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6　ドイツ空軍、緒戦で圧倒的勝利

　一九三九年〔昭和十四年〕九月一日、ヒトラーは陸軍と空軍に、ポーランド進撃を命じた。
　ポーランド軍は、ドイツ軍（そしてまたソ連軍）の猛攻を阻止するために、約七〇〇機を出動させたが、その大部分はドイツ新鋭機にくらべ、はるかに性能が劣っていた。
　すなわち武装、速度が劣っていたばかりでなく、ドイツ空軍機と同じ高度をたもつことさえできなかった。

　従って、ポーランドでは空中戦はなく、あったのは虐殺とでもいうべき地上の戦いであった。
　ポーランドにおけるＭｅ109の威力を最もよく示したのは、ドイツ軍の攻撃開始後数日間の情勢である。三発の輸送機で、普通は戦闘機の攻撃を受けたら一たまりもないユンカースＪｕ52が、爆撃機の代役としてワルシャワ上空を飛び、なんの攻撃もうけずに市街を無差別爆撃したが、それはＭｅ109が、敵の反撃をすでに一掃していたからである。

2 英双発爆撃機に圧勝 top

　一九三九年の終りちかくになると、ドイツ軍と英仏軍は、全面戦争に突入する準備をすすめていた。
　この“ジッツ・クリーク”〔すわりこみ戦争〕のあいだ、両軍はそれぞれ小規模の空中作戦を行った。
　そしてＭｅ109は、数回にわたって、その実力を英空軍の爆撃機にためすことができた。
　一九三九年十二月十八日、Ｍｅ109を主力とし、これにＭｅ110数機をくわえた迎撃戦闘隊は、ウィルヘルム・ハーフェン〔ドイツ西部〕付近で、二四機の英空軍の「ウェリントン」双発爆撃機を攻撃した。この戦闘で「ウェリントン」爆撃機一二機が撃墜されたが、うち二〇機はＭｅ109Ｅによるものであった。
　ドイツ軍は二機が撃墜され、数機が「ウェリントン」の四連装後部銃の防御砲火でかなりの損傷を受けた。
　この英爆撃機とドイツ戦闘機の最初の大きな交戦で、勝利は明らかにドイツ側にあった。
　戦闘機二機にたいし、攻撃兵力の半数を占める爆撃機一二機という損害は、英空軍爆撃兵団を気おちさせるに、十分であった。
　この戦闘は、他の理由からも重要であった。
　というのは、戦闘に参加したのは新しいＭｅ109Ｅ3型であり、これは機関砲三門、機関銃二挺を装備しており、第三の機関砲は機首にくみこまれていた。
　このため長距離射撃が可能になった。
　しかし必ずしもすべてのドイツ軍パイロットが、その価値を認めたわけではなかった。
　確かに火力の増大は有効であったが、機首に装備された機関砲は、発砲すると、激しい震動を起し、あるときには機体に損傷をあたえる事故さえ引き起した。
　パイロットは、これをきらって、機首の機関砲を使用せず、翼の機関砲二、機首の機関銃二という、これまで通りの装備に頼った。

3 Ｍｅ109Ｅ3外国に売る top

　最初のＭｅ109Ｅ3は、一九三九年おそく第一線機として出動した。
　この戦闘機は、数的にみて、ドイツ空軍で最も重要なもので、一九三九年末には月産一五〇機に、一九四〇年には総計一八六八機が生産された。
　戦闘機の需要が増大するにつれて、ドイツの工場は、第一線部隊にＭｅ109Ｅ3を送るために全力をあげた。
　しかしドイツ政府は、外貨を必要としたため、三〇四機のＭｅ109Ｅ3を外国に輸出する協定に調印した。内わけは、ブルガリア一九、日本二、ルーマニア六九、スイス八〇、ハンガリー四〇、スロバキア一六、ユーゴ七三、ソ連五である。
　日本にきた二機は、川崎航空機会社が、日本でＭｅ109Ｅ3を製作するさいヒナ型になる予定であったが、日本軍の戦闘機パイロットは側面荷重が大きく、運動性能が劣るという理由で、強く反対した。
　〔陸軍三式戦「飛燕」はＭｅ109の国産化ではない〕

　ノワラ、グリーン、ウィンドローの三氏は、いずれもＭｅ109シリーズについて権威ある著作を書いているが、ともに八五〇機のＥ3型機が使用されたと主張している。
　しかし、この数字は、再編成された旧型のＭｅ109の部隊を含んでいるのではないかと思われる。
　何故なら、これらのＭｅ109戦闘機隊が第一線に展開したのは一九三九年末の数ヵ月間のことであり、この時の作戦が開始された一九四〇年五月までには、Ｅ3型の量産はまだ軌道にのっていなかったからである。
　すなわち、一九四〇年一月のＥ3型の生産機数は一五〇機であったから、八五〇機すべてがＥ3型であったとは考えられない。
　さらに訓練やテスト、空輸飛行や作戦による損耗などを考えると、なおさら、疑わしい。
　歴史上、くわしい数字は、しばしば疑問の余地を残しているものであるが、一九四〇年五月、ドイツ空軍が発揮した威力については、議論の余地がない。
　ドイツ空軍は、獰猛なＭｅ109を先頭に、またたくまに連合軍の反撃を粉砕し、制空権を確保した。
　攻撃第一日未明の猛襲で、ドイツ空軍は、連合軍飛行場を粉砕、オランダ空軍のフォッカー戦闘機は、Ｍｅ109と戦う機会もないうちに、第一撃で大部分を地上で撃破された。
　そしてやっと飛びあがった数機も、はるかに性能のよいドイツ戦闘機に圧倒された。
　ほとんど同じやりかたで、メッサーシュミット戦闘機は、ベルギーの飛行場も蹂躙した。
　ドイツ空軍が出動してから五日後に、オランダの軍事力は破壊され、降伏以外とるべき道はなくなった。
　一三日後には、ベルギーも軍事力を破壊され、オランダと同様、降伏した。

5 英の「ハリケーン」も圧倒 top 　ドイツ空軍の第一撃は、非常に有効で、圧倒的な威力をみせたので、昔流の空中戦をやる機会はなかった。 　しかし、Ｍｅ109Ｅが、多くの空軍戦略家によって評価されるようになったことは、注目しなければならない。 　オランダ、ベルギー、あるいはソ連の飛行機との戦闘は、Ｍｅ109Ｅの力をはかるメヤスとはならないと、これらの戦略家はのべ、重要なのは英国の「ハリケーン」や「スピットファイア」のような、真にすぐれた戦闘機との戦いであると、主張した。 　これにたいして、「ハリケーン」は、世界中の戦闘機とくらべて水準以上のものであり、おそらく、かなり性能のよい戦闘機だと思われるが、Ｍｅ109Ｅとくらべてみた場合、とても歯が立たないのではないかという意見もあった。 　ドイツ空軍のアドルフ・ガーラントは、この点を強調して、次のようにのべている。

ミッキーマウスのマークをつけた愛機の前にたつアドルフ・ガーラント少佐（左）｡彼は西部戦線での撃墜数ではドイツ空軍第4位のエースであった

6 フランス空軍もあえなし top

　フランスとの戦いは、今までとは、違った状況で展開するものと思われた。
　すなわちフランスは、一人のり双発戦闘機のほか、英国製の「グラジエーター」「ハリケーン」戦闘機をくわえて、ドイツ空軍にたいし、約八〇〇機の戦闘機を集めることができた。
　その主力は、モラーヌ・ソルニエＭＳ406で、十一個大隊を形成していた。
　このほかカーチス「ホーク」75Ａが四個大隊を形成していた。
　多くのパイロットは、「ホーク」のほうを好んだが、それはモラーヌにくらべ、運動性能も上昇率も、はるかによかったからである。
　戦争が勃発した当時、フランスは三○○機のモラーヌ406と一〇〇機のカーチス「ホーク」75Ａを第一線戦闘機としてもち、そのほか双発のポテ630、631、ドボアチンＤ520、ブロッシュ151、152や、Ｍｅ109Ｅにとても太刀打ちできないような旧式のドボアチンＤ501、ニューポート・デラージュ629、ブレリオ・スパッド510ももっていた。
　さらにフランスは、英空軍のグロスター「グラジエーター」複葉戦闘機二個中隊と、ホーカー「ハリケーン」戦闘機四個中隊の支援をうけていた。
　ドイツ空軍に一撃されたのち、英国はさらに「ハリケーン」六個中隊を投入していた。
　一九四〇年五月十日早朝、ドイツ空軍は驚くべき力をもって猛攻をくわえてきた。
　ドイツの戦闘機、爆撃機は、ディジョン〔パリ南東二六〇キロ〕、リヨン〔ディジョン南方一八〇キロ〕、メッツ〔パリ東方三〇〇キロ、ドイツ国境付近〕、ナンシー〔メッツ南方六○キロ〕、ロミリー〔パリ東方一〇〇キロ〕などのフランス重要空軍基地を粉砕、第一撃からフランスの降伏する六週間までに、ドイツ空軍はけっして制空権を失うことはなかった。
　数十機のフランスの戦闘機と爆撃機が、第一撃で破壊された。

　このためにフランス軍パイロットは飛行場に着陸してみると、そこが燃えあがって放棄されているのを知った。
　燃料不足と部品の欠如という事態に直面して、パイロットもまた、ドイツ地上軍が接近したときに、飛行機を放棄するほかなかった。
　空中戦の詳細な記録は、大部分なくなっている。
　しかしその規模については、ドイツ空軍が六週間の戦闘で、約三五〇機を失ったという事実から推測されよう。
　一方フランス軍は、撃墜確認六八四機、未確認二五一機と主張し、ドイツ空軍の損害の大部分は、フランス戦闘機によるものであるとのべている。
　しかし、ドイツ空軍の統計では、全部で三五〇機以上の損失がなかったことを示している。

8 英「ハリケーン」四五〇機喪失 top

　この短期戦の終了とともに、深刻な反省の時がやってきた。
　時としては個々の戦闘でフランス戦闘機が勝った時があったとしても、Ｍｅ109Ｅは、ほとんどすべての反撃を一掃した。
　またフランス戦闘機の運動性能も、Ｍｅ109Ｅより劣っていることが明らかになった。
　さらに大きなショックはイギリスの戦闘機「ハリケーン」がＭｅ109Ｅの敵でなかったことであった。
　フランス軍戦闘機はいうにおよばず、「ハリケーン」も、ほとんどすべての点で、Ｍｅ109Ｅに劣っていた。
　フランスにおける航空戦で、余り知られていない事実の一つは、イギリスがこの短い空の戦いで、約四五〇機の「ハリケーン」を――しかもドイツ空軍の作戦にほとんどなんの障害もあたえずに――失ってしまったことである。