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12　朝鮮戦争までの長い生命

　第二次大戦の終りまでに、ドイツの航空機産業は、Ｍｅ109の各種の型を含めて、合計三万五七三機を製作した。
　またチェコとスペインでは、戦後も改造したＭｅ109を製作しており、それらをくわえれば、総計は三万三〇〇〇機以上に達するであろう。
　これは一機種の飛行機としては、世界最大の機数である。

1 戦後、チェコで製作継続 top

　ドイツ敗北後、チェコはＭｅ109Ｇ14に、ＤＢ六〇五エンジンを搭載して製作を続けた。
　その主な工場は、カコビスのアビア工場だったので、Ｍｅ109Ｇ14はアビアＣ10と改名された。
　また練習機用として、二人乗りのＭｅ109Ｇ12練習機は、アビアＣ10として製作を継続した。
　数年後、ＤＢ六〇五エンジンが事実上生産されなくなると、アビア工場の技師たちは、Ｊumo二一一Ｆエンジンを搭載するように改造し、名称もＣ10からＣ210に変更された。
　改造のなかには、羽根の表面積を大幅に増大したユンカース設計の新プロペラの採用も含まれていた。
　これは、ある点では性能を高めたものの、同時に一般飛行の特色を阻害することにもなった。
　それでこの飛行機は、意地わるで扱いにくいとの評判をとり、パイロットたちはＣ210Ｍ に“らば”〔ろばと馬の合いの子、片意地者の意もある〕というあだ名をつけたのも、最もなことである。
　アビアＣ210は、スペイン内乱ではじまったＭｅ109の長い戦闘記録をさらに伸ばす運命をもっていた。
　イスラエルからの注文で引き渡されたＣ210数機は、世界各地から集められた「スピットファイア」とともに、新生イスラエル空軍の中心となり、のちにエジプト空軍の「スピットファイア」機と闘って、驚くほどの一方的勝利を収めた。
　イスラエルから飛びたったパイロットたちは、「空中では、なんの問題もなかった」とのべた。
　ベル航空機会社のロケット試作機ＸＳ1を初めてテストしたチャルマース・Ｈ・グッドリンは、イスラエルでＣ210を操縦して、エジプトの「スピットファイア」三機を撃墜した。（ほかにもまだ撃墜している）

2 スペインでＭｅ109活躍 top

　一九三〇年代の後半から、Ｍｅ109戦闘機を受入れているスペインは、多年にわたり、各種の型のＭｅ109を、第一線戦闘機に使用していた国の一つである。
　スペイン内乱が終った直後、スペイン空軍は再編成され、当時使用された多くの型の外国機に、新しい名称がつけられた。
　Ｍｅ109Ｂ2はスパニッシュＣ4に、Ｍｅ109Ｅ1はスパニッシュＣ5になった。
　新しい戦闘機も、ドイツから受けとると名称を変更、Ｍｅ109Ｆ3の一五機は、スパニッシュＣ10になった。
　第二次大戦中、スペインは他国から戦闘機を入手する見込みがほとんどなかったので、Ｍｅ109の製作権譲渡の取りきめをむすび、イスパノ航空機会社は、Ｍｅ109Ｇ2を二〇〇機製作する計画に乗りだした。
　ドイツは解体した二五機のＭｅ109Ｇ2をスペインに送り、スペイン技術者が組み立てに慣れ、また飛行機の細部を学べるように援助することに同意した。
　翼と機体は予定どおり到着したが、エンジンはとうとう引き渡されなかった。
　そこでスペイン政府は、これにイスパノスイザＨＳ一二Ｚ89エンジンを搭載することを決定、Ｍｅ109Ｇ2は、完全に“国際化”の道を歩むようになった。
　この一三〇〇馬力のエンジンを搭載することによって、スペインはＭｅ109Ｇ2の一部を改造しなければならなかった。
　何故なら、スペインのエンジンは、ダイムラー・ベンツのエンジンとは逆方向に回転するからである。
　従って一二Ｚ89エンジンで離陸する場合、操縦士は、方向舵を右よりむしろ左へ向けた。
　テストは米国製のプロペラで行われた。
　やっと一九四六年初めに、スペイン製のＭｅ109Ｇ2が飛び、四七年一月までに二五機が造られた。
　さらに改造機が造られ、それぞれ名称をＨＡ1109Ｊ1Ｌから、ＨＡ1190Ｋ1Ｌ、Ｋ2Ｌ、Ｋ3Ｌまでつけられた。

3 スペイン内乱から朝鮮戦争まで top

　スペイン空軍は、これらの飛行機をＣ4Ｊと命名したが、そのうちのいくつかは、英国のロールス・ロイス「マーリン」エンジンを搭載していた。
　武装は二〇ミリ機関砲から八〇ミリロケット・ミサイルまで多様であった。
　一方、二人乗りの練習機も、Ｍｅ109Ｇ12を基本設計にして製作された。
　これは「マーリン」エンジンを搭載したので、時速は六四三キロ以上にも達したが、これはあくまでも、中隊ごとに違っていたエンジンや機体の状態がよい場合であった。
　しかし、この練習機は、スペイン空軍の役にたった。
　そして一九五八年まで生産が継続された。
　二三年間も続いて生産された戦闘機――スペイン内乱から朝鮮戦争まで――は、その優秀さが、この長期生産という事実からもわかるであろう。
　今日、改装されたＭｅ109戦闘機は、もはや当初の役割から外されている。
　しかし偉大な飛行機の継続を信じる人たちにとって、幸せなことに、この飛行機は、今後も長く飛び続けるであろう。
　もちろん、その環境はかわった。
　米国テキサス州メルセデスのレベル飛行場〔レベルは反乱軍、すなわち南北戦争の南軍の意味〕では、パイロットと実業家の一団が、第二次大戦の名機を集めて、長年にわたり“南部航空軍”をつくっている。
　〔米国南部では、いまでも北部にたいする反感が強く、自分たちをレベルとよび、南部の旗を掲げたりしている。
　しかしここでは、飛行機博物館のような意味で集めたものであろう〕
　そしてここには、最後のＭｅ109戦闘機数機が、航空史上有名な戦闘機「ライトニング」、「ムスタング」、「ウォーホーク」、「サンダーボルト」、「ワイルドキャット」、「ヘルキャット」、「エアラコブラ」などとともに、仲よくならんでいるのを見ることができよう。