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13 落ちめになったＵボート戦力

　一九四三年三月末には、Ｕポートにとって重大な意味をもった一つの事件があった。
　船団護衛兵力に空母がくわわっていることが報告されたのである。
　そして空母機は、Ｕポート群の船団攻撃を阻止したという。
　一九四一年、地中海で改装空母「オーダシティ」が船団護衛に使用され、Ｕポートに撃沈されたことがあったが、大西洋航路の船団に使用されたのは、これが初めてであった。

1 船団”支援隊”と空母の威力

　“大西洋に空母出現”が報告されて以後、Ｕポートの活躍は空母機により妨害され、連合軍は“空のすきま”を急速にふさいでいった。
　そして三月の終りには、連合軍は護衛艦艇数隻で、独立した“支援隊”を編成した。“支援隊“と空母は、はじめ北アフリカ上陸の“トーチ”作戦の支援に使用されていたが、この作戦終了とともに大西洋に転用されたのである。
　これらの兵力は、たちまちＵポートにとって大きな脅威となった。
　“支援隊”は駆逐艦、コルペットなどの護衛艦艇で組織された戦隊で、乗組員はすべて百戦練磨のベテランであった。
　“支援隊”は特定の船団に所属するのではなく、一種の遊撃隊として“消防”のような任務を受け持つ兵力であった。
　Ｕボートは“支援隊”のために、さんざんな目にあわされた。
　“支援隊”が現場にかけつけると、船団所属の護衛艦艇は後顧のうれいなくＵポート攻撃に専念できることになった。
　Ｕボートは、たっぷりと爆雷をみまわれ、大きな損害をだしたのである。
　このころ英海軍は、もう一つの奇計を考えだしていた。穀物輸送船とタンカーに飛行甲板を設備して、三機から四機の「ソードフィッシュ」攻撃機〔第二次大戦中の代表的な英海軍の複葉の艦上攻撃機〕を搭載したのである。
　この改装空母に「ソードフィシュ」は着艦できたので、一九四一年夏ごろの「ハリケーン」戦闘機とカタパルトを搭載した商船空母にくらべると、Ｕボートにとっては、はるかにやりにくい相手であった。

2 下り坂のＵボート戦果 top

　三月後半から、補給整備のため多数のＵポートが基地に帰ったために生じた北大西洋の“空白”は、四月なかばには埋められることになった。
　Ｕポートは、ぞくぞくと戦場に復帰し、北大西洋には、これまでにないほど多数のＵボートが作戦することになった。
　そして三月のような大戦果が、再び期待されたのである。
　たちまち激戦が繰広げられた。
　まずアゾレス諸島北方約七〇〇キロ付近を航行中のHX233船団に攻撃がかけられた。
　天候はおだやかで、Ｕポートの攻撃には絶好のコンディションであったが、例の“支援隊”がかけつけて攻撃を阻止した。
　勝負はまず互角といったところで、七四八七トンの商船一隻と、Ｕ剖が沈没した。
　ついで四月二十一日から三日間にわたって、HX234高速船団を攻撃、商船五隻を撃沈した。
　Ｕポート二隻が失われた。
　五月初めには、グリーンランド南方海面でONS5五船団を攻撃した。
　三日間にわたる激戦のすえ、商船一二隻とＵボート七隻が沈没した。
　つぎのＵボートの作戦では、空母機の反撃で成績はふるわなかった。
　これら一連の作戦は、数字的にみれば五分五分の勝負といえるが、Ｕポート作戦は峠をこえ、いまや“下り坂”にさしかかっていることは否定できない事実であった。
　そして、つぎのSC130船団にたいする作戦では、Ｕボート部隊は痛打をうけたのである。
　五月十五日から二十日にかけて、Ｕボート四個群が作戦したが、戦果はゼロで、五隻のＵボートが撃沈されたのである。
　戦局は大きく変った。
　SC130船団は、北大西洋でＵポートの脅威をうけた最後の船団となった。

3 船団航路から撤退 top

　ドイツ海軍潜水艦隊司令官デーニッツ提督は、いまや、重大な決意をせまられたのである。
　連合軍航空部隊の対潜哨戒機のレーダーによる哨戒技術の進歩、護衛船団の護衛艦艇の戦闘能力の向上などを考慮すると、Ｕボートを戦場からひきあげさせる時期が、ついにきたと思われた。
　一九四三年五月二十四日、デーニッツ提督は、Ｕポート各艦に船団航路から撤退する命令を発した。
　この日こそ“大西洋の戦い”で、連合軍の護送船団が、ついに“海の狼”Ｕポートを制した記念すべき日であった。
　かくて八週間まえには勝利にちかづいていたかに思われたＵボートは、いまや守勢に追いこまれ、護送船団は苦難の戦いのすえ勝ち取った優位を、二度と失うまいと必死の努力をすることになったのである。
　しかし、いま冷静に当時を振り返ってみると、一九四三年初頭のＵボートの優位は、消えかけたローソクの最後の輝きのような、最後の力をふりしぼった力闘であったといえよう。

4 英の新兵器10センチ波レーダー top

　連合軍では、一九四三年三月以前から、いくつかの新方策を対Ｕポートの戦闘に導入し始めていた。
　さらにまた、北アフリカ侵攻作戦が成功した結果、船団護衛に大量の護衛兵力と、対Ｕポート戦に熱意をもって戦う多数の将兵を動員できたのである。
　これにくわえて、連合軍は技術開発の面でも、最高の頭脳と惜しみない経費を投入、高性能の兵器、装備、技術を開発し、これを対Ｕボート戦闘に有効に使用することに成功した。
　ドイツ軍は、この面でも遅れをとり、必死の努力を重ねたが、つねに数ヵ月の技術的遅れを、取り返すことができなかった。
　この年、一九四三年のはじめ、フランス近海でおこった一連の事件は、明らかに、この事実を暗示していたのである。
　二月にはＵ519が「リベレーター」機に急襲され、沈没した。このときはＵポートのレーダー波逆探よりさきに、哨戒機はＵポートを捕捉していた。
　数週間後、Ｕ333が「ウェリントン」爆撃機に攻撃されたときは、Ｕポートが逆探に成功して、たくみに反撃、爆撃機を撃墜した。
　これらの事実から、潜水艦隊司令部では、英軍哨戒機がなにか新しい探知装置を一部の機に使用しているらしい、と考えた。
　まさにその通りで、英軍は波長一〇センチの新型遠距離レーダーの製作に成功し、一部の実戦部隊に装備し始めていた。
　デーニッツ提督は三月三日、全Ｕボートにたいし、レーダー波をキャッチしたら急速潜行し、三〇分間は浮上してはならぬと命令した。
　この応急措置は、Ｕポートを水中に閉じ込める時間がふえ、戦関節で連合軍を有利にしたばかりでなく、損害をさけるという点でも、あまり効果はなかった。
　Ｕポートの戦果が、ひどく低下しだしたのは、三月からであった。そして四月をすぎ五月となると、Ｕポートの損害が、めだってふえてきた。
　Ｕボートだけでなく、Ｕタンカー“乳牛”も航空攻撃で撃沈された。

5 Ｕボートに四連装機関砲 top

　これらの打撃は、デーニッツ提督には、ひどくこたえた。
　緊急退避潜航が敵の新型レーダーにはあまり効果のないことと、さきに海面にとどまり反撃して爆撃機を返り討ちにしたＵ333のことを考え合せて、デーニッツは以前の潜航命令を取消し、全Ｕボートに、あくまでも海面で反撃し、敵機を撃ちまくれと指令した。
　これと同時に、一部のＵボートに対空火器の増強を試みた。
　英軍沿岸航空兵団に、フランス近海でＵボートを攻撃することは危険である、と思い知らせてやるためであった。
　この“飛行機のワナ”の第一艦、Ｕ441は四連装の二〇ミリ機関砲二基、三七ミリ機関砲一門を装備し、五月二十二日、プレストを出港した。
　そして出港二日後「サンダーランド」飛行艇と交戦、これを撃墜したが、自らも損傷して帰投した。
　六月には対空用に改装したＵ758が空母機と交戦、数機を撃墜した。
　これらの成功にもとづき、他のＵポートにも対空火器が増備され、さらに対空砲火を有効にするため二隻以上で航行するよう指令された。
　しかし、こうなるとＵポートは潜水艦としての特性を自ら捨てたことになり、性能のよくない水上艦艇と代るところがなくなってしまう。
　やがて六月ともなると、英軍航空部隊も対策をうちだし、Ｕポートの海上｀反撃戦法も効果を失ってきた。
　Ｕボートを発見した哨戒機は、対空火器の射程外を旋回して水上艦艇をよびよせ、その到着をまって集中攻撃をくわえるようになった。
　Ｕポートの損害は増加しＪ海上で撃ちまくる”戦法は不成功に終った。
　Ｕポートは、また海にもぐった。
　これは、Ｕボートが大西洋から追われるだけでなく、彼らの基地近くの海域でも、全面的な防御態勢に追いこまれたことを明示したものであった。

6 連合軍のＵボート狩り top

　Ｕボートが大西洋に出撃する回数が少なくなるにつれて、いくつかの潜水艦狩りの艦艇群がビスケー湾の外側まではいりこんできて、レーダーを装備した飛行機と密接に協同してＵボート狩りを始めた。
　Ｕボートが充電のため夜間浮上すると、飛行機の遠距離レーダーに捕えられ、ついで水上艦艇が攻撃にやってきた。
　イギリスではこのように海空軍間の協同が緊密で有効であったのに、デーニッツには援助してくれる飛行機も少なく、Ｕポート部隊に所属している水上艦艇もなかったことは、大きなハンディキャップであった。
　七月には、連合軍のＵポート狩りは最高潮となり、Ｕポートにとって一九四三年七月は“最悪の月”となった。
　英海軍の哨戒機は、爆雷、ロケット弾、音響魚雷などを使って、毎日のようにＵボートを撃沈した。
　七月二日から九日までに、合計七隻のＵポートが、航空攻撃によって撃沈された。
　これらのＵポート狩りに参加したのは、イギリスの海空軍の護衛兵力だけではなかった。
　七月には二隻の米空母　「コア」と「サンテー」が、三隻ずつの護衛駆逐艦をともなってアゾレス諸島沖に姿をみせ、この海域を哨戒していた英空母「ポグー」と合流した。
　七月十三日から十六日にかけて、空母の飛行機は四隻のＵポートを撃沈した。
　二十三日には「サンテー」の飛行機がさらに三隻を撃沈した。
　また同日、英軍機は“乳牛”二隻とＵボート一隻が航行しているのを偶然に発見した。
　英軍はこのＵポート群に大量の空海護衛兵力を投入した。これは英軍がＵポートとの戦闘で優位にあることを確認させようと決意するとともに、この戦闘にいまや大量の兵力を使用できることを誇示したものであった。
　六機をくだらない飛行機と、ウォーカー大佐の指揮する第二護衛隊は、三隻のＵボートにおそいかかった。
　Ｕポートは貧弱な武装ながら、飛行機にある程度の反撃を試みた。しかし、三隻とも破壊された。
　八月一日には「サンダーランド」飛行艇がＵ454を撃沈したが「サンダーランド」も海中に突入した。
　その日おそく他の「サンダーランド」がＵ383を沈め、翌二日にはＵ706とＵ106が沈んでいった。
　このゾッとするような損害にもかかわらず、デーニッツは、かわりの手をうてなかった。
　彼はビスケー湾外を航行中の六隻のＵボートを呼び戻し、また全Ｕポート群の出撃を当分中止することにした。
　八月二日のこの決定は、ビスケー湾を通って外洋に出ようとした八六隻のＵボートのうち、一九隻が失われたあとに、だされたのであった。

7 新科学技術で反撃 top

　連合国は制海権の争奪戦で、いまや明らかに、そして急速に優位に立ちつつあった。
　デーニッツはこの連合国の優位への恒久的な対抗策として、ドイツで実行可能な科学技術分野での開発による反撃策を、すでに一九四三年夏の終りごろ、ジックリ考えていた。
　七月三十日、彼はヒトラーに、目下進行中の憂慮すべき戦いの様相を説明した。
　そして現在作戦に使用され始めているドイツが開発した数種類の科学発明が、将来Ｕボート部隊を回生させるかもしれないと説明した。
　重要な技術的進歩が、当時のＵボート活動の各分野において、さしせまった重要な問題だった。
　それはＵボートの水中速力、攻撃効果、そして、いちばん大切なのは、護衛兵力のレーダー探知装置のウラをかく能力などであった。
　一九四三年の夏におけるもっとも重要なことは、敵のレーダーにたいする警報だと考えられていた。
　そこで海軍総司令部科学部が、クエプフミュラー教授を長として発足し、この問題に取り組むことになった。
　新型の英軍のレーダーが使用され始めたころ、デーニッツの科学顧問たちは、イギリスが一五〇センチ波長のレーダー装置と根本的にちがったレーダーをもっていることに、大きな疑問をいだいていた。
　一五〇センチ波長のレーダーには、Ｕポートの逆電波探知機は完全な反応をしめしていた。
　一〇センチ波長の新型レーダーは、それがすでにイギリスで開発されているとわかったとき、技術者たちを当惑させた。
　ドイツの科学者たちも一〇センチ波長のレーダーを開発することになり、受信装置を完成して、新しい周波数の波を捕えようとしていた。
　これらの装置は、一九四四年には使用できるようになったが、この技術戦争の分野における相互の開きは、ますます拡がっていった。
　またドイツの科学者たちは、ソナー〔対潜探知機〕対策にもっと積極的な態度を示した。
　そして化学的に気泡をつくる装置を発明した。
　潜航中のＵポートからカプセルにいれておとすと“ボールド”〔図々しいの意］とよばれるこの装置は大量のアワをつくって、艦体と同様に、ソナーの電波を反射するので、有効なオトリになることが立証された。

8 音響誘導魚雷 top

　攻撃兵器では、音響誘導魚雷が使用されるようになって、Ｕポートの商船撃沈の効率が一段と向上するものと希望し、また期待されていた。
　この音響魚雷は、敵艦のエンジン音を聞いて、その音のする方に向うものであった。
　この音響魚雷計画は繰上げられ、一九四三年の八月後半に、始めてＵポートがこの魚雷を受領することになった。
　当時は生産量はまだ少なかったので、各艦に四本の新しい“ツァウンケーニヒ”〔ミソサザイの意〕音響魚雷が供給されただけだった。

Ｕボート21C型 ワルター型と在来型の折衷の新型Ｕボートで、シュノーケル装置を備え、これによって潜行中もディーゼル機関を使用して水中高速をだすことができた。魚雷発射管は艦首に6基、司令塔前部に12基（各舷6基）をもち、後者は中心線から10度外方、後方にむけて発射するようになっていた。 排水量：水上1,621トン、水中1,819トン、全長:75.5メートノし、全幅:7.1メートル　全高:6.6メートル 機関:5,000馬力２軸ディーゼノし機関、226馬力電動機、最大速力：水上15.5ノット、水中16ノット（時速約29キロ） 燃料搭載量:250トン、航続距離：水上20,000キロ、水中515キロ、武装:30ミリ対空機関砲４（2連装2基）、64センチ魚雷発射管18、乗組員:57

9 新型Ｕボート二一型と二三型 top

　連合国がレーダーを装備した護衛兵力を増強したことは、逆に水中でも、高速がだせる機動能力の高い潜水艦の必要性をたかめた。
　しかし過酸化水素を燃料とするワルター式Ｕボートは試作の最中であった。
　このような根本的に革新的なＵボートは、開発と実験に手間どり、量産して多数の艦で作戦できるようになるのは、一九四五年以前は無理だった。
　デーニッツ提督は、折衷案として、ワルター・ボートの流線型艦体と、在来型の電動機の水中動力を使用した推進方式を結合して、新型のＵボートを建造することにした。
　このＵボー九二型は、排水量一六〇〇トン、水上速力一五・五ノット〔時速約二八・七キロ〕、水中速力一○ノットで、水中航続距離二〇〇キロであった。
　もっとも重要なことは、潜航中一七・五ノットの高速で約一時間、戦闘できることであった。
　これは在来型の水中最高速力毎時五〜六ノットとくらべると隔世の感があった。
　もう一つの新型Ｕボート二三型は、二三二トンの小型潜水艦で、水中速力一二・五ノット。
　この型は沿岸作戦用として設計されたものであった。
　これらの新型潜水艦の建造は、ヒトラーから二一型二二隻、二三型一〇隻の月産に優先権をあたえられ、一九四三年末に建造が開始された。
　八個の分割船殼をつくり、各部分が完成してから組立てられる方式であった。

10 シュノーケル装置 top

　デーニッツ海軍総司令官とヒトラー総統との間柄は前任者のレーダーより親密で、これはＵポート部隊にとっては、都合がよかった。
　その後“シュノーケル”〔艦内のエンジンの吸排気用の二本の管を水面上にだすための構造物〕問題がおこった。
　一九四二年十一月に、技術会議がパリでひらかれた。
　その席でワルター教授は、潜水艦に換気装置をとりつければ、潜航したままで空気を吸入して乗組員とディーゼル機関に補給し、排気ガスを排出できることを示唆した。
　こうすれば在来型のエンジンでも潜航して高速がだせるばかりでなく、司令塔を水上にださないので、敵は長距離レーダー探知が全くできなくなるのである。
　一九四〇年、ドイツはオランダに侵入したとき“シュノーケル”をつけたオランダの潜水艦を発見していたが、ドイツの科学者たちは、この装置の有効性に、ほとんど関心をはらわなかった。
　ようやく一九四三年の初夏になって、この考えを実現することが絶対に必要となった。
　七月に実験に着手したが、その成績はよく、成功する見込みは多分にあった。

11 デーニッツの苦悩 top 　技術の進歩がＵボート戦の様相をかえることになったが、将来を考えると、デーニッツも幕僚たちも心は暗く、重かった。 　デーニッツはいろいろな出来事によって、一度だけ自信を失い、Ｕボートを全く戦場から引揚げるべきかどうかの問題に真剣にとりくんで、魂をしめつけられるような時を過ごしたのである。 　この戦争で潜水艦兵力こそ、連合国にたいし、勝利を確実におさめうる決定的な兵器である、と考えていた提督にとっては、意気消沈の期間であった。 　この提督は、ついしばらくまえまでは、自分の希望が達成される日も真近だと考えていたのであった。 　ところがいまや、すべての条件は、Ｕボートを防御の態勢に追い込んでいた。 　敵の護衛兵力の数、その練炭と技術、航空護衛力の増加、そしてこれはけっして小さな出来事ではないが、英軍は、五月に突然暗号を変更し、それを「Ｂ」機関はいまだに解読できなかったこと、こうしたあらゆる要因が、彼の心を悩ませていたのであった。
	(上と右）潜水作業：潜水中のＵボートの艦外作業も乗組員の仕事の一つ

　これはＵボートがバラバラで行動すれば、敵も強力な護衛兵力をさしむけないだろうとの考えからであった。
　しかし、この考えは間違っていた。
　Ｕボートが到着しただけで、そこの護衛部隊は攻勢を強化して、すぐにＵポートを追い出したのである。
　アフリカ西岸沖でも、同様な事態がおこった。Ｕポートは単独で行動していたが、北航する船団への攻撃がはじまると護衛部隊が集ってきた。
　護衛兵力の防御はきわめてたくみで、一隻の商船が沈んだだけであった。

13 インド洋では大戦果 top

　しかし、はるか南方の喜望峰沖ではかなりの成果をあげた。単独航行の商船数隻を撃沈した。
　この海域で行動中の七隻のＵボートはもう一度インド洋に進出して、マダガスカル島でＵタンカーから給油をうけた。
　彼らは六月に一〇隻を撃沈し、七月には一七隻、九万七二一四トン撃沈の立派な戦果をあげた。
　六月九日には、手元にあるたくさんのＵボートのかかから九隻と、Ｕタンカ一二隻とを当初の七隻への増援兵力としてインド洋に送り込んだ。
　ビスケー湾を通過する危険をさけるために、ドイツの港から北まわり航路をとって、スコットランドの北からアイスランド島とシェトランド島とのあいだを通り抜けた。
　この海域でＵ200が沈められ、その後の南下航程で、残りのＵボートは、アメリカ空母機と英本土基地飛行機にさんざんな目にあわされた。
　かろうじて五隻が喜望峰沖に辿り着き、インド洋に侵入した。

14 インド洋で日独が協力 top

　マダガスカル島の南方で給油をうけてから、アラビア海とインド洋とに分散して、同方面で行動中の日本潜水艦とともに作戦を開始した。
　その間に、まえからいたＵボートは帰国の長い旅路についた。
　その年の終りに、インド洋のＵボートは、日本軍からわずかな援助をうけただけで五七隻、三三万七一六九トンの商船を沈めた。
　これはもっぱらペルシア湾入口と紅海での撃沈であった。
　この海域は、強力な護衛兵力もなしに単独で航行してきた各商船が地理的条件によって、やむをえず集って航行せねばならないところであった。
　Ｕポートは同時に七隻以上行動していなかったにもかかわらず、前記の戦果をあげたことは、デーニッツを大いに喜ばせた。
　一方、大西洋を通る航程は、Ｕボートにとって日一日と危険になっていった。
　インド洋にむけておくられた増援部隊は、喜望峰に到着する以前に沈められることが多くなった。