Ｕボート魂！　221隻が自沈

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17 Ｕボート魂！　221隻が自沈

4 五月四日ついに戦闘中止命令
5 二二一隻が自沈
6 あと一歩まで追いつめたが

　一九四五年一月には、二三型の最初の一艦がノルウェー基地をでて、シェトランド諸島の北方を迂回し、ほかの一九隻のＵポートとともに英本土沿岸の作戦任務についた。
　これで、この方面での作戦兵力は三九隻に達した。
　Ｕポートが作戦海面での往復に航空攻撃にあわないのは、シュノーケルを装備したためであることがわかった。
　これはデーニッツを大いに喜ばせた。一月には、一隻も航行の途中で沈まなかった。
　Ｕボートはほとんど全航程を潜航して航行したので、司令部との交信は不可能であった。
　このためイギリスの潜水艦追跡室は情報を入手できず、Ｕポートが攻撃を始めてから、護衛兵力が捜索を開始する始末だった。
　Ｕ1055は一九四五年、初の獲物をあげた。
　一月九日にアイリッシュ海〔アイルランドとイングランド間の海域〕で一隻を沈めたのである。
　それから二日以内にさらに二隻の船を沈めた。
　十五日、Ｕ482がスコットランド東岸沖で魚雷攻撃で商船一隻を沈め、護衛空母「セイン」に損傷をあたえた。
　しかし、そのあと護衛艦の数時間にわたる追跡をうけて、ついに沈没した。
　Ｕ1172も五時間におよぷ追跡をうけて沈没したが、この艦はフリゲート艦に損傷をあたえていた。
　二十七日にＵ1051は沈没し、Ｕ825はマン島沖で船団攻撃のあとに損傷をうけた。
　この戦闘では、Ｕ1199とＵ650、それにＵ1020が沈没した。
　一月はそれで終ったが、勝負は五分五分でＵポートは六隻、連合国艦船七隻がそれぞれ沈没した。

1 英国周辺に新型艦配備 top

　デーニッツは一月末に新型艦がそろうまでに、旧型艦にシュノーケルを装備さえすれば、新しい可能性も生まれると確信した。
　さらにイギリス周辺の作戦を強化するため、二月中に就役する新型艦すべてをつぎこんだ。
　この新しい作戦は、ついにＵポートがかつて発展させた二つの機能を回復させることができるかにみえた。
　その一つは敵船舶の大量撃沈で、ヨーロッパで戦うドイツ陸軍に大きな貢献をするにちがいないこと、もう一つは、敵の護衛兵力を各国の沿岸にクギづけにし、戦場のドイツ陸軍に補給物資や兵力の増強をドイツが海上から継続して行うのを、敵に攻撃する余裕をあたえないことであった。
　二月には四一隻のＵボートが勇躍、北方基地を出港し、イギリス海峡方面に向った。
　だが戦果は期待はずれであった。
　やっと護衛艦二隻をふくむ七隻を海峡方面で、三隻をアイリッシュ海で沈めただけだった。
　これに西方近接路の外側での戦果をくわえても、二月の撃沈合計は商船一一隻、護衛艦三隻にすぎず、Ｕポートの損害は一二隻であった。
　三月の成績はさらに悪かった。
　三七隻のＵポートがノルウェー基地を出港して戦闘に参加した。
　これで三月中に沿岸作戦に参加した隻敷は五三隻に達した。
　ところが海空護衛兵力にくわえて、英海軍が敷設した深い深度の機雷原で、一五隻のＵポートが失われ、逆にＵポートの戦果は商船一〇隻、護衛艦三隻にすぎなかった。

Ｕボート艦上の捕獲隊員：米海軍の水兵が捕獲したＵ505を4600キロもはなれたバミューダ島に曳航する準備をしている

2 英の新兵器「スキッド」 top

　またもやドイツ潜水艦隊は、新装備による戦闘の新局面で、敵の新方策を計算にいれていなかったことをさらけだしてしまった。
　連合軍は、ドイツ軍が予想もしなかった新兵器を使用するようになっていたのである。
　その一つは「スキッド」で、この爆雷発射機は前述の「ヘッジホッグ」の欠点をおぎなう対潜兵器として使用され始めていた。
　「ヘッジホッグ」が潜水艦にふれて爆発する触発爆雷を二四個同時に発射するのにたいし、これは潜水艦の近くに沈むと爆発する強力な爆雷三個を同時に発射する兵器である。
　これにより、Ｕボートは撃沈を免れても損傷する率が増えたのである。
　また三センチの波長で、シュノーケルも探知できる新型レーダーが完成していた。
　これは敏感すぎて、流れているゴミまで捕捉してしまう欠点があったが、ひとたび目標を捕捉すれば新型の低高度爆撃照準器とあいまって、おそるべき航空攻撃を可能にした。
　しかし、すばらしい対潜兵器のなかで、もっとも興味あるものは、米軍の開発した「ソノ・ブイ」〔無線浮標〕であった。
　これは水中聴音機と無線発信機を組合わせたもので、このブイを海面に浮かせておくと、潜水艦の推進機音をキャッチし、自動的にその位置を発信する。
　この電波を捕えた飛行機が攻撃に向うという仕組みになっていた。

建艦の最終工程：ブレーメン造船所でつなぎあわされ、進水をまつばかりの新型Ｕボート

3 新型艦で戦力増強さる top

　四月もあいかわらず戦闘が続いて、Ｕボートは一五隻沈没し、商船一〇隻と軍艦三隻とを沈めた。
　この損害はＵポート部隊にとって悲しいことであったが、新型艦が次々に就役していたのが、せめてものなぐさめであった。
　四月には四四隻がノルウエー基地から出撃した。そのなかには新型艦の最初の型式である二一型も含まれていた。
　就役する隻数は、沈没する隻数を上まわっていた。Ｕポートの総兵力は隻数の増加だけではなく、新型艦の比率が増加していくので、だんだん強力になりつつあった。
　新型船はただ水中で高速の攻撃速力をだせるだけでなく、五ノット半〔時速約一〇キロ〕でほとんど音をたてずに、長時間航行ができた。
　航続距離も南大西洋に進出して帰途につくまで、約一ヵ月間の作戦行動ができた。
　新しい設計の複雑で微妙な機器によって、五〇メートルもの深度から“無照準”で魚雷を発射することもできた。
　新型船の建造計画の実施は、連合軍の爆撃でドルトムントやエムスやミッテラントなどの運河が閉鎖された前年〔一九四四年〕十一月には困難をきわめたが、一九四五年の五月までに大いに好転した。
　一二隻の二一型が就役まちで、一隻はすでに就役していた。
　そのほかに九一隻が海上にでて、乗組員訓練や試験運転中だった。
　しかし、そのときすでに、先はみえていた。陸上作戦でドイツ陸軍は、取返しのつかない敗北をきっしたのである。

大量生産：終戦の時、プレーメン造船所では
17隻のＵボートが建造中だった。
艦体をいくつかに分けて建造し、組合せて進水させる方法がとられていた

4 五月四日ついに戦闘中止命令 top

　五月四日午後三時十四分、デーニッツはすべてのＵボート艦長に、戦闘中止命令をだした。
　連合軍にとって陸上戦での勝利は、よい潮どきであった。
　何ヵ月も先にのびれば、新しい型の艦で固められたＵボート部隊が、圧倒的な優位をとるようになるからであった。
　いかに新型Ｕポートが有効であったかは、シュネー少佐が実証している。
　彼は二一型のＵ2511の艦長として、大きな電他力による高い水中速力によって、敵の攻撃から、いかにうまく逃れうるかを、降伏前に発見していた。
　シュネーは北海で対潜掃討部隊に出合った。しかしわずか三〇度ほどの変針で簡単に潜航のまま逃げ、しばらくしてソナー〔対潜探知機〕の発射音からも離脱できた。
　二一型Ｕボートは、護衛艦艇が水上でだすような高速を、水中でもだせたのであった。
　戦闘停止命令を受取った直後――命令にただちに服従したわずか八人の艦長の一人がシュネーであった――彼は北海からベルゲンにかえる途中、イギリスの一隻の巡洋艦と、数隻の駆逐艦とに出合った。
　そこで彼は潜航で模擬襲撃を試みた。彼は巡洋艦に五〇〇メートルぐらいまで接近したが、巡洋艦には全く気づかれていなかったことが、のちになってわかった。
　シュネーはこの新型艦が、攻撃でも防御でも、第一級の艦であり、潜水艦のりの誰も、まだ完全にこのことは知っていない、と推測した。

どこへいくＵボート：敗戦がきまるとドイツ海軍は多数のＵボートを海底に沈めると同時に、
ハンブルクでは空軍の爆弾32トンを退避所にしかけ、Ｕボートもろとも破壊した

5 二二一隻が自沈 top

　Ｕポート艦長の多くは、戦闘停止命令をこばんだ。
　英海軍は五月八日になってもまだＵボートに、浮上して艦位を報告し、指定の港に向うよう命令を放送していた。
　最初の降伏艦は五月九日にでた。
　それから二、三日して、ほかの艦長たちもこれにならった。
　Ｕボートのあるものは、ドイツの港に向って潜航のまま帰っていった。またあるものは遠方の港に向った。
　二隻はアルゼンチンの港についた。合せて一五六隻が降伏した。
　しかし、Ｕボート艦長の大部分は、敵に艦をわたすことは戦闘員の名誉保持を規定した条項に違反するとして、自沈を考えていた。
　しかしデーニッツは、艦を自沈させる命令をだすのを拒んだ。
　その時ヒトラーはすでに自決していたが、ヒトラーの遺言に従って、デーニッツは国家元首の地位についていた。
　彼の目的はすみやかに秩序ある終戦をむかえることであり、できるかぎり、ドイツ人の生命を救うことであった。
　イギリスは、降伏後に兵器を破棄したり、軍艦を沈没させたりしてはならないと命令した。
　デーニッツはイギリスを信用して「全艦艇は自沈せよ」を意味する隠語通信“レーゲンボーゲン”〔にじ〕を発令しなかった。
　“レーゲンボーゲン”のささやきが電波にのって、ドイツ諸港に停泊中のＵポートに伝わったのは、全くＵポート艦長たちの意思からでたものであった。
　彼らは自分たちの司令官は、圧迫や脅迫もうけずに、ドイツ艦隊を敵側に引き渡すようなことはしないと信じていたのである。
　乗組員は大挙して艦を浮上させた。
　たちまち北海やバルト海の各所で爆発音がこだました。
　三一一隻のＵボートが自沈した。

6 あと一歩まで追いつめたが top

　ドイツが連合国を屈服させるために、連合国の生命線である海上交通路を切断しようとする、執拗な試みは、成功することなく、ここに終りを告げた。
　ときには、もう少しで目的を達成しそうなところまでいったこともあった。
　最初のころの“大西洋の戦い”では、月一〇〇万トンの四分の三の船舶を撃沈したが、これは連合国の建造船腹量に匹敵するものであった。
　そのうえ貴重な燃料、兵器、機械類などを海底に送り込んだ。
　戦争のなりゆきは、ドイツの勝利へと確実に進んでいるかに思われた。
　そのとき連合軍の護衛兵力の質と量が増加し、また技術がドイツをしのいできた。
　一方ドイツは、Ｕポートの建造計画に十分な信頼と資源をあたえるのをしぶった。
　このため戦況は連合軍の有利に傾いた。
　最後になって新型Ｕボートが就役し始めたとき、振り子はもう一度揺れ動こうとした。
　連合国の活動的な空海護衛兵力をもってしても、英本土ギリギリの海岸からＵポートを追っぱらうことはできなかった。
　しかし新型艦の戦果は、とるにたらないものに終った。
　戦争の最後の年の船舶撃沈量は、月一〇万トンにも達せず、平均すれば、月五万トンを少し越えるくらいのものであった。

1945年の正月、デーニッツとヒトラーは新年のあいさつをかわした。ヒトラーの遺言によってデーニッツは、ヒトラーなきあとのドイツ政府の首班となった

ノルウェーのＵボート基地：
トロンヘイムの退避所で損害もなく生残ったＵボート

英空軍の5トン爆弾は退避所に命中した。
がんじょうな屋根を貫通して二隻のＵボートを破壊した

7 チャーチルも新型艦に脅威 top

　しかし、もし終戦が遅れたなら、新型Ｕポートが主力をしめる時代となり、そのうえ過酸化水素を動力にしたワルター式Ｕボートが就役するようになるまでの、わずか六ヵ月か一年ぐらいの時間がドイツ軍に残されていたなら、歴史は大きく変っていたかもしれない。
　確かに連合軍は、このことで悩んでいた。
　チャーチルもＵボートの脅威についてのべているが、その最後につぎのように書いている。

　「シュノーケルを装備したＵポートが、就役し始めた。
　これは導管を通して、空気を出し入れしながら潜航のままで電池を充電する。
　デーニッツが計画したＵポート作戦の、新しい型式である。
　彼は新型艦の出現を計算にいれている。
　その艦は目下大量に建造中であり、第一艦は試運転をしている。
　ドイツの真の成功は、この艦がはやく大量に就役することにかかっている。
　この艦の水中速力がすぐれていることは、我々を脅かすものであり、デーニッツが予言しているように、潜水艦に革命をもたらすものであろう」

8 Ｕボートの偉大な戦果 top

　この革命が実をむすぶまえに、ドイツのＵポートは二六〇三隻の商船を沈めた。
　それは約一三五〇万トンを越えるものであった。
　また一七五隻の海軍艦艇を撃沈したと公表している。
　しかし、彼らの損害も大きかった。
　ドイツは一一六二隻のＵボートを建造し、そのうち七八四隻がいろいろな原因で失われた。
　戦争期間中にＵポート部隊に編入された人員は、四万九〇〇人をくだらなかった。
　そのうち二万八〇〇〇人が生命を失った。
　また五〇〇〇人が捕虜となった。
　しかし連合国は、もっとひどい殺りくにあったのだ。イギリス船員だけでも三万人以上の犠牲者をだした。
　他国の商船乗組員の損害を合計すれば、その数は膨大なものになるであろう。
　英海軍の戦時中の全犠牲者は男女合せて七万人に達したが、大部分はＵポートとの戦いでの犠牲者であった。
　最後に一言いえば、海上交通路の制覇をあらそう戦いで、ドイツがいかに多大の努力をはらったか、それは、人間の生命がどれだけ多く失われたかを調べれば、すぐわかるであろう。

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