西郷隆盛と幕末維新

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西郷隆盛と幕末維新

（人物日本の歴史12　監修　芳賀　登　文　円谷真護　学習研究社　1984年刊））

1 この時代のあらまし
2 年表――主な出来事

一　開国と井伊直弼
二　外国との戦いと高杉晋作
三　薩長連合と坂本竜馬
四　江戸開城と勝海舟
五　西南戦争と西郷隆盛
付録　歴史図解コーナー

　薩摩藩の貧乏武士の家に生まれた西郷隆盛は、幕末維新の風雲児だ。
　殿さまの怒りにふれ、島流しにされながらも、新しい日本の夜明けを夢見る。
　坂本竜馬、高杉晋作、大久保利通、木戸孝允らの同志と力を合せた結果、ついに西郷の夢は実現し、明治新政府ができた。
　だが、日本の針路をめぐって同志たちの対立はしだいに深まる。
　西郷は政府をやめ、ついに決起した。

西郷隆盛像　明治維新で功績をあげたが、西南戦争でたおれた。
尚古集成館蔵

西南戦争　矢田一嘯画。朝鮮をめぐる意見のちがいから、西郷ぱ明治新政府をやめて、故郷の鹿児島へ帰った。
そして、新政府に不満をもつ旧武士の青年たちにおされ、明治10年(1877年)、ついに兵をあげた。
絵は熊本攻防戦の段山（たじやま）をめぐる西郷軍と政府軍のはげしい戦いのようす。

1 この時代のあらまし　top

○鎖国から開国へ

　一八五三年、黒船が来航したのがひとつのきっかけとなって、
　「江戸幕府の封建政治ではいけない。日本全体を強い力でまとめた政府をつくり、外国のすすんだ国々とまじわれるまでにならなければいけない」
　という考えが強まってきました。
　ヨーロッパの各国は、近代機械文明に支えられた資本主義のいきおいと、強力な軍隊の力とが一緒になり、大きな波となって世界じゅうをまきこもうとしていました。
　そうしたヨーロッパの国々のようすをみて、鎖国をやめて開国しなければ、と考えるようになったのです。
　こうした世の中の動きに賛成して開国をすすめる人たち、外国をおいはらえといきまく人たち、世の中の動きに目ざめた人々、目ざめきれない人々などのあいだに、はげしい争いがつづきました。
　また、政治を強い力ですすめるにしても、幕府と朝廷が力をあわせて（公武合体）強力な政治を行うべきだと考える人、朝廷が政治の中心にたつべきだ（王政復古）と考える人、幕府の力を維持していこうとする人など、意見はいろいろです。
　この時代は、まさにこうしたさまざまな考えの人々がたがいにしのぎをけずり、命をなげだしてはげしく争った時代といえます。
　しかし世の中は、鎖国から開国へ、幕府の政治から朝廷中心の政治へ、封建社会から資本主義社会へと動いていったのです。

描かれた黒船　蒸気船の来航は、日本人には
大きな驚きだった。東京大学史料編纂所蔵

　西郷隆盛も、こうしたうねりのなかで、時代の先頭にたって活躍しました。

○天皇中心の政治へ　top

　一八六七年、十五代将軍徳川慶喜ば、こうした世の中の動きをとめることはできないと考え、政権を天皇に返しました。
　武士の政治がおわり、天皇中心の政治がはじまったのです。
　新政府にとって重要なことは、日本の独立を守るために、中央に権力を集中させた政治の仕組をつくることでした。
　そのためつぎつぎと政治の改革をすすめました。
　これまでの藩をやめて府や県をおき、政府が任命した役人をおいて、中央の命令がすぐに地方につながるようにしました（廃藩置県）。
　さらに士農工商の身分制度をやめました。
　そして、公家と大名を華族、武士を士族、そのほかの大多数の人たちは平民とよばれるようになりました。
　国民は自由に職業や住所を選び、名字を名のることができるようになりました（四民平等）。
　このように、この時代は、天皇を中心にして日本を一つの国にまとめようとした時代といえそうです。

上野の戦い　幕府がわの彰義隊の抵抗も、
明治新政府軍によって、あえなくつぶされた。

○富国強兵をすすめる　top

　新政府でつぎに重要なことは、日本が早くすすんだ外国の国々においつくように、いろいろな政策を実行することでした。
　そのため富国強兵の政策を強力にすすめました。
　これは近代的な工業をさかんにして国を富まし、その富で強い軍隊をつくりあげようとする政策です。
　政府は徴兵令を出し、男子が二十才になったら、みんな兵隊にならなければいけないととする、国民皆兵制度をつくりました。
　いっぽう国の財政の土台をかためるために地租改正（税金の制度の改正）をおこないました。
　その税をもとに各地に官営工場をたて、近代工業をさかんにする政策もすすめました。
　そのほか、鉱山の開発や経営、電信や郵便、鉄道などの事業をはじめ、貨幣や銀行などの制度もととのえました。

明治時代の小学校　1876年（明治9年）に建てられた
明智小学校の建物。長野県松本市に残る。

○文明開化の時代　top

　政府は学制をさだめて、全国の町や村に小学校をもうけました。同時に国民の生活も大きくかわってきました。
　こよみが太陽暦に、一日は二十四時間、学校や役所は日曜が休日、新聞や雑誌の発行、キリスト教が認められる、ちょんまげをきり洋服をきて靴をはく、牛肉を食べる……。
　また、福沢諭吉は「人間はすべて平等である」という西洋の考えかたを紹介し、人々を勇気づけました。
　このようにあたらしい考えかたがひろまり、生活が西洋ふうにかわっていくことを文明開化といいます。
　この時代は東京など大都会を中心として、西洋文化の波がおしよせた時代だったのです。

○士族の反乱と西郷の死　top

　このような激動する時代の動きにたいして、ついていけなくなったのは、士族とよばれるもとの身分が武士だった人々でした。
　士族たちは、新政府への不満から各地で反乱をおこしました。
　その反乱の最後のものが、西郷隆盛を中心として九州でおこった西南戦争です。
　心がやさしく、武士の気持ちのよくわかる西郷は、士族たちの不満を、だまってみすごすことができなかったのでしょう。
　西郷の死と同じころ、木戸孝允も大久保利通も亡くなりました。
　これ以後、明治国家は伊藤博文たちにバトンタッチされていきます。

私学校跡　西郷隆盛が鹿児島につくった学校。西南
戦争は、私学校の生徒が中心となっておこしている。

2 幕末維新のおもな出来事　top

江戸時代	1853 1854 1858 1860 1861 1862 1863 1864 1866 1867 1868	アメリカの使節ペリーが浦賀に来航する。　ペリーがふたたび来航し、日米和親条約がむすばれる。　井伊直弼が大老となる。日米修好通商条約がむすばれる。　安政の大獄がおこ弌反幕府派の人たちがとらえられる。　西郷隆盛が僧月照（げっしょう）と自殺をはかり、西郷だけがたすかる。　勝海舟らが「威臨丸」でアメリカにわたる。　木老井伊直弼がころされる（桜田門外の変）。　孝明天皇の娃和宮と将軍徳川家茂が結婚する。　老中安藤信正がおそわれる（坂下門外の変）。　西郷隆盛が島津久光の怒りをかい、徳之島に流される。　寺田屋事件がおこり、薩摩藩急進派がうたれる。　薩摩藩士が行列とぶつかったイギリス人をおそう（生麦事件）。　長州藩が外国船を砲撃する。高杉晋作が奇兵隊をつくる。　薩摩藩とイギリス軍が戦う（薩英戦争）。　八月十八日の政変がおこる。天誅組の乱、生野の乱がおこる。　西郷が罪をゆるされ、ただちに京都へむかう。　天狗党の乱がおこる。池田屋事件がおこる。　禁門の変がおこり、長州藩が敗れる。　四国連合艦隊が下関を砲撃する。　幕府が第一次長州征伐をおこし、長州藩が降伏する。　高杉晋作が兵をあげ、長州藩の主導権をにぎる。　坂本竜馬らの努力により、薩長同盟がむすばれる。　幕府が第二次長州征伐をおこなう。徳川慶喜が十五代将軍となる。　前年暮れに孝明天皇が亡くなり。一月から明治天皇があとをつぐ。　徳川慶喜が大政奉還を申し出る。おなじ日に討幕の密勅が出される。　王政復古の大号令が出される。小御所会議がひらかれる。　鳥羽・伏見の戦いがおこなわれ、戊辰戦争がはじまる。　江戸で西郷隆盛・膊海舟が会談する。翌月江戸城をあけわたす。
明治時代	1869 1871 1872 1873 1874 1876 1877	五ヵ条の御誓文が出される。江戸を東京、年号を明治とする。　五稜郭がおち、戌辰戦争がおわる。　版籍奉還がおこなわれる。　廃藩置県がおこなわれる。岩倉具視大使らが欧米に出かける。　学制がしかれる。新橋・横浜間に鉄道が開通する。　富岡製糸工場ができる。太陽暦をつかいはじめる。　徴兵令がしかれる。地租改正がおこなわれる。　征韓論で西郷隆盛らが敗れ、新政府をしりぞく。佐賀の乱がおこる。　板垣退助らが民選議院設立建白書をか气自由民権運動がはじまる。　神風連の乱、秋月の乱、萩の乱など士族の反乱があいつぐ。　西郷隆盛が西南戦争をおこし、敗れて自刃（じじん＝自殺）する。

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