德川吉宗と幕府のおとろえ

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德川吉宗と幕府のおとろえ
（人物日本の歴史11　監修・芳賀登、文・百瀬明治　学習研究社　1984年刊）

1 江戸時代中期～末期のあらまし
2 年表――この時代のおもな出来事
3 德川家の詳細系図

　別ページ
一　戦いのない時代の始まり
二　元禄太平の世
三　文治（ぶんち）時代の新井白石
四　徳川吉宗と享保（きょうほ）の改革
五　すすむ改革と吉宗の悩み
六　田沼時代とわいろ政治
七　寛政（かんせい）の改革と大塩平八郎
八　失敗した天保の改革
付録　図説コーナー

　今度の将軍さまは体つきが頑丈で、背の高い方だなあ――お城に仕える人たちは、誰もが驚きの声をあげた。
　八代将軍徳川吉宗は、今日もたくさんの家来をつれて狩りに出かける。
　それはただの遊びではない。
　戦いのない太平の世がつづいたためか、武士も武芸を忘れ派手な生活におぼれている。
　武士に武士らしくさせようというのが吉宗の考えだった。

德川吉宗像　江戸幕府八代将軍。紀伊徳川家の出で、享保（きょうほ）の改革を断行した。
江戸城　明暦の大火以前の江戸城の様子。天守閣は高さが60メートル近くあり、高台にあったので、城下からはより高くみえた。「江戸図屏風」より。国立歴史民俗博物館。

1 この時代のあらまし　top

●新しい力・町人
　武士が中心になって国の政治をうごかす封建制の仕組のもとでは、農民は土地にしばりつけられ、ぱげしい仕事と貧しいくらしの中で、武士の生活を支える役割をもっていました。
　しかし、町人は、商工業の発達によって豊かな富をつくり、その中心地、大阪や江戸などの都市は栄えました。
　そして、見事な文化の花をさかせるようになりました。
　一方、幕府をはじめ大名・武士たちは、しだいに財政が苦しくなり、町人の力におさえられるようになってきました。
　こうして、あれほどがっちりとつくられた封建制度も揺らぎはじめてきたのです。
　この時代が、「ゆらぐ封建制」といわれているのぱ、そのためです。

江戸日本橋のにぎわい　
安藤広重画。「東海道五十三次」より

●財政建直しの努力
　八代将軍吉宗は、幕府の政治をひきしめ、財政のゆきづまりをすくうため、おもいきった改革にのりだしました。
　それが享保（きょうほ）の改革です。
　吉宗は質素、倹約をすすめ、武道をさかんにしました。
　その一方、新田を開き産業をおこすことに力をそそぎ、西洋の進んだ学問や技術を取入れる心をひらく努力をすすめたのです。
　また、松平定信による寛政（かんせい）の改革も、水野忠邦による天保（てんぽ）の改革も、享保の改革にならって財政の建直しのために行われたものです。
　しかし、一時ぱききめがあるものの、時代の流れまでをとめることはできませんでした。
　この三つは、江戸時代の三大改革とよばれています。
　財政の危機のために苦しんだのは、幕府だけではありません。藩でもおなじことで、さまざまな藩で藩政改革が行われました。
　なかでも有名なのが薩摩藩（鹿児島県）と長州藩（山口県）です。
　薩摩藩でぱ、商人から借りたお金を、二五〇年かかってかえす、という方針をうちだして、人々をびっくりさせました。

藩札　それぞれの藩では、じぶんの藩内だけに
通用する紙幣（藩札）をつくった。

　あらっぽい方法ではありましたが、薩摩藩や長州藩では、財政建直しを成功させることができました。
　そして、この二つの藩が、のちに明治維新の中心となって、活躍することになるのです。

●元禄文化と化政（かせい）文化
　幕府や藩が財政の危機で苦しんでいるのにたいして、商人たちは富をたくわえ、新しい文化をうみだすまでになってきました。
　このうち、江戸時代前半期に大阪や京都を中心に発達した文化を元禄文化とよび、江戸時代後半期に江戸を中心に発達した文化を化政文化とよんでいます。
　元禄文化でぱ、井原西鶴（小説）、近松門左衛門（芝居の脚本）、松尾芭蕉（俳句）が活躍しました。
　大阪の町人井原西鶴は、この世で一番大切なものはお金である、とかいているほどです。
　化政文化では、与謝蕪村・小林一茶（ともに俳句）、滝沢馬琴（小説）、喜多川歌麿・葛飾北斎・安藤広重（ともに浮世絵）が有名です。

●新しい学問
　封建制度がゆらいでくると、身分のさだまった社会や、幕府の政治を批判する人々がふえ、新しい世のなかをのぞむ学問の発達がみられるようになりました。
　江戸時代中ごろの思想家安藤昌益は、すべての人々が自由に仕事ができる徙の中を理想と考え、封建制度批判の書をあらわしました。
　本居宣長という学者は、日本の古典の研究をとおして、古くからの日本人の考え方をあきらかにしようとしました（国学）。
　前野良沢、杉田玄白ばオランダの医学を学びひろめました。
　伊能忠敬は、日本沿岸の精密な地図をつくりました。
　また平賀源内という人は、石綿の発見・寒暖計の発明・洋画など多方面にわたる学問に、その才能をひらかせました。
　こようなこことからみると、この時代は新しい時代にむけて新しい学問がうまれ、少しずつ世の中に影響をあたえはじめてきた時代といえそうです。

伊能忠敬がつくった地図　伊能忠敬記念館蔵
伊豆国と駿河国が描かれている。

●外国との関係
　江戸時代には、鎖国をしたとはいえ、オランダや中国などとは、長崎の港をとおしてつながりをもっていました。
　しかし世界の動きは、日本をいつまでも鎖国のままにしておくことはしませんでした。
　北のほうからはロシアの船が北海道にきて貿易をもとめたり、南のほうからぱイギリスやフランスが……というように、たびたび外国船があらわれて日本の開国を求めました。
　またシーボルトなど外国人の医師や学者が日本にきて、医学などの学問を教えることもありました。
　こうして、世界のうごきが少しずつ日本にもしられるようになってきました。
　しかし、幕府は、鎖国令のたてまえにしたがって、日本近海に近づく外国船は、どんな事情があっても討払うよう命令しました。
　こうした命令に対して、幕府の内外からきびしい批判がおこってきました。
　江戸幕府をたおして、新しい社会をつくらなければだめだ、という考えがわきおこるのは、もう目の前のことです。

長崎出島のようす「日清貿易絵巻」より。
松浦史料博物館藏

2 この時代の主なできごと　top

江

戸

時

代

1651
1657
1663
1680
1687
1691
1694

1695
1701
1702
1709

1714
1715
1716
1717
1721
1722
1723
1742
1767
1783
1786
1787

1790

1792
1793
1798
1800
1814
1825
137
1841
1843

三代将軍徳川家光が亡くなる。由比正雪の乱がおこる。
江戸に明暦の人火がおこり、一〇万以上の死者がでる。
四代将軍家綱が殉死を禁止する。
綱吉が五代将軍となる。
綱吉が生類憐みの令を出す。
湯島の聖堂が完成し、幕府の学問所となる。
側用人柳沢吉保が老中にじゅんじた地位につく。
松尾芭蕉が『奥の細道』を完成させる（元禄文化の発達）。
荻原重秀が貨幣の改鋳をおしすすめる。
浅野内匠頭が、江戸城中で吉良上野介にきりかかる。
赤穂浪士が吉良上野介を討ち、翌年切腹させられた。
綱吉が亡くなり、家宣が六代将軍となる。
間部詮房、新井白石が将軍家宣の政治を助ける（正徳の治）
新井白石がイタリア人宣教師のシドッチのとり調べにあたる。
大奥につとめる絵島が、高遠（たかとう＝長野県）に流される。
長崎での貿易を制限する「正徳新令」がだされる。
徳川吉宗が八代将軍となり、享保の改革をはじめる。
大岡忠相（越前守）が江戸町奉行となる。
目安箱を設置する。
「上げ米の制」を定める。新田開発を推し進める。
「足高の制」を定める。
「公事方御定書」が完成する。
田沼意次が側用人となる（一七七二年に老中となる）。
天明の大飢饉がおこる。
田沼意次が老中をやめさせられる。
家斉が十一代将軍となる。
松平定信が老中となり、寛政の改革がはじまる。
石川島人足寄場を設置する。「寛政異学の禁」をだす
「帰農令」をだす。「囲米の制」をさだめる。
ロシアのラクスマンが根室にやってくる。
松平定信が老中をやめ、寛政の改革がおわる。
近藤重蔵、間宮林蔵らが北方探検をおこなう。
伊能忠敬がエゾ地を測量し、地図をつくる。
滝沢馬琴が「南総里見八犬伝」をかく（化政文化の栄え）。
異国船打払令がだされる。
大塩平八郎の乱がおこる。
老中水野忠邦による天保の改革がはじまる。株なかまを解散させる。
「人返し令」「上知令」がだされる。
水野忠邦が老中をやめさせられ、天保の改革がおわる。

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