豊臣秀吉と天下統一

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
Home　概要　山本五十六　伊藤博文　西郷隆盛　德川吉宗　德川家康　豊臣秀吉

豊臣秀吉と天下統一
（人物日本の歴史9　監修・芳賀登、文・岡本文良　学習研究社　1984年刊）

1 この巻の時代のあらまし
2 この巻のおもなできごと

一　さまよう少年日吉丸
二　青年木下藤吉郎の活躍
三　城もち大名となった秀吉
四　天下の支配者への道
五　関白太政大臣の秀吉
六　全国統一と朝鮮出兵
七　敗れた夢のまた夢
付録　歴史図解コーナー

　少年日吉丸は、元気がありすぎるためか、何をやっても失敗ばかりだ。
　「おいら、おおきくなったら侍になるんだ」
と、亡くなった父とかわした約束だけは忘れていない。……
　まもなく日吉丸は信長に仕え、好きなねねと結婚し、城もちの大名から天下人へと出世し、名も藤吉郎から秀吉にあらためた。
　だが、何一つ不足のない秀吉が、とんでもないことをやりはじめた。

豊臣秀吉像　織田信長のあとをついだ秀吉は、ついに天下を統一した。高台寺蔵
おどる民衆たち　秀吉死後の七回忌に、京の町衆たちは踊りまくり、秀吉の活気に満ちた時代をしのんだ。「豊国祭図屏風」より　徳川黎明会蔵

1 この巻の時代のあらまし　top

●天下人となった秀吉

　日本の歴史のなかで、豊臣秀吉ほど親しまれ人気のある人は少ないでしょう。
　子供のころは日吉丸とよばれ、顔がサルに似たわんぱく少年であったことは、だれでもしっていることとおもいます。
　秀吉は、尾張の国の中村（愛知県名古屋市中村区）の農家に生まれました。
　元気がありすぎたためか、なにをやらせても失敗ばかりで落ち着くことができません。
　しかし「大きくなったら侍になる」という夢だけはもちつづけていました。
　秀吉が織田信長の家来になったのは、数え年で十八才のときです。
　この頃の信長は、まだ尾張（愛知県）に根をはる小大名にすぎませんでした。
　それから六年後、信長は桶狭問の戦いで今川義元を討ってから、めざましい活躍をみせていきます。
　秀吉も、信長が勢力をのばすのにあわせて、信長を助けながら、自分の力をしめしはじめました。
　秀吉は、よい時期に、よい主君にめぐまれたといってよいでしょう。
　その信長も、明智光秀に謀反をおこされ、本能寺でおもいがけない最期をとげてしまいます。　この光秀を、すばやくたおしたのは秀吉です。

蜂須賀小六とめぐりあう日吉丸
「絵本太閤記」より。東京都立中央図書館蔵

　秀吉は、ついでライバルだった柴田勝家を討ち、信長の天下統一への仕事をうけつぎました。
　そして、信長の死後八年ほどで、全国統一をなしとげたのです。
　朝廷からは関白や太政大臣にに任じられ、豊臣の姓ももらいました。
　こうして秀吉は、おしもおされぬ天下人となったのです。

●秀吉の新しい政策

　秀吉は大阪城をきずき、令国の大名をしたがえる一方、新しい社会の仕組をつくりあげる政策を、次々におしすすがました。
　その一つは検地です。
　検地とは、全国の田や畑の面積と収穫高をしらべ、それをたがやす農民をきめて、検地帳に記入することです。
　これによって農民は、自分がたがやす田や畑を、はっきりと認めてもらうことができたのですが、そのかわり年貢をおさめる義務も、きびしくおわされることになったのです。
　検地とならんで、刀狩りも行われました。
　刀狩りとは、農民から武器をとりあげて、一揆（集団で支配者に反抗すること）をおこさせないようにすることです。
　これまでは、田畑をたがやす武士も、武器をもっている農民もまじりあっていたのですが、秀吉は、武士と農民の身分をはっきりと区別させたのです。
　このような身分制度は、のちに江戸幕府にもうけつがれ、武士の子は武士、農民の子は農民といったように、生まれたときから、すでに身分がきまってしまう社会がつくられていったのです。

検地帳の表紙　東京大学史料編纂所蔵

●町衆たちの活躍と文化

　この時代はまた、産業や経済が発達した時代でもあります。
　戦国大名たちは、領国の力をつよめるため、鉱山の開発にのりだしました。
　城づくりや城下町の建設にも力をいれました。
　そして、築城、道路開発、鉱山開発などの技術をいかして、農産物の収穫をたかめる努力もしました。
　また、自由な商業の活動をゆるし、領国内の経済が活発になるように力をいれたりもしました。
　これらのことを、実際におこなうのは、おもに豪商とよばれる大商人たちです。
　彼らは豊富な経済力をささえとして独立心をつよめ、自分たちの町を自分たちで管理するようになります。
　こうした人たちを町衆といい、とくに京都や堺では町衆の活躍が目だちました。
　この頃の文化をささえたのは、この町衆です。
　町衆の自信にみちた力づよい性格をうつし出して、明るい、生き生きとした、たくましい文化が生まれました。
　その特色は建築やその内部をかざる障壁画、ふすま絵などにもっともよくあらわれています。

秀吉がつくらせた天正大判　富士銀行蔵

　いまもなおつづいている京都の舐園祭りもこの頃の町衆の力によって復興され、豪華で華やかなものになったのです。
　この頃、スペインやポルトガルから文化がつたえられました。
　これを南蛮文化とよんでいますが、この南蛮文化も、安土・桃山文化を特徴づける豪華さに、色どりをそえています。

●朝鮮出兵と秀吉の死

　秀吉は、キリスト教は禁止しましたが、海外との貿易はつづけ、朱印船をおくりこんだりしています。
　しかし、この明るくひらかれた秀吉の時代にも、暗い影がありました。
　それは二度にわたって朝鮮に兵をおくりこんだことです。
　家康をはじめ、家来のなかには朝鮮出兵に反対の者も多かったのですが、天下人のわがままをとめることはできませんでした。
　晩年の秀吉は孤独でした。
　六才の幼い秀頼を残していく秀吉は、天下人の誇りもすて、ただひたすらに子をおもう親の心だけを残していたのです。
　こうして一代の英雄の物語は幕をとじます。

右＝日本軍を防ぐ朝鮮水軍の亀甲船（きこうせん）
左＝豊臣秀頼が寄進した擬宝珠（ぎぼし）　枚岡神社蔵

2 この巻のおもなできごと　top

室町時代	戦国時代	1537 1551 1554 1560 1561 1566 1568 1573	日吉丸（のちの秀吉）が尾張（愛知県）中村にうまれる。日吉丸が矢作川（やはぎがわ）で蜂須賀小六（はちすかころく）にであう。日吉丸が織田信長に仕える。織田信長が桶狭間（おけはざま）の戦いで今川義元（いまがわよしもと）を討つ。日吉丸がねねと結婚する。このころ木下藤吉郎を名のる。木下藤吉郎が墨股城（すのまたじょう）をきずく。このころ秀吉と名のる。信長が足利義昭（あしかがよしあき）を室町幕府の十五代将軍にたてる（一五七三年ほろぶ）。信長が朝倉義景（あさくらよしかげ）、ついで浅井長政（あさいながまさ）を討つ。秀吉が北近江（滋賀県北部）の大名となる。翌年、長浜城をきずく。秀吉が、木下の姓を羽柴（はしば）とあらためる。
安土・桃山時代		1576 150 1582 1583 1584 1585 1586 1587 1588 1589 1590 1591 1592 1593 1595 1596 1597 1598	織田信長は安土城（あづちじょう）をきずく。秀吉が播磨（はりま＝兵庫県）の三木城をおとす。翌年、鳥取城をおとす。信長が本能寺で明智光秀（あけちみつひで）に討たれる。秀吉が備中高松城（岡山市）で和議をむすび、ただちにひきかえす。秀吉が山崎の戦い（天王山の戦い）で明智光秀（あけちみつひで）を破る。秀吉が清洲合議で三法師を信長のあとつぎにきめる。秀吉が賤ヶ岳（しずがだけ）の戦いで柴田勝家（しばたかついえ）を破る。柴田勝家が、お市の方とともに北ノ庄（福井市）で自害する。秀吉が大阪城をきずく。秀吉が大がかりな検地をおこなう。秀吉が、小牧（こまき）・長久手（ながくて）で徳川家康軍と戦う。秀吉が、紀伊（和歌山県）の根来（ねごろ）・雑賀（さいか）の一揆を討つ。秀吉が関白となる。秀吉が妹の朝日姫と徳川家康を結婚させる。徳川家康が大阪城にきて、秀吉にあいさつする。秀吉が太政大臣（だじょうだいじん）となり、豊臣（とよとみ）の姓をあたえられる。秀吉が島津氏を破り、九州を平定する。キリスト教を禁止する。聚楽第（じゅらくだい）が完成する。秀吉が北野の茶会をひらく。秀吉が全国で刀狩りをおこない、農民が武器をもつことを禁止する。秀吉の側室の茶々（淀どの）が鶴松を産む（翌々年に死去）。秀吉が小田原の北条氏を討ち、全国を統一する。秀吉の弟の秀長（ひでなが）が死ぬ。秀吉が千利休（せんりきゅう）を切腹させる。秀吉がおいの秀次（ひでつぐ）に関白（かんぱく）の職をゆずり、大閤（たいこう）とよばれる。秀吉が朝鮮出兵をおこなう（文禄＝ぶんろくの役）。秀吉が朱印船（しゅいんせん）の制度をつくり、海外貿易をおこなわせる。淀どのが秀頼（ひでより）を産む。秀吉が朝鮮から兵をひかせる。秀吉がおいの秀次（ひでつぐ）から関白の職をうばい、高野山に追放して切腹させる。秀吉が二六人のキリシタンを長崎で処刑する。秀吉が、ふたたび朝鮮出兵をおこなう（慶長＝けいちょうの役）。秀吉が死去し、朝鮮から兵をひく。

top
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊