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6 三人の“撃沈王”をうしなう
Ｕボートが連合国輸送船に猛威をふるった“黄金期”もついに終りをつげた。
一九四〇年〔昭和十五年〕十一月以後の各月は、Ｕポートは修理、整備が必要となり、出動するＵボートの隻数は激減した。それは船舶の撃沈数にもひびいた。
十一月の撃沈数、三二隻、一四万七〇〇〇トンという数字は、この事情を端的に示している。
そのうえ、ほかにもいくつかの要因が重なって、作戦できるわずかなＵポートが、さらに減少した。
この要因のうち、最もハッキリしていたのは、秋になって天候が悪くなったことだった。
この年は、とりわけひどいハリケーンが、次々とやってきた。
天気が悪くなると小さなＵボートは、波がしらの上で空き樽のようにほんろうされた。
波がしらは司令塔のうえまで押し寄せ、艦橋当直の士官や水兵は、身体を艦体にしばりつけないと、波にさらわれる危険があった。
波とシブキで見張りが困難になり、船団発見の回数も、ますます少なくなった。
1 英艦艇が船団護衛強化 top
そのうえ一九四〇年の終りには、ドイツ軍が英本土に上陸するきざしも薄らいだので、いままでドイツ上陸軍を阻止するための配備についていた多数の艦艇が、大西洋の船団護衛強化にまわされた。
こんなわけでＵボートは、護衛のすくない船団をもとめて、遠方の海洋に移動せざるをえなくなった。
作戦する海域がひろがると、船団の発見率はさらに低下した。
十二月は一回だけという状態であった。このときには“夜間の水上攻撃”にきりかえたシュルツェ、クレチュメルら四人の艦長は、雷撃によって一〇隻の商船と、仮装巡洋艦「フォーファー」を撃沈した。
また、この月には、単独で航行中の船舶を発見できたので、十二月のＵポートの戦果を三七隻、二一万三〇〇〇トンにすることができた。
イギリスの護衛兵力は、アメリカから旧式駆逐艦五〇隻を取得して増強された。
この駆逐艦は、西インド諸島と英領ギアナの航空基地を、アメリカが使用する条件で、イギリスにおくられたものである。
そのうえイギリスでは、海軍と空軍が、かなり進んだ協同作戦を実施して、船団は航空援護をうけられるようになった。
とくに空軍の沿岸航空兵団の「サンダーランド」飛行艇の援助は、Ｕボートの大きな脅威となった。
飛行機が長時間Ｕボートを潜航させたままにすれば、船団は航路を変更し、触援は失われてしまう。
十二月四日、英空軍沿岸航空兵団は海軍の指揮系統に編入された。
この結果、船団への空からの援護は、一九四一年の初めには、大巻く改善強化された。 |
爆雷攻撃：潜航中のＵボートを攻撃する駆逐艦
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これとは反対にデーニッツ提督は、ドイツ空軍との協同作戦について、散々苦労させられていた。
海軍総司令官レーダー元帥は、開戦前から空軍総司令官ゲーリング元帥と論争を続けてきた。
それはドイツ空軍から独立した海軍航空隊の問題であったが、レーダー提督はゲーリングを説得できなかった。
しかし、いまや戦争は現実のものとなった。
Ｕボートは、もともと水面上では艦体が低く、いちばん高い司令塔から望遠鏡をつかつて見張りをしたところで、見える距離はしれたものである。
飛行機で広い海面を捜索し、Ｕボートの集団を敵船団に誘導する、これができなければ、Ｕボートは船団が偶然に網にかかるのを待つよりほかに、方法はなかった。 |
デーニッツ提督から鉄十字章を
授与されるＵボート乗組員
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一九四〇年十二月、デーニッツは海軍総司令部に覚書きを送り、潜水艦隊司令部が運用できる特別航空偵察兵力を編成する必要性を、熱心に主張した。
さらにデーニッツ自身、翌一九四一年一月二日、ベルリンにいき、レーダー元帥に覚書きについて重ねて説明した。
レーダーもデーニッツと同意見だったので、翌日、国防軍最高司令部の作戦部長ヨードル将軍に、デーニッツを引き合わせた。
ヨードルもデーニッツの提案にふかい関心をしめし、文書をヒトラーに送った。
2 Ｕボート部隊にやっと航空機配備 top
一月七日、ヒトラーは、ボルドーに駐留していたドイツ空軍の「コンドル」長距離爆撃機の一隊を、ゲーリングの指揮下からはずし、潜水艦隊司令部の指部下にいれた。
この一連の交渉は、おりから休暇をとって狩猟にでていたゲーリングぬきで行われた。
あとでこれを知ったゲーリングはたちまち一悶着おこした。
二月七日、ゲーリングは司令部にしている専用列車で、フランスのデーニッツの司令部の近くまでやってきて、列車にデーニッツを招待した。
当然、ゲーリングは爆撃機隊転属の取り消しについて切りだしたが、デーニッツはこれをていよく断った。
また食事の招待も辞退し、きわめて冷たい雰囲気のうちに二人は別れた。
こうして、十分とはいえなかったが、潜水艦隊直属の航空兵力を手にいれたデーニッツは、すぐにでもこれらの「コンドル」機が船団発見に活躍することを望んだが、それは少々無理な注文だった。
ドイツ空軍で最も航続力の大きい「コンドル」機でも、Ｕポートに協力して大西洋を索敵するには、行動半径が小さすぎたのである。 |
Ｕボートの航空攻撃：英空母爆撃機「ホイットレー」から投下される爆雷
協同作戦：デーニッツは、妥協性のないケチンボの空軍総司令官
ゲーリングから、一握りのフォッケウルフFw200「コンドル」を手に入れた
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そのうえパイロットたちは、海上任務は初めてで、計器による方位や距離の測定がデタラメで、役にたたなかった。
「コンドル」機の船団発見の報に、多数のＵボートが出撃しても、報告位置には船団の気配もないという有様であった。
3 Ｕボート捕捉する無線方位測定装置 top
技術の開発によって、いままで護衛艦より優位にたっていたＵボートの形勢も逆転させられた。
イギリスが開発した正確な無線方位測定装置は、Ｕボートの“狼群”戦術の効果を、大幅に減殺することになった。
この装置は、陸上と航行中の艦船に装備された受信機で、Ｕボートが発信する電波をとらえて測定し、Ｕボートの位置を正確に判定できた。
このため、Ｕボートが集ってくるかなり前から、護衛艦艇が出向いていってＵボートを攻撃し、潜航させ、撃沈はできないまでも、その行動を封じたのである。
イギリス軍は、このようにＵボートの発信電波をとらえてフルに活用し、また他の情報と併用して、デーニッツの「情報室」に対抗する「潜水艦探知室」をロンドンの海軍省に設置した。
そこでは、どんなにわずかな情報のキレハシでも集めて図表に記入し、いつも最新のＵボート情報を収集していた。
この情報により、船団が危険区域に進入する恐れがあれば、Ｕボートの努力を嘲笑するかのように、ただちに船団航路を変更した。
この重要な電波探知装置の分野における、英独両国の実績を比較するだけでも、意気ごみの相違がわかる。
これらの電波兵器の開発は、第二次大戦に大きな影響力をもっていたことは、明らかである。
一九四一年一月、イギリス軍は従来のものよりも小型で、操作の簡単なレーダーを採用し、これを海軍の護衛艦艇、沿岸航空兵団の飛行機の一部に装備した。
これで飛行機は夜間でもＵポートにたいする哨戒、攻撃が可能となり、護衛艦艇も、ソナーで探知できない、浮上中のＵボートを捕捉できるようになった。
4 脅威！ 英のレーダー top
英軍は電波兵器の開発に、このような努力を重ねていたが、ドイツ軍はこの分野では、全く取残されれていた。
ドイツでは、一九三五年〔昭和十年〕、すでに波長五〇センチ〔極超短波〕のレーダーが開発されていたが、ドイツの科学者たちは、レーダーの将来性については疑問視していた。
そのためレーダーの開発は、活発には行われなかったのである。
その間、英国のレーダー開発の速度はめざましく、一九四一年初めには、哨戒機の一部に新型レーダーを装備するまでになった。
これは、いわゆる“空のすきま”すなわち英国、米国の基地から発進する長距離哨戒機の行動圏外の大西洋の海面をカバーする過程の第一段階であった。
この“すきま”は、Ｕボートにとっては、またとない狩り場であったのだ。
同じような“すきま”が、大西洋の数ヵ所にあったが、長距離哨戒機の増加により、しだいに埋められていった。
それにともない、Ｕポートの活躍はしだいに制約されるようになり、一九四一年一月には二一隻、一二万七〇〇〇トン、二月には三七隻、三七万七〇〇〇トンと撃沈数は減少した。
Ｕボート部隊が、一九四一年の初めの数ヵ月に経験した難問題は、三月のわずか数日間に発生した、三つの事件に集中的に現れている。 |
“空のすきま”:連合軍の船団にたいする支援のための航空哨戒圈は、しだいに
大西洋の両側からひろがっていき、最後には“空のすきま”は完全にうめられた
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北大西洋のＵボート集団は、アイスランドの南方海面に急航することを命じられた。
三月六日、ブリーンのＵ47は、北西にむけ航行中の、ＯＢ二九三船団を発見した。
Ｕポート群は日没をまってこれを攻撃し、二隻撃沈、二隻撃破の戦果をあげた。
この夜、護衛駆逐艦の反撃は強烈であった。旧式艦ＵＡは爆雷攻撃により大破し、戦列から落後した。
Ｕ70も大損傷をうけ、マッツ艦長ら大部分の乗組員は降伏し、艦は沈没した。Ｕ99も撃退された。
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Ｕボートはどこにいる：船団中央よりの一隻は、いま魚雷をうけた。“海の狼”に見こまれた船団は、無傷で目的地につくことはない
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5 プリーン、シェプケ両艦長戦死 top
プリーンのＵ47は、一人残って船団との触接を保った。
三月七日午前四時二十四分、Ｕ47は司令部に船団の位置を通信した。
その直後、Ｕ47は英駆逐艦「ウルバリーン」の攻撃をうけた。
急速潜航中のＵ47は、爆雷により推進機を破壊された。
回転軸がキシり、致命的な騒音を出し始めた。
駆逐艦は、この音を水中聴音機でとらえ、Ｕ47の位置を正確に測定した。
新型爆雷が束〔たば〕になって投下され、油と破片が、水面にうかびあがった。
生存者はなかった。
ドイツ軍最高司令部は、スカパフロー軍港襲撃の英雄、ブリーン艦長の戦死を、五月まで発表しなかった。
プリーン艦長の撃沈記録は、二八隻、一六万トンであった。
この時点でプリーンに匹敵する記録は、Ｕ100のヨアヒム・シェプケの三九隻、一五万九一三〇トンと、Ｕ99のオットー・クレチュメルの四四隻、二六万六六二九トンであった。
クレチュメルとシェプケは集団行動中、高速船団ＨＸ一一二に触接した。
三月十六日の日没寸前、シェプケのＵ100は、三隻の駆逐艦に攻撃された。これで船団の護衛陣の一部がくずれたので、クレチュメルのＵ99は船団のなかにしのびこみ、五隻を撃沈した。
被災各船の狂気のような救難無電と燃えさかる炎は、駆逐艦を船団へ呼び戻すことになった。
Ｕ100は難をのがれ、船団に追いついた。
しかし午前三時、Ｕ100は再び爆雷攻撃をうけ、ついに浮上を余儀なくされた。
英駆逐艦の衝突により、Ｕ100は沈没し、艦橋にいたシェプケ艦長は戦死した。
三〇分後には、クレチュメルのＵ99も捕捉され、浮上して沈没した。クレチュメル艦長と大部分の乗組員は降伏した。
三人の勇敢なＵポート艦長を、一週間たらずで失ったことは、ドイツ海軍にとって悲痛な出来事であった。
またデーニッツ提督には、個人的にもつらい衝撃であった。
提督は、日ごろ部下の士官たちと親しく交わることをモットーとしていたからである。
彼らの死は、Ｕボートの“エース”という概念の終りを意味するとともに“狼群”作戦をさらに拡大し、これを基本戦術とすべきことを示唆していたのである。
“狼群”作戦は、英海軍の護衛技術の進歩に対抗して、威力を発揮していたので、将来のＵボート作戦の、唯一のよりどころとなるべきものであった。
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