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信玄・謙信と戦国大名
（人物日本の歴史7　監修・芳賀登、文・鈴木亨　学習研究社　1984年刊）

　1 この巻の時代のあらまし
　2 この巻のおもなできごと

一　衰えいく室町幕府と応仁の乱
二　戦国の群雄たち
三　甲斐の英雄、武田信玄
四　越後の名将、上杉謙信
五　激突！　川中島の決戦
六　その後の信玄と謙信
付録　歴史図解コーナー

父を追い出して領主となった甲斐（山梨県）の虎・武田信玄――。
兄を降伏させ越後（新潟県）の竜とよばれた上杉謙信――。
個性が強く、しかも部下からしたわれていた二人の名武将は、となりあわせの領国をもつ宿命のライバルでもあったのだ。
そして二人の英雄は、朝霧のたちこめる川中島でついに対決した。
虎が勝つか！　竜が勝つか！
世は血を地であらう戦国時代のまっさかりであった。

武田信玄像　大きな器量で、甲州の虎とよばれた。高野山文化財保存会蔵上杉謙信像　義をおもんじた武将で、越後の竜とよばれた。上杉神社蔵	参考文献　日本武将列伝（全5巻）桑田忠親　秋田書房、日本合戦全集（全6巻）桑田忠親　秋田書房、川中島の合戦　小林計一郎　春秋社
川中島の戦い　1561年（永禄4年）9月10日、武田信玄軍と上杉謙信軍は川中島で衝突した。勝敗はつかなかったが、死傷者は一万人をこえた。「川中島図屏風」より。にしむら博物館蔵

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●下剋上の世の中

　下剋上というのは、下の地位の者が実力で上の地位の者をうちだおし、上の者にとってかわるという意味です。
　たとえば、将軍がその下にいる管領（将軍を助ける役）によって地位を追われたり、守護大名が守護代（守護の代理で任国におもむき、じっさいの仕事をする役）や有力家臣に討たれたりすることを、下剋上といいます。
　下剋上の風潮は、応仁の乱ごろから強くわきおこってきました。
　それまで、強大な守護大名を力でおさえてきた幕府でしたが、相続問題や財政の窮乏、人材の欠如、あいつぐ一揆などから政治が混乱しだしました。
そうした中で、十一年間も断続的につづいた応仁の乱は、幕府の権威をすっかりおとろえさせ、その力のおよぶところは、わずかに山城の国（京都府）だけというありさまになっていました。
　任国を幕府からあたえられていた各地の守護大名も、支配力を弱めていきました。守護大名は、幕府の権威と力に結びついて任国を治めていましたから、これは当然の成り行きでした。やがて下剋上の風潮にのり、各地で守護大名をうちたおした新勢力の戦国大名が、独立して領国を治めはじめるようになりました。　いよいよ群雄が割拠する戦国時代の幕開けです。

応仁の乱勃発地の石碑　京都市・上御料神社

●戦国の群雄

　下剋上がもっともはげしかっだのは、戦乱が長くつづいた中国・四国・近畿・北陸・東海・中部・関東地方でした。戦国大名は下剋上がぱげしかつた地方に多くうまれ、東北地方や九州地方では、それまでの守護大名がそのまま戦国大名に成長しました。
　ぉもな戦国大名は、関東の北条氏、東海の今川氏、中国の毛利氏、九州の島津氏などですが、なかでも有名なのは、甲斐（山梨県）の武田信玄と越後（新潟県）の上杉謙信です。信玄と謙信は、川中島（長野県）をはさんで五回も戦いましたが、ついに勝敗を決することはできませんでした。
　戦国時代は、各地に英雄があらわれ、戦いのやむことのない時代でした。
強い戦国大名は、周辺の弱小の戦国大名を武力でうちほろぼして、領国を拡大していきました。その最終的な目標は、乱れた世を一つにすること、つまり天下統一です。そのため、各地の有力な戦国大名は、戦いにしのぎをけずりながらも、新しい政治を考えて実行していきました。

川中島の戦い　妻女山を下る武田方軍勢
「川中島合戦図屏風」より。にしむら博物館蔵

●戦国大名の政治

　「人は城、人は石垣、人は掘、情は味方、仇は敵なり」。
　これは武出信玄が、家臣にさとした歌だといわれています。
　「どんなに立派な城をつくっても、多くの人々の協力がなければ国は守れない。　一人一人が、城・石垣・堀の役日をはたしてくれてこそ国が守れるのだ。
　そのためには人々を保護し、うらみを買うような政治を行ってはいけない」というような意味です。
　信玄の言葉に表われているように、戦国大名たちは守護大名とはことなった政治を行いました。国を治めていくため法律を整えるとともに、治水・灌漑工事、新田の開発、鉱山の開発、年貢の統一、関所の廃止、楽市楽座などを積極的にすすめ、農業・商業・工業など産業をさかんにすることに力をそそぎました。
　領国の経済をゆたかにすることで、強い国をつくろうと考えたのです。
　また、城下町をつくって家来や商人たちを多く集めると同時に、文化の中心地とする政策がとられました。その代表例は、山口の大内氏です。
　大内氏は戦乱で焼け野原となった京都から、学者や画家を招いたり町を西の京（小京都）といわれるようにつくるなど、中央の文化の導入を熱心に行いました。
　京都の文化は、戦国時代にはこのような地方都市で維持・保存されました。
　戦国の時代であっても、たんに武力を充実させるばかりではなく、政治・産業・文化の発展にも努力したのです。

釜無川の信玄堤跡　山梨県中巨摩郡竜王町

●新しい動き・自治

　この時代は戦いがあいつ弌村や町もたびたび戦火にみまわれていました。
　こうした不安定な世の中から、みんなで協力して自分たちの村や町をまもろうとする動きもうまれてきました。
　村では代表者がえらばれ、おきてを定めて秩序をまもるようにしたり、不当な年貢など上からの圧迫に対しては、村全体で改善を要求するようになっていきました。また、戦乱のときや一揆のときには、村むらが団結して武器をとることもありました。
　自治がさらに一歩進んだ例として、自由都市堺があります。堺では、町の人々とからえらばれた三十六人の会合衆（えごうしゅう）とよばれる人たちが、相談して町の政治をおこないました。
　こうした人々の新しい動きは、生活文化の上にもあらわれています。
　武士の好んだ能（のう）・茶の湯・いけ花などが、町の人々にも普及するようになり、祭りや盆踊りなどもさかんになっていきました。

盆踊りを楽しむ人たち　
「十二ヶ月風俗図」模本より。東京国立博物館

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室

町

時

代

1408
1416
1419
1429

1434
1438
1440
1441
1449
1457
1467

足利義満が亡くなる。
上杉禅秀（ぜんしゅう）が関東公方の足利持氏（もちうじ）を襲う（上杉禅秀の乱）。
四代将軍足利義持（よしもち）が明との国交を断絶し、勘合貿易を中止する。
足利義教（よしのり）がくじびきで六代将軍にえらばれる（翌年正式に就任）。
正長の土一揆（どいっき）がおこる。
足利義教が勘合貿易を再開する。
足利持氏が上杉憲実および幕府に反抗したが失敗する（永享＝えいきょうの乱）。
結城氏朝（ゆうきうじとも）が乱をおこしたが失敗する（結城合戦）。
赤松満祐（みつすけ）が将軍足利義教をころす（嘉吉＝かきちの乱）。
足利義政が八代将軍となる。
太田道灌が江戸城をきずく。
応仁の乱がおこる（一四七七年におわる）。

戦

国

時

代

1486
1489
1491
1495
1521
1530
1541
1542
1543
1547
1548
1549
1553
1555
1556
1560
1561
1568
1572
1573

大田道灌が主君の上杉定正にころされる。
足利義政が銀閣をつくる。
北条早雲が茶々丸を自害させ、伊豆に進出する。
北条早雲が小田原城をうばう。
武田信玄がうまれる。
上杉謙信がうまれる。
武田信玄が父信虎をおいだし、甲府の主人になる。
斎藤道三が土岐頼芸（ときよりなり）をおいだし、自立する。
ポルトガル船が種子島に漂着し、わが国に鉄砲を伝える。
武田信玄が甲州法度を制定する。
上杉謙信が兄の養子となり、春日山城の主人となる。
ザビエルが鹿児島に上陸し、わが国にキリスト教をつたえる。
武田信玄と上杉謙信が川中島で戦う（第一回）。
毛利元就が陶晴賢（すえはるかた）を破る（厳島の戦い）。
斎藤道三が子の義竜に討たれる。
織田信長が桶狭間で今川義元を破る（桶狭間の戦い）。
武田信玄と上杉謙信が川中島で激突する（第四回）。
織田信長が京にはいり、足利義昭を十五代将軍とする。
武田信玄が三方ヶ原で徳川家康を破る（三方ヶ原の戦い）。
武田信玄が病死する。

安
土
・
桃
山
時
代

1577
1578
1582
1583
1587
1589
1590

上杉謙信が手取川で織田信長がたの軍を破る。
上杉謙信が亡くなる。
天正遺欧使節が派遣される。信長が本能寺の変でたおれる。
長宗我部元親が四国を平定する（のち秀吉のため上佐一国のみとなる）。
秀吉が島津氏を破り、九州を平定する。
伊達政宗が蘆名（あしな）氏を破り、奥州最大の戦国大名となる。
豊臣秀吉が小田原をおとし、全国を統一する。

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