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14 大西洋での作戦を断念

　一九四三年八月の終りに、デーニッツは、八月二日付けのいわゆるＵポート出撃禁止命令をゆるめた。
　三ヵ月間の休養をとった九隻のＵポートが、大西洋に戦いをもとめて出撃した。

1 新兵器装備し勇躍大西洋ヘ

　デーニッツは、Ｕボートの新しい装備に大きな希望をつないだ。
　それは改良された電波探知機、音響誘導魚雷、これまでの“飛行機のオトリ”のほかに、いまやすべてのＵボートが装備している強力な対空火器類などであった。
　九月初めに第一群に引続いて、一三隻の第二群がビスケー湾基地から、またほかの六隻はノルウェーとドイツの基地からそれぞれ出動した。
　電池を充電するとき以外は潜航を続け、フィニステール岬〔スペイン西端〕まではスペイン沿岸近くを航行した。
　一三隻の第二群のうちＵ669が連合軍の哨戒機に沈められ、九月の終りまでに、さらに一隻が沈められた。
　これとはべつにドイツの“湾内攻撃部隊”〔対空潜水艦部隊〕が出動して、連合軍飛行機一三機以上を撃墜した。

2 まず護衛艦たたけ top

　フランスの基地を出撃した二群のＵポートは、長いビスケー湾ごえをおえると、Ｕタンカーから給油をうけ、アメリカに向う低速船団をむかえうつ哨戒線の位置についた。
　Ｕポートの二群はまず護衛艦をたたいたあと、防衛兵力がなくなった船団を攻撃するように命令されていた。
　西航船団ONS18は二七隻で、商船改装空母も一隻含まれていた。
　なおこれには八隻の護衛艦艇がついて、九月十二日にイギリスを出港した。
　そのつぎは九月十五日出港のON202船団で、四〇隻の商船と六隻の精強な護衛艦がついていた。
　九月十六日には、一九隻のＵポートが南北の一線上に位置した。
　これはだいたい西経二五度線上付近であった。
　これで両軍の、新しい力をきそうための、舞台装置は完了した。
　Ｕボートが攻撃隊形をとるために必要な無電連絡は、英海軍省内のＵポート追跡室によって傍受され、九月十六日には支援護衛隊が派遣され、ONS18船団の護衛兵力を支援することになった。
　最初の触接は、九月十九日の明け方におこった。
　そのときには「リベレーター」機が船団上空で哨戒していて、Ｕ341は、まだ敵を発見しないまえに撃沈された。
　その夜、Ｕ270は最初に船団を発見した。そこで、この艦ともう一隻のＵポートが、予備的攻撃行動を開始した。
　これは護衛艦艇の力量を単にためすものであって、戦果はなかった。
　翌二十日の夜、本格的な攻撃が開始された。
　この夜、高速船団ON202が低速船団に追いついて、五、六キロ北方まで接近した。
　最初に被害をうけたのは高速船団ON202のほうであった。
　デーニッツの命令にしたがって、Ｕボートは最初に護衛艦艇を攻撃した。
　フリゲート艦「ラガン」は音響魚雷をうけて大損傷をうけ、ただちに基地に帰ることになった。
　それから二隻の商船が撃沈された。

3 英の飛行機役下の音響魚雷 top

　しかし二十日の朝はやく、「リベレーター」機がアイスランドから飛んできて、Ｕ338を撃沈した。皮肉にもこの撃沈は、飛行機が投下した音響魚雷によるものだった。
　敵の技術面での優勢にたいする対策ができあがった、とＵボート部隊が思っていたときに、連合国も同じ考えのものをこしらえていた。
　そのうえ連合国は一歩進んでいた。
　ドイツではこの型の魚雷を開発して、さらにこの魚雷攻撃を防ぐ対策を研究中だったが、すでにイギリスでは、うまい考えが見つかっていたのである。
　これはまことに簡単なものであった。
　音響発生装置を艦尾から曳航するもので、その音響が艦のエンジンより大きいので、音響魚雷がそれに向って進んでいき、爆発するのである。
　二十日は、三月におこったと同様のパターンの繰返しで、二つの船団がまじりあい、一体となって航行した。
　以前には合同の結果、商船の数が増加して、Ｕボートは目標の選定が容易となった。
　しかし、こんどは護衛兵力が倍増していたのである。
　その夜、Ｕポートは船団に三回攻撃をかけたが、大きな戦闘が船団の背後で、護衛兵力とＵポートのあいだにおこった。
　午後八時、一本の魚雷が駆逐艦「サンクロワ」の艦尾をふっとばし、一時間後に、さらに一本の魚雷をうけて同艦は沈没した。
　午後十時三十分、コルベット「ポリアンサス」も魚雷で沈没した。
　翌二十一日は濃い霧がかかり、Ｕポートの攻撃は一時中止のかっこうとなった。
　そこでＵボートは浮上し、船団の前方に進出して、つぎの攻撃にそなえた。
　この水上航走中にときおり霧がはれ、そのときには航空哨戒機が執拗うにやってきたが、新しく装備した対空装備で徹底的に撃ちまくり、飛行機に精密照準をする余裕をあたえなかった。
　夜のおとずれとともに、Ｕポートの攻撃は再開された。
　だが護衛艦艇の活躍で、Ｕポートは船団に近寄れなかった。
　Ｕ229は撃沈された。
　しかし駆逐艦「イチェン」は魚雷をうけて沈没した。

4 撃沈確認しにくい音響魚雷 top

　その後はＵポートの独壇場となった。
　Ｕボートは九月二十三日の午前二時二十分、駆逐艦の哨戒線を突破して船団にせまり、約四時間に商船四隻を撃沈したが、再び霧がかかってきた。
　それに航空哨戒がきわめて厳重となったので、デーニッツは戦闘打ちきりを命じた。
　彼は、まずまずの成功と考えた。
　Ｕポートの艦長たちは音響魚雷で駆逐艦一二隻を撃沈し、普通魚雷で船団中の九隻を沈めたと主張した。
　のちに明らかになったところでは、彼らの主張はいつもの戦果水ましの傾向にくわえて、今度は音響魚雷の登場でいっそう幻想的になったのであった。
　こうなるのは無理もない事情があった。音響魚雷を発射した場合、Ｕボートはすぐ潜航せねばならなかった。
　でないと魚雷は発射管をでてすぐ付近のもっとも大きな音、すなわち自艦のディーゼル機関に向って反転してくる悪いクセがある。
　そのためＵボートの艦長たちは魚雷の命中を視認することはできず、水中で魚雷が命中したときの爆発音を聞くのであるが、これはしばしば爆雷の炸裂音と区別がつかず、それを命中戦果として報告してしまうからであった。
　実際の戦果は、一九隻のＵボートで商船六隻、護衛艦三隻撃沈、護衛艦一隻撃破であった。

5 デーニッツの過ち top

　デーニッツは、間違った報告で気をよくし、また彼の悩みをズバリ解決してくれた音響魚雷を信頼して、残存のＵボートをもう一度哨戒機につかせて、船団を待ちぶせさせた。
　これは不幸をもたらした過ちであった。
　二つの船団はＵポートの哨戒機をさけるように航路をそらし、三番目の船団には強力な航空護衛がついていた。
　Ｕポートがまだ敵の船影を見ないまえに、飛行機はＵ279、Ｕ365、Ｕ389を撃沈した。
　四番目のSC143船団は十月八日にとおりがかった。
　これは三九隻の船団で、九隻の護衛艦がついていた。
　Ｕボート一八隻で攻撃した。
　Ｕポートは駆逐艦一隻を撃沈したが、その日遅く哨戒機の到着とともに、さらに三隻のＵポートが撃沈された。
　十月十五日までは敵を見なかったが、その日にON206船団に遭遇した。
　その結果はかんばしいものではなかった。
　その夜、護衛艦艇の活躍で、Ｕボートは潜航を余儀なくされ、戦果はあがらなかった。
　翌十六日の夜、Ｕボートが攻撃にうつるまえに「リベレーター」哨戒機がレーダー捜索でＵポート二隻を捕え撃沈した。
　十月十七日夜もＵボート一隻が撃沈された。
　二番目のONS20船団は第一船団の跡を通ってきた。
　Ｕポートはその船団の一隻を撃沈したが、Ｕボート二隻が失われた。
　デーニッツ司令官は、作戦の続行を決意した。
　Ｕポートと護送船団の”つばぜりあいこは、ますます激化した。
　この戦闘で、高速駆潜艇に乗込んだ英海軍のウォーカー大佐は、独創的な才能を発揮して、対潜攻撃を巧妙に指導した。
　ウォーカー大佐の戦法は、二艦のコンビでＵポートを攻撃するのであるが、縦列の二番艦がソナーでＵポートを捕捉し、一番艦を目標の真上に誘導するという方法である。
　二番艦は、攻撃する一番艦とＵボートの関係位置、速力を精密に計算し、一番艦に爆雷の集中攻撃をするキッカケを知らせるのである。
　この戦法は、単艦攻撃でおこるソナーの空白をなくすことができ、爆雷攻撃はきわめて正確になった。
　この“しのびより攻撃法”ほど正確ではないが、駆逐艦が単艦で作戦するときの戦法として、艦首から多数の爆雷を同時に海に発射して散布する方法が採用された。
　この爆雷発封鎖は　「ヘッジホッグ」〔ハリネズミ］として知られているが、二四個の爆雷を同時に発射できた。
　このような対潜攻撃法の進歩により一九四三年九月、十月の二ヵ月間に、少なくとも二五隻のＵボートが大西洋で撃沈された。
　この期間にＵボートがあげた戦果は商船九隻だけであった。

7 デーニッツ航空兵力を獲得 top

　デーニッツは、これに対抗して八隻の新型艦を戦線にだし、さらに空軍機の偵察の便宜をうけることになった。
　少数の飛行機をＵポート作戦に協同させる取決めができたのである。
　十月二十七日に「コンドル」機が六〇隻からなる船団の北上を報告し、対抗両兵力が一戦をまじえることになった。
　三十一日の明け方、哨戒線をつくって南下していたＵポート隊が最初に船団を発見して戦闘が開始された。
　最初にＵ306が、駆逐艦、コルベット各一隻の協同攻撃をうけて沈んだ。
　Ｕポート隊は一隻の商船に損害をあたえたが、そのときＵボートも一隻損傷した。
　潜水艦隊司令部では、連合軍の航空哨戒の密度から判断して、アゾレス諸島の新基地からも飛行機が参加しているものとみて、Ｕポートの攻撃を打ちきった。
　十一月七日に「コンドル」機は、北航中の一船団を発見した。Ｕボートは触接して商船一隻をしとめ、もう一隻に損傷をあたえた。Ｕボートの損害はなかった。
　十六日には、六六隻の船団を偵察機が発見して報告してきた。
　いまや航空偵察機をもつことがいかに必要かは、疑問の余地がなくなった。
　この船団にたいしてデーニッツは二六隻のＵボートを哨戒線につかせ、十八日午前十一時に両者は交戦状態にはいった。
　駆逐艦「エックス」はただちにＵ333に衝撃をくわえ、大損害をあたえて基地に引揚げさせた。
　Ｕボートは反撃に転じ、高速駆潜艇　「チャンティクリア」に音響魚雷を命中させて艦尾をふっとばし、これを戦列から落後させた。

8 圧倒的な護衛兵力 top

　英軍は、昼間は船団のあたり一面の海上を、護衛艦艇、「ハドソン」機、Ｂ17、「カタリナ」飛行艇で哨戒させた。
　また夜間になると「リー・ライト」探照灯を装備した「ウェリントン」機がとんできて、ウッカリ潜望鏡を水面にだしているＵボートにとびかかって照射した。
　Ｕ211が、この攻撃をうけ沈没した。
　十九日にはさらに九隻の艦艇が増援にかけつけた。
　これで護衛艦艇は一九隻となり、緊密な哨戒線を二重にはって船団をまもった。
　その夜、デーニッツは再び決死の攻撃命令をだした。
　しかし最初に戦果をあげたのは護衛艦のほうで、Ｕ536は爆雷攻撃をうけて海面に浮上させられ、集中砲火をあびて沈没した。
　翌二十日は空中戦となり、ドイツの哨戒機二機が撃墜された。Ｕ618は「サンダーランド」飛行艇一機を砲撃で撃墜した。
　この日は夜になっても、長い、激しい戦闘が続いた。
　Ｕ684は「リベレーター」一機を撃墜した。
　ある駆逐艦はＵ538をアスディックで捕え、六時間も追跡したあげく、爆雷攻撃で撃沈した。
　結局、この戦闘にはＵボート三一隻が参加し、輸送船一隻にさえ損害をあたえることができなかった。
　船団はわずか高速駆潜艇一隻が損傷をうけたほか、飛行機二機が撃墜されただけだった。
　Ｕボートのほうは三隻が沈没、一隻が損傷した。
　この敗北にもかかわらず、デーニッツ提督は、つぎの二船団に攻撃をかけた。
　一六隻のＵボートがこの作戦に参加し、十一月二十二日の夜から二十七日にかけて連続攻撃を敢行したが、優勢な海空の護衛兵力に阻止されて、戦果はあげられなかった。
　Ｕボートは五隻が撃沈された。
　デーニッツ提督は、ついに大西洋でのＵボート作戦を断念した。
　いまや西半球の全海域は、連合国の船団は安全に航行できるようになった。
　Ｕボートにとって苦しかった一年は静かに終りをむかえ、デーニッツ提督は、あらためて将来の戦略を考えることになった。