山本五十六と太平洋戦争

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山本五十六と太平洋戦争
（人物日本の歴史14　監修　芳賀登　文　檜山良昭　学習研究社　1984年刊）

1 この巻の時代のあらまし
2 この巻の主なできごと（年表）

一　つよまる軍部の力
二　満州事変と二・二六事件
三　日中戦争はじまる
四　悪化する日米関係
五　太平洋戦争はじまる
六　苦戦する日本
七　原爆投下と日本の降伏
八　たちなおる日本
付録　歴史図解オーナー

　アメリカと戦争して、日本が勝てるはずがないではないか。
　――山本五十六（いそろく）は繰返し繰返し、自分の意見を主張した。
　しかし山本の願いもむなしく、日本はアメリカやイギリスとの戦争を決定し、真珠湾を奇襲した。
　はじめは勝ち戦（いくさ）がつづいたが、アメリカの底力を知る山本の苦悩は増すばかりであった。
　やがて戦いの勢いは逆転し、連合艦隊司令長官山本五十六の乗る飛行機も密林の中に消えた……

山本五十六　アメリカと戦えば日本は負けると知りながら、連合艦隊司令長官として、戦争の指揮にあたった。
攻撃された戦艦　炎上し、沈んでいくウェストバージニア。必死の消火活動がつづく。

1 この巻の時代のあらまし top

○満州事変と日中戦争

　第一次世界大戦後、日本をおそった不景気は、昭和にはいってもなおつづいていました。
　そこにアメリカ合衆国で始まった世界的な大不景気の波がおしよせ、日本の経済は完全にゆきづまってしまいました。
　都市では工場が倒産し、失業者が大量に出ました。また、生糸の輸出がふるわず、まゆや米の値段が下がるなど農家の人々の生活も苦しく、学校へ弁当をもっていけない子供も多くみられるようになりました。
　こうした世のなかで、力をのばしてきたのは、財閥（大資本家のグループ）とそれと結びついた政党でした。
　そして、自分たちの利益だけをはかり、国民の利益をあまり考えようとはしなかったので、ますます、不景気から脱出はむずかしくなってきました。
　社会がゆきづまると、政治家や軍人のなかには、中国に勢力をひろげ、ゆきづまりを切りひらくほかはないと主張する人がふえてきました。
　そして日本の軍部は、一九三一年に満州事変をおこし、翌年には満州国をつくらせて、日本が実際の支配をすすめました。
　中国は、それを日本の侵略だと国際連盟にうつたえて非難しました。
　そして日本と中国との対立は、一九三七年に日中戦争（日華事変）をひきおこすまでになり、戦火は中国全土にひろがりました。

凶作におそわれた昭和初期の農村のようす

○太平洋戦争と日本の敗戦

　中国への侵略を警戒していたアメリカ合衆国やイギリスとも日本は対立し、一九四一年十二月、ついに太平洋戦争を開始しました。
　そのころヨーロッパでは、ドイツとイタリアが手をむすび、イギリス・フランス・ソビエト連邦と戦争をはじめていました。
　そこに日本とアメリ力合衆国がくわわり、第二次世界大戦といわれる大戦争となったのです。
　はじめのうちは勢いの強かった日本軍もしだいに後退し、ついには本土の空襲、沖縄の占領、広島・長崎への原爆の投下、ソビエト連邦の参戦となって、一九四五年（昭和二十年）八月十五日、日本は降伏をすることになったのです。
　明治以来つづいた国力をつよめる願いは、結局、戦争の渦のなかで、日本の敗北におわりました。
　これをきっかけに、国民が政治にしっかりと参加するしくみをもたなかったからだと、反省する動きがつよまってきました。
　日本は、この降伏を機会に、民主主義の政治と社会をもとめて、新しい歩みをはじめようと固く決意し、戦火でやかれた国土のなかから立ちあがったのです。

降伏文書の調印　署名をしているのは
重光葵外務大臣。左はマッカーサー元帥。

○戦後の民主主義への歩み

　ながい歴史のなかで、はじめて外国に占領された日本は、世界のあたらしい動きのなかで民主主義への歩みをはじめました。　軍隊の解散、婦人参政権、労働組合をつくる権利、財閥解体、農地改革……など、やつぎばやに民主化への改革がすすめられていきました。
　この改革を効果的にすすめるには、民主主義を基本にした憲法が必要です。
　連合国軍の要求もあって、日本国憲法は一九四六年（昭和二十一年）十一月三日に公布され、翌年五月三日施行されました。こうして日本は、民主主義の土台をつくり、その改革に力づよく歩みはじめたのです。

○めざましい産業の発達

　ないないづくしの戦後の生活は、お米の配給が二週間もない、弁当がないので勉強ができないなど、苦しいものでした。
　そこで政府は、産業の発達に重点をおく政策をすすめ、鉱業・工業などの発展に力をつくしました。
　電力・鉄鋼・機械・石油化学などの重工業の発達ぱめざましいものがありました。
　東京オリンピックの開催、東海道新幹線の開通、電化された家庭生活、自動車の普及などはすべて、産業の発達に重きをおいた政策の結果です。
　しかし反面、自然の破壊や公害をおこし問題となりました。
　その反省にたって、産業重点から人間優先の考えかたをすすめ、さらに豊な世のなかをつくっていこう、という動きがたかまっています。

満員列車で食料の買い出しに出かける人たち

○国際社会へのなかまいり

　一九五一年のサンフランシスコ講和会議において、日本は四十八か国と平和条約をむすびました。
　さらに一九五六年には、国際連合に加入がゆるされ、独立国として世界の仲間入りをし、平和をまもることを世界の国々に約束しました。
　日本は、独立を回復してからアメリカ合衆国と協力してきましたが、アメリカ合衆国とこれに対立するソビエト連邦は、それぞれ新しい核兵器を開発し、軍備を強化する競争をつづけています。
　日本は世界でただ一つの被爆国として核戦争のおそろしさをうったえ、平和をまもる努力をつづけることが大切です。
　また、すぐれた工業技術と経済力をもって世界の国々に役立てることも、これからの日本の大きな役割です。

石油をはこぶマンモス・タンカー

2 この巻の主なできごと（年表） top

昭

和

時

代

1926
1927
1931
1932

1934
1936
1937

1938
1939
1940

1941

1942

1943

1944

1945

1946

1950
1951
1956
1960
1964
1971
1972
1973

大正天皇が亡くなり、裕仁親王（ひろひとしんのう）が天皇となる。元号が昭和となる。
金融恐慌がおこり、不景気がますますひどくなる。
柳条溝（柳条湖）で線路が爆破され、満州事変がおこる。
満州国がつくられ、溥儀（ふぎ）が執政となる。
井上準之助・団琢磨（だんいくま）が暗殺される（血盟団事件）。
五・一五事件がおこり、大養毅首相が暗殺される。
満州国で帝政がしかれ溥儀（ふぎ）が皇帝となる。
二・二六事件がおこり、岡田啓介首相らがおそわれる。
蘆溝橋事件をきっかけとして、日華事変がおこる。
日独伊防共協定がむすばれる。
近衛文麿首相が「国民政府をあいてにしない」との声明を出す。
ヨーロッパで第二次世界大戦がはじまる。
日本がインドシナ北部（北部仏印）に軍隊をすすめる。
日独伊三国軍事同盟がむすばれる。
アメリカ、イギリス、オランダ、中国が日本に経済制裁をくわえる。
日ソ中立条約がむすばれる。
日本がインドシナ南部（南部仏印）に軍隊をすすめる。
日本軍が真珠湾を奇襲攻撃し、太平洋戦争がはじまる。
日本軍がマレー、シンガポール、フィリピンなどを占領する。
ミッドウェーの海戦で、日本軍が敗れる。
日本軍がガダルカナル島から撤退する。
連合艦隊司令長官山本五十六が、ソロモン上空で戦死する。
マリアナ沖の海戦で日本軍が敗れる。
日本本土への空襲が本格的となる。
硫黄島・沖縄ではげしい戦いがおこなわれる。
戦艦「大和」が撃沈される。
広島ついで長崎に原子爆弾がおとされる。
ポツダム宣言を受諾し、日本が降伏する。
財閥解体、農地改革など民主化の政策がおしすすめられる。
極東国際軍事裁判がひらかれる。
日本国憲法が公布される（翌年五月三日に施行）。
朝鮮戦争がはじまり、日本が好景気となる。
サンフランシスコで対日講和条約がむすばれる（翌年日本が独立）。
日本とソ連が国交を回復する。日本が国際連合に加入をゆるされる。
日米安全保障条約をめぐって、国内の対立が激化する。
東京オリンピックがひらかれる。
沖縄がアメリカから返還される。
中華人民共和国との間で、日中国交回復が実現する。
石油ショックがおこり、世界的な低成長経済の時代にはいる。

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