首脳の不和で開発もたつ

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2 首脳の不和で開発もたつく

4 若い総参謀長イエショネク
5 首脳間の不和、新型機に影響
6 次期爆撃機の開発に失敗

7 三重苦のMe210機

　ヒトラーは、ポーランドと戦端をひらくにあたり、力の差を堅持しようと決意していた。ところが英仏両国は、いったん戦争がおこれば「ポーランド政府にたいし、すべての軍事力をあげて援助する」と約束していたので、もはや戦闘が、東ヨーロッパに限定される可能性は全くなかった。

大戦前夜、ニュールンベルク・スタジアムの示威演習で低空編隊飛行をみせるドルニエDo17爆撃機

1 圧倒的な空軍力

　一九三九年〔昭和十四年〕九月一日現在のドイツ空軍は、三六五〇機を保有していた。その内わけは
　　水平爆撃機（主としてDo17とHe177）　　　一一七〇
　　急降下爆撃機（Ju87）　　　　　　　　　　　　　三三五
　　単発戦闘機（Me109）　　　　　　　　　　　　一一二五
　　双発戦闘機（Me110）　　　　　　　　　　　　　一九五
　　偵察機（主としてDo17とヘンシェルHs126）　六二〇
　　水上機（He59、60、115）　　　　　　　　　　　二〇五
　これにくわえて、各機種ごとに、第一線兵力の一〇～二五パーセントの予備機を保有していた。
　これらの戦闘兵力および予備兵力の背後には、さらに二五〇〇機以上の練習機と五〇〇機以上の戦闘訓練用の実用機をもつ訓練機関があった。
　爆撃機および戦闘機兵力の根幹となるHe177とMe109は、大規模な空軍をもつどこの国の爆撃機や戦闘機よりも、断然優秀であった。
　また練達のレベルや士気の面においても、ドイツ空軍の将兵は、彼らの敵と同じていどか、むしろそれ以上にすぐれていた。
　ここまでをみれば、ドイツ空軍は明らかに圧倒的であった。だが、ドイツ空軍には、ある根本的な弱点があった。　それは、ドイツが空で長期戦を遂行する能力に、深刻な影響をあたえるものであった。

2 首脳部の不和 top

　まず、平和だった最後の二年間に、ドイツ空軍首脳部におこった変化に、目をむけてみよう。
　すでにのべたように、一九三六年、ケッセルリンクはウェーバーの死後、空軍総参謀長の地位についたが、直属の上官であるミルヒとのあつれきが、しだいに大きくなっていた。
　一年後、ケッセルリンクはゲーリングに辞表をだした。ケッセルリソクは第三航空軍司令官に転出し、彼のあとには、前空軍人事局長ハンスーユルゲン・シュツンプ少将が就任した。
　しかし、総参謀長に就任したシュツンプは、任務がきわめて容易ならぬものであるのを知った。
　たえまない拡張政策のために、とどまることをしらぬ組織の変革が必要であったが、そのために、部下を十分掌握する時間がなかった。
　それに、ミルヒとの関係を、ケッセルリンクよりもうまく保持することもできず、結局、同じような結果におちいったのである。
　一方ミルヒ自身も、ヒトラーからあまりに大きい信頼と寵愛〔ちょうあい〕をうけていたので、ゲーリングからにらまれていた。
　ゲーリングは、ミルヒこそ空軍の指導者として手ごわい競争相手である、とみていたのである。
　ミルヒは私（著者）につぎのように話したことがある。
　「ナチ党員のある人たちは、空軍の真の総帥は私であって、ゲーリングではないと言い始めていた。彼らがそう言ったのは、とくに私に好意をもったからではなく、ゲーリングを憎んでいたからだ」

大戦がちかづくにつれ、ドイツでは軍用機の量産に拍車がかけられた
【上】Me109戦闘機の生産【下】Do17爆撃機の生産

　ゲーリングは、疑心暗鬼の恐怖にかられたので、ミルヒの側近グループにスパイをいれたり、またミルヒのもつ権限のいくつかをとりあげることによって報復した。
　このため、ミルヒは空軍総司令部の幕僚部門および技術、人事両部門への直接の支配権をアッというまに失ってしまった。

3 空戦性能重視の技術局長ウーデット top

　空軍技術局における支配力を強化するため、ゲーリングは、古い友人のエルンスト・ウーデットを技術局長にすえた。　ウーデットは、新空軍の中では、もっとも多彩な人物の一人であった。
　彼は、輝かしい現役の曲技パイロットで、第一次大戦で六二機を撃墜したエースでもあり、この記録は、第一次大戦生き残りのドイツ軍パイロットの中では、最高のものであった。
　一九三九年初頭いらいウーデットは空軍上級大将であり、空軍調達・補給本部長官の地位にいた。
　しかし、このようなすぐれた性格や経歴にもかかわらず、軽薄な一面があった。
　ウーデットは漫画をかくのがじょうずで、これと曲芸射撃で客を楽しませてはよろこんでいた。
　これは、彼の重要な地位に、全くふさわしくない行動であった。

　また、彼のもっとも重要な任務である航空技術開発の面では、あまりにも非妥協的で、たとえば戦闘機開発についても、空戦性能を重視するいままでの思想にこだわりすぎ、新しい高速戦闘機の構想を理解できなかったのである。
　しかも、自分の主張を強調するあまり、新型機のテストと生産を総合的に統制推進すべき本来の任務をないがしろにしてしまった。
　この点については、ウーデットは、技術面でも管理面でもミルヒ〔空軍次官〕の協力をえられたはずである。
　ところが、ゲーリングはわざと二人の連絡の道を、細長く、通じにくいようにしむけたのである。

4 若い総参謀長イエショネク top

　シュツンプは一九三九年二月にすでに総参謀長の地位をさっているが、一九三五年いらい、この地位をねらっていた第四の男が、あとがまにすわった。
　ハンス・イエショネク大佐（まもなく少将に昇進）である。
　イエショネクは、ウェーバー大将の直系の子分で、ウェーバー大将は、イエショネクのとびぬけた知識と能力を認めて、ひろいあげたのである。
　イエショネクは、ウェーバーにおとらぬ熱烈なナチズム信奉者であった。
この新総参謀長は、主要なこの地位には異例の、三九歳という若さであり、その若さゆえに、前途に多くの困難がよこたわっていた。彼は孤独な男で、ミルヒともウーデットとも、うまくいかなかった。
　そのうえ、あまりにも若輩なので、上級の司令官たちを説得できないことを、痛いほど思いしらされた。しかも司令官たちは、かれを圧迫するために、ゲーリングとの個人的友情を平気で利用するしまつだった。
　ところがゲーリングは、総参謀長になったこの若い男よりも、知的には劣ることを十分に知っていた。
　そのためゲーリングは、自分の決定事項を発表するまえに、イエショネク意見をきくのを、しだいに嫌う傾向をみせはじめた。
　こうした結果、イエショネクは、空軍で責任ある立場にあり、しかも人からそねみを買うほどの地位にありながら、たいした影響力も実力ももちあわせていないことを、思い知らされだのである。
　かくて戦争の前夜、ドイツ空軍のトップにいた四人の男――ゲーリング、ミルヒ、ウーデット、イエショネク――は、それぞれが任務を果すのに不適格か、あるいは力がないという状況であった。
　しかも、彼らは、自分をのぞく他の三人とことごとくいがみあった。ゲーリングは、この事態を改善しようとしなかったばかりでなく、むしろ、部下を仲間われさせて支配するために、この傾向を助長したのである。
　このような状態にもかかわらず、ミルヒとウェーバーが樹立した空軍の基礎は、戦争直前に発生したこうした分裂の危機にたいし、まだしっかりしていた。
　しかしその後、この爆発寸前の首脳陣の対立が、敵による外側からの圧迫と重なりあったとき、ドイツ空軍の指導力の貧困さは、重大な結果をもたらすことに為った。
　なぜなら、ドイツ空軍は、その首脳部に指導されることもなく、たんに管理されるだけで、戦争に突入していったからである。

ハインケルHe115偵察・雷撃機

ユンカースJu88高速・長距離急降下爆撃機

ヘンシェルHs126偵察機

第二次大戦初期、ドイツ空軍主力戦闘機であった。メッサーシュミットMe109E型戦闘機

5 首脳間の不和、新型機に影響 top

　空軍統帥部がこのようにバラパラなために、やがて大きなミスが生じた。
中でも最大のミスの一つは、Do17とHe177以後のすべての爆撃機は急降下爆撃ができなくてはならない、というイエショネクのくだした決定であった。この決定がもたらした諸問題は、あとで、しだいに明らかになるはずである。しかしまず、その背後にある原因について考えてみよう。
　高性能爆弾による爆撃効果を増大させるには、二つの方法がある。その一つは、大量の爆弾を投下するために、大型機を使用するか、あるいは小型機をたくさん使用するかである。もう一つは、爆弾の浪費を少なくするために、爆撃精度を向上させることである。事実、爆撃精度をわずかに改善するだけで、効果は非常に増大するのである。
　戦前のドイツの標準型水平爆撃照準器、ゲルツ219照準器は、性能の悪いおそまつな計測器であった。
　このような照準器をつかって、水平爆撃機で針の先ほどの目標を破壊するには、多量の爆弾を投下しなければならなかった。ところが、Ju87急降下爆撃機は――この機種はスペイン内乱で実戦効果が認められた――きわめて正確に攻撃できる、恐るべき能力があることを実証した。
　こういうわけで、ドイツ空軍部内には、長距離用急降下爆撃機の熱烈な支持者が育っていた。
　重量四トン半の短距離のJu87Bに関するかぎり、精密な急降下爆撃理論は立派に通用した。しかしその理論を、長距離での急降下攻撃にあてはめようとすると、大型機を使用しなければならなくなり、このため、ドイツの航空技術者たちは、大変な困難に直面することになった。
　長距離・急降下爆撃機の最初の機種はユンカースJu88であるが、任務をまっとうするには、機体構造の補強が必要になり、生産は大幅に遅れた。
　全備重量は一〇トンをこえたが、これはJu87の2倍以上で、急降下攻撃中の操縦は、はるかにむずかしいものであった。あとから振り返ってみると、Ju88は、急降下爆撃機としてはサイズ、重量とも、可能性の最大限度をしめしたものであったことは明らかである。
　それにもかかわらず、長距離・急降下爆撃機の支待者たち（そのなかにはウーデットやイエショネクもいる）はさらにその発展を強要した。

ヨーロッハを制圧したドイツ空軍の出撃：一九三九年八月、進路を検討するHe111爆撃機の搭乗員たち

メッサーシュミットMe109F戦闘機：「英本土空中決戦」に活躍した。Me109Eの改造型で、外見も洗練され、性能も向上した

6 次期爆撃機の開発に失敗 top

　一九三八～一九三九年になると、新しい中型と大型の爆撃機が、試験飛行の段階に達した。それは一五トンのドルニエDo217と、三〇トンのハインケルHe177であった。この二機種は、製作工程の中間で、急降下攻撃ができるように修正することが決定された。しかし、はじめの飛行テストで、両機ともこの目的にはきわめて不適格なことが、すぐに実証されてしまった。
　急降下から機体を引き起こすときにくわわる加重があまりにも強すぎて、機体構造が、正規の操縦に耐えきれないことがわかったのである。
　しかしDo217は水平爆撃機として使用することはできたので、急降下爆撃機に補強した型のまま、水平爆撃の任務につかせることにした。
　He177のばあいは事情がちがった。
この四発爆撃機は、発動機が二基ずつ組みあわされ、各一対が、それぞれ一つのプロペラを駆動するようになっていた。各発動機が固有のプロペラを回転させるいままでの発動機搭載設計では、急降下のとき制御不能な事態が発生することがあるので、He177では、発動機を組みあわせて配置する形がとられたのである。
　しかしこの配置は、かなりあとになって放棄されてしまった。それは、冷却と潤滑油の問題にくわえて燃料もれがあるため、組みあわせ式発動機は、火災発生の恐れがあったのである。
たくさんのHe177が、この原因で失われ、He177を実戦部隊に導入するのは、ひどく遅れてしまった。

7 三重苦のMe210機 top

　急降下を可能にせよという要求にくるしんだ、もう一つの重要な新型機がある。
　それは重戦闘機、戦闘爆撃機および急降下爆撃機の任務を兼ね備えたメッサーシュミットMe210で、すでに使われていたメッサーシュミットMe110とJu87の代替機として計画された
が、これは完全な失敗作になった。というのは、いろいろな要求をすべて満足させるには、あまりにももりだくさんで、理論的に不可能なことを強行させられたからであった。
　しかし一九三九年〔昭和十四年〕九月〔第二次大戦開始のとき〕には、代替機のつまずきは、一般に明らかにされなかった。しかし、もし戦争が続くものとすれば、一九四一年が四二年にならぬうちに、このような新型機を大量に使用できるよう準備し、現用機ととりかえる必要があった。
　そうこうしているうちに、ドイツ空軍は、最初の実戦による試練に直面することになった。多大の努力をおしまずに再建されたこの最新空軍が、恐るべき兵器になることを疑うドイツ国民は、ほとんどいなかった。
　そして事実、それは実証されたのではあるが……。

	ユンカースJu87急降下爆撃機第二次大戦の初期、地上部隊の攻撃を支援して大きな威力を発揮したこの急降下爆撃機は、「スツーカ」とよぱれた。「スツーカ」（Stuka）はドイツ語の急降下爆撃機Sturz-kampfflugzeug（シュトルツ・カンプ・フルークツォイク）の略である。ドイツ空軍とならんでヒトラーの電撃戦の主役をつとめた機甲部隊の支援に欠かせない兵器であった。ドイツ機甲師団には重砲隊は配属されず、これにかわるのが「スツーカ」であった。この急降下爆撃機は機甲部隊との協同作戦に絶大な威力を発揮し、敵地上部隊の恐怖の的であったが、戦闘機の攻撃にはよわかった。以下はJu87Bの性能諸元である発動機：ユンカース・ユモ211、1,200馬力（離昇出力）乗員：2　装:500キロ爆弾1または250キロ爆弾1と50キロ爆弾4、7.9ミリ機関銃3（旋回1）最高時速:383キロ（高度4,000メートル）実用上昇限度:8,000メートル　航続距離:600キロ（爆装）自重:2,712キロ　全備重量:4,336キロ　全幅:13.8メートル　全長:11.1メートル
	ハインケルHe111爆撃機第二次大戦前半のドイツ空軍主力爆撃機で、あらゆる戦域で活躍した。1941年末には、旧式となったが、次期爆撃機のHe177の開発が不成功におわったため、この機は大戦終結まで第一線で使用された。なお大戦末期には、輸送機、グライダー曳航用にも使用された。以下はHe111H 6の性能諸元である発動機：ユンカース・ユモ211、1,340馬力（離昇出力）2　乗員：5　武装：爆弾1000キロ～1,200キロ、20ミリ機関砲1、7.9ミリ機関銃5　最高時速:415キロ（5,000メートル）航続距離:1,220キロ（標準搭載量）実用上昇限度:8,400メートル　自重:7,730キロ全備重量:12,430キロ　全幅:22.6メートル　全長:16.6メートル
	ユンカースJu88爆撃機ドイツ空軍でもっとも多目的に使用された飛行機で、水平・急降下爆撃機、地上攻撃機、雷撃機、偵察機、夜間戦闘機、そして終戦直前には単座戦闘機と結合され親子飛行爆弾としても使用された。総生産機数は約15,000機であった。以下はJu88AIの性能諸元である。発動機：ユンカース・ユモ211、1,200馬力（離昇出力）2　乗員：4　武装：爆弾1,500キロ、7.9ミリ機関銃４　最高時速:450キロ（高度5,400メートル）航続距離:1,000キロ（標準搭載量）上昇限度:7,900メートル　自重:7,290キロ　全備重量:10,360キロ　全幅:18.4メートル　全長:14.4メートル
	メッサーシュミットMe110戦闘機原型は長距離戦闘爆撃機として設計されたが、のちには夜間戦闘機としても使用された。「英本土航空決戦」では長距離護衛戦闘機として爆撃機を護衛して英国へ侵攻したが、英空軍の「スピットファイア」や「ハリケーン」にくらべて操縦性が劣リ、失敗であった。以下はMe110Cの性能諸元である発動機:｀ダイムラー・ベンツDB601A、1,100馬力（離昇出力）2　乗員：2　武装:20ミリ機関砲2、7.9ミリ機関銃5（機首に4）最高時速:560キロ（高度6,900メートル）実用上昇限度:9,600メートル　航続距離:900キロ　全備重量:6,885キロ　全幅:16.3メートル　全長:12.1メートル

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