡げ、安定性を大きくした。
　しかしウィリー・メッサーシュミットにとって、重要なことは、Ｍｅ109Ｖ1の空中での操縦性能についての評価であった。　誰も初めは新メッサーシュミット戦闘機が、他の競作機〔ハインケル、アラド、フォッケウルフ〕と同じクラスになるとは期待していなかったが、操縦性や性能が、極めてすぐれていたので、空軍の審査官たちはその場で考えが変った。

4 最後のテスト top

　ウィリー・メッサーシュミットの名は、ドイツ航空界の最大の驚異となった。
　そしてこの飛行機は、トラーフェミュンデ〔ハンブルク北東八〇キロ〕の最後の試験飛行で最有力候補となった。
　トラーフェミュンデでテストされたＭｅ109Ｖ1は、六九五馬力の「ケストレル」Ｖエンジンを装備していた。
　全　幅　　九・七一メートル
　全　長　　八・三七メートル
　全　高　　三・三五メートル
　自　重　　一五〇〇キロ
　全備重量　一九〇〇キロ
　この最初の型は、なんの武装もしておらず、最高時速は高度三九〇〇メートルで四六九・八キロ、実用上昇限度は七八九〇メートルであった。
　トラーフェミュンデでのＭｅ109Ｖ1は、先にアウグスプルクやレヒジンでの試験飛行が成功していたので、合格点だった。
　地上では、不恰好だったが、空中では優秀であった。
　またＭｅ108の性能や操縦性のよさを受継いでいたが、馬力も速度も、一回り大きくなっていた。
　テスト・パイロットは、性能がすばらしいと報告し、このダークホースが競争試作の勝利者になるようにみえた。
　アラドの試作機は、固定脚の設計で、すぐさまに競争圈外におちた。
　フォッケウルフの試作機は、パラソル翼〔主翼が胴体からはなれ、上についている型〕の戦闘機であった。
　翼の支柱、開放式操縦席、車輪は胴体に引きこまれる設計で、全体に不恰好な機であった。
　これも失格した。

5 Ｍｅ109とＨｅ112が合格 top

　しかし、ハインケルのＨｅ112Ｖ1は、別だった。
　この飛行機は、開放した操縦席の設計にもかかわらず、外観はすっきりしていて、性能も印象的であった。
　テスト・パイロットたちは、Ｍｅ109Ｖ1とＨｅ112Ｖ1が、飛行性能は非常に似ていると結論した。
　余りにも成績が接近していたので、ドイツ空軍当局は、大量生産の契約についての最終決定を伸ばした。
　そのかわり、メッサーシュミットとハインケル両社は、さらにテストを積み重ねるために、各一〇機を試作生産する契約をうけた。
　ウィリー・メッサーシュミットは、契約の一部がハインケルにいっても、たいしたことはないと思っていた。
彼はハインケルが、生産問題で深刻に悩んでいることを知っており、ハインケルが大量生産の注文を受入れられないだろうと予測していたが、事実、その通りになった。
　メッサーシュミットは、Ｍｅ109の設計が、競争社のどれよりもすぐれていること、またもっと強力なエンジンを装備し、その他の仕上げをよくすれば、性能はぐっとよくなると胸中ひそかに確信していた。
　彼は、その確信を着実に実現していったのである。
　第二の試作機Ｍｅ109Ｖ2は、エンジンを六一〇馬力のＪumo二一〇Ａにかえ（シュワルツの木製プロペラを使用）七・九ミリ機関銃二挺をエンジンの大いに装着したほかは、設計はなにひとつ変更しなかった。
　メッサーシュミットはまた、戦闘機関係者にたいして、Ｍｅ109の設計は、サラブレッドのように優秀であるが、しかし革命的に他機より大きく一歩を先んじているので、必ず、いろいろな問題が生じるだろうし、またそれを解決するには時間が必要であることを、特に表明していた。
　というのも、ドイツ空軍のすべての戦闘機パイロットが単葉機を好んでいるわけではないことを、よく理解していたからである。
　アドルフ・ガーラントの説明によれば、これら古い考えの戦闘機パイロットは、最新の戦闘機の空中戦では急旋回が例外にすぎないこと、密閉された操縦席から、視認し、射撃し、戦うことが、十分可能であることも理解できなかったという。
　Ｍｅ109の離着陸速度の大きいことは、航空工学上、未解決の問題ではないかとの懸念もあった。
　もちろん、この懸念は誤りであることがわかった。
　今日では、こうしたことは“航空石器時代”の物語のように思われるかもしれない。
　が、すべてこれらの短見は、当時は現実の問題であった。

6 情報入手し武装を強化 top

　アウグスブルクのメッサーシュミット工場では、新しい機が厳しいテストをうけるため準備された。
　メッサーシュミット新戦闘機の二番目の試作機、Ｍｅ109Ｖ2は一九三六年一月に飛び、六月には三番目の試作機の試験飛行が行われた。
　両機とも六一〇馬力のユンカースＪumo二一〇Ａエンジンを装備し、機体はやや長くなり、重量は約四キロ増加した。
　この変更さえなければ、両機は、仕様および性能がＭｅ109Ｖ1と同じであった。
　また両機はエンジンの大いに、七・九ミリ機関銃二挺を装備したが、これは最初の量産機Ｍｅ109Ａシリーズの武装の原型になる予定であった。
　しかし戦闘機への要求が、急速にかわったため、結局Ｍｅ109Ａ戦闘機は造られなかった。
　そのころ空軍省が入手した諜報報告は、ドイツ新空軍建設の計画者たちを驚かした。
　英国の関発した新型戦闘機「スピットファイア」と「ハリケーン」は、Ｍｅ109シリーズに匹敵する性能をもつばかりでなく、それぞれ、Ｍｅ109Ａに予定された武装の二倍の、機関銃四挺を装備していたのである。
　ただちにドイツ空軍省技術局は、新しい命令をだし、三番目の試作Ｍｅ109Ｖ3は機関銃三挺を装備すること、すなわちエンジンの上部に設置された機関銃二挺は、プロペラを通して発射できるように同調されたが、残りの七・九ミリ機関銃一挺はプロペラの回転軸から発射することになった。
　また中央の機関銃を二〇ミリ機閉砲にかえる計画もあった。
　ドイツの航空火器装備専門家は、この射程距離の大きい強力な機関砲をもてば、Ｍｅ109は、機関銃四挺をもつ英戦闘機より、優勢になるだろうと考えた。
　武装の取付けとテストは、最初の量産機をめざしたＭｅ109Ｖシリーズの飛行試験のあいだに行われた。
　四番目の試作機Ｍｅ109Ｖ4は、機関砲を装備した世界最初の戦闘機になる予定であった。
　装備が充実し、計画がねり直されているあいだに、飛行機自体が困難な問題に直面した。

7 離陸時に左傾の欠陥 top

　アウグスブルクで行われたメッサーシュミットの飛行テストは、ドイツ空軍パイロットが実戦を想定した条件のもとで飛行させた他機のテストにくらべ、余りパッとしたものではなかった。
　将来、重大な問題に発展するかもしれない小さな欠点も絶対見逃すまいと、念入りに審査した結果、空軍パイロットはメッサーシュミットに、改良すべき点を列挙した厖大なリストを提示した。
　そのうちで、最も重大なのは離陸であった。
　Ｍｅ109は、離陸飛行のさい、左に傾く性向をもち、よく問題を起し、これが最も困った点であった。
　同じ性向はＭｅ108にもあったが、Ｍｅ109戦闘機は、より強力なエンジンを装備したため、この欠陥が大きくなったのである。
　このためパイロットは、素早く、かつ、巧みに右へ方向舵を切らなければならなかった。
　パイロットが機首をあげるために、操縦桿を前にたおした時、さらに右へ方向舵を調整せねばならなかった。
　そうしなければ、Ｍｅ109はコントロールできなくなるほど、左にするどく回ってしまった。
　左からの横風の時離陸するのは、パイロットにとって命がけの大冒険であった。
　そしてスピードが出てくるまで、方向舵と同様、右のブレーキを使うことが必要であった。
　すぐに修正がくわえられ、左へ傾く性向はいくぶん緩和されたが、しかし完全には直らなかった。
　メッサーシュミットの設計は、公平にいって、この左傾性向に気づいて、その対応準備をしている熟練したパイロットならば、左の横風の時でも、離陸にほとんど困難を感じなかった。
　しかしテスト・パイロットたちは、新しいパイロットたちがＭｅ109に続々乗りこむ場合を考えて、この左へ傾く性向を減らすことが重要であると考えたのである。

8 車輪と尾翼にも難点 top

　完全に直せなかった、もう一つの問題は、車輪の弱いことであった。
　多くのパイロットは車輪を強化する必要を感じていたが、メッサーシユミットの技師たちは、強化しなかった。
　このためテスト中のものをふくめて、多くの飛行機の車輪が壊れて、大修理を必要とした。
　生産担当者は、工場が全力をあげて生産にとりかかっている時、滑走路には五、六機の新鋭機が、着陸のさい車輪をこわして、ならんでいたと回想している。
　車輪はＭｅ109シリーズにとって、いつも最大の問題になっていた。
　その他、設計も修正され装備も直された。
　初期の飛行でテスト・パイロットは、補助翼が激しくパタパタして、時に尾翼もそうであったと報告した。
　しかし、これは新しい革命的な設計の場合には、よくあることである。
　どの国の戦闘機、爆撃機にせよ、軍用機というものは就役するまでには、困難な道を通過しなければならないのである。
　第二次大戦で最強の急降下爆撃機は、おそらく米カーチスＳＢ二Ｃ4「ヘルダイバー」だろうが、その堅牢さと信頼できる構造は有名であった。
　しかしこの飛行機の試作機（ＸＳＢ二Ｃ1）の初期のテスト飛行の時、急降下のさい、激しい震動がおこり尾部がもぎとられて、数人のテスト・パイロットが死亡している。
　これまでに造られたなかで、最も頑丈な戦闘機である米リパブリックＰ47「サンダーボルト」でさえ、尾部の故障によって、多くのパイロットが死亡している。
　Ｍｅ109も例外ではなく、尾部の構造が弱かったために、一部の筋から、メッサーシュミットの設計は“悪い”という批判をうけたのである。
　四番目の試作機Ｍｅ109Ｖ4は、三番機までの厳しい飛行テストでわかった多くの難点を解消するよう設計を修正して、飛行した。
　Ｍｅ109Ｖ4は、七・九ミリ機関銃三挺を装備していたが、二〇ミリ機関砲が入手できると、ただちに換装した。
　しかし最初の射撃テストをしてみると、またまた新しい問題がでてきた。
　それは機関砲を発射すると、非常に激しい震動が起ったのである。

9 四つの開発計画 top

　Ｍｅ109の機関砲関係の改善が手間取っているために、次のＭｅ109Ｖ5、Ｖ6、Ｖ7の三試作機は、もとの機関銃三挺の武装で製作された。
　これらの三機は一九三七年初め、テストを繰返したが、それは量産機Ｍｅ109Ｂ０戦闘機の最終的形態をつくりあげるためであった。
　またこのあと、戦闘機を多面的に使用するという長期目的で、Ｍｅ109Ｂシリーズはテストを続けられた。
　Ｍｅ109Ｂシリーズ戦闘機は、実戦部隊で使われていたが、Ｍｅ109Ｖ試作機で、さらに設計を改良する作業が続けられた。
　この点について、開発計画は四つのはっきりした方針がたてられていた。
　第一は、Ｍｅ109Ｖ型で研究を続けること。
　第二は、Ｍｅ109Ｂとそれ以後のシリーズは、現地でテストをうけること。
　第三は、競技とデモンストレーションのために、えらばれた試作機を使ってみること。
　これには、世界航空記録を獲得するため、より強力なエンジンを装備する特別改造型も含まれている。
　第四は、一連の試作機をスペインに送って戦闘に参加させ、外国の戦闘機を相手に実戦でテストしてみること、であった。
　Ｍｅ109Ｖ5、Ｖ6、Ｖ7は、改良したエンジンＪumo二一〇Ｂを装備した。
　離陸時の出力は六一〇馬力であったが、これら戦闘機の実用上昇限度は七八九〇メートルから八八五〇メートルであった。
　また最高速度は三機とも、高度三九〇〇メートルで、時速四七〇キロであった。
　（Ｍｅ109Ｂシリーズの第一期生産分はあらゆる点でＭｅ109Ｖ7試作機と同一であった）
　Ｍｅ109Ｖ1、Ｖ2、Ｖ3を除き、その他のＭｅ109Ｖシリーズのすべての戦闘機は、一九三七年に生産された。
　最も、それが多く飛ぶようになったのは、かなり後ではあったが。

10 Ｖ型続々改装 top

　Ｍｅ109Ｖ8は、六三五馬力の新しいＪumo二一〇Ｄエンジンを初めて装備した戦闘機であり、また七・九ミリ機関銃四挺――エンジンの覆いに二、翼にそれぞれ一　――を装備し、最高時速は四四〇キロであった。
　Ｍｅ109Ｖ9は、Ｊumo二一〇Ｄエンジンを搭載、武装は機首に七・九ミリ機関銃二挺、翼に機関銃それぞれ一を装備しているが、重量がふえ、空気抵抗が少し増大して、最高時速は四三〇キロにすぎなかった。
　しかしＭｅ109Ｖ10（武装なし、六四〇馬力のＪumo二一〇Ｇエンジン）は、Ｍｅ109Ｖシリーズで初めて、高度三九〇〇メートルで最高時速五〇〇キロを突破した。
　第二のＭｅ109Ｖ10は、標準のＭｅ109Ｂの機体から造られたが、これは特別の高速テストのために、九六〇馬力のダイムラー・ベンツＤＢ六〇〇Ａが初めて装備された。
　Ｍｅ109Ｖ11は、同じ九六〇馬力のＤＢ六〇〇Ａエンジンを装備し、前のＭｅ109Ｖ型より少し機体が長く、八・四五メートルになった。
　武装せずに飛行して、Ｖ11は時速五八八・八キロの新記録をだし、また実用上昇限度も九八四〇メートルに達した。
　Ｍｅ109Ｖ12は、Ｖ11と同じエンジンを使い、機関銃二挺と機関砲一門を装備して飛行したが、最高時速は五八五キロから五七五キロにおちた。
　Ｍｅ109Ｖ13は、二つの型があり、一つは九六〇馬力のＤＢ六〇〇Ａエンジンを装備、総重量二三〇〇キロで、最高時速六〇〇キロをだした。
　もう一つ、一一〇〇馬力のＤＢ六〇〇Ａエンジンを装備したものについては、なんの記録もない。
　しかしＭｅ109Ｖ14も、ＤＢ六〇一Ａエンジンを装備した。
　これは自重二〇〇六キロ、全備重量は二四九八キロで、武装は機首に機関銃二挺、翼に機関砲二門を装備、高度五九〇〇メートルでの最高時速は五七〇キロで、実用上昇限度は一万三五〇メートルまで上昇した。
　Ｍｅ109Ｖ15は、機関砲を一門に減らしたほかは、重量、性能ともＶ14と同じであった。

　しかしこの事故は、ドイツの威信や、国際競技で優勝したいという決意に、ほとんど影響をあたえなかった。
　ウーデットは番外に落ちたが、Ｍｅ109チームは先頭にたち、Ｍｅ109Ｂ2に乗ったシャイデマン少佐が二六五・五キロレースを五七分七秒（平均時速三七四・三キロ）で飛んで優勝した。
　さらに驚くべきことは、二着、三着ともＭｅ109Ｂ1が占めたことである。
　またＭｅ109Ｂ2に乗ったフランケは、一周五〇・三キロ（全部で四周）のアルプス周回競技を平均時速四〇八キロで飛んで優勝した。
　フランケはこのあと、Ｍｅ109Ｖ13にのって、単葉軍用機によるアルプス一周飛行に参加、平均時速三八六・八キロをだし、また上昇および降下競技では、二九五二メートルに達してから三一八メートルに下降するまで二分五秒七のタイムで優勝した。

13 世界の脅威に top

　もう一つの大きな競技は、三機編隊のアルプス一周であったが、Ｍｅ109Ｂ戦闘機は、はじめからリードし、三六五・四キロを五八分五二秒三で飛び優勝をさらった。
　かくて新しいメッサーシュミット機は、嵐のような勝利をえたのである。
　この結果をみて、ドイツの軍事力に脅威を感じていた諸国は、冷や水をかけられたような気分になり、厳しい結論をくださざるをえなかった。
　事実、このメッサーシュミット戦闘機のすばらしい性能が明らかになると、これらの諸国はこの競技を棄権した。
　Ｍｅ109が優勝をさらうのはわかりきったことだし、ドイツチームに完敗するだけのことで、自国にとって、なんのプラスにもならないと、考えたからである。
　だが、Ｍｅ109はチューリッヒで、最上の性能を示したのではなかった。
　そして航空専門家は、このことをよく知っていた。
　アルプスの地形の条件、競技に指示された制限などによって、Ｍｅ109は最高の能率をださないで操縦されていた。
　またもしメッサーシュミット戦闘機が、競技参加国の最上の戦闘機よりも、非常にすぐれていることが明らかになったならば、だれがＭｅ109を先頭とする大空中艦隊に対抗できるであろうか？
　事実、この国際競技に参加した少数のドイツ飛行機は、大空軍の先ぶれなのであった。
　そしてわずか五機が姿を見せただけであったが、これが量産されて、ドイツ空軍部隊に配置されることは、疑う余地がないようにみえた。
　数ヵ月後、そんな懸念が高まった。
　Ｍｅ109Ｖ13は、すでに航空界の絶賛を博しており、ドイツ人はチューリッヒでえた国際的威信をさらに拡大しようと望んでいた。
　従って、メッサーシュミットはもっと大きな栄誉をえようとして、Ｍｅ109Ｖ13の改造に力を入れた。
　Ｍｅ109Ｖ13には、数分間だが一六五〇馬力をだす新しいダイムラー・ベンツＤＢ六〇一エンジンが特別に装備された。
　一九三七年十一月十一日、ヘルマン・ウルステル博士は、Ｍｅ109Ｖ13を横に傾けて、三キロのスピードコースを通過した。
　彼は飛び終えると、急旋回し、今度は反対の方向からコースを通過した。
　この時、Ｍｅ109Ｖ13は時速六一〇・五五キロの世界新記録を樹立し、メッサーシュミットの名は世界各地に轟きわたった。
　さらにもっと不吉な事態が進展していた。
　強国のあいだでは、すでに公然の秘密となっていたが、ドイツとイタリアが、スペイン内乱に深く介入しており、スペインを覆う残忍な戦いに関与していた。
　ドイツ人にとって、スペインは、兵員、装備、新戦闘技術をテストする実験場として、絶好の機会を提供した。
　フフンスとソ連もまた内乱に資材、装備、人員を注ぎ込んでいた。
　ドイツのスペインにたいする援肋はなんら擬装した兵力ではなかった。
　シュベール将軍が、二〇〇機以上の第一線戦闘部隊と五〇機のユンカースＪｕ52三二発輸送機をもつコンドル軍団の初代司令官であった。
　また空軍戦闘部隊とともに、防空部隊、通信隊、地上施設隊も参加していた。

14 “スペインヘＭｅ109送れ” top

　スペインでドイツ部隊は質的な優秀さを示したが、この優秀さは最初、戦闘機についてはいえなかった。
　フランコの戦闘部隊を支援するため、コンドル軍団の使用したハインケル51複葉戦闘機は、ソ連製の「イ−15」「イ−16」戦闘機から予期しない手痛い反撃をうけた。
　これらの戦闘機は、明らかにドイツ戦闘機よりすぐれていた。
　そこで「Ｍｅ109をスペインに送れ」という叫びが、ベルリンに達したのであった。